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オーダーメイド 〜魔道具の祖の研究日誌〜  作者: 中安・ユージーン・風真
序章 Order:紅に射す光

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12/51

徹底準備

「さて、まんまと旦那様の挑発に乗ってしまったわけですが……」


部屋に戻ったリフィは、呆れたようにマエリスに問う。


「何か、勝算はおありで?」

「……どうしよう、リフィ」

「ノープランというわけですね。さすがマエリスお嬢様、向こう見ずな勇気だけは英雄級です」


リフィの皮肉に、マエリスの眉間が険しくなる。


「一か月あれば何とかなるよ。開発期間としては十分だ」

「私はそうは思えませんが……まずは物資の確保ですね」

「うん。ねえリフィ、あなたとルピのどちらかにお使いをお願いするとしたら、どっちが確実かな?」

「マエリスお嬢様。あの愛され系ワンコと比較されるのは、私のキャリアに対する侮辱でございます」

「ごめんって。でも大事なことなんだ、教えて」


マエリスの真剣さを理解したのか、リフィはため息交じりに即答した。


「考えるまでもなく、私です。あのワンコが一度お使いで街に出れば、『領民から大量のお土産を受け取りながら、頼まれたものは買ってこない』という現象が極めて高確率で発生します。確実性を求めるなら、私です」

「そんなゲームみたいなイベントある?」

「ゲーム?」

「何でもない」


なら話は早い。マエリスは指を折って計算を始める。


「そしたらリフィは布と糸の相場ってわかる?」

「珍しいものでなければ、ある程度は」

「そしたら、透過度の違う黒布を何種類かと、太い銀糸を買ってきてほしいな。どのくらいになる?」

「マエリスお嬢様にはお小遣いはなかったはずですが」

「ボクの世話に使われてる予算があるでしょ?」


堂々と予算の横領を提案する幼女に、リフィは呆れた目を向ける。

しかし聞かれたことには答えようと頭を回した。


「……マエリスお嬢様がおやつを三か月ほど乾パンと水で我慢するのなら、ドレスの生地から三、四種類。銀糸も十分用意できます」

「貴族のお菓子ってそんなに高いんだ……銀よりも魔力の通りがいい糸に変えたら、どうなりそう?」

「銀の上なら金ですが、実験するには足りなくなるかもしれません」

「そっかぁ……しょうがないね。それでお願い」

「よろしいのですか? 成長期に栄養が足りなくなりますよ」

「公費を抜きすぎるとリフィの身も危ないし、背に腹は代えられないからね」


危うい。マエリスの思考は、目的のためなら自分の健康すらリソースとして切り捨てる方向へ向かっている。リフィは少し話題を変えることにした。


「……知恵で補うしかありませんね。マエリスお嬢様、旦那様がなぜ『賢者』と呼ばれているか、ご存知ですか?」

「え? いや、知らないけど」


興味のなかった方向からの話題にマエリスは素っ気ない返事をする。


「地域ごとにバラバラだった詠唱を体系的に分類し、『魔法詠唱学』という新たな学問を確立したからです。つまり、世界的な『魔法の規格』を作ったのが旦那様なのです」

「へえ、他国との戦争とか魔獣からの防衛とかでもらったんじゃないんだ」

「当然です。『賢い者』ですよ」

「それもそうか」


前世では「賢者=魔法が強い人」程度の認識であったため、無意識にマエリスは父親のことをそう考えていた。

バラバラだったものを体系化した? それはつまり、「スパゲッティコードを整理して、言語仕様を策定した」ということだ。


(……待てよ。規格を作った人間なら、その規格の『抜け穴』も知っているはず……)


「詠唱、詠唱学、ねえ……」

「どうかしましたか?」

「いや、リフィから詠唱について教わるとか言っておきながら、大元の『仕様書』を読んでなかったなぁって思って」

「仕様書? 教科書のことですか?」

「そうそれ……ねえリフィ、お父様の本棚に、自分の書いた本って置いてある?」

「ええ、もちろん。自著コーナーがございますが」

「よし」


マエリスはニヤリと笑った。


「敵情視察だ。開発者が書いたドキュメントがあるなら、読まない手はないよね」




その夜。マギカ家の廊下にて。


「……あの子が言っていたものを用意してあげなさい、ロルカ」

「よろしいのですかな? 奥様はマエリス様の研究には反対だったかと記憶しておりますが」


闇に溶けるようなドレスを纏ったシャーロットが、低い声で命じる。その背後に控えるのは、ルピにそっくりの姿をながら老いた口調をするメイド──メイド長のロルカだ。


「素直じゃないあの人の代わりよ。それに、資金不足で怪しげな素材に手を出して爆発されるよりはマシだわ」

「ふぉっふぉっふぉ。左様でございますな」

「ああ、私の名前は出さないで頂戴。どうせあの子も素直に受け取らないわよ。『ルピが当てた』とでも言っておけば怪しまれないわ」

「畏まりました、奥様」


ロルカは深く腰を折る。


「……そのお姿をお嬢様方に見せて差し上げればよろしいものを。卑しい出の儂は損に思いますのう」

「余計なことはいいのよ。早く手配なさい」

「御意に」


ツンデレな女主人と、それを愉しむ古株のメイド長。 マエリスの知らぬところで、補給線は確保されたのだった。

お読みいただききありがとうございます。


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