再会
ホールを抜けたレクスたちは、地下へと続く階段に向かって走る。
扉を抜けたその先には、ふわふわとした赤い絨毯が敷かれた廊下。
その一番奥には、待ち構えるかのように、扉がどっしりと佇んでいた。
「あの奥で良いのか!?」
「…うん。…あの奥のはず。」
「僕はもう疲れているよ…。」
レクスたちは廊下を一気に走り抜けた。
一番奥の扉にたどりつき、レクスが扉を引く。
しかし扉はびくとも動かない。
その間にも後ろからは洗脳された追手が迫る。
レクスは即座に左手の拳銃をドアに向けて構えた。
躊躇いもなく引き金を引くと、”ドン”という音が響き、光弾がドアの鍵を打ち抜く。
「鍵は壊した!」
アオイはコクっと頷く。
レクスは足でドアを蹴り抜くと、その先には深淵へと繋がっていそうな石の階段が見えた。
明らかに異なる空気が階段から吹き込む中、レクスはアオイとコーラルとともに階段を降りる。
石段の周りは石のレンガで積み上げられたトンネルのような構造だ。
レクスはちらりとコーラルを見やる。
「コーラル、あと少しだ。」
「ふぅ…君たちはなんでそんなに元気なんだ…。」
コーラルはすでに息が上がっている。
後ろから追手が迫ってくるも、追手はアオイが手裏剣を投げて対処していた。
レクスたちは半分落ちるかのような勢いで階段を降りる。
すると、下の方から男の声が僅かながら反響し、くぐもって聞こえていた。
何か諍いをしているようにも聞こえる。
何を言っているのかは聞き取れなかったが、その声を頼りにレクスたちは息を上げて地下室へ駆ける。
そして階段を降りきったその先には、まるで実験施設のような広大な空間が広がっていた。
レクスたちが通っている学園の教室よりも広いその空間の真中。
祭壇のような石壇の上で、二人の男女が組み合っていた。
片方の男性はほぼ全裸で何やら首輪を手に持っている。
奴隷の首輪だ。
もう片方の少女は下着姿で、必死に抗っているように見えた。
「こ、こない……で……。」
「お前は所有物なんだっ!この俺が買ったんだぁ!」
少女が力負けして、男が覆い被さろうとしたその時。
その声を聞いてすぐに飛び出したのは、意外にもコーラルだった。
目を見開いたコーラルは眼の色が変わり、その少女しか見えていないかのようだ。
コーラルは少女の元に飛び込むように駆け寄りつつ、男に向けて短杖を構える。
「その……子を……離せぇぇぇぇ!アクアバレットォ!」
杖の先から水球が勢いよく放たれた。
水球はそのまま飛び抜け、男に直撃する。
「ぶごっ」という声と共に吹き飛ぶ大柄な男。
コーラルは少女の傍で飛んでいった男を睨みつけた。
「だ…だれ…?」
コーラルが少女を横目で見て、コクリと頷く。
その口元は僅かに緩んでいた。
「ようやく…見つけたよ。」
コーラルに続き、ワンテンポ遅れて、レクスとアオイが少女とコーラルの前に立った。
「……やるじゃねぇか、コーラル。」
「…びっくり。」
「……まさか、このためかい?ようやく、見つけたよ。こんな場所での再会とは、思わなかったけれどね。」
レクスがニヤリと口元を上げると、コーラルもニヤリと口元を上げた。
するとコーラルが吹き飛ばした男が立ち上がる。
間違いなく、レクスが昼に見た貴族と同一人物だった。
黒く脂ぎった双眸が、レクスたちを忌々しく見つめる。
「貴様ら!ここが何処だかわかっとるか!」
「うるせぇ!傭兵ギルドだ!大人しくお縄につきやがれ!」
レクスが大声を上げて睨みつける。
すると傭兵ギルドという言葉にあせったのか、男は顔を引き攣らせた。
「よ……傭兵だと!?……ええい、嗅ぎつけおってからに!」
「憲兵隊から検挙の請求が出てんだ!俺からも少々聞きたいことがあんだよ!」
レクスの剣幕に、男はたじろぐ。
男は唇を噛み締めると、その場に立ち上がった。
「こうなったら……死なば諸共だ!貴様らに捕まるくらいなら、ここで死んでやるわ!」
男はそう叫ぶと、壁にあったボタンのようなものを拳で叩きつけた。
すると、奥の牢屋がガチャンと上に上がる。
男はニヤつきながらレクスたちを見て高らかに嗤った。
「冒険者ギルドのAランクすら倒せん魔獣なら、いくら傭兵といえど手が出まい!」
”きぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!”
男の声に呼応するように、それは現れた。
真っ白な体色は雪を連想させる。
中に輝く8つの緑は、間違いなくレクスたちを捉えていた。
身体の中央には、まるで女性の胸像のような突起が聳え立っている。
八本の脚でガサガサと音を立て、レクスたちの前に現れた。
「阿楽袮が貴様らを喰らうわ!一度解き放つと食い倒れるまで止まらんぞぉ!」
阿楽袮…それは巨大な蜘蛛の化物だった。
阿楽袮はカチカチと口元の鋏を鳴らし、レクスたちを威嚇する。
「……コーラル、女の子と下がってろ。」
「うん。……さ、行くよ!」
コーラルは女の子の手を掴み、階段の傍まで駆けていった。
レクスたちの目の前には巨大な蜘蛛の化物。
しかし、レクスとアオイは全く恐れをなしていない。
一瞬、横目で二人の視線が交錯する。
どちらともなく、頷きあった。
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