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オーダーメイド 〜魔道具の祖の研究日誌〜  作者: 中安・ユージーン・風真
第三章 Order:筋書を外す鳥籠

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『応需の商隊』のアンドレス

「すご──」


マエリスは見惚れていた。己の思考速度さえも超越した、洗練された動き。


まるで殺陣、演武、舞台の上のような出来事。


「──ご要望のお品物を用意させていただきました」

「あ、ありがとうございます」


アンドレスのその言葉にマエリスはハッとして、ゴーレムの断面へ近づく。


(断面──核の周りにある線は導線かな。このくらいの作りならボクの魔道具と同じ……なら違うのはやっぱり核か)


マエリスは両手で核を掴み、力一杯に引っ張る。

しかし核はビクともしない。粘土にくっついて離れない。


「リフィ、ナイフ貸して」

「畏まりました」


ナイフを受け取り、周りの粘土を削いでいく。

半分ほど切り離したところで、核はズボッと抜けた。


マエリスの両拳よりも大きな、宝石のような紫色の核だ。マエリスの首で揺れる立体魔法陣の刻まれた石のように、核の中に魔法陣が緻密に描かれている。


あまりに細かすぎるため、知識がなければ気泡にしか見えない。拡大鏡が手元にない今のマエリスには辛うじて魔法陣だと判別できる程度だ。


(この加工精度は、ちょっと真似できないな……)


「ご満足いただけましたか? ゴーレムの核はあまり宝石には向いていませんが」

「あ、いえ、私にとっては宝石よりも価値がありますよ」

「そうでしたか。ならばその助けになれたことを喜びましょう」


そこでアンドレスは、ふと虚空を見上げる。そして数秒考えた後にこう提案してきた。


「折角ですから、『魔の森』の入口までご案内致しましょう。傭兵契約のサービスです」

「いいんですか? 私たちは助かりますけど……」

「私としましては、ここで後腐れなく別れたいのですが」

「そう仰らずに。可憐なお嬢様方を深層に置き去りにしたとなっては、私も傭兵業の信用を失いますので」


そろそろ日も暮れてきますから、とアンドレスは付け加える。


「リフィ、どの道ボクらも帰らないといけないから、ここはお言葉に甘えていこう?」

「……承知しました」

「では露払いの栄誉をいただきます」


アンドレスが恭しく一礼した。




「マエリス様はスタンピードの調査ですか?」


帰りの道中、アンドレスが話しかけてくる。


「やっぱり噂になってます?」

「ええまあ。共食い現象を目撃した冒険者も、一人二人ではありませんから。半ば公然の秘密のようなものです」


湧いてきた魔物を瞬殺しながら、アンドレスは続ける。


「昨年のスタンピードも様子がおかしかったそうですね。私共は秋にこちらの領に戻ってきましたので、話でしか知りませんが」

「私も去年が初めてのスタンピードだったので詳しくはわからないですけど、魔物の数が少なかったり、『魔王の影』が現れたりして」

「『魔王の影』ですか。私共も一度しか遭遇したことがありませんね。身体が炎でできた大百足で……あの時は死ぬかと思いました」

「アンドレスさんでもですか」

「私などまだまだですよ」


謙遜するアンドレスだが、あの戦闘力でまだまだと言うのは……、とマエリスは内心で苦笑する。


「秋に戻ってきたと言ってましたね。それまでは何を?」

「メルへ・グリム大陸で一稼ぎをしておりました。仕事で渡っていたのですが、たまには別の環境で体を動かすのは気分転換になるということで、暫く滞在していたのです」


ペーラ・ウルト大陸がオーストラリア大陸に該当する位置ならば、メルへ・グリム大陸はユーラシア大陸に該当する大陸だ。


一年を通して乾燥し、温暖な気候が続くペーラ・ウルト大陸とは違い、メルヘ・グリム大陸は寒暖差や乾湿差が大きいと、マエリスは本で見た覚えがあった。


「なるほど。それで夏の海でも満喫してから戻ってきたと」

「はは、お見通しですか。いえ、バカンスだけではなかったですがね」


笑いながら、アンドレスは話す。


「とは言え、やはり拠点としている街は安心感が違います。マギカ辺境伯家のご尽力のお陰ですね」

「父に伝えておきますよ」


内政に関わっていないマエリスが誇るのも違うため、アンドレスの視線をマエリスはパスした。

流されたことを察してか、アンドレスが話題を変える。


「拠点に戻ってきたのは、実はもう一つ理由がありまして」

「それは? 聞いてもいいことですか?」

「ええ。既にギルドでも話していますから──マエリス様は『カーバンクル』という名に聞き覚えはありませんか?」

「『カーバンクル』?」


それは前世のゲームなどではよく聞いた呼称だが、現世では聞いたことがない。

……いや、どこかで聞いたような……? マエリスは数秒考え、首を傾げた。


「本当に聞き覚えだけですね。どういったものなんですか?」

「幻と呼ばれる宝石です。夕日や炎のように赤い綺麗な宝石だそうですが、一番の特徴は鏡のように光を反射するそうで」

「へえ」

「実は数年前に一度探したのですが、確保するには至らず。今回はその雪辱を晴らしに再挑戦をしているのです」

「幻の宝石……それもお客さんの注文ですか?」

「いえ。ですが話題性は十分な品ですから、手に入りさえすれば買い手はいくらでも集まることでしょうね。もしくは皇室へ献上することになるやもしれません」


説明を聞いて、マエリスは漠然と前世のルビーを思い浮かべていた。


「あれ、でも宝石って鉱山とかで掘る物では? 『魔の森』に鉱脈があるなんて聞いたこと……あ、それで遺跡に?」

「ご明察です。手掛かりは、全く掴めませんが」


そう言えば、とアンドレスが付け加える。


「ちょうどマエリス様の家のメイドの、獣人の方がいらっしゃいますよね? 彼女たちのような赤がイメージに合います」

「ルピたちの赤……?」


そう考えると、意外と赤というより朱に近いのだろうか。マエリスの中のイメージが色とりどりに変わっていく。


「この大陸で活動する獣人は珍しいので、何か知らないか話を聞いてみたいのですが……難しいでしょうか?」

「それは──」


何気なく答えようとしたマエリスだったが、ここで脳裏に電流が走った。


『ルピとロルカの所在について、しばらく口裏を合わせること』


ミシェルからの指示があったことを寸でで思い出して、マエリスは言葉を澱ませる。


「あー、えっと、今は屋敷に居ないんですよね。いつも『魔の森』が不安定になると、暫く休職していて」

「おや、それはタイミングが悪かったですね。残念です」

「リフィは何か聞いてない?」


マエリスは振り向いて、一歩後ろを歩いていたリフィにアイコンタクトをとる。


「私も詳しいことは知りませんし、聞いておりません。まあ去年のように、あの駄犬は勝手に居なくなることもありますので」


(そんなことあったっけ?)


マエリスの意図を汲み過ぎて、架空の出来事でルピをディスったリフィ。

だがそれでアンドレスは納得したようで。


「そうか。そう簡単に幻の情報は入手できないようで──おや」


気がつけば森の出口が近くなり、視界が開けてきた。


「ご令嬢との会話は時間を忘れてしまいますね」

「今日はとても助かりました。ありがとうございます、アンドレスさん」

「今後とも、『応需の商隊(デリバーズ)』をご贔屓に願います」


マエリスたちはアンドレスに見送られて、馬車で帰路についた。

お読みいただききありがとうございます。


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