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晴天のプレリュード〜幼馴染を勇者に奪われたので、追いかけて学園と傭兵ギルドに入ったら何故かハーレムを作ってしまいました〜   作者: 妖刃ー不知火
第三章・家族の縁・しのびよるもの編

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知られざる父親

 その光景を、男もコーラルも目を見開いて眺めていた。


 緑の血と共に、アオイは地面にシュタっと着地する。


 その足元には、バラバラになった魔核が無造作に散らばっていた。


 緑の血に塗れる中、アオイはふぅと溜め息をつく。


 そこにレクスが駆け寄った。


 その表情は少し口元を上げて、ニカっと笑っている。


「やったな、アオイ。」


「…うん。」


 レクスからはアオイの目しか見えないが、その表情はどこか嬉しがっているように見えた。

 レクスはふぅと安堵の溜め息をつく。


「…ありがとう。…助かった。」


 アオイから剣を受け取ると、レクスはそのまま背負っている鞘にしまった。


 そうしてレクスはふぅと溜め息をつきながら、怖じ気づいている男の元へ、ゆっくりと向かっていく。


 その表情は、ただただ無表情。


 つかつかと歩いてくるレクスに、男は死神をみたかのように顔を引き攣らせる。


 レクスは倒れ込んでいる男の前に立つと、無言で男を睨みつけた。


「おいあんた…。ガラムタ・アンブラルってのか?」


 地下室に冷ややかな声が響く。


 声にはドスが効き、何時ものレクスでは無いようだった。


 その眼はただただ男を見据えているだけだ。


「ひ…ひぃ…そ、そうだが…。」


 男…ガラムタはレクスに怖じ気づき、声は震えていた。


 醜く出っ張った妊婦のような腹がプルプルと揺れている。


「あんた…シルフィ・ゾージアって奴を知ってるか?」


「し…シルフィ…誰だ…?」


「とぼけんなよ。…あんたが買ったってのは知ってんだ。エルフの女性だ。心当たりあんだろ?」


 レクスは鋭く射抜くような眼で、ガラムタを見据えている。


 アオイやコーラルは、ただそれを目を見開き、見ているしか出来なかった。


 何時ものレクスからは全く想像出来ない程の声色。

 その声にただただ恐怖心が掻き立てられていたのだ。


「え、エルフ?……あああいつか!……知ってる!」


「……何をした?答えろ。」


 レクスはおもむろに魔導拳銃をガラムタの額に突きつける。


 魔導拳銃に慄いたのか、ガラムタはさらに顔から汗を噴き出した。


「あ、あいつは俺が……か、買ったんだ。え、エルフは……珍しいからよ。……反抗的だったから、ど、奴隷の首輪で……隷属……させた。」


「それで?」


「ひ、ひたすら、嬲って……やった。だ、だが、お、俺の子を孕みやがったんだ。だ、だから、捨てた。こ、荒野のど真ん中によ。だから、い、今頃は……腹の子と一緒に、野垂れ死んでると、お、思う……。」


 その言葉に、レクスの形相は鬼のように歪んだ。

 歯を食いしばり、今にもガラムタを殺してしまいそうな雰囲気がじわじわと滲んでいる。。


(……この、野郎……!)


 レクスの拳銃を握る手が、僅かにがくがくと震えている。


 自身の義母を散々な眼にあわせ、なおかつ殺そうとしたことに、レクスは怒りを抑えきれそうになかった。


 そして、レクスにはもう一つの事実に辿り着いていた。


(こいつが……クオンの……父親だってのか!)


 レクスはクオンとの血の繋がりがないことはすでに知っていたし、両親や義母のシルフィからも聞いていた。


 産まれた時期や髪色など、ガラムタが父親なら全て辻褄が合うのだ。


 全てが、ガラムタがクオンの父親だと語っていた。


「おい……もし、そのあんたの子が生きているとしたらどうする?正直に答えろよ?」


「ひ……お、男なら……殺すかな。女なら……お、犯すだろう。え、エルフの子だ。そ、相当の美人だろうからよ。」


「……そうか。じゃあ……もうお前に用はねぇ。」


 レクスはガラムタの額に銃を押し付ける。

 ガラムタは「ひぃっ」と慄いていた。


「…レクス!…駄目!!」


「おいやめろ!レクス!」


「駄目です!」


 三人の声が響く中、レクスは。


 魔導拳銃の引き金を。



 引いた。



 ”ドンドンドン”と三発の銃声が響く。


 レクスは目を伏せ、ふぅと溜め息をついた。


 目の前のガラムタは。


 白目を剥いて泡を吹き、失神していた。

 あまりの恐怖に、黄色い水溜まりまでできている。


 ガラムタのすぐ上に、三発の弾痕があった。

 レクスは目を開くと、拳銃をホルスターにしまう。


「……クオンに感謝するんだな。その三発は、俺と、シルフィ母さんと、クオンの分だ。それだけで許してやるよ。……次はねぇぞ。」


 再びレクスはふぅと溜め息をつくと、回れ右でガラムタに背を向けた。


 レクスを心配してか、アオイが難しい表情でレクスに駆け寄る。


「…殺したの?」


 アオイの言葉にレクスは首を横に振ると、親指で気絶しているガラムタを指した。


 無様な姿で気絶しているだけのガラムタを見たアオイはふぅと安堵の溜め息をつく。


「俺にゃ殺せねぇよ。ああ見えて誰かさんの親だ。それを殺しちまえば、一生後悔すると思ってよ。」


 レクスはばつが悪そうな表情を浮かべ、目を伏せた。

 そんなレクスに、アオイは首を振る。


「…あのときのレクスは普通じゃなかった。…それでいい。」


「そうか。どのみち俺に殺しなんか向いてねぇな。」


 そんなレクスを見て、アオイは目を細くして微笑むように目尻を下げた。


「…ふふふ。…レクスはそれでいい。…誰かさんって誰?」


「さぁな。俺の中にだけしまっとくさ。」


 レクスは少しだけ口元を緩めた。

 それと同時にガダリスとヒメルが駆け寄ってくる。

 どうやら上の階の方はついたようだった。


「レクス!」


「…ごめん、ガダリスさん。勝手なことしちまってよ。」


「確かに勝手かも知んねえな。……でも、殺さなくて良かったぞ。それをやるのは傭兵の最終手段だからな。」


「そーですよ。あんな奴の為にレクスが手を汚す必要はねーです。やるとしても今じゃねーですよ。殺しの初めてなんて、こんなやつで捨てるもんじゃねーです。」


 ガダリスとヒメルは優しく安堵した顔をレクスに向けた。

 レクスはそれを苦笑で返す。

 すると、コーラルが女の子をつれてレクスの元へ駆け寄ってきた。

 女の子はコーラルが着せたのか、ローブを羽織っていた。


「レクス君。心配したよ。まさか殺しの現場を見せられそうになったときはどうしようかと思ったよ。」


「悪かったな、コーラル。…探し人は見つかったか?」


「ああ。ありがとう、レクス君。…まあ、こんな事に参加させられるのは、もうこりごりだけどね。…アオイさんも、ありがとう。」


「…バレてたの?…よくわかった。…すごい」


「あれだけ声を出してたら誰でも分かるよ。」


 アハハとコーラルは苦笑し、レクスもそれにつられて微笑む。アオイも覆面越しに笑っていた。


 側の女の子は助かった事を理解出来ず、おどおどと不安そうに回りを見ている。


 すると、コーラルは女の子に目線を合わせる。


 そして懐からハンカチ取り出すと、少女は眼を見開いた。


「君がこのハンカチの持ち主だね?僕はコーラル。コーラル・ヴェルサーレって言うんだ。…君の名前は?」


「ふぃ…フィリーナ。…アナタ、あの時の?」


「覚えててくれたんだね。僕はあの時、君に助けられたんだ。本当に、ありがとう。お礼を言えて、良かった。」


 コーラルがにっこりと微笑む。

 少女の顔はだんだんと歪み、ポロポロと涙を流し始めた。


 レクスとアオイは互いに顔を見合わせ、ニコリと静かに微笑む。


 誘拐犯から始まった王都の大捕物は、コーラルを巻き込んで、今ようやく終息を迎えた。


 一人の少年の相談が、巡り巡って、一人の少女を救ったのだ。


 ひとまずコーラルは、今夜は安心して眠れそうだ。


お読みいただき、ありがとうございます。

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