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第6.5−1話

勇者側です。

 6.5

 晴れた青空の下、人々が押し合い圧し合いの賑わいを見せていた。

 長年待ち焦がれられていた「勇者」の出現。

 その勇者が村を周り、自身の仲間を連れ帰ってきたとあり、グランドキングダムの王都は沸き立っていた。

 その中心、グランドキングダム宮殿に向かう道をゆっくりとした速度で、ガラガラと音を立てリュウジたちの乗った馬車は進んでいた。


「ふわぁ…人がこんなにたくさん…すごいのです。」


 馬車の窓に手をかけ、外を見ながらクオンが驚いた声を漏らす。

 馬車の走る街道の両脇には多くの木造の建物が立ち並んでいる。その下には、王宮の馬車に乗った勇者の顔を一目でも見ようと大勢の人が詰めかけていたのだ。

 まさにパレードの様相を呈している。

 馬車の両脇には人、人、人の大混雑だ。


「はははっ。凄いね。秋葉原や浅草寺みたいだ。」


 リュウジが窓の外を見て感心した声を上げる。


「アキハバラ…とはどこなのですか?」


 リュウジの聞き慣れない言葉に、カレンが尋ねる。


「そうだね。ずっとこんな感じで人がごった返している場所だよ。メイド喫茶の客引きも多いけどね。いつも賑わってるんだ。」


 リュウジはにこやかな顔でカレンに返答する。


「そんな場所があるのですね。私、初めて知りました。勇者様は博識な方なのですね。」


「僕は秋葉原には何回も行ったことがあるから、このぐらいは慣れっこさ。みんなも連れて行ければ良いなぁー。あと、勇者様じゃなくてリュウジでいいよ。勇者様って呼ばれると堅っ苦しいし。」


「ふふふ、わかりました。リュウジ様。」


 カレンの言葉に気を良くしたリュウジはご満悦な表情を浮かべていた。

 カレンはそんなリュウジを見て、顔を赤くして微笑んでいる。

 しかしそんな中で緊張でガチガチに固まっている少女がいた。

 リナだ。

 リナは馬車の窓の外を見るや否や、縮こまってしまっていた。

 あまりの人の多さとこれから王様に謁見するという事で艷やかな唇はわなわなと震えていた。


「リナお姉ちゃん、大丈夫なのです?」


「リナ、そんなに堅くならなくても大丈夫ですよ?」


 クオンとカレンがリナの顔を心配そうに覗き込む。

 そんな二人を見たリナは涙を浮かべながらキッと二人を睨む。


「しょ…しょうがないじゃない!これから王様に謁見するんでしょ!?不安にもなるわよ!」


「リナももう少しリラックスすれば良いと思いますよ?クオンさんもそこまで緊張していないみたいですし。」


「そうなのです。リナお姉ちゃんは心配し過ぎです。」


 リナの心配などカレンとクオンはどこ吹く風という雰囲気だ。

 二人ともしれっと窓の外から見える王都の建物すら楽しんでいるように見える。


「なんで二人ともそんなに平気そうなのよぉ…。」


 普段は勝ち気なリナの語尾は珍しく弱々しくなっていた。

 そんなやり取りを見ていたリュウジははははと微笑んでいる。


「リナもそんなに可愛い顔するんだね。」


「か…かわっ!?」


 リュウジの唐突な一言にリナの顔は真っ赤になる。

 湯気まで出ていそうな雰囲気だった。


「大丈夫だよ。僕がしっかりみんなをエスコートするからさ!王様も優しい人だし、心配することないよ!」


「うぅ…リュウジぃ…。」


 リュウジの言葉に目をうるうるさせながらリナはリュウジの目を見つめる。

 リナの目の中には明らかにリュウジへの信頼が見て取れた。

 そのリナの眼にリュウジは心の中でほくそ笑む。


(こんな可愛くておっぱい大きな美少女たちがハーレム入りするなんてとことんツイてるよな僕って!あんな片田舎の無能くんには到底似合いっこないよ。やっぱり僕みたいなチート主人公がお似合いだよね。あとテンプレっていえば「最強」だよな。どんな敵も一瞬で倒せるのは爽快だろうし。)


 そんなことを考えながら、フヒヒとニヤけるリュウジ。そんな顔すらもリナたち3人にとってはとても爽やかな笑みにみえた。


「リュウジ、かっこいい…」

「リュウジ様…。」

「リュウジ…カッコいいのです…」


 リナたち三人はニヤついたリュウジの顔にときめいているようだった。

 そんな4人を見つめるノアは楽しそうに足をぶらつかせてニコニコと微笑んでいた。


「リュージ。楽しそうだね?」


 その言葉に、リュウジはノアの方に顔を向ける。


「ああ。すごく楽しいよ。…あ、ごめんね。ノアを置き去りにしちゃったかな?大丈夫だって。ノアも大切な女の子なんだから。」


「大丈夫。わたしはリュージが楽しそうなのが一番だから。」


「うう…すごく良い子だねノアは。」


 ノアのいじらしい態度にリュウジは感動していた。

 そんなリュウジを見ているノアは先ほどと全く変わらず微笑んでいた。

 ただ、ほんの僅かだけ。

 ノアの口角は上がっていた。


 馬車は王都の中心街であるメインストリートをゆっくりと抜け、その先にある白亜の宮殿の前に静かに停車した。

 御者の席から役人が素早い動きで降りると、馬車のドアを開ける。

 さらに馬車の出入口に設置された階段から先へ赤い絨毯が城の入口までまっすぐ敷かれた。


「まぁ…。」

「凄いのです…。」

「あわわわわわわわわ…。」


 その光景にカレンとクオンは目を丸くする。

 リナに至っては緊張と驚きが重なり、すでに放心状態に近かった。


「皆様、どうぞ。」


 そう言って役人が手を宮殿の入り口の方へ流す。

 一番先に馬車から降りたのはノアだった。

 それからカレンとクオンがゆっくりと降りる。

 二人はキョロキョロと辺りを興味津々で見回しているようだった。


「さぁ、行くよ。リナ。掴まって。」


「うん…ありがとうリュウジ…。」


 最後にリュウジはリナと手を繋ぎ、ゆっくりと馬車から降りていく。

 リナは顔が真っ赤な上にガチガチな動きで馬車から降りるが、リュウジの手だけはしっかり掴んでいた。

 リナのすべすべとした手の感触にリュウジは心の中で叫びを上げる。


(美少女の手やらけぇぇぇぇ!むふふふふふっ。)


 リュウジは興奮で少しだけ鼻の穴が拡がっているが、気付くものは誰一人としていなかった。

 そんな様子を見たカレンとクオンはジトっとした眼をリナに向ける。


「…やっぱりリナはあざといですね。」


「リナお姉ちゃんだけ狡いです。」


「ど…どういう意味よ!?別にそんな…わ、わざとじゃないし…。」


 勇者と手を繋いだままのリナはそんな二人に慌てて反論する。

 その顔はやはり真っ赤だったのは語るまでもない。

 そんな光景を見たリュウジは二人を諭すように声をかける。


「大丈夫だよ。僕の手はもう一つあるんだ。手を繋ぎたいなら繋げばいいさ。」


 その言葉を聞いたカレンの行動は速かった。

 さっとリュウジの隣に移動したかと思うと手早くリュウジと手を繋いだ。


「では、これで行きましょう。エスコートをお願いしますね。リュウジ様。」


 カレンはリュウジの眼を見て小さく微笑む。

 カレンの動きに少し驚いたリュウジだが、にっこりと笑いながらカレンの手を受け入れる。


「わかったよ。じゃあしっかりエスコートしようかな。」


 そう言って絨毯の上を三人で歩くリュウジ。

 そんな三人をクオンは悔しそうな目で見ている。ノアはニコニコと微笑んでリュウジの傍に立つ。

 勇者リュウジは4人の女の子を侍らせ、王宮の扉を潜った。

 王宮の扉を潜ると、輝いたステンドグラスの光がホールの中心に降り注いでいた。

 全体は白が基調の石壁で上方には装飾のついた窓から陽の光が差し込む。

 ホールは円形で床には赤い絨毯が敷き詰められていた。

 ホールの奥には数段の階段があり、その上に大きく目立つ装飾の施された椅子が置かれている。

 玉座だ。

 総じて荘厳な空間が、まるで御伽噺の中のように広がっていた。

 その周りを兵士や役人が並んで半円状に囲んでいる。

 王室の紋章を施した正装を着用した男性や女性もいる。

 王の血族、つまり王妃や王子、王女たちだ。

 全員が見目麗しい王族が一同に会している光景はリナたちを圧巻していた。

 ただその中の一人、アイスブルーの瞳をした少女だけはリュウジに鋭い視線を送っている。

 そしてその玉座に、一際目立つ王の紋章が刺繍された赤いマントを羽織っている人物、グランドキングダムの王である「ファルディス・フォン・グランド」が腰掛けていた。

 金髪で、顔は整っているが厳しい顔つきをしている。

 その青い瞳はリュウジたち5人を見つめていた。

 リュウジたちは玉座の数メートル手前で立ち止まる。

 リュウジと共に来た役人がその場所で腰を落とすと片膝を折り、手を胸元に置いて頭を下げたからだ。

 明らかに敬礼の姿勢だ。

 しかしリュウジはそのままの姿勢で立っていた。

 リナは緊張で固まってしまっている。

 カレン、クオンはどうすればいいかわからずおろおろとしていた。

 ノアはリュウジと同じくそのままの姿勢だった。

 そんなリュウジを気にしていないのか、国王はそのまま口を開く。


「勇者リュウジよ。この度は各地方への慰問、大義であった。」


「どうもありがとう。今回は僕のお願いも聞いて貰って感謝してる。新しい仲間も来てくれたしね。」


 王の言葉に敬語など全く使わず対応するリュウジ。

 役人たちやリナは肝が冷えていたが、王は全く何も言おうとしなかった。

 王はリュウジの周りにいるリナたちを見据える。


「なるほど。そのものたちが仲間という訳だな。臣下より話は少しだけ聞いている。皆、伝説級のスキルの持ち主ということだそうだな。勇者殿の慧眼は素晴らしいものだ。」


「うん。みんないい娘たちだよ。…ほらリナ、自己紹介。」


 リュウジのその言葉に、驚いた表情でリュウジを見るリナ。

 若干あたふたしていたが一回深呼吸をすると、国王に向き直る。


「…アルス村のリナといいます。スキルは「聖剣士」。勇者様の思いに共感して勇者様と共に行く決心をしました。よ…よろしく…お願い…しましゅっ」


 そう言って頭を下げる。

 途中噛んだことに気がついたのかリュウジは笑っていた。

 そんなリュウジをリナは涙目で睨む。

 リナに続いてカレンがリナに並び、王へ会釈をする。


「アルス村のカレンと申します。鑑定によって現れたスキルは「魔導賢者」。勇者様のご思想に感銘を受け、勇者様と魔王討伐の旅を共にする決心をして、ここに馳せ参じました。若輩者ですので少々のご無礼はお許し願えたら幸いと存じあげます。」


 そう言って膝を着き頭を下げた。

 その立ち振舞に周囲の役人たちから「おぉ…」という感嘆の声が上がる。

 カレンのその様子にリナは目が丸くなっていた。

 カレンに続き、クオンが前に出る。


「アルス村のクオンと申しますです。スキルは「弓聖」なのです。勇者様の力になりたくて一緒に来ました。よろしくお願いします。」


 そう言ってカレンと同じ動きで敬礼をする。

 クオンに続き、ノアが前に出る。


「ノアと言います。スキルは「鑑定者」。勇者のお姿に憧れて一緒に来ました。よろしくお願いします。」


 ノアが礼をする。

 4人の自己紹介が終わると、王が口を開く。


「なるほど。全員伝説級のスキルということは本当であったか。5人ともご苦労であった。長旅で疲れたであろう。身体を休めると良い。5人の部屋を用意しておく。それまでは応接間で休むと良い。…それでは、改めて勇者リュウジよ。大義であった。勇者たちを応接間へ通せ!」


「はっ!」


 王が声をかけると、傍に控えていた役人の男性が立ち上がり、リュウジの前にやってくる。


「勇者殿、此方へ。」


 そう言って役人は手招きと共に勇者たちを先導して、応接間へと導いて行く。

 リュウジたち5人は役人に引き連れられる形で王の前を後にした。

 勇者たちが去った後、王がポツリと口を開く。


「あれが勇者の仲間か。伝説級のスキルが一堂に会するとはな。やはり、魔王の復活は近いか…。」


 その言葉に、臣下の一人が口を開く。


「お言葉ですが陛下。未だに魔王復活の兆しは見えておりませぬ。それまでに勇者殿が力を蓄え、わが国の未来を照らすとわたしは信じております。」


 その臣下の言葉に王は「うむ」と頷く。


「頼んだぞ。勇者殿。わが国の希望よ。」


 王はそう言って、窓からみえる空を眺めた。



 応接間に入ったリュウジたちはテーブルを囲み座っていた。

 テーブルの上にはお茶とお茶菓子が置かれている。

 そんな中、バンと音がしてカップの中の紅茶が波打った。


「りゅーうーじぃー!?どういうことよあれは!?驚いたじゃないの!」


 リナが赤い顔でリュウジに詰め寄っていた。

 リュウジはリナから目を逸らし、口笛を吹いている。


「リナ、仕方がないですよ。どのみち王様に自己紹介をしなければなりませんでしたし。」


 紅茶を飲みながら話すカレンにリュウジはうんうんと首を振る。


「そ、そうだよリナ。どのみちしなきゃならない事だったんだから。」


「リュウジはリュウジで何であんなにさらっと流せるのよぉ!?」


「僕は王様とすでに会ったことあるしね。でもあの時のリナの顔と言ったら…ぷくく…」


「笑うんじゃないわよ!!」


 思いだし笑いをするリュウジにリナは泣きそうな表情になっていた。

 そのままリナはテーブルの上に上半身を伏せる。

 伏せたリナから横に溢れる大きな胸にリュウジは鼻息を荒くしていたが、気付くものはいなかった。


「カレンも何でちゃんと出来てるのよぉ!?」


 テーブルに伏せたまま声を出すリナにカレンはクスリと笑う。


「私は何かあった時の為に本で学んでいましたので。ふふ」


 カレンの言葉にリナははぁと溜め息を漏らし、さらに落ち込んだ様子になる。

 そんなリナにクオンが心配そうに近づく。


「リナお姉ちゃん。大丈夫なのです。きっと王様も許してくれているはずです。じゃないと今こうして寛げるわけがないです。」


 そう言ってクオンは微笑みながらリナの頭を撫でる。

 クオンにとってその行動は無意識であった。

 そんなクオンがいじらしくなり、リナはバッと起き上がるとクオンを抱きしめる。


「ふわっ!?リナお姉ちゃん!?」


「あんたはいい子ね。クオン。ありがと。」


 急に抱きしめられたことにクオンは戸惑った表情を浮かべる。

 そんな2人を見ながらカレンは紅茶をのんびりと啜っていた。

 リュウジに至ってはリナとクオンの抱き合っている姿に鼻の下を伸ばしている。

 するとノアが鼻の下を伸ばしているリュウジに声をかけた。


「ねえリュージ。これから私たちはどうすればいいのかな?」


「あっ…うーん。みんなの部屋を用意してくれるって事だったけど、それまで待っていれば良いんじゃないかな?」


 リュウジがデレデレした顔を戻してノアに答える。

 その時ちょうど、応接間のドアがコンコンと叩かれた。

お読みいただきありがとうございます。

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