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晴天のプレリュード〜幼馴染を勇者に奪われたので、追いかけて学園と傭兵ギルドに入ったら何故かハーレムを作ってしまいました〜   作者: 妖刃ー不知火
第四章・淫魔と雨の憂鬱・いざなうもの編

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淫魔の提案


「……もう、わたしをいっそ殺してぇ。」


 巨大なスイーツを前にしたマリエナの周りに、レクスたちは集まって座っていた。


 マリエナはこの世の終わりだと言わんばかりに暗くどんよりと俯いている。


 そんなマリエナとスイーツを前に、アオイは興味津々な視線を向けていた。


「…会長、こんなに食べられるんだ。…すごい。」


「ふ、ふふふ……どうせこのあとみんなに伝わって幻滅されちゃうんだ。大食いサキュバスって噂されてドン引きされちゃうんだ。……はぁ。」


「…いっぱい食べられて羨ましいよ?」


 絶望して薄ら笑いを浮かべているマリエナに対し、アオイはきょとんと首を傾げている。


 両者の温度差で風邪をひきそうだ。


 カルティアもアイスティーを飲みながら、不思議そうに首を傾げている。


「多く食べられるくらいで、そんな絶望することですの?アオイさんの言う通り、それでそのスタイルは羨ましいですわ。」


「俺も別に気にしねぇけどな……。」


「わたしが気にするの!なんで毎回スイーツ食べる時にレクスくんがやってくるの!?わざとなのかな!?」


「俺に聞かれてもどうしようもねぇんだけど…?」


 うるうると涙を浮かべるマリエナに対し、レクスはばつが悪そうにアイスコーヒーを口に含む。


 冷たさとコーヒーの苦味が際立つ味わいが、レクスの口に広がった。


「はぁ……こうなったら仕方ないよね……はむ。うう、何時も通り美味しいよう。」


 マリエナは意を決したようにスプーンを持つと、山のように重なった果実の巨塔を食べ始める。


 その表情は美味しさからか、何処か口元がほころんで見えた。


「…うちもあれぐらい食べられると良いのに。」


 物欲しげな表情で見つめるアオイの前には、可愛らしいケーキと紅茶が置かれていた。


「そもそもなんで今日、食べようと思ったんだ?別に今日じゃなくてもよかったろうによ。」


 レクスが訝しむように尋ねると、マリエナはスプーンをコツンと置いた。


 少し憂鬱な表情をしながら、ふぅと溜め息をつく。


 僅かに俯き、ぽつぽつと口を開いた。


「実はね……おかあさんからお見合いを勧められてるの。わたしはそれがすごーく嫌で。落ち込んでたら生徒会の仕事にも影響がでちゃって。頭を冷やしてこいって生徒会のみんなに言われちゃったんだ。」


「…お見合い?…断ればいい。」


「それがそうもいかなくて。わたしには、まだ男性とのお付き合いなんて無理だよぉ。」


 すると、話を聞いていたカルティアが納得したようにコクリと頷いた。


「なるほど。マリエナさんはサキュバスの一族でしたわね。それならば納得出来ますわ。」


「サキュバス?なんだそりゃ?」


 レクスは首を傾げる。


 マリエナが亜人だとは身体的特徴から知っていたが、サキュバスという種族自体を知らなかったのだ。


 不思議そうな顔のレクスに、カルティアははぁと呆れるように溜め息をついた。


 マリエナに至ってはは目を点にしている。


「……レクスさん。サキュバスをご存じなかったのですわね。」


「…うちも知らなかった。…サキュバスって何?」


「アオイさんもでしたのね……。わたくしから説明させていただきますわ。」


「う、ううん!いいよ。カルティア様に言わせるのもどうかと思うし。わたし自身のことだもの。わたしが説明するよ。あのね……サキュバスっていうのは…」


 カルティアを制し、マリエナがゆっくりと説明を始める。


 それからレクスたちはマリエナからサキュバスの特徴について説明を受けた。


 要約するとこうだ。

 ・サキュバスは亜人種族の一つ。

 ・サキュバスの子は必ずサキュバス。

 ・個人差はあるが、ある年齢からは年老いても老いない。

 ・闇の魔術にのみ適正を持ち、触媒がなくとも魔術を発動できるほど扱いに長けている。

 ・背中の羽根で空を飛んだりすることも出来る。

 ・魔眼という能力があり、男性を誘惑し、操ることが出来る。


 とのことだった。


 そこまで説明すると、マリエナの顔がだんだんと赤くなっていく。


「…あ、あとね。魔力の回復方法が人や他の亜人と違うの。」


「回復方法?…ああ、ヴァンパイアの吸血みたいなもんか。ヴァンパイアはアランから聞いたけど、サキュバスも吸血するのか?」


「そ…そのね…「吸精」をするんだよ。…レクスくんは女の子に言わせたいのかな?」


 真っ赤な顔でレクスを睨みつけるマリエナに、レクスは戸惑う。


 するとレクスの隣にいたカルティアがふぅと再び呆れたような溜め息をついた。


「性行為、および体液の摂取、つまりキスなどですわよね?何をそんなに言う事を恥ずかしがるんですの?」


「か、カルティア様!?お…王女様がそんなこと言っちゃ駄目だよ!?」


「他の淫猥な言葉ならともかく、このくらいは王家としての教育で普通に習いますわよ?」


 カルティアが当然だと言う様に首を傾げる一方、マリエナは顔を真っ赤にしてアワアワと慌てていた。


 レクスは少し頬を染め、気まずそうに目を背けているが、アオイに至ってはきょとんとしていた。


「…赤ちゃん作るってことでしょ?…なんで言うのが恥ずかしいの?」


「……すまねぇ、会長。俺が何も知らなくてよ。」


「レ、レクスくんのせいじゃないよ。た、確かに身近に居なければ知らないだろうしね。ただ、アオイちゃんはもう少し知った方がいいと思うけど…?」


「でも、もうおわかりですわよね?サキュバスの家からすれば、後継者の確保と吸精相手の確保、その二点を解決するには早々に誰かお相手を見つけなければなりませんわ。マリエナさんの御母様も同じ考えだと思いますわよ。」


「…だろうなぁ。それでお見合いを断れねぇってか。サキュバスってのも大変だなぁ。」


 頬杖をつき、ふぅと溜め息をつくレクスに、マリエナは目を丸くしていた。


 サキュバスの特性を聞いてなお、レクスはサキュバスという存在に、そこまで興味を抱いていないのだ。


 この世界の一般男性であれば、美貌を持つサキュバスの結婚相手など、夢を見てはすぐ立候補したがる程なのだから。


 実際のところ、サキュバスの結婚相手に選ばれた男性は魔眼によって半分奴隷に近いようなものになってしまうのだが。


 するとレクスはあることを閃き、マリエナを見る。


「身近な男性に魔眼を使ってから紹介して、後で解除すりゃ良いんじゃねぇか?了解を取れば…。」


 レクスの言葉が言い終わる前に、マリエナは首を横に振った。


 その表情は何処かしめやかで、目を伏せていた。


「…それは無理かな。魔眼は一回使ったら、解除出来ないんだ。使われた相手は、そのサキュバスに従ったまま一生を終えるの。…サキュバスはどのみち、結婚するときに相手に魔眼を使うんだよ。一生を捧げるって誓わせる為に。…だから、そう簡単には使えないかな。」


「そうかよ…。」


 マリエナは、また何処か少し寂しげに俯いた。


 レクスはその表情に弱いのだが、今回ばかりはレクスもどう声をかけるべきかわからなかった。


「わたしも、好きな人とお付き合いしてみたいって気持ちはあるんだけどね。もちろんそんな人は今いないし、どのみち眷属にしちゃうから、半分諦めてはいるんだけどね。…はぁ、でも学生の間くらい、わたしの好きにさせてくれたって良いのに。」


 マリエナはふぅと溜め息をつきつつ、苦々しい愛想笑いを浮かべた。


 変えることのできない運命に諦観しているようなマリエナをどうする事もできず、レクスは唇を噛んだ。


 するとマリエナがじぃっとレクスを見据える。


「……大食いなのも二人にバレちゃったから、レクスくんにはその責任を取って貰わなきゃね。」


「ん?責任ってか、なんか頼み事がありゃ聞くぞ?……そんぐれぇしか、俺には出来ねぇからよ。」


「そっか……じゃあ、お願いがあるんだけど…。」


 マリエナはコホンと咳払いをすると、姿勢を正した。


 その眼は真っ直ぐレクスだけを見つめている。


「……わたしの、恋人になってくれないかな?」

お読みいただき、ありがとうございます。

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