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オーダーメイド 〜魔道具の祖の研究日誌〜  作者: 中安・ユージーン・風真
序章 Order:紅に射す光

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光を求めて

「ねえリフィ」

「何でしょうか、マエリスお嬢様」


マエリスが魔法陣の認識を新たにしてから数日。

手持ちの魔法陣パーツを解析し終えた彼女は、賢者の書庫から引っ張り出した『冒険者向け・魔物解体新書(虫編)』を眺めていた。

グロテスクな大百足の解剖図を、四歳児が真顔で凝視している。教育上よろしくない光景だが、今更だろう。


「属性って、火・水・土・風・無以外にもあるよね?どんなのがあるの?」

「そうですね。無を除いたそれら四つの基本属性の他に、光・氷・鉱・雷の上位属性と、闇・聖・星・樹の希少属性と呼ばれるものがあります」

「あ、教えてくれるんだ」


マエリスは本から顔を上げて意外そうにリフィを見る。リフィも部屋を掃除する手を止めずに答えた。


「この程度はどの魔法の教科書にも載っていますので、伝えても問題ないかと」

「ふーん。それらってどう違うの?」

「基本属性は人が生まれながらに有している属性と言われています。一つ二つの属性が欠けている者は偶にいますし、逆に一つの属性しか使えない者もおり、バランスは人それぞれですね。マエリスお嬢様のようにどれも使えないというのは、私は他に聞いたことがありません」

「ボクってそんなに珍しいんだね」


マエリスは自分の両手を見る。その体質は、多くの人が不幸と断じるようなものだと言われたも同然であるが、当の本人は全く気にしていない。


「上位属性は?」

「基本属性を極めた先にある属性と言われています。火なら光、水なら氷、土なら鉱、風なら雷……とされていますが、水属性が得意な方が光属性に目覚めたという話も聞きますし、それだけではなさそうですね」

「光、かぁ……ボクが光属性を持ってたら、今の問題も簡単に片付いたかな?」

「さあ。ですが『紅眼』の問題にはそれこそ光属性を持つ方もいらっしゃったと思いますし、一筋縄ではないのでしょう」

「それもそっか……うーん、でも、光か……」


光……光……と同じ単語だけを繰り返し呟くマエリスを横目に、リフィは最後の属性の説明をする。


「最後の希少属性ですが、これは言葉通り使い手が非常に少ない属性で、生まれた時から持っている場合もあれば、基本属性を習熟して得たという話もあり、最も情報が少ない属性ですね」

「絵本ではよく見かけるけどね。特に闇とか聖とかは」

「古の大戦の、魔王と勇者の属性として有名ですからね」


というか、四大元素属性と光と闇が同列じゃないのか、とマエリスは前世のソシャゲの定番を思う。

そしてパタンと読んでいた本を閉じ、改めてリフィを呼ぶ。


「リフィ。これを片付けるついでに本を探したいから、また書庫まで連れてって」

「畏まりました──リフィは、最近のマエリスお嬢様のメイド使いが荒くて悲しゅうございます。奥様に訴えればよろしいでしょうか」

「やめてよ、ボクがいじめてるみたいじゃないか!?」




数日後。結論から言えば、光属性の魔法陣は見つからなかった。予想通りだ。都合の好い魔法なんて落ちていない。


「やるしか、ないか……」

「本当に魔法陣の書き換えができるのなら、それだけでも歴史に名を残せますね」

「頑張ってくださぁい。お茶とお菓子は用意してますよぉ」

「おねえちゃ、ふぁいとよ」


離れたところから応援する外野三人に見守られながら、マエリスは覚悟を決めた。試験前の緊張感に似た胃の痛さを感じつつ、マエリスは『石ころペン』を握った。


(まずは、言語の解読だ)


魔法陣のパーツを構成するのは、幾何学図形と、その隙間を埋める『ルーン文字』である。確認した限り、ルーン文字は全部で84種類存在し、マエリスは前世の記憶を総動員してそれらをグルーピングしていく。


(前世で魔法を発見した時を思い出すな……)


マエリスはしみじみと思う。あの日、仕事を家に持ち帰り、魔法陣を設計していた。今と同じようにルーン文字をネットで調べて配置し、図形もそれっぽく描いた──あれは奇跡の中の奇跡だったと思われる。


何故なら、魔法陣の図形がズレても、ルーン文字の過不足があっても、別のルーン文字を配置していても、最悪魔法が発動しないのだから。


(前世のルーン文字の配置で、この世界でも魔法陣が動くのなら、ルーン文字自体は共通のはず。どの魔法陣にも頻出する文字は36種類……おそらく、数字の0~9と、アルファベットA~Zに対応している。36進法だ)


前世の厨二心に感謝しながら、マエリスは36種類の文字群を、頻出のものから暫定的にナンバリングを行う。


(文字配置の法則は、それこそ前世で死ぬまでやってたんだからある程度は分かる。図形それぞれの意味も、なんとなくは。丸は濃縮で菱形は分散……図形のバランスは、前世の美的センスに期待するしかないか)


マエリスは慎重にペンを走らせる。

今回の目標は、「水属性の魔法陣を改造して、お湯を出す」こと。 いきなり光を作るのはハードルが高い。まずは「水」に「火」の要素を混ぜる実験だ。


(ここは数字、ここも数字……他のパーツよりも属性を変換する部分は数字が多いな……図形が複雑なのはどの属性でも共通だったけど)


マエリスの作業は、繊細な外科手術であり、同時にスパゲッティコードの修正作業でもあった。一文字でも間違えば、回路が使い物にならなくなる。


(ここの文字を、火属性によく使われてるこの文字に変えてみると──起動しないか。そうしたらここは──普通の魔法?数字もいじらないとダメかな……こことここの文字の位置を少しズラして──密集してるところには菱形を置いて──)




そして──それは、そんな流れ作業の最中に発生した。




変更の結果確認のため、マエリスは半ば無意識的に魔法陣を起動する。


(ん……? なんだ、これ──)


違和感。 想定よりも遥かに多く、急速に魔力を持っていかれる。まるでダムが決壊したような勢いだ。やばい、と思った時にはもう遅かった。


魔法陣の上に現れたのは、お湯ではない。激しく発光し、ブクブクと沸騰する、不安定な水球。


「──え?」


瞬間、リフィの言葉が脳裏に過る。


『基本属性を習熟した先にある属性と言われています。傾向としましては、火なら光──』

『水属性が得意な方が光属性に目覚めたという話も聞きますし──』


水を、閉じた空間で、限界まで加熱したらどうなる?  圧力鍋の弁を塞いで火にかけたのと同じだ。

あるいは──加熱により水が分解され、水素爆発の臨界点に達しているのか。


「マノンッ、伏せて──」


マエリスが叫び、妹を庇おうと飛び出した、その直後。


カッッッ!!!!


視界を白く染め上げる閃光と、鼓膜を破る轟音。 衝撃波がマエリスの小さな体を吹き飛ばし、意識はあっさりと闇に刈り取られた。

お読みいただききありがとうございます。


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