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オーダーメイド 〜魔道具の祖の研究日誌〜  作者: 中安・ユージーン・風真
第三章 Order:筋書を外す鳥籠

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カーバンクル

「先に言っておきますがぁ、私は『カーバンクル』って名前が嫌いですぅ」


私物が全くない、殺風景な使用人室でルピが言う。

その声はいつもの間延びした調子だが、底に冷たい怒りが沈殿していた。


「それはぁ、あの『狩人』たちが付けた名前でぇ、私たち遊牧民を指す言葉でぇ、私たちの加護を指す言葉でぇ──私たちの命を、金目の『物』として表す言葉ですからぁ」

「命を、物として……?」


マエリスがそう言うと、ルピがスンスンと鼻を動かす。


「──私の家族にはもう会ったみたいですねぇ。確か今の王代理はブリックでしたかぁ」

「ああ、遊牧民の人のことね。うん、一度だけ」

「それじゃあ皆にも信頼されたんですねぇ」

「巫女の友人だからって。慕われてるんだね」


にへへ、と誇らしく笑うルピ。しかしすぐにその顔を暗くする。


「……今から話すのはぁ、『巫女』の氏族のルピ・ティージエとして知っている全てですぅ」

「いいの? 部族の秘伝とかあったりしない?」

「大丈夫ですぅ。これでもマエリス様が小さい時から見てますからねぇ。信頼、してますからぁ」


力なく笑うルピ。マエリスにはそれが「諦め」と「祈り」の混ざった感情に見えた。




他大陸からやってきた獣人二人が出会うことで、ルピたち遊牧民の歴史は始まった。


一人はスポソ・イーア大陸から来た『大悪党(ローグ)』。それは本名ではないらしいが、本人は頑なにそう名乗り続けた──後の『王』の氏族の祖先だ。


もう一人はメルへ・グリム大陸から逃げてきた『外形の魔女』。驚くべきことに彼女は未だ存命らしいが、所在はルピも知らない──後の『巫女』の氏族の祖先だ。


二人は出会い、共に旅をして、同じ境遇の獣人たちを集めて一つの部族を形成した。それは時の権力者や迫害する人間たちに追われたが、それを跳ね返す『加護』が、『外形の魔女』から与えられていた。


『外形の魔女』の額には、赤く大きな宝石があった。

それは彼女の種族の特徴であり、力の源であり──大陸から逃げてきた原因でもあった。


その力を、部族の皆に分け与える『加護』。

故にその遊牧民は『宝石を宿す獣(カーバンクル)』と呼ばれた。


「でも、今のルピには宝石なんてないよね?」

「見えないだけですよぉ。おでこを触ってみてくださぁい」


そう言ってルピはマエリスに額を差し出し、マエリスは言われるがまま前髪を上げて撫でる。

額の中心。皮膚の下に、硬く拍動する異物があった。


「っ……これが」

「それが宝石──私たちは『魂石』って呼びますぅ」

「『魂石』……」

「その名の通りぃ、私たちの力の源でぇ、私たちの二つ目の心臓ですぅ。まあどっちかの心臓が壊れても死んじゃうのでぇ、ただの急所なんですけどねぇ」


『魂石』は魔法杖の材料として極めて優秀らしく、何度も何度も、それを求めた人間たちに襲われた。


時は進み、ルピの時代。彼女には幼馴染で『王』の氏族の末裔、ベイル・ローグがいた。


代々の『王』の氏族には特殊な能力が宿っていたらしく、ベイルには「食べた物の能力を得る」という力があった。


残念ながら、狙った能力が得られるわけではなく、また食わず嫌いが多く偏食家だった彼には、宝の持ち腐れだったようだが。


「ベイルは悪戯好きでぇ、よく私はイジメられてたんですよぉ。それで怒られてぇ、罰として嫌いな物を食べさせられるまでがセットでしたぁ」


懐かしそうに虚空を見つめてルピは語る。


「カエルを食べさせた時は面白かったですねぇ。ジャンプ力とかぁ、壁にくっつく手とかぁ、伸びる舌とかぁ、ベイルはそういうのを期待したみたいですけどぉ、手に入った能力は『胃袋に物を溜められる力』でぇ」


すっごく落ち込んでましたねぇ、とルピは笑う。


戦闘の役にも立たない、ただ物をしまっておくだけの倉庫のような胃袋。それが、まさかあんな形で役に立つなんて誰も思わなかった。


「それがあの日から二週間くらい前のことでしたぁ」


その頃、遊牧民の子どもたちが相次いで行方不明となり、集落全体がピリピリとしていたらしい。

恐らく、拐われ殺されたのだろうとルピは語る。


彼女らの『魂石』は、子どもの内は表面に出て隠れていないらしく、そこを見つかって乱獲されたのが大人たちの予想だった。


そして、襲撃の日。


「日が登る前の、深夜のことでしたぁ。『狩人』が集落に雪崩込んで、火を放って、逃げ道を塞いで、皆の『魂石』を抜き取っていきましたぁ」

「……」

「私もベイルも、婆様も、母様も、必死に戦って生き残りの皆を逃がしてぇ、そして『狩人』に囲まれましたぁ」


そこで、ルピの母親が最後の策を打った。

ベイルの「倉庫の胃袋」を使った、決死の脱出策。


「ベイルは泣きながら、私と婆様を丸呑みにしましたぁ。そして……『狩人』たちが戦利品として積み上げていた、殺された仲間たちの『魂石』の山も、全部口に詰め込んで」


マエリスは息を飲む。

それは友を食い、友の死体を食い、自分自身が一族の墓標となる行為だ。


「母様の命がけの強化魔法を受けて、ベイルは包囲網を強引に突破しましたぁ。お腹の中は真っ暗で、血の臭いがして……ベイルの嗚咽だけが響いていてぇ……」


そして古井戸へ飛び込み、水脈から逃走を図り──気がつけばルピとロルカは、吐き出されてマギカ辺境伯領近くに流れ着いていた。

けれど、ベイルの姿だけがなかった。


「マエリス様が産まれたばかりの頃でぇ、バタバタしていたにも関わらず雇ってもらえてぇ、旦那様と奥様には感謝ですぅ」

「そうだったんだ……」

「あ、そんなに暗くならないでくださぁい。もう過ぎた話ですしぃ、マノン様に出会えて私は幸せですぅ」

「復讐とか、考えたりしない? ボクは同じ目にあったら、絶対思うけど」


マエリスがそう尋ねると、ルピは力なく笑う。


「それが許される身分でも強さでもありませんからぁ」


その言葉にマエリスは納得する。


ルピも復讐を思い、そして自分たちの無力さを悟り、諦めたのだ。

外形だけで判断され、石として狩られる運命を、受け入れてしまったのだ。


「『狩人』の正体は──」

「私もよく知らないんですよねぇ。婆様は知ってるかもですがぁ……あ、でも──」


ルピが何かを言いかけた、その時だ。


カン、カン、カン、カン──!!


けたたましい鐘の音が鳴り響く。マエリスはそれを聞くのは、二度目だ。


「スタンピード──!?」


賢者不在のマギカ辺境伯領を、『泥流』が襲う。

お読みいただききありがとうございます。


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