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オーダーメイド 〜魔道具の祖の研究日誌〜  作者: 中安・ユージーン・風真
第三章 Order:筋書を外す鳥籠

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キス魔語り

「んむぅ!? んちゅ──」


(何これ何コレナニコレなにこれ──)


口腔を蹂躙する知らない物体。

鼻腔から脳に刺さる知らない匂い。

内から体を震わせる知らない感覚。


前世は一度も恋人ができず、口唇を介した粘膜接触など経験がないマエリス。

まして、舌を入れられる深いソレ(・・)など──


(……まずい、ますく、はずれて、いしきが──)


朦朧とする意識。最後に見たのは、糸を引く艶やかな唇と、細められた赤い瞳だった。




マエリスが次に目を覚ますと、縦に割れた半分の星空が見えた。


やや曇り、それでも星々は空を貫いて光を届けてくる。


「ふふ……」


微かな笑い声が聞こえる。頭には温もり。額にも、後頭部にも、柔らかな温かさが感じられた。


「あら? 目が覚めたかしら」

「え……誰……?」


ボーッとした頭でマエリスが呟くと、夜空に一点、赤い光が灯る。


星ではない。瞳だ。マノンの宝石のように輝く紅ではなく、血のように妖しい赤紫色。


「なん──!?」


同時にマエリスは今の状況について理解する。


視界を遮っていたのは彼女の豊満な胸部で、自分はそれを下から眺めていて。

いわゆる、膝枕をされながら、頭を撫でられているこの体勢。


逃げようとしても体に力が入らない。まるで金縛りにあったかのように意識と口のみが動く。


(真っ青な肌でも、体温は人と同じなんだ)


楽観的な感想を抱くあたり、マエリスはまだ混乱していた。


「実物は記憶よりも可愛いわね……」

「あの……あなたは、一体……」

「あら、ごめんなさい。家主としてお姉ちゃんから名乗るべきだったわね」


(お姉ちゃん……?)


搾り出した警戒を込めてマエリスが尋ねると、女性はさも常識人のように返答する。


「私はタリア・ボスドルム。ボスドルム辺境伯家の長女で唯一の生き残り──今の私を生き残りと呼んでいいのか、分からないけれどね」


自嘲気味に顔を歪める女性──タリアに、マエリスの警戒心も解けそうになる。


(って、いやいや、落ち着け。初手にあ、あんなことをしてくる人が──)


己に言い聞かせるようにマエリスが内心でツッコむが、同時にあの感触を思い出してしまう。


「ッ!」

「あらあら、急に赤くなってどうしたの?」


今度は心配そうに顔を覗き込んでくるタリア。顔と顔の距離が近づき、マエリスの視線はその艷やかな唇に向けられ──


「ボ、ボクまだ六歳ですよ!?」

「え? あ、ええ、一緒にいたメイドさんから聞いてるわ」


タリアはキョトンとした顔をする。メイド、という言葉にようやくマエリスの思考も元通りに動き始めた。


「そうだリフィ! ディアナ! 二人は無事なんだよね!?」

「無事、だと思うわ。私は医者じゃないから詳しくは分からないけれど……」


そう言って、タリアがマエリスの体を抱き上げ、廃墟の隅を見せる。

そこには蔦で編まれたカーペットの上で眠る二人の姿があった。


遠目では息をしているのか分からないため、はっきりとしたことを言わないタリアをマエリスは睨みつける。


「あの、私、何か悪いことをしたかしら……?」

「悪いも何も……」


怯んだように涙目で表情を固くするタリアに、マエリスは再び混乱し始める。

前提条件がズレているような感覚。化け物相手なら当然だが、マエリスはタリアに対話可能性を見出していた。


「……そもそも──えっと、タリアさん? あなたは今の状況をどう捉えてるんですか?」

「タリアでいいわ、私の王子様」

「王子様……? とにかく、タリアの考えを聞かせて欲しいんだけど。お互いに誤解がありそうだし」

「誤解……それは困るわ」


言葉通りに、眉を八の字にするタリア。


「でも、状況と言われても……」

「それじゃあ、ここ最近であなたの覚えてる最初は何ですか?」

「ここ最近で最初……」


タリアはしばらく考えた後、ポツリと呟いた。


「あなたよ、私の王子様」

「え、もしかしてあのキ、キスが最初の記憶?」

「うふふ、可愛い……そうだったなら素敵なのだけれど、実際はその前よ。ただ、いつ頃かは分からないの。時間の感覚は、それこそついさっき取り戻したものだから」


そうして、つっかえながらもタリアは語り始めた。




「最初は夢の中で、悲しい景色を見たわ。真っ赤な炎と、キラキラした宝石。それらがドロドロと溶けて自分と混ざるみたいな、自分が自分でなくなるような、気持ちの悪い悪夢」


(炎と宝石……カーバンクルの話か?)


「そんな悪夢を何回か繰り返していると、ある時、小さくて勇敢な女の子が出てきたの。銀の巨人を操って、強い光を放つ女の子」


(銀の巨人はボクかもしれないけど……強い光? あ、もしかして、昨年のスタンピードの話?)


「その子が出てきてから、私の悪夢は遠ざかっていって、その子のことばかりを追うようになってた。嫌な気配がする白い子と遊んでる時は、とても可愛いかったわ」


(嫌な気配がする白い子……? まさか、マノンのことを言ってる?)


「それで、気づけば森の中でその子を見るようになって。その頃には私も出来ることが増えてきてたから、ペットの犬(わんちゃん)に迎えに行ってもらったの」


(それが、この前のスタンピード?

 いや待って、わんちゃんって……まさか『魔王の影』のことを言ってる!?)


「そして今。こうして直接会えて本当に嬉しいわ」




ツッコミどころが満載の回想を聞いて、マエリスは頭が痛くなる。

おおよそ、今のマエリスの知っている魔法法則では説明できないことばかりだが、妙な一貫性がある以上は、未知の現象として捉えるべきだろう。


異能力かよ、と文句は内心で抱えて、マエリスは最後に一つ尋ねる。


「それで、その、キスしてきた理由は何ですか……?」

「その前に、そろそろ王子様のお名前を教えてくれないかしら?」

「……マエリスです。マエリス・マギカ」

「マギカ! マギカ辺境伯、隣に立つ良き戦友! これは本当に運命ね! ねえマエリス──」


夜空に輝かんばかりの笑顔を浮かべ、彼女は核心を突く。


「口付けした時に、あなたの『魂』の味もしちゃったの。

 見た目はこんなに可愛い女の子なのに、中身は殿方だなんて……なんて素敵なの!」

「──は?」


あの皇后にすら完全に断定されなかった己の秘密。誰にも、家族にすら打ち明けていない『転生』の事実。


それを、初対面の怪物にピタリと当てられ、マエリスの思考は完全に停止した。


「お姉ちゃんと結婚しましょう? 王子様」

お読みいただききありがとうございます。


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