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オーダーメイド 〜魔道具の祖の研究日誌〜  作者: 中安・ユージーン・風真
第三章 Order:筋書を外す鳥籠

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核の中にはミクロの世界

深層の洗礼を受けたマエリスは、しばらく深層探索は控えて研究に時間を割くことにした。


「うーん……」


朝、研究室でマエリスは唸っていた。


左手にはリケから貸し出されている拡大秘石(凸レンズ)、右手には『石ころペン』。


レンズの先には昨日確保した遺跡ゴーレムの核があり、その中に刻まれた魔法陣をスケッチしている最中だった。


「倍率が……もうちょっと欲しいなぁ……」


せいぜい数倍に拡大するだけのレンズ。対してゴーレムの核には顕微鏡のような百倍以上の倍率が必要となる。


「今度、リケに手紙と顕微鏡の図案を送ってみよう」


そう心のメモに書き加えながら、マエリスは眉間に皺を寄せてレンズの中の世界を凝視する。


視力検査のランドルト環に真っ向から喧嘩を売るような図形。幸いなことに、構造自体はそこまで複雑ではないため、半日程度でほんの一部の模写に成功した。


いや、「ほんの一部の模写だけで十分と判断した」が正確か。


「これ、ひょっとして全部同じ形……?」


表面からは内部の魔法陣が邪魔で核の中心は見えないが、少なくとも見える範囲の魔法陣は全て「一つの同じ魔法陣の繰り返し」だと判明した。


(まるで細胞だね。同じ形が大量に集まって臓器を作ってる。

 だったら、大事なのは構造の方か)


「マエリスお嬢様、夕飯の時間です」

「あ、はい」


いつの間にか後ろに立っていたリフィにゴーレムの核を取り上げられてしまい、マエリスは健康的な生活を余儀なくされた。




翌日。


「構造って意気込んだけど、どれも同じに見えるなぁ……」


色分けがされているわけでも、分かりやすい隙間があるわけでもない。

魔力を流してみても、動きが速すぎて追いきれない。


マエリスは困った。


「……先に魔法陣の解析をしちゃお」


数時間粘ったが、結局同じようにしか見えなかったため、マエリスはゴーレムの核から羊皮紙へ視線をスライドさせる。


(前に中層の遺跡で見つけた残骸の魔法陣に似てる? 同じ──いや、似てるだけだね)


三叉路の形をした魔法陣だ。ただ魔力の流れをみる限り、二方向から来た魔力を集めて、残った一方向へ流すような構造に見える。


そしてもう一つ、変わった特徴があった。


(ん?)


「どうなってるんだ、これ……?」


分かりやすいように、魔力の入口を左と右に、出口を下に固定しよう。


まず左から1の魔力が来た場合、下へ1の魔力が流れる。これは右から来ても同じだ。


では左右から1の魔力が来た場合、下へ2の魔力が流れるかと思えば、そうではない。左右両方から魔力が来ると、近くにある迂回路へ魔力が漏れ、魔法陣の外周を魔力がループするようになっている。


つまり魔力は下へ流れない。


反して、左右から魔力が来ない場合、外周でループしている魔力が迂回路から一部流れ出て、下からは1の魔力が流れる。


まとめると以下の通りだ。


片側からのみ魔力が来たら、魔力を流す。

両側から魔力が来たら、魔力を流さない。

両側から魔力が来なければ、魔力を流す。


(何この、天邪鬼な設定。何がしたいの……?)


そんな意味不明な魔法陣が、ゴーレムの核には満ちるほどに刻まれている。


(……ん? 両方から来たら流さないで、来なかったら流す……?)


その瞬間、マエリスに特大の雷が落ちる。その衝撃は相当で、手が震えて羊皮紙を握っていられない。


「な、NAND回路……!?」


それは機械の脳細胞。たった一種類の回路であらゆる論理演算を熟す神のパーツ。

これさえあればメモリもCPUも──スーパーコンピューターも、人工知能だって──


「──ま、待って待って……落ち着け、落ち着け……」


マエリスは荒く深呼吸を繰り返して、火照った体と心を落ち着かせる。


「……これだけじゃダメだ、クロックがない。ないからまだそれは早い……」


クロック。それは機械の脳細胞の動きを整えるペースメーカー。これがなければどんなに優秀なコンピューターも滅茶苦茶な動きをして動かなくなる。


(いやでも、遺跡のゴーレムはきちんと動いてたよな……)


マエリスは再度、核に拡大鏡を向ける。規則正しく、そして網羅的に並ぶこれがNAND回路だとしたら──


「──あった、閉じた輪。一、二、三──七。奇数──」


核の中に一カ所、七つの魔法陣を環状に接続した部分があった。

空いたもう一つの魔力の入口には、常に魔力が入るようになっている。


その入口に合わせて、マエリスは魔力を集中させてみる。


「──動いてる、のかな?」


魔力をこめながら、マエリスはそれを耳もとへ近づけた。


──キィィィィィン──


鼓膜を刺激するような、極めて高い、澄んだ電子音。

ただの石ころだった核が、明確な意思を持って歌い出した瞬間だった。


(これだ、リングオシレータ! コンピューターの心臓!)


これにより、魔力の出力を繰り返すことで、擬似的にオンオフのリズムを──計算ペースを作り出している。


(しかも七って、めっちゃ速いね!? 最速理論値の三に近いじゃん)


だがこれで、遺跡ゴーレムが滑らかな動きをしていたことに合点がいく。


(これがあれば、いよいよ──)


「お嬢様」

「ひゃぅ!? リフィ!?」


ゴーレムの核を取り上げられ、ついでに耳を揉まれたマエリスは振り返り下手人を睨みつける。


「石を耳に近づけてニヤニヤと……ついに過労で幻聴と幻覚が? 音楽家に転向されます?」

「ち、違うよ! それは革命のファンファーレなの!」

「そうですか。では革命家の食事は野菜多めにしておきますね」

「いやちょっと、胃も体力も戻ってきたから肉を……」


マエリスは抗議しながら、脳内に未来を浮かべていた。

銀色のロボットが、完全に無人で重い物を運び、敵を攻撃する光景。


(始めようか、『銀の自動兵(オートマタ)』開発!)

お読みいただききありがとうございます。


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