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生徒会の提案

走って来た背の高い女子生徒が、レクスの方に向き直り、頭を下げる。


「レクスさん…この度は申し訳ございませんでした。わたしはクリス・クリアーテと申します。生徒会で副会長を担当しています。」


「生徒会!?…ってことは会長が俺を呼んでたのか?」


「いいえ、そういう訳ではありませんが…生徒会までおいでいただこうと思っていたのは確かです。ヴァレッタ先輩とレインが迷惑をかけて、本当にすみませんでした。」


「い…いや、俺も怪我とかしてねぇし、いいっての。じゃあ、ヴァレッタ先輩とかレインは…?」


「はい…ヴァレッタ先輩もレインも生徒会の一員です。…レクスさん、お詫びも兼ねますので、少し生徒会室までおいでいただけますか?」


「あ、ああ。わかった…。」


 状況が飲み込めないレクスはコクリと頷くしかなかった。


 周りをちらりとレクスは見渡す。


 「出してッスー」と声を上げるヴァレッタと格闘する男子生徒。


 レクスを頬を染めてぼぉっと見つめているレイン。


 そして目の前にはキリッとした表情のクリス。


 レクスは、今日のマナーの復習はできなさそうだと悟った。


 なんとかヴァレッタを麻袋から出して、レクスを含めた一行は生徒会室に向かう。


 道中ではレクスの顔をちらちらと紅い顔のレインが見ていた。


 レクスは不思議に思いつつも、一行と共に歩き慣れた学園の廊下で歩を進める。


 校舎に入り、生徒会室の前に着くと、クリスはコンコンと扉をノックした。


「マリエナちゃん。クリスです。他の役員もいます。」


「おかえりー!みんなどこ行ってたの?入っていいよー。」


 扉の向こうから聞こえてきたのは、元気そうなマリエナの声だ。


 がらりと引き戸を開けると、そこにはビッくんと共に書類に向かい、真剣な眼で目を通しているマリエナがいた。


 書類1枚1枚を真剣な眼で見ている様子は、何時も何処かふにゃっとした雰囲気のマリエナと異なり、レクスには新鮮に映る。


 しかしその表情も、レクスが来た瞬間に崩れた。


「あーおかえ…れ、レクスくん!?」


「よ…よぉ会長。何でか連れて来られたんだけど…。」


「わたしたちがお連れしました…。マリエナちゃん、ちょっとお話させていただきますね?」


「え…えぇ!?ちょ…ちょっと?クリスちゃん!?」


 マリエナが目を丸くしているのを他所に、レクスを連れて他の役員たちがなだれ込む。


 各自自身の席に座る中、レインだけは入り口すぐの席の椅子を引き、手で指し示す。


「レクスさん、こちらです。どうぞです。」


「あ…ああ。悪ぃな…。」


「いえ、お気になさらずです。」


 レクスが座ると、レインも自身の席に戻る。


 座ったあとも、レインはちらちらとレクスを眼で見ていた。


 マリエナは何が何だか分からず、戸惑うように視線を泳がせる。


 するとクリスがコホンと咳払いをした。


「レクスさん。先程はご無礼をしてしまい、大変申し訳ありませんでした。あと、この度は生徒会にご足労いただき、ありがとうございます。それでは…マリエナさんとの御関係について伺いましょうか?」


「ちょっと!?聞いてないよ!?」


「ええ。マリエナちゃんには言っていませんから。…ああ、その前に自己紹介から入ったが良いですね。…わたしはクリス・クリアーテ。先ほども言いましたが副会長をしております。2年です。どうぞよしなに。」


 クリスが立ってお辞儀をする。


 着席すると、向かいの紺色のショートヘアをした男子生徒、ルーガが口を開いた。


「俺はルーガ。ルーガ・ディアニアだよ。役職は会計だ。同じく2年。よろしく頼む。」


 ルーガも同様にお辞儀をする。


 ルーガの身長はレクスよりも拳一つ分高いようだった。


 続いてはその隣にいたヴァレッタが口を開いた。


「ヴァレッタ・レイリーッス!役職は庶務ッス!唯一の3年ッスよ!よろしくッス!」


 ヴァレッタは立ち上がり、お辞儀をするとニヤッと笑った。


 そして最後はレインの番だ。


「あ…あちしは…レインって言います。書記をしてます。裁縫が得意で、趣味はお菓子作りです。あ…あと2年です。よ…よろしくお願いします。レクスさん…。」


 レインはお人形のように立つと、ペコリとお辞儀をする。


 レインの身長はクオンよりも僅かに高いだけだった。


 顔を上げると、何処かレクスに熱を込めたような視線を向ける。


 レクスが目を合わせると、そのまま俯いて座ってしまった。


 するとクリスがちらりとマリエナを見る。


「マリエナちゃん。そこのレクスさんとは…一体どういう仲なのですか?」


「え…えーと…知り合いだよ?何でそんなことを聞くのかな?」


「なるほど。それではレクスさんはいかがですか?」


 クリスはレクスの方に顔を向ける。


「え?俺は…会長の言う通り、知り合いになんのかな。」


「なるほど。マリエナちゃんはこういった方がタイプなんですね?」


「え!?…その…ちょ、ちょっと!?なんで急にレクスくんがわたしの好みになるの?おかしくないかな?」


「いいえ。全然おかしな事ではありませんよ。何故なら、マリエナちゃんは今までルーガくん以外の男性は全て避けようとしてきました。しかし、そこのレクスさんだけは最初から避けようとはしていませんでした。…ルーガくん以外の男性で交友関係は?」


「…レクスくんだけ。でもなんでそんなこと聞くの?」


 ジトっとした横目で、マリエナはクリスを見やる。


 しかしクリスはどこ吹く風だ。


 クリスはそのままジロリとレクスを見やる。


「生徒会の面々、つまりわたしたちは気になっているんですよ。レクスさん、あなたはマリエナちゃんから避けられていない、その理由が知りたいんです。」


「わたしの意見は無視かな?なんで本人の前で言うの!?」


「…って言われてもなぁ。会長の事は信用してるけどよ…?」


 レクスは首を傾げる。


 レクス自身もそんな事はわからないのだから。


 するとヴァレッタがニヤッと口元を上げて笑う。


 こういう場合は大抵碌なことにならないと生徒会の面々は知っていた。


 マリエナも訝しむように顔を僅かに顰める。


「じゃあ、確かめれば良いッスよ。レクスが避けられない理由を。」


「どんな方法があるんだい?本人たちもわからないのに、確かめる方法なんて…。」


「あるッスよ。会長の母君との対面も控えてるなら、あれもしておかないとすぐにバレるっすよ。」


「あれって何です?」


「デートッスよ。デート。ふたりきりで出かけて互いの距離感を測るッスよ。」


 ヴァレッタはいたずらっぽい笑顔を浮かべ、にししと歯を出す。


「「はぁ!?」」

 

 当事者二人の声に、生徒会室は揺れた。

 しかし、他の役員たちはコクリと頷く。


「確かに。マリエナちゃんの好みや行動パターンを知っておかねば怪しまれますからね。いい機会かと。」


「俺も良いと思うよ。実際デートもしたことない奴が「恋人です」って言っても説得出来ないだろうしな。」


「あ、あちしも良いと思うです!……かいちょーが羨ましいです。」


 レインの言葉の最後は小さすぎてレクスには聞きとれなかった。


 そんな意見を聞いていたヴァレッタはウンウンと頷き、レクスとマリエナを順に見る。


「じゃ、決まりッスね!二人には、デートしてもらうッスよ!……今からッス!」


 ビシッと指をさすヴァレッタ。

 そんなヴァレッタに、レクスとマリエナは理解が追いつかず、眼を点にしていた。

お読みいただきありがとうございます

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