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オーダーメイド 〜魔道具の祖の研究日誌〜  作者: 中安・ユージーン・風真
第三章 Order:筋書を外す鳥籠

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操り人形

「ガワは、まあこんなものでいいかな」


眠れず、脳内シミュレートを繰り返している内に明けてしまった夜。

目に濃い隈を作り、幽鬼のような面持ちで研究室へ向かったマエリス。


何か、リフィが言っていた気がするが、内容は覚えていない。生返事で返してしまった気がするが、それを気にする余裕はマエリスにはなかった。


「えっと、これで心臓と肉体と神経細胞が揃った状態だから……脳と神経線維を作らないといけないってことだよね」


自律思考するAIを作るのに、必要なパーツはあと三つ。

マエリスは虚空を見つめながら、羊皮紙に思考をメモしていく。


「一つ目は、メモリ……確かこれはNAND回路をループさせて『フリップフロップ回路』を組めば、疑似的に作れた、はず」


メモリ、記憶領域──それは『今の自分の状態』や『さっきの計算結果』など、短期記憶を保持する脳の海馬だ。

これはハードウェアの延長だからすぐに出来ると、マエリスは次に進む。


「二つ目は、入出力バインディング……まあこれも素材を調整すればいけるでしょ」


入出力バインディング、あるいはインターフェース──感覚神経や運動神経に該当するそれらは、外からの刺激を0と1のデジタル信号に変換して、結果を物理的な運動として出力する。

これも目算は立ってると、マエリスは最後の難題を想う。


「そして最後に、命令セット。ハードを工夫して、ルーン文字と魔法陣を流用すればいけるかな……? それとも核を解析すればワンチャン……?」


命令セット、CPUアーキテクチャ──それはコンピューターの認識に等しく、電気信号を動作に翻訳するためのルールブックだ。


「……いや、無理でしょ」


ルールとは、網羅されていなければならない。

網羅するということは、場合分けによりその分量は膨大なものとなる。


加えて、動作となるとさらに内容は膨れ上がる。

例えば『歩く』という動作も、『右足を前に出して、右足を固定して、左足を前に出して、固定する。以下、目的地に到着するまで動作を続ける』と分解される。


それを、0と1のデジタル信号のみで表現すると。


「先に寿命が尽きる」


ガクッと、マエリスは机に突っ伏した。

狂気的な熱に浮かされていた思考が、エンジニアとしての冷静な計算によって強制終了させられる。


(なんか、前にもこんなことがあったね)


アボガドロ数と、今回の記述。どちらが難題か比べようもないが、少なくとも人間が一人でできる分量ではない。


完全な自律AIを創り出すのは、現時点では不可能。

ならば、今出来る妥協点はどこか。


「……『器』だけ作ろう」


マエリスは顔を上げ、血走った目で暗闇に立つ銀色の人形を見上げた。


「高度な思考回路は諦める。今回は、ボクの命令で直接動く『ラジコン』の機能と、姿勢制御や簡単な反射行動だけを行う『基礎OS』だけをNAND回路に焼き付ける」


基礎OSは、ゴーレムの核にあるものを流用すればいい。どの箇所が該当するかは、今から抽出して実験すればわかる。


「ラジコン……電波は調律属性を使えば行けるかな。遠隔操作は、社交ダンスで実験済みだし」


世界は縮まり、視界は色褪せる。それに反比例してマエリスの瞳は爛々と輝いていくのだった。




その晩、ミシェルが帰ってきた。

リフィに背を叩かれてそのことを知ったマエリスは、報告のために一度研究を中断し、父のいる執務室へと向かった。


ノックをし、入室する。


「失礼します。お父様が不在の間の報告に参りました」

「ああマエリス。君から来てくれるとは──」


帰ったばかりで上着を脱いでいたミシェルは振り返り、そして言葉を失う。


どす黒い隈を作り、生気のないガラス玉のような瞳。力なく座面と足の隙間に垂れる腕、血の滲んだ指先。


そんな娘の姿に咄嗟に動揺を隠せたのは、貴族の当主としての力だった。


「……何か緊急の案件かな?」

「そこまで喫緊の事態というわけではないですが──」


マエリスはブレイクにしたような説明とをそのままと、『魔王の影』の予想についてミシェルに行う。


「──なので、ルピとロルカにも同行してもらいたく思います」

「なるほど……そうか、なるほど……」


報告を受けたミシェルは、しばらく黙り込む。指で机を叩くリズムだけが続いていく。


「……その件については、シャーロットとも相談して決めさせてもらう。今返答はできない」

「分かりました」

「報告は以上か?」

「はい。ではこれで失礼させていただきます」


そして報告だけして、さっさとマエリスは退室しようとする。


「待、いや、リフィ、残りたまえ」

「畏まりました。お嬢様──」

「うん。ボクは研究室に戻ってるから」


それだけ言って、少女は退散してしまう。残されたリフィは数秒扉の方を見ていたが、すぐにミシェルの方へ向き直った。

ミシェルは険しい表情で告げる。


「マエリスが意図的に報告しなかった部分があるだろう? それを説明しなさい」

「お見通しでしたか。では──」


そうしてリフィは、タリアとの遭遇時の様子や、マノンとの二度目の決裂、現在の研究内容についてミシェルに報告した。


「以上です」

「……そうか」


ミシェルは頭を抱え、ひどく重い溜息を吐く。

情報量が多すぎた上に、そのどれもが致命的に思えた。


「……しばらくは、リディス公爵家の件は保留にせざるを得ないか」

「緊急でないなら、そうかと。今のマエリスお嬢様は過去一で危うい状態です。なけなしの余裕を削るとどうなるか……」

「君でも手が出せないと?」

「今朝、私の渾身のボケをガン無視されました。あれは気付いてすらいませんね、辛いです」

「……あの子の研究に一区切りがつくのを待つしかないか。ボスドルム旧領へ向かうにしても……」

お読みいただききありがとうございます。


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