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オーダーメイド 〜魔道具の祖の研究日誌〜  作者: 中安・ユージーン・風真
第三章 Order:筋書を外す鳥籠

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ある程度の憑き物は落ちて

「んんっ……?」


温かな日差しと、小鳥の囀りに、マエリスはゆっくりと瞼を開ける。


「お目覚めですか、お嬢様」

「……リフィ」


ベッドの横に、リフィが静かに佇んでいた。


「失礼ながら、お嬢様の周囲の魔法陣は全て回収させていただきました。それと旦那様より、『体調が快復されるまで一切の研究を禁じる』とのことです」

「体調って、ボクは別に悪いところなんて……」

「ちなみに、お嬢様はあれから丸一日と半分眠られ、現在はお昼です。疲れが随分と溜まっておられたようですね?」

「……分かったよ──って、リフィ」


不承不承にマエリスは指示に従ったが、あるべき物がないと慌てる。


「車椅子の魔法陣は返してくれないかな。ペンもないんじゃ、ボク動けないけど」

「ご安心ください、お嬢様」


そう言って、リフィは一歩横にズレる。すると隠れていた物体がマエリスにも見えるようになった。

それは大きな車輪のついた、革張りの木製の椅子だ。


「お嬢様の魔法製ではない、現物の車椅子にお乗せします」

「……徹底してるね」


マエリスの顔が引き攣った。




今のお嬢様に必要なのは適切な休息と適切な食事です、とリフィに断言されたマエリスは、大人しくベッドの上にいた。


車椅子で移動しないのかって? 残念ながらマエリスの腕力では車輪を少し回しただけで息切れしてしまった。リフィが押してくれなければ動くこともままならない。


以前のように、ベッドに縛り付けられていないだけマシだ。


(今日は一日寝ててもいいか)


ようやく心に余裕を持てたからか、クリアになった思考でマエリスは冷静にそう分析した。




二日後。


「リフィ……暇」

「旦那様の許可が下りていませんので」




さらに、三日後。

脳内で仮説検証を繰り返しても、そろそろ退屈に殺されるんじゃないかと思い始めていた矢先、マエリスはリフィから羊皮紙の束──魔法陣を返還された。


「旦那様がお呼びです」

「やっとか……長かったね」

「お嬢様、お加減の方はいかがですか?」

「絶好調」


固まった肩や首を回しながら、マエリスは答える。

向かう先は食堂であり、それは『魔の森』の探索、そしてマノンとの勝負と決裂のきっかけになった家族会議の場でもあった。


嫌なことを思い出して中に入ると、既にミシェルとシャーロット、ルピとロルカが待っていた。


「来たね」


ミシェルに視線で促されて、マエリスもテーブルを囲む一人となる。


「『魔の森』の調査だけれど、ようやく終わりが見えてきた」


マエリスが聞く体勢になったのを見て、ミシェルが話し出す。


「明朝、私たちはギルドマスターのブレイクと合流し、『ボスドルム旧領』の再調査を行う。これには私とマエリス、そしてリフィに加えて、本人たちの強い希望でルピとロルカの参加も決まった」


チラリとマエリスが二人のメイドに視線を向けると、それに気づいたルピが軽く頭を下げる。


「ただ周知のことだろうが、二人は『狩人』に命を狙われている『カーバンクル』だ。残念ながら狩人の候補は多くあれど、その正体の断定には至っていない。目撃情報が異常に少ないためだ」


ミシェルはマエリスとリフィを見る。


「狩人は未だこの領内に潜伏している可能性が高い。私とブレイクが同行するから二人の外出を許可した面もあるが、襲撃には細心の注意を払ってほしい」

「畏まりました」

「最後は人が相手か……」


襲ってくるのなら、守る対象がいるのなら、相手を殺さなければならないこともあるだろう。

その想定に、マエリスは憂鬱とした気分を覚える。


「次に今後の予定だ。マエリス、君には私と一緒に東部へ赴いてもらいたい」

「東部、ですか?」

「ああ。先日まで私が訪問していたリディス公爵家は魔法の詠唱について研究している大家でね。私がアカデミー生の時から世話になっているんだ」

「そういえば、お父様の本は詠唱の音素についてまとめてましたね」

「中々、面白い仮説が立ったのだが……それは今回の件が終わってからにしよう。集中できなくなると困る」

「その切り方はボクが困るんですけど……」


まさかのオアズケに、マエリスは口を尖らせる。


「最後は私から言わせてもらうわね」


そこにシャーロットが口を開いて話題を変えたため、マエリスの不満は吐き出されずに飲み込まれた。


「最近、マノンの様子がおかしくなっているの。時期的には、マエリス、あなたが和解を持ちかけた後からね」

「え? そんなに不快にさせたかな……」


再び心の闇が顔を出すマエリスだが、シャーロットは首を横に振る。


「そういう感じではないの。何というか、話題が変わったのよ。急に経済に興味を持ったり、他大陸を調べていたり……これまでそんな素振りはなかったのに」

「あ、急に大人びたって話ですか? ボクも前にルピから聞きましたけど」

「そうね。まるであの子だけ時が進んだみたいにね。でもロルカにも確認してもらったけれど、憑依者って訳でもなさそうなのよね」

「そうですな。マノン様の魂であることに変わりはありませんのう」


ですが、とロルカは神妙な表情を作る。


「そういうことなら、儂からも一点報告を。つい最近気付いたことですが、マノン様の未来が見えづらくなっております」

「ふむ……」


ミシェルはそれに何か意味を感じたようだが、マエリスは疑問符を浮かべる。


「あの、それってどういう意味ですか?」

「儂の『未来視』は効きづらい相手というのがおりましてな。例えば『魔王の影』。それと高位の精霊に、ドラゴンなどですな。高位の存在の未来は、ほんの数秒先しか見ることができませんで」

「つまり、マノンが高位の存在になったってこと?」

「他の原因もあるやもしれませんが」


(マノンが高位の存在に……? 聖痕……『聖騎士』が関係ある?)


原因となりそうなものがそれしか思い浮かばない。それはミシェルも同様のようで。


「いずれにせよ、今のマノンから目を離すことはできない。私たちが留守の間はシャーロット、引き続き君に頼むことになる。その方面に詳しい聖女のディアナも屋敷に残ってくれるそうだ」

「留守番は任せてちょうだい」


シャーロットが頷く。


「他は、何か共有事項はあるかな? ──では解散、各自、明日に備えるように」


その言葉をもって、場はお開きとなった。




(マノンの変化が、単純な成長ならいいんだけど……)


そんなことを考えながら自室へ向かっていたからだろうか、廊下でマエリスはマノンと鉢合わせた。


「あ──」

「あ、マノン! 待って!」


声を漏らしたマノンは、来た道を引き返して角を曲がる。

慌ててマエリスも角を曲がり、逃げていくマノンの背に叫んだ。


「帰ってきたら! もう一度ちゃんと話そう! いっぱい時間を使って! お互いが納得できるまで! 絶対に!」


マノンの心に、その言葉は届いただろうか。

数秒、マノンの足は止まったが、そのままマノンは視界から立ち去ってしまった。

お読みいただききありがとうございます。


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