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晴天のプレリュード〜幼馴染を勇者に奪われたので、追いかけて学園と傭兵ギルドに入ったら何故かハーレムを作ってしまいました〜   作者: 妖刃ー不知火
第三章・家族の縁・しのびよるもの編

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突入

 その日、闇夜に浮かぶ月が、グランドキングダムを満遍なく照らしていた。


 闇の帷は完全に降りきり、そろそろ皆が寝静まったような時間帯。


 王都の中の高級な住宅が立ち並ぶ一角に、レクスたち傭兵の姿が闇の中に浮かぶようにこそこそと集う。


「こーりゃ、お相手さんが何も抵抗しなけりゃ楽なんだけどなぁ。早く終わりゃシャミィの機嫌もいいんだけどよ。俺の筋肉でビビってくれねぇかな?」


 これから大捕物が始まるというのに、全く気にしていない様子のガダリスが呟く。


 その目線の先には、大きな邸宅がどっしりと構えられていた。


 そんな少しヘラヘラとしたガダリスの傍に近寄る小さな影が一つ。


「全く、これだから筋肉バカは困りますね。抵抗してくるに決まってますよ。媛留もお姉様たちに早く会いたいんです。ならさっさと片付けたがいいじゃねーですか。」


 小さな影が月光の元に姿を現す。


 身長はクオンより僅かに高く、橙色の和服は異国の人物と示していた。


 茶色のショートツインテールを少し揺らし、栗色の瞳が月光を反射している。


 小柄ながらもその着物を押し上げる胸は自己主張が激しい。


 クロウの妻の一人、「ヒメル・シラヌイ」がガダリスをジトっとした眼で見据えながら立っていた。


 その背中には二本の小太刀を背負っている。


 和風の美少女を見るや否や、ガダリスは「ハッ」とせせら笑った。


「ああ?クロのとこのチビか。おこちゃまには俺の筋肉の素晴らしさがわからないよなぁ。」


「はぁ!?誰がチビですか筋肉ダルマ。汗くっさい男の筋肉より、お姉様たちの身体の方が良いに決まってますよ。あぁ……ねぇさまぁ……。媛留、頑張ります!筋肉ダルマは黙ってろってんです。」


「クロは良いのかよ。あいつもいい筋肉してんぞ。」


「ク、クロウ兄はいいんですよ!クロウ兄は!クロウ兄は筋肉ダルマの一〇〇〇倍はいい匂いですよ!」


 媛留がガダリスにきつい目で言い返す。

 ガダリスと媛留が口喧嘩をしているのは、傭兵ギルドでは偶に見かける光景だった。


 そんな光景に見慣れていたレクスはふぅと溜め息をつく。


 アオイはじとっとしたような眼で、二人の口喧嘩を眺めていた。


「…この二人、大丈夫なの?」


「実力は確かなんだけどよ…。」


 呆れたようなアオイの声に、レクスはボソリと呟く。

 レクスがアオイの方をちらりとみると、アオイは覆面まで被った黒装束を着ており、その表情はわからない。


 そんなアオイの後ろで、ガタガタと震えている少年がいた。

 少年は黒いローブを羽織り、その紅い瞳を揺らしている。


「…ぼ、僕がこんなところにいて大丈夫なのかい?」


「ああ。コーラルがいねぇと確認出来ねぇことがあるからよ。」


 レクスはにぃと歯を出して微笑む。

 ローブの少年、コーラルは口元を引き攣らせて緊張した様子だった。


「アラン君から聞いてここに来たけど…摘発の手伝いなんて聞いてないよ!?」


「それはすまねぇ。どうしてもコーラルに来てほしい事情があったんだ。」


「ぼ、僕にできることなんて限られてると思うけどな…。後、そこの黒い人はだれだい?」


 コーラルは黒装束のアオイを指差す。

 アオイがシノビであるということを伏せているため、コーラルには正体を知らせていないのだ。


「あー、別の協力者だ。アオさんって言うんだ。」


「よ…よろしくアオさん…?」


「…まがざれだ。」


 アオイが何処から出したのかわからないダミ声で返答する。

 思いもよらない声に、コーラルは少し驚いていた。


 レクスはポケットから魔導時計を取り出し、確認する。

 8時55分。時間まであと少しだ。


 この場にいるのはレクス、アオイ、コーラル、ガダリス、ヒメル。


 この5人が、アンブラル邸に入るメンバーとなっていた。


 レクスは横のアオイをちらりと見やる。


「尾行した少女はここに入っていったか?」


 レクスが囁くと、アオイは静かにコクリと頷いた。

 レクスはふぅと溜め息をつく。


 勘違いであれば、元の木阿弥だ。


「さーて、そろそろ行くかぁ!」


「おまえが仕切ってるんじゃねーです!」


 ガダリスとヒメルの声に、レクスたちも着いて歩き出した。


 花が植えられた邸宅の庭園は、夜になると少し不気味さを纏っている。


 ときおりガサっと音がして、何が出てきても不思議ではないような雰囲気があった。


 しばらく進むと、月光の元に、静かに佇む屋敷がレクスたちの前に現れた。

 屋敷の入り口は頑丈そうな大きい扉で守られている。


 ガダリスは屋敷の入り口に立つと、すうと深呼吸をする。


 周囲を確認し、全員が揃っているのを確認した。


「じゃ、そろったな。面倒なことにならなきゃ良いけれどな。」


「ぜってーなんかあるですよ。」


 ジトっとした目のヒメルをよそに、ガダリスは屋敷の黒いドアノッカーをコンコンと叩く。


 しばらく待つと、白髪のタキシードを着た男性が、扉をガチャリと開けて、顔を覗かせた。


 白い髭を生やし、割と年齢のいった男性だ。


「何用ですかな…?ガラムタ様はもうご就寝なさっておいでです。緊急なこと以外であれば、また明日に…」


「傭兵だ。憲兵隊からおまえらのとこに摘発の命令が下ってる。大人しく引き渡してくれんかね?」


 ガダリスが傭兵ライセンスをちらつかせる。

 するとタキシードの男性はすぐに目を見開くが、コクリと頷いた。


「かしこまりました。それではホールでお待ち下さいませ。」


 タキシードの男がドアを開け放つ。


 ドアの先には吹き抜けのホールが広がっていた。


 一行はそのままホールへとゆっくり進む。


「…レクス。」


「…ああ。ガダリスさんもわかってんだろ。」


 アオイの囁きをレクスは小声で返す。


 あまりにもあっさりと、ことが行き過ぎているのだ。


 ホールの中心まで来ると、突然”バタン”という音と共に、扉が閉まった。


「思った通りじゃねーですか。筋肉ダルマ。」


「ま、じゃねぇと奴隷なんて買わんわな。全く。」


 音と同時にガダリスが背中のハルバードを抜いて構える。


 ヒメルも背中に背負った二本の小刀を引き抜いた。


 レクスとアオイはコーラルを守るように集まる。

 すると先程のタキシードを着た男が一行の前に再び恭しく現れた。


「傭兵の皆さん、ようこそ。アンブラル邸へ。私は執事長のファナスと申します。お見知りおきを…そして」


 ファナスは一行に手のひらを向けた。

 中指にはまった指輪が輝き出す。


「さようなら…フレイムバースト。」


 ファナスの手のひらに炎の球体が生成され、一行に放たれる。

 炎の球体は着弾し炸裂する…筈だった。


「…バカな!?」


 ファナスの驚いた声が響く。


 二本の閃光が舞った。


 炎の球体が十文字に斬り裂かれ、小規模の爆発を起こすのみにとどまったのだ。


「媛留たちに手ぇ出しましたね。やってやろーじゃねーですか。」


 ヒメルの声がホールに響く。


 ガダリスの前にすたっと着地すると、口元をニヤリとつり上げた。

 一方のファナスは眉を寄せ、唇を噛み締めていた。


「今ここの傭兵どもを倒してしまえば、少しだけ時間が出来ます!その間に旦那様を逃がすのです!」


 ファナスが叫ぶと、中指の指輪が光る。


 すると屋敷の使用人やメイドがぞろぞろと扉から出てきていた。


 使用人とメイドの全員がキラリと輝く首輪をつけ、目が虚ろだ。


 ガダリスはその首輪を見て、僅かに嫌そうな顔を浮かべる。


「おーおー。全員奴隷の首輪付けてやがらぁ!禁止だぞそれ!」


「殺る気満々じゃねーですか。まあ、媛留たちならよゆーですけれどね。レクスは先に行っててもらうがいーです。」


「ああ、わかった。とりあえず何処に当主の野郎が居るんだ?」


 レクスは背中から剣を抜き、左腰のホルスターから銃を取り出す。


 周囲の使用人やメイドたちを睨みつけるや否やアオイから返答が小声で帰ってくる。


「…おそらく地下。…尾行した時に連れてった。」


「入り口は?」


「…ここからまっすぐ行った扉の先に階段がある。…そこ。」


 アオイも指をさしながら、袖の下からクナイを取り出す。


「あ、…あの、僕はどうすれば…?」


「俺とアオが道を開く。コーラルは俺のあとから突っ走れ。」


「…ゔぢもでづだう。…ザボードばやるよ。…いぢおう、魔術もづがえる」


 不安気にしているコーラルをよそに、レクスとアオイは機を伺っていた。


「ガダリスさん、合図を頼む。」


「おーらい。任せときなって。一、二の…」


 レクスとアオイは腰を落とした。


 使用人たちはぞろぞろと一行に向かってくる。


「三!」


 ガダリスが叫んだ瞬間。


 レクスとアオイは飛び出した。


「ひ、ひええ!?」


 遅れてコーラルも続く。


「させませんよ!ここで傭兵共を食い止めるのです!」


 ファナスが叫び、使用人たちが一斉に群がり始めた。


 レクスとアオイ、コーラルは一気に真正面の扉に向かう。


「せぇいっ!」


 レクスは自身の正面に出てきた使用人の男の顔面を勢いよく蹴飛ばす。


 そのまま宙返りしつつ反転。


 横にいたもう一人も蹴飛ばした。


 アオイも傍にいたメイドの首を絞めて落とす。

 そのまま背後にいた使用人に向かって、メイドを投げ飛ばした。


「コーラル!こっちだ!」


「ひ…ひぃぃ!」


 コーラルはレクスとアオイに向かって駆け出す。


 その合間にも洗脳された使用人たちがわらわらと群がってきていた。


「せぇいっ!」


 レクスがコーラルに飛びかかろうとした使用人の腹部を蹴り上げる。

 使用人は他の使用人とともにドミノ倒しの様に続々と倒れ込んだ。


「…コーラル!…早く!」


 アオイはコーラルに群がる使用人の頸に手痛い手刀を放つ。


 使用人はバタリと倒れ、失神していた。


「う…うん!わかった!」


 コーラルは走り出し、レクスの後ろについた。


 纏わりつく有象無象はアオイが跳ね飛ばす。


 レクスが起き上がりそうな使用人を蹴り飛ばし、三人はドアの前に着いた。


「やらせませぬよ!旦那様のために!アンブラル家存続のために!」


 ファナスの声と共に、使用人がレクスたちの周りを囲もうとさらに集まる。


 そのふらふらとした様子は、さながらゾンビの行進のようだった。


 しかし、その群衆は一気に薙ぎ払われる。


 ガダリスはハルバードをぶん回す。

 

 その大振りから逃げ出すものを斬りつけているのが小柄なヒメル。


 血飛沫などは飛んでいない。


 全てが峰打ちだった。


 明らかに先ほどまで口喧嘩していたとは思えない連携が、そこにはあった。


「おーっと!行かせねぇよ!?後輩の晴れ舞台だぜ?」


「おめーらの相手は媛留たちです。さっさと往生しろってんです。」


 ガダリスと媛留が群衆の行進を食い止めていた。


 その間にレクスは足を振り上げ扉を蹴破る。


 バキっと音がして閂が開く。


 扉の先には、赤い絨毯が敷かれた一本の廊下が続いていた。


「すまねぇ!ガダリスさん!ヒメルさん!」


 レクスとアオイ、コーラルはそのままホールから地下室の階段へ向かい、奥へと突っ込んだ。


 ファナスは顔を顰め、ガダリスとヒメルを見やる。


「おのれ…傭兵の分際で!」


 眼は血走り、鼻息も荒く吐き出す。


 怒り心頭のファナスをガダリスとヒメルはせせら笑う。


「おいおい、その台詞は三下の台詞だぜ。おっさん。俺らもさっさと帰りたいんでな!」


「バカみてーなこと考えてるのがいけねーです。とっととお縄につけばいーです。……今日はヒメルの番なんですよ。こんなことやってらんねーってんです。」


 二人の言葉に、ファナスは顔を真っ赤にし、目元を吊り上げた。


 そんな中でも、ヒメルとガダリスは己の得物を存分に振り回している。


 一階ホールの激闘は、始まったばかりだ。

お読みいただき、ありがとうございます

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