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晴天のプレリュード〜幼馴染を勇者に奪われたので、追いかけて学園と傭兵ギルドに入ったら何故かハーレムを作ってしまいました〜   作者: 妖刃ー不知火
第四章・淫魔と雨の憂鬱・いざなうもの編

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うけとめたもの

 生徒会室で声が響いたのと同じ頃、王都の外で一頭の魔獣と相対する二人組が武器を構えて立っていた。


 びゅうと吹きつける風が草葉を揺らし、照りつける陽射しで地表が揺らめくような熱気のもと。


 二人組の前に相対する魔獣は、空にいた。


 舞うように二人組の上を飛び、二人組の隙を赤い血で塗り固めたような瞳で見下ろす。


 三角形の頭部は、バスタードソードの切っ先のように攻撃的だ。


 大きさは成人男性3人分程だろうか。


 生え揃った牙は一本一本が研ぎ込んだナイフのように鋭い。


 手はなく、翼膜で出来たプテラノドンのような羽根で器用に飛んでいる。


 脚は筋張った筋肉が張り詰め、その足先には剣もかくやと言わんばかりの爪が生える。


 見た目だけで言えば「小型の竜」と形容出来るだろう。


 ”ぎゃじゃぁぁぁぁぁぁ!”


 魔獣「擬飛竜」は、二人組に向かって急降下。

 その爪を勢いよく振り下ろした。


「甘えっての!」


 黒いボロボロのローブを羽織った人物が、紅い目で擬飛竜を見据える。


 ”キィン”という金属音と共に右手に持った剣が、その爪を阻んだ。


 そのまま左手に構えた魔導拳銃をカチャリと擬飛竜に構え、すぐに引き金を引く。


 ”ドン”という発射音。光弾が直撃した。


 ”ギャウゥッ!?”


 光弾に吹き飛ばされる擬飛竜。


 ”ブゥン”と翼を振るい、体勢を立て直す。


 その頭部は先ほどの銃撃により、少し欠けている。


 擬飛竜ギリリと忌々しげにローブの人物を空から睨みつけた。


 その目の前に、いきなり”ボン”と人影が現れた。


「…注意散漫。…眼がお留守。」


 真っ黒な黒装束を身にまとった人影が手に持つは棒手裏剣。


 投擲。


 棒手裏剣はそのまま擬飛竜の眼に突き刺さり、擬飛竜は”ギャウゥ”と鳴いて悶えた。


 緑の血がぽたりと垂れる。


 黒装束の人影は空中からそのまま落下。


 しかしくるりと宙返りする。

 手をついてマントの人物の隣に着地した。


「…レクス、今。」


「ああ!わかってる!」


 ローブを羽織った人物は左手の魔導拳銃のダイヤルを上に回した。


 すぐさま拳銃を擬飛竜に向け、引き金を引く。


 小さな二十発の光弾が擬飛竜目掛け襲いかかる。


 擬飛竜はすぐさま空中で回転。


 躱した。


 数発は当たるが、大したダメージにはなっていない。


 そのまま擬飛は脚の爪を立て、黒装束の人影を掴みかからんと急降下した。


 だが、黒装束の人物はぴょんと横に跳ねる。


 右手に剣を持ったローブの人物が、剣の切っ先をを腰に下げ、擬飛竜を待ち構えていた。


 ローブの人物はニヤリと口元を上げる。


 張った腕の筋肉が、擬飛竜を待ち構えていた。


 擬飛竜が爪を立てんとした一瞬の刹那。


 蹴爪に真っ向から、白銀の刃が滑り込む。


「せぇい!」


 一閃。


 掛け声と共に、マントの男性が擬飛竜の脚を一太刀の元に斬り裂いた。


 その一閃によって、擬飛竜の脚が両足とも地面に落ちる。


 緑の血が滝のように噴き出した。


 ”ギャウゥ”という苦悶の声と共に、擬飛竜は急上昇に転じる。


 しかし、その身体は重そうに見えた。


 擬飛竜の身体が上手く身体が空に上がらないようだ。


 なぜなら。


 擬飛竜の背中に、黒装束の人影が掴まっていたからに他ならない。


 黒装束の人影は、掴んでいない右手にクナイを構える。


「…終わり。」


 黒装束の人影は、クナイを持った手を擬飛竜の頸に回すと、その刃先を頸に突き立てた。


 クナイの刃先は擬飛竜の鱗を軽々と斬り裂き、咽を貫く。


 そのままクナイを引き、咽を掻っ捌いた。


 一瞬の出来事に、擬飛竜は空中で絶命する。


 力なく堕ちる擬飛竜から手を離し、黒装束も一緒に落ちるかと思われた。


 風が舞い、はためくローブ。


 ローブの人物が黒装束の落下地点まで駆け寄る。

 落ちてきた黒装束を器用に抱き止めた。


「…ありがと、レクス。」


「全く…無茶しすぎだっての、アオイ。」


 黒いローブの人物、レクスは溜め息をつきながら苦笑する。


 しかし、その紅い目は、安堵するように黒装束…アオイを見ていた。


 目元しか出ていないアオイの顔布からは、嬉しそうに下がった目元が見えた。


 するとその傍にコロンと1個、真っ赤な血を固めたような球体がポトリと堕ちる。


 擬飛竜の魔核だ。


 レクスはその魔核を眼にすると、抱えていたアオイを立たせた。


「…むぅ。…もうちょっと抱いててくれても良かった。」


「そんな訳にもいかねぇだろ。」


 アオイの言い分に、レクスは苦笑しながら魔核を拾いに行く。


 アオイはレクスに好意を宣言してから、何処となく積極的にレクスに身体的に接触することが多くなっていたのだ。


 カルティアと共に接触が多くなり、レクスは嬉しいながらも、少し困惑していた。


 好意全開の二人に、レクスはたじろいでいたのだ。


(嬉しいけどよ…俺も男だっての。でも…あいつらと区切りをつけねぇと、カティもアオイも不幸にしちまう。それだけは絶対にいけねぇ。……正気持つかな、俺?)


 幼馴染たちの顔を思いながらも、レクスはコロンと転がっている擬飛竜の魔核を拾う。


 真っ赤な鮮血が収められた球体は、この世ならざる雰囲気を醸し出していた。


 レクスは魔核をローブにしまうと、くるりとアオイに振り向く。

 アオイは顔に巻いた顔布をシュルシュルと解いていた。


「…ふぅ。…あつい。」


 顔布を解くと、薄茶色のさらりとしたローツインの長髪が、ふわっと風に舞う。


 アンバーの瞳はクリクリと丸く、透き通ってレクスを見つめていた。


 暑さからか頬も紅潮し、少々色っぽく汗をかいている。


 稀代の美少女がそこに立っていた。


 そんなアオイに、レクスは少し笑いながら歩み寄る。


「夏の間は顔布外したがいいんじゃねぇのか?」


「…それはできない。…任務中はうちの顔は見せられない。」


 アオイは目を伏せ、首を横に振った。

 しかしレクスに歩み寄ると、クスリと口元を上げる。


「…でもレクスは別。…未来の旦那様。」


「…お、おう。そうかよ。」


 上目遣いでにこにこ微笑むアオイに、レクスは頬を朱に染めた。


 堂々と「旦那様」と言ってくるアオイをレクスは可愛いと思ってしまった。


 気恥かしさからアオイから少し目を逸らす。


 熱い頬を冷ますかのように、風が頬をなでた。


 そんなレクスを、アオイは少し嬉しそうに目を細めた。


「…レクスは分かり易い。…こういう仕草が、効果覿面。…カルティアに聞いた。」


「……誂うなっての。じゃあ、帰るか。魔核も取ったしよ。」


「…うん。…カルティアも待ってる。…早く帰ろ。」


 レクスが踵を返して歩き出すと、アオイも付き従う。


 アオイはうきうきと柔らかな笑みを浮かべ、嬉しそうにレクスの横についた。

お読みいただきありがとうございます。

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