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強襲

「い、いいの?レクスくん。買ってもらっちゃったけど…。」


 広場からの帰り道、マリエナの手には桜模様の万華鏡が握られていた。


 露店から立ち去る時、マリエナはレクスに好きな柄を聞かれ、その柄を買って貰ったのだ。


 自身の瞳と同じ色の花を付け、学園にも植わっている木。


 マリエナはその木が気に入っていた。


 紅い顔のマリエナに、レクスは歯を出してにこやかに笑う。


「良いんだよ。俺もちょうど持ち合わせがあったし、マリエナが気に入ってくれりゃ良いんだっての。」


「もう…上手いこと言って。やっぱりレクスくん、慣れてるよね?」


「そんな事はねぇっての。ずっとマリエナと歩いてるとき、緊張してたって。…まあ、何時もカティとアオイがいるしよ…。」


「レクスくん。デート中に他の女の子の名前出すのは厳禁だよ。今はわたしだから良いけど。」


「…悪かった。今はマリエナだけを見なきゃな。」


「ふふふ、よろしい。」


 すままそうに苦笑いするレクス。


 そんなレクスを見て、マリエナがころころと玉を転がすように笑う。


 それは何時も通りの笑顔で、レクスが入学してからずっと見てきた魅力的な笑顔。


 レクスは紅い頬をぽりぽりと指で搔く。


 赤いのは夕陽のせいだけではないだろう。


 二人が大通りから外れ、学園に戻る道すがら。


 ずぞぞぞと二人の周りに音が響く。


「…なんだ!?」


 怪しく響く暗い音。


 咄嗟にレクスはマリエナを庇うように前に出る。


 ちょうどこの道は周りに人が通っていない。


 学園に帰る手前は少し路地のようになっているのだ。


 レクスが辺りを見渡す。


 すると、それは突然に現れた。


 虚ろに揺らめく影がむくりと起き上がる。


 それは次から次へと連鎖していくように、地面から這い出ずる。


 得体のしれない恐怖が二人を包み込む。


「ひ…な、何…?」


 人型の影は形を伴い、人型の魔獣へとうねりながら姿を変えていく。


 しかも一体だけではない。


 レクスとマリエナを囲むように、全部で六体の人型魔獣が突然現れたのだ。


 レクスは「ちっ」と舌を打つ。


 今はデートという事もあり、魔導拳銃も剣も持ってきてはいない。


 (なんでだ?王都の中だろ!?後ろに会長も居るってのに!)


 レクスは僅かに焦る。


 冷や汗がぽとりと落ちると同時に、後ろに震えるマリエナを守らねばならないという使命感が、レクスを突き動かした。


「れ…レクスくん…。」


 マリエナの声は恐怖に捕らわれ、震えていた。


 桃色の瞳はレクスの背中を頼りにするように見つめている。


「マリエナ、走れるか?」


「…ちょ、ちょっと無理かも…。ごめん…。」


 突然の事に、マリエナは腰が抜けて足が竦んでいた。


 周りを囲む6体の黒い人型魔獣は、どう考えてもそのまま通してくれそうもない。


 じりじりとにじり寄る人型魔獣。


 一人なら全く問題がないが、今はマリエナと一緒なのだ。


(…無理矢理会長を引っ張って脱出するほかねぇか…!?)


 レクスがマリエナの手を掴んで駆け出そうとした、その時だった。


 ヒュンと何かがレクスの傍で風を切る。


 一本の《《クナイ》》が地面に突き刺さった。


 そしてもう一本。


 虚ろな身体の魔獣にも、深々とそれ打ち込まれていた。


 レクスはニヤリと口元を上げる。


 すぐさま足元に突き立ったクナイを拾う。


 ”ドン”と。


 そのまま眼前の魔獣の喉元を突いた。


「すまねぇ…アオイ!」


 レクスが魔獣の喉元を引き裂くと同時に、傍にアオイがシュタっと音もなく降り立つ。


「…ん。…大丈夫?」


 アオイは警戒心を露わにしながら、レクスを横目見やる。


 喉元を裂かれた魔獣はそのままシュルシュルとドス黒い魔核を残して、砂が崩れるように消え去った。


 どうやらこの前の闇の巨人とは似て非なるものらしい。


 突然現れたアオイに、マリエナは目を見開いた。


「えぇっ!?アオイちゃん!?」


「…会長、あとで話がある。…今はこの状況をなんとかしないと。」


 アオイの声に、マリエナはぶんぶんと首を振って頷いた。


「会長、すまねぇ!」


 レクスはマリエナと繋いでいた手を離すと、そのままマリエナの肩を掴んで、跳んだ。


 くるりと回って、マリエナの背中にレクスが立つ。


 マリエナの右脇に立つ一体に向けて、レクスは大きく蹴り込んだ。


 吹き飛ぶ魔獣。


 しかしその後ろからは二体の人型が迫る。


 人型がマリエナに覆いかぶさろうとした。


 その時。


「加勢しますわ。レクスさん!」

「早くどいてください!巻き込まれたいんですか!」

 

 レクスの《《聞き慣れた、二人の声が響く》》。


「シャインバレット!カノン(追尾せよ)!」

「フレイムシュート!」


 奔る炎が、マリエナに迫る魔獣を焼き払う。


 うねる光の弾が、もう一体の魔獣の額を的確に撃ち抜いた。


 レクスはその呪文を放った人物をちらりと見やる。


「すまねぇカティ……え?……カレン?」


 カルティアの隣に立つ人物を見て、レクスは目を丸くした。


 しかし、それも束の間。


 眼を戻し、蹴り飛ばした魔獣に駆けた。


 手に持ったクナイを寸分違わず魔獣の頸に振るう。頭を切り飛ばした。


 一方。


 マリエナの正面からも、二体の影が迫っていた。


 その影の先に立ちはだかるのは、クナイを両手に構えたアオイ。


 音もなく、滑るように飛び掛かる影を、アオイは十分に見据えていた。


「…邪魔。」


 ヒュンと、風を切り裂いてクナイが飛ぶ。


 クナイはそのまま、吸い込まれるように影の喉元を撃ち抜いた。


 残るは一体。


 アオイはその目で捉えていた。


 アオイは息を整える。


 闇の人影が飛びかかった、その瞬間。


 スカートが捲れるのも厭わず、飛び上がって脚を回す。


 ”バキ”っという音と共に、影の頭部がしなやかに蹴りぬかれた。


 そのままアオイはすたっと着地。


 ふぅと溜め息をつくと、レクスの方に眼をやった。


お読みいただき、ありがとうございます。

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