遺跡ゴーレム
『──ッ!』
鈍重ながらも確実に、重厚な響きを伴って接近してくる遺跡ゴーレム。
「お嬢様、本来は稼働する遺跡ゴーレムに遭遇したら即撤退が正道ですが」
「今も生き残ってるゴーレムだよ? 解析したら何か分かるかも知れないじゃん!」
「そう言うと思いました……メイド使いの荒い主人に退職届がポロリしそうです」
「いつもそう言って辞めないじゃん。信じてるよ」
「ハラスメントですね」
「何で!?」
そう言いながらも、マエリスは遺跡ゴーレムを観察する。
ゴーレム──特に遺跡に存在するゴーレムは先史文明の人々に作られた、『人造魔物』だが……
(歯車とか、駆動音はなし……見た目は岩だけど、突然足が生えたし、本質はスライムみたいな軟体……?)
つまりは、金属製の粘土でできたゴーレムか。
(でも命令系にしては、予備動作がない。まるで人を相手するみたいに、思考と動作が直結してる……脊髄反射? 魔法陣で?)
「ふっ!」
素早く接近したリフィが、振り下ろされた拳をかわして両手に構えたナイフで乱撃を放つ。
細かい傷がゴーレムに増えていくが、あっという間に元に戻ってしまった。
ドゴォッ!
そこへマエリスが、『炎銀の傀儡塊』の一撃を叩き込む。
総重量百キロを超える鉄塊と、限界まで高めた空気圧。かつては魔王の影を粉砕した一撃は、しかし、ゴーレムの体を凹ませ、ノックバックさせるだけで終わる。
その凹みも、周りが波打ちすぐに消えてしまった。
「……なるほど、このゴーレムがまだ生きている理由がわかりましたね」
「修復能力……いや耐性って言うべき? 動きが遅いから負けないけど、有効打がないから勝てないね」
「恐らく核がどこかにあると思われるのですが……お嬢様のその拳の形は変えられますか?」
「槍みたいに細長くってこと? さすがにこの場で加工は無理かなぁ」
未だ立体魔法陣の扱いには慣れていないマエリス。戦闘の緊張感の中で石に加工などとてもできない。
「それに、できれば核は傷つけないで確保したいなぁ……」
「それはまた無茶を仰いますね」
「こう、手足を切り落として周りを削って中身をくり抜けない?」
「外道の発想ですね」
「何で!?」
『──ッ!』
マエリスの邪な考えを察してか、ゴーレムはマエリスへ向かって拳を振り上げる。
それを『炎銀の傀儡塊』で受け止める。シリンダーが悲鳴を上げ、機体も歪み軋む。
(パワーだけじゃない、受け流されないように力の向きを合わされてる──反応速度で負けてる!?)
その隙にリフィがゴーレムの腕を切り刻むが、切断には至らなかった。
マエリスは緊急離脱し、距離を取る。機体が魔力に還る直前に、ゴーレムの膂力に負けて砕ける。
マエリスはその様子に冷汗をかきながら新たな『炎銀の傀儡塊』を出現させた。
背後から、リフィが無詠唱で魔法を放つ。炎の槍、水の鞭、風の刃、土の砲──いずれも有効打には至らなかった。
「諦めましょうお嬢様。旦那様がいない今、手はありません」
「うぅ……ここで消耗したら、帰り道も危ないもんね……」
渋々、泣く泣く、不承不承、後ろ髪を引かれる思いで、マエリスが撤退の決断を下そうとした、その時だった。
「ならば私たちの手は必要ありませんか?」
『────ッ!?』
斬。
風切り音すらなかった。
切断されたゴーレムの足が、ゴロリと床に転がる。綺麗な切断面の横には大きな槍の刃先と、一人の黒髪の男性。
「私共『応需の商隊』は傭兵業もしております。長期に渡るものから一戦のみの契約も可能です。この場は私一人のみですが、いかがですか?」
薄暗い遺跡の中で、金の瞳が優雅に微笑む。
「『金眼』の──」
「アンドレスさん!」
「覚えていてくださり大変光栄です。そちらのメイドさんに知られているのも嬉しいですね──おっと」
振り下ろされた拳を、アンドレスが回避する。ゴーレムの拳に触れた切断された足が遺跡ゴーレムに吸収され、足が再生した。
(この距離でも気配が感じられない……これがAランク上位の冒険者ですか)
ナイフをゴーレムとアンドレスの間に構えるリフィの頬に、冷汗一筋。
「パーティ全員が揃っているわけでもありませんし、短期契約ならば初回は無料とさせていただきましょう。どうですか?」
「リフィ!」
「……悪い虫をお嬢様に近づけたくはないのですが……仕方ありませんね」
「ご利用、ありがとうございます」
アンドレスが槍を振り上げる。ゴーレムの腕が斬り飛ばされた。
「それで確認ですが、お求めは単なる討伐ではなく、ゴーレムの核を傷なく確保することでよろしかったですか?」
「聞こえてたの?」
「これでも耳聡いことが自慢でして──」
瞬間、アンドレスの姿がブレる。
一閃すれば、両腕が落ち。
さらに一閃、両足が消えゴーレムはダルマとなる。
そして一閃──
「手足を切り落として、周りを削って、中身をくり抜く──とても合理的です」
それは最早、手品の領域だった。
核を剥き出しに残骸となったゴーレムを背後に、涼しい顔のアンドレスはニコリと笑った。
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