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Kaleidoscope

 レクスとマリエナはジュエリーショップから出たのち、立ち寄った場所。


 それはカルティアと初めて回った場所であり、コーラルとも出会った場所、大広場だ。


 子供の声が響き、大人も釣られて微笑む場所は、大きな空間に小さな喜びをかき集めたような、どこか懐かしい雰囲気もある。


 老若男女だれも彼もが、欲しい物を求めて露店をはしごする。


 両親に連れられた子供が、大道芸人を見て感心したように黄色い声を上げる。


 そんな何時も通りの広場の眺めだ。


 広場の入り口に着いたレクスは、何時も通りの光景に、にこやかに微笑む。


「やっぱりここはいつ来ても賑やかだよなぁ。いつ来ても人がいっぱいでよ。変わんねぇなぁ。」


「レクスくんはよく来るの?」


「いいや。俺もたまにしか来ねぇよ。…でも、俺のお気に入りの場所なんだ。毎回来るたびに新しい発見があってよ。…先月来た時は憲兵にしょっぴかれそうになったしな。」


「え…えぇっ!?だ、大丈夫だったの?」


「ああ。大丈夫じゃなけりゃ、今日ここに来れてねぇよ。ひったくりと間違われてなぁ…ま、今となっちゃ笑い話だ。」


 ハハハと照れたように笑うレクス。


 そんなレクスをマリエナは眼を丸くして見つめていた。


 しかし、マリエナの表情を気にせずに、レクスはくいっとマリエナの手を優しく引く。


「さ、回ろうぜ。マリエナに見せてやらねぇとな。俺のお気に入りの場所をよ。」


 レクスはにっこりと笑いながら駆け出す。


 その姿は鬱蒼とした森の籠の中から、お姫様を救い出す煌めいた白馬の王子様に見えて。


 マリエナの心はトクンと馬のように跳ねた。


 繋いだ手に伝わる心地よい体温は、まるで点滴のようにじんわりとマリエナに伝わる。


「ふ…ふぇぇっ…。」


 幼子のような悲鳴をあげ、頬を紅に染めたマリエナはレクスに引かれるがまま歩き出す。


 マリエナはレクスとともに色々な屋台を巡っていった。


 以前レクスが立ち寄った彫金師の店や魔導具の店。


 レクスの趣味に使う材木店。

 趣味が木彫りと聞いたマリエナはそのギャップにクスリと笑っていた。


 ぬいぐるみの店。

 可愛いものに目がないマリエナは、ぬいぐるみの表情を一つ一つ確かめながら、ぬいぐるみを触っていた。


 レクスが初めて立ち寄る古着屋。

 カジュアルチックなものが揃っており、レクスがマリエナの着せ替え人形にされていた。

 

 ちなみにそんな光景を見ていたカルティアとアオイは、自分たちもレクスを着せ替え人形にしようと思っていたのだが。


 通りすがる屋台の商品はどれも魅力的に映りつつも、マリエナは何より繋いだその手が尊いもののように感じられて、ずっと心臓の鐘が鳴り止まなかった。


 大体の店を周ると、レクスはそのまま、一つの屋台の前で立ち止まる。


「今日もあって良かったぜ。ここを最近見つけたんだよ。」


「えっと…ここは?」


 立ち止まった露店に、マリエナは眼を丸くして困惑してしまった。


 レクスが立ち止まった露店の先には数多の、色とりどりな筒が立ち並んでいる。


 筒がただただ並ぶだけの不思議で風変わりな屋台。


 筒には色とりどりの模様があったり、花柄、星柄、矢羽柄、渦巻き柄、水玉模様、きらびやかな金箔、唐草模様に幾何学模様などまるで模様の博覧会が広場の一角で開かれたようだった。


 ただ、売っているのはどう見てもただの「筒」なのだ。


 マリエナはその筒を見てにこやかに笑うレクスに首を傾げる。


「いろんな模様があるだろ?これが面白いんだ。」


「レクスくんの言う事は分かるけど…でもこれ、ただの筒だよね?」


 キョトンとするマリエナに、レクスは待っていたとばかりにその筒を一本だけ手に取った。


 店の奥に立つ、髭を蓄えた男性店主も口元を上げてニヤッと笑う。


 その筒は何も描かれていない緑の無地。


 よりにもよってその筒を選んだ事に、マリエナはさらに困惑した。


 筒の大きさは大体手首ほどだろうか。


 筒の両端には黒く塗られた木製の部品がはめ込まれている。


 それを持ってなお、マリエナはこの筒の使い方がわからなかった。


 困った顔のマリエナに、レクスはにっと笑いながら筒の先端を指でさす。


「マリエナ、ここから覗き込むんだ。」


 レクスが指で差した先、黒い部品のちょうど真ん中には米粒ほどの穴が確かに開いている。


 マリエナはよくわからないままにその穴に目を当て、筒の中を覗き込んだ。


「あ…。」


 宇宙が見えた。


 きらびやかな星が移り変わる様は、夜の星空よりも煌めいて明るく、時間を早送りしたように次々と移り変わっていく。


 次から次へ同じ星空は一つとてない。


 美しい星が、絶え間なくマリエナの眼に飛び込んで来ていた。


 アオイが見たら間違いなく名前を言い当てる物品。


 大和の工芸品、「万華鏡」だ。


 回す度に移り変わるその光景は、マリエナを見惚れさせるには十分すぎた。


 移り変わる星空は、マリエナにとって初めての経験であった。幼子のように眼を輝かせて、万華鏡をくるくると回し、変わり行く色鮮やかな幻想を楽しむ。


「すごい…すごいよ、レクスくん!こんなすごいものがあるんだね!」


「ああ。俺も初めて見た時は何だコレって思ったけどよ。見てみるとすげぇんだこれが。」


「はぁ…。綺麗…。」


 うっとりとしたマリエナの声。


 男性店主はレクスに向かってドヤ顔でサムズアップをした。


 レクスも店主に気恥ずかしげにサムズアップを返す。


 マリエナは気が済むまでずっと、紅い頬のまま、万華鏡を回し眺めていた。


お読みいただきありがとうございます

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