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オーダーメイド 〜魔道具の祖の研究日誌〜  作者: 中安・ユージーン・風真
第三章 Order:筋書を外す鳥籠

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ドリームチームの中で

未だ日が登る前。早いところは開店準備をし始め、少しずつ領内に音が目覚め始める時間。

マギカ辺境伯家の屋敷から一台の馬車が出発した。


窓の外を眺めるミシェル、ルピの膝を枕に眠るマエリス、静かに瞑目するロルカ、御者席で馬を操るリフィ。

ルピとロルカは姿を隠すように、大きなローブを深く被っていた。


太陽が地平線から顔を出す頃に、馬車は冒険者ギルドの前で一人の大男を拾う。その振動でマエリスは目が覚めた。


「んん……あ、ブレイクさん……? おはよう……」

「おう、今の内に眠気は飛ばしておけ。魔物は出ないだろうが、イレギュラーはあり得るからな」


あくびをし、のそりと体を起こし、瞼を擦りながら伸びをするマエリス。ふと、ブレイクに見られていることに気がつき、首を傾げた。


「どうしたの?」

「いや、年相応に見えて意外に思っただけだ。嬢ちゃん、いつも学者みたいなことを喋るからな」

「ボク、六歳なんだけど」

「中身は違ったりしてな」


(まあ違うんだけどさ)


未だボーッとする頭で、益体もないことを考えていると、ミシェルとブレイクの会話が聞こえてくる。


「探索時の編成だが、前衛はブレイクとリフィ。後衛は私、残りは中衛で行こうと考えている。中心はマエリスだ」

「あん? そこは、嬢ちゃんとメイドの姉ちゃんが逆じゃないのか? 得物がナイフならスピードタイプだろ? 中衛でフォローに回るのが定石のはずだが」

「経験の差だよ。マエリスだと咄嗟の判断が遅れる可能性がある。一拍作れる中衛に配置するのが最も活かしやすい」

「それも一理あるか。メイドの姉ちゃんも前衛ができないわけでもないだろうしな」


(……何故か御者席の方からドヤ顔の気配を感じる)


気のせいだろうが、日の出ではないキラキラした雰囲気を感じて、マエリスはジト目になった。




「聞いてた通りに静かだな……気味が悪い」


『魔の森』に入ってすぐに、ブレイクはしゃがんでそう言った。


「薬草の類も全滅……これじゃあただ木が生えてるだけのエリアじゃねえか」

「報告書の通りだよ」

「魔季島の言い回しにもあるだろ。百文は……なんとやらって」

「百聞は一見に如かず、のことかな。つくづく君はギルドマスターには向いていないね」

「んなもん、俺が一番わかってらぁ」


(ブレイクさんも、お父様も、長い付き合いなんだね)


二人の軽口を聞いていると、前からそっと近づいてきたリフィが小声で語りかけてくる。


「私たちも負けてはいられませんね」

「何に対しての、どういう反応なのそれ」

「魔季島の言い回しにもありますでしょう? 諦めたらそこで試合終了です」

「仏の顔も三度まで、って言ってあげるよ」

「ではあと二回いけますね」

「とっくに超過してるんだよ」


全く……とマエリスがリフィから視線を外すと、ルピがソワソワして周りを頻繁に見渡しているのが目に入った。

ロルカもそれに気付いたのか、孫娘を宥めにいく。


「不安かい?」

「ばば様……正直ぃ、私の知ってる森と違い過ぎてぇ。その上狩人にベイルですよぉ……? もう分からないことだらけですぅ」

「狩人については儂に任せなさい。ルピは坊ちゃんの事を考えればええ。会ったら、まずは何がしたいかね?」

「ベイルに会ったらぁ……突然丸呑みにしたことを怒りますかねぇ」

「それはいいのう。儂も驚いて心臓が止まるかと思ったわい」


(さすがお祖母さん。ルピもリラックスしたみたいだ)


魔物の気配が全くないからか、その道中は和気藹々とした雰囲気であった。


「──あぁ! これって──」


しばらく歩くと、突然ルピが声を上げる。

そして、何やら周りよりも少し曲がった樹に近付くと、スンスンと匂いを嗅いだ。


「やっぱりそうですぅ! 『目印』ですよぉ! やっと知ってる物が出てきましたぁ!」

「目印?」


ルピの突然のテンションが分からず、マエリスは首を傾げた。


「はいぃ! 私たち遊牧民が『魔の森』を歩く時の目印でぇ、この樹は『留め針の道』の目印ですぅ」

「儂らが『魔の森』を巡るときは二つの道があってのう、遠回りで曲がりくねっておるが道がなだらかな『縫い針の道』と、直線的じゃが分岐や行き止まりが多く険しい『留め針の道』があるんじゃよ」

「へぇ。やっぱり使い分けがあったりするの?」

「普段は『縫い針の道』を使うんですけどぉ、逃げたり隠れたりの非常時は『留め針の道』を使いますねぇ」

「なるほど、そのような使い分けがあったのですね。やはり対象の文化を知ることは大事なことです」


瞬間、ミシェルとブレイクが身構える。

その様子を見てから一瞬遅れて、マエリスは新生『炎銀の傀儡塊メタフラマタ』を呼び出した。


年若い男性の声。そんなもの、このパーティではありえないと気付くのがわずかに遅れた。

戦場ならば致命的な隙だが、声の主はわざわざこちらの準備を待ってくれていた。


木の枝から降りてくる、黒髪の男性。二つ名にもなっている黄金の瞳を笑顔に変えて、彼は話しかけてきた。


「お久しぶりです、ブレイクさん、賢者ミシェル様、マエリス様、そしてメイドの皆様」

「おいおいアンドレス、もうちょっと心臓に優しい登場はできなかったのか。つうか、いつ帰ってきた。『応需の商隊(デリバーズ)』の依頼達成報告は受けてないぞ」


警戒を解かないまま、ブレイクがアンドレスに尋ねるが、彼はニコニコとした笑顔を崩さない。


「ほんの数日前ですよ。達成報告がまだなのは申し訳ありませんが、まだ報告期日は迎えておりませんのでご容赦を」

「ギルドマスターを前にぬけぬけと言いやがる。じゃあ何しにここに居るんだ。見ての通り、今の『魔の森』は魔物も採集素材もねえぞ」

「理解していますよ。我々の目的は半年前から変わらず──『カーバンクル』の入手です」


アンドレスの表情も、声音も、何も変わらないのに、ズシリと空気が重くなった。


「そして、そちらのお二人が『カーバンクル』であることも、我々は把握済みです」

「っ!」

「賢者ミシェル様。お二人の雇い主であるあなた様にお願いがございます。お二人を我々にお譲りいただけないでしょうか? 対価として、できる限りの便宜を図りましょう。

 空の小切手でも、入手困難な研究素材でも、裏取引が必要な代物でも、どのような依頼でも──そこに需要があるのなら、『応需の商隊(デリバーズ)』が応えます」

「話にならないね。彼女たちは優秀でね、特に今は娘が反抗期なんだ、専属がいなくなると困る」

「優秀なメイドの伝手ならば、こちらでご用意させていただきますが」

「論外だと言っているんだ」


話し合いの余地なくバッサリと切り捨てるミシェルに、アンドレスは肩を竦める。

そこへ、青筋を浮かべたブレイクが吠える。


「知らなかったなぁ、お前がそんな非合法な取引をしてることはよぉ。ただの噂だと俺は信じてたんだがなぁ!」

「どんな需要にも誠実に対応させていただいた結果です。ですがまあ、そうですね──」

「マエリス様!」


ロルカの叫び。それと──


「不都合になりそうな方々は、一人残らず排除してきましたから」

「っ!?」


鳥籠の檻が数本、綺麗に切断されるのは同時だった。落ちた銀の棒がガランと音をがなり立てる。


「おや、想像以上に丈夫ですね……マエリス様、その素材を我々に売るつもりはございませんか?」

「この場で商談? 相変わらず商魂逞しいね」


跳ね上がった心拍を隠して、マエリスは冷たい声で返す。


「でも、商品の耐久テストにしては、随分と野蛮だと思うな」

「誠意が伝わらず、真に力不足を感じます」


何の予備動作も見せず、マエリスの視覚を超えた速度で槍を振るったアンドレスは述べる。


「英雄が竜を討つように、戦争で敵兵を殺すように、仕事に必要なのでやっていることです」

「仕事なら、何をやってもいいと思ってるの?」

「それが仕事というものです」


アンドレスが槍を構える。同時に彼の後ろから、『応需の商隊(デリバーズ)』の残りのメンバーが姿を現した。


「……なら、前に謝りに来た時言ってた権利、使わせてもらっていいかな?」

「伺いましょう」

「『カーバンクル』から永劫に手を引いて」

「そう仰ると思いましたが、それは受けかねます。ですのでこうして、包囲せず会話から始めさせていただきました」

「約束を守らない商人も、約束を勝手に履行する商人も嫌いだなぁ!」


マエリスはホバーを吹かせた。

お読みいただききありがとうございます。


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