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オーダーメイド 〜魔道具の祖の研究日誌〜  作者: 中安・ユージーン・風真
第三章 Order:筋書を外す鳥籠

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断たれた依存

「ま、マエリスさん……」

「…………」


地面に突っ伏すマエリスへ、ディアナは恐る恐る声をかける。

マエリスは答えず、砂利が食い込んだ手のひらから血を滲ませたまま、懐から震える手で羊皮紙の筒を取り出した。


魔力が込められ、生成された車椅子が少女の体を持ち上げる。


「……ディアナ、フォローありがとね。物には出来なかったけど」

「い、いえ〜、私もマノン様があそこまで頑なになるとは思ってませんでした〜」

「あんな急に大人びちゃってね。子どもの成長って速いんだね」

「マエリスさんも子どもですよ〜?」


茶化すように言いながら、マエリスは頬に線を引く砂利を落とす。


「ルピは? 何か聞いてたりしない?」

「いいえぇ、特にはぁ。おかしな『色』も見えませんでしたしぃ……でもぉ、急に成長しちゃったって意見は同じですねぇ」

「……もしかして〜……」


観衆のルピの意見に、何か引っ掛かることがあるのか、ディアナが考え込む。


「何か知ってるの?」

「ん〜、多分考えすぎですね〜。何でもないです〜⭐︎」

「そうなの?」

「それで〜、これからどうするんですか〜?」


誤魔化されたと感じながらも、マエリスは促されるまま予定を話す。


「マノンとの対話は、これからも狙っていくよ。それはそれとして、ボクはボクのやり方を突き進むかな」

「と言いますと〜?」

「タリアに会いに行くための準備。それも出来るだけ早くね」

「マノン様という者がありながら〜、別の女の所に行くんですね〜★」

「茶化さないで。今そういう気分じゃない」


据わった眼差しでディアナを睨むマエリス。その瞳の奥にある、触れれば爆発しそうな脆さと怒りに、ディアナは思わず息を呑んだ。

周りの騎士たちは流れ弾に怯え、カラカラに口が渇く。


「ルピ、夜にでもマノンの様子を教えに研究室に来てくれないかな」

「か、畏まりましたぁ」

「ディアナはマノンの機嫌を取っておいてくれる? また場をお願いするかもだし」

「お任せくださ〜い」

「野次馬はさっさと仕事に戻って! 失職させるよ!」

「「「し、失礼しました!」」」


蜘蛛の子を散らすように、逃げるようにバラバラと走る騎士達。


(結局、今世でもこの有様か)


心と体が冷える感覚にマエリスは唇を噛んで、研究室へ車椅子を走らせた。




(──やろうか、『銀の自動兵(オートマタ)』の開発)

『お姉ちゃんなんて、大嫌い』

(──ッ)


マエリスは研究室の扉を乱暴に閉めると、息をつく間もなく机に向かった。

マノンの冷たい声が脳裏にフラッシュバックする。それを物理的に掻き消すように、マエリスは両手で頭を乱暴に掻き毟る。


「……今は手を動かせ。ボクには、これしかないんだ」


マエリスの目の前には、遺跡のゴーレムから採取した核──『NAND回路』と『リングオシレータ』がある。

これさえあれば、論理演算が可能になる。自律行動ができる。


(作るのは、『銀の自動兵(オートマタ)』の機体と、それを量産できる設備──あ、あとは『炎銀の傀儡塊(メタフラマタ)』もか。どうせならあれも改良しよう)


まずは、『銀の自動兵(オートマタ)』の機体だ。


マエリスがイメージするのは、自動で戦い、街の復興も手伝うロボット。量産する以上、一体あたりのコストはできる限り下げる必要がある。


「歩く機構はまだ難しいから、移動はホバーにしようかな。なら足はいらないけどスカートが必要……軽くするには中空──まあそれはいつも通りか」


『石ころペン』を握り、マエリスは羊皮紙にイメージを描いていく。


「あ、でも念を入れて頑丈にする必要はないのかな。それなら単層……いやさすがに段ボールにはしておこうか。胴体は六角形、ハニカム構造に──」


スッ、スッ、と線を引く中、過剰な握力に石が滑り、マエリスの手から飛び出る。

コロコロと石は転がり、楔状のインクは床にばら撒かれる。


それを無言で拾い、何事もなかったようにマエリスは作業を再開する。


「腕は……調律属性と増幅属性を組めば浮かせられるかな。それとも従来通りに関節を作った方が魔力のロスは小さい? 試さないと……時間はどれくらい作れるかな……五時間……いや三時間寝ればいいか」


そしてふと、ペンが止まる。


「頭って必要かな……センサー類は必ずしも頭になくても……あー、でもそれじゃあ街に馴染みにくいかな。人型ってだけで親近感が生まれる……と、いいなぁ。愛嬌はさすがに難しいし……前世の配膳ロボみたく猫耳でもつける?」


球体の上に三角形を二つ乗せてみて、すぐにそれを射線で消すマエリス。

銀一色のロボに硬い猫耳をつけたところで、可愛さは生まれない。それに愛嬌については、マエリスは前世からセンスがなかった。


「さて、試していこうか」


完成したイラストを見て、マエリスはそれを魔法陣に変換していくのだった。




「マエリス様ぁ」


夜、ガララ、と研究室の扉が開く。その音にマエリスは顔を上げて、下手人を見た。


「……ルピ、またノック忘れてるよ」

「あ、すみませぇん……マエリス様こそぉ、もっと明るくしましょうよぉ」


マエリスの手元にたった一本灯る蝋燭。広大な元倉庫の研究室にある光はそれだけだった。


「いいよ、見えるから。何?」

「マノン様の様子についてぇ、お伝えに来ましたぁ。と言いましてもぉ、いつも通りですねぇ。少し力み過ぎてるようにも見えましたけどぉ、それだけですぅ」

「……ボクのことについては、何も?」

「ですねぇ──マエリス様ぁ、それってぇ──」


暗さに慣れたルピが目にしたのは、銀色の小柄な人型だ。その大きさは車椅子に乗ったマエリスと同じくらいか、やや大きい。

スカートを広げた六角柱の胴体に、三角錐とリングを組み合わせたパーツが取り付けられている。胴体の上には、のっぺらぼうな球体が据えられていた。


「今作ってる『銀の自動兵(オートマタ)』の試作機だよ。まだ自律思考はできないし、移動と腕の上下しかできないけど、ここから機能を増やしていくんだ」

「えっとぉ……」


ルピは気付いた。その『銀の自動兵(オートマタ)』の大きさは、まさにマノンと全く同じ背格好であることを。


(マエリス様はぁ、それに気付いて作ってるんですかねぇ……?)


揺れる蝋燭の光に照らされたマエリスの横顔は、酷く冷たく、空虚だった。

冗談めかして指摘することすら許されない異常な空気にルピが息を呑んでいると、マエリスが思い出したように話題を変える。


「あ、そうだ。ルピ、今度ボクがまた『ボスドルム旧領』に行くのは聞いてる?」

「へ? あぁ、何となくの噂で聞いてますぅ」

「うん。そこにはさ、例の『魔王の影』がいるんだけどね」

「うわぁ、よく無事でしたねぇ」

「うん。それでさ、もしかしたらその『魔王の影』の正体は、前に教えてもらったベイル・ローグじゃないかなって、思うんだ」

「え──?」


突然明かされた話に、ルピの頭が真っ白になる。


「……本気、で言ってますねぇ」

「それでさ、ルピとロルカもどうにか森に連れて行けないかなって思ってるんだ。もちろんお父様には相談するけど、どう?」

「……少し、考えさせてくださぁい」


リフィさんを呼んできますねぇ、とルピは研究室を静かに出ていく。

マエリスの研究は、リフィに強制中断されるまで続いた。

お読みいただききありがとうございます。


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