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晴天のプレリュード〜幼馴染を勇者に奪われたので、追いかけて学園と傭兵ギルドに入ったら何故かハーレムを作ってしまいました〜   作者: 妖刃ー不知火
第三章・家族の縁・しのびよるもの編

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強行突破

 孤児院に近づき、レクスが簡易な門に手をかける。


 門は鍵もかかっておらず、いとも簡単にスッと開いた。


(えらい不用心じゃねぇか…?鍵も掛けねぇのかよ。)


 不審がるレクスが門を開けた先には、草ばかりの庭が広がっている。


 手入れがおざなりなのか。または手入れを一切していないのか。


 乱雑な緑に覆われた庭が孤児院を囲んでいた。


 レクスたちは周囲をちらちらと見渡しながら、孤児院の扉へと向かっていく。


 孤児院自体もかなり年季が入り、白かったであろう外壁は黒黒と汚れていた。


 苔の化粧までした孤児院は住居としては論外とも言えるだろう。


 扉へ向かって歩を進めるレクスたちだが、やはり子供の声すら耳に届かない。

 既に孤児院ではないと、三人は結論づけていた。


 孤児院の扉は木製の開きドアだ。ドア自体も年季が入り、ところ何処に傷や剥げがある。


 金属のドアノッカーも苔が蒸したように、緑青で青く染まりきっていた。


 レクスはドアノッカーを持つと、コンコンとドアをノックする。


 暫く待っていると、ギィという音とともにドアが開いた。


 中から顔を覗かせたのは、先程までの貴族に対応していたあの男性だ。


「どちら様ですか…?」


 その男性は痩せているが、クリーム色の髪は艶々としており、牧師風の服も汚れきった様子はなかった。


 男性はレクスたちを見て、怪訝な顔を浮かべる。


 男性二人に女性が一人、うち一人は燕尾服となれば首を傾げるのも当然と言えた。


 レクスはにっこりと歯を出して笑いながら、男性と目線を合わせる。


「あー…通りすがりの傭兵だけどよ。…中、検めさせてもらえねぇか?」


 レクスは傭兵ライセンスを手に持ち提示するように顔の横に構えた。


 疑うような男性だが、傭兵ライセンスを見るとみるみるうちに顔が青ざめる。


「…ひ…ヒィッ!!」


 男性は青ざめた顔でいきなり扉をピシャリと閉じた。


 そして扉からドタドタと遠ざかる足音が聞こえる。


 レクスはカルティアをちらりと見ると、カルティアは無言でコクリと頷く。


「…退いてろ。」


 レクスが呟く。


 カルティアは涼しげな顔をして、アランは首を傾げながらスッと二人とも身を後ろに退いた。


 そしてレクスも一歩下がるとその場でぴょんと跳ぶ。


 そのまま自身の下半身を回転させ、足を振り上げる。


 ”バキィッ”


 レクスは思い切り、ドアに回し蹴りをしてドアを蹴破った。


 古びたドアは至極簡単に、ベニヤ板を突き破ったように割れ砕け、鍵も同時に吹き飛ぶ。


 その光景を見ていたアランは顔が青ざめていた。


 扉が壊れ、少しだけ見えた孤児院の内側はボロボロに風化しており、子供どころか大人すらも姿が見えない。


 奥の方から「ヒィッ」と男性が叫ぶ声が聞こえた。

 するとドタドタと音がして、奥の方から男性が二人、現れる。


 青髪の男と濃いめの茶髪の男。


 その二人は昨日、レクスがアオイと共に追っていた二人組だ。


 レクスは見間違えようもなかった。


「あぁ!?なんだオメェら!?」


「ここが何処だかわかってんのかてめぇら!?」


 男たちは怒りの形相でレクスたちに詰め寄る。


 レクスの後ろでアランから「ヒィッ!?」という声が聞こえたが、レクスとカルティアは表情を一つも変えていなかった。


「傭兵ギルドのもんだ。中を検めさせて貰うぞ?」


「グランドキングダム第三王女が許可いたしますわ。…行きなさい。」


 レクスがニヤリとしながら傭兵ライセンスを掲げると、すぐさまカルティアが追認する。


 冒険者風の男たちは目を見開き驚いたが、すぐさま目を吊り上げてレクスたちを睨みつけた。


 すぐさま男たちは腰から剣を抜くと中段に構える。


 レクスは剣を見るとすぐにカルティアの前に立った。


「傭兵がイキってんじゃねぇぞ!ガキごときでよ!」


「後ろの女は美人だな!ソイツも商品になんだろ!」


 レクスはその言葉に目尻をピクリと動かし、前にいる青髪の男を見据えた。


 青髪の男は”ブン”と剣を縦一文字に振り下ろす。


 レクスはその攻撃を身体を僅かに逸らして避けると、”ドン”という音とともに地面が穿たれた。


 明らかに人の力ではない。スキルの力だ。


 その力で跳ねた土がレクスを掠める。


 しかしレクスは全く気に留めてもいないように目を細くして男を見る。


 レクスはすかさず、剣を振り下ろした男の腹に思い切り回し蹴りを蹴り込んだ。


「がぁっ…!?」


「遅ぇよ。スキルの無駄遣いだろうが。」


 男はゲホゲホとえずきながら後ろに退がる。

 その脇から茶髪の男が入れ替わるようにレクスの前へと飛び出てきた。


「ガキがよぉ!くたばれぇ!」


 男の動きは速い。こちらも明らかにスキルを使っているのは明確だ。

 男の剣をレクスが躱そうとした瞬間、剣が一気に加速した。


「シャインシールド!」


 カルティアの声と共に光の盾が剣を受け止める。


 剣が受け止められたことに、男の眼は見開かれた。


 光の盾が”カン”と剣を弾き返すとレクスはすぐさま茶髪の男の腹部を、思い切り蹴り抜いた。


 男は「うぅっ!」とうめき声を上げて退がる。

 レクスはちらりとカルティアに目配せをした。


「カティ!助かった!」


「守られているままではありませんのよ?」


 カルティアはふふと微笑み、指輪を光らせた。


 すると控えていた青髪の男が忌々しげにレクスを見据え、剣を構えて突っ込む。


 そのまま剣を振りかぶり、レクスに全力で剣を叩きこもうと”ブン”と振り下ろした。


 しかし、その剣はレクスにとってはあまりにも拙く、遅い。


 レクスは姿勢を低くすると、跳躍して男の懐に潜り込んだ。


 そのまま渾身の膝蹴りが男の溝尾を襲う。


「おごっ!?」


 男がうめき声を上げると同時に、レクスはさらに反対の足で男を蹴って身体をくるりと回転させた。


 宙返りの要領でカルティアの傍に着地すると同時に、青髪の男はバタリと仰向けに倒れる。


 男は白目を剥いて泡を吹いていた。


 レクスは目を吊り上げ、もう一方の茶髪の男を睨みつける。


「てめぇ!よくもバリィを!サンダードレープ!」


 茶髪の男はレクスに弧を描くように向かう。


 その剣にはバチバチと雷が迸っていた。


 男はスキルも使い、人間離れした速度でレクスに肉迫する。


 風を切り、”ゴウ”と加速する。


 獲った。男はそう思っていた。

 しかし男の一閃を、既にレクスはその紅い眼で捉えている。


「おげぇっ!?」


 男が剣を振ろうとした瞬間、レクスの右拳が男の顔面を打ち抜いていた。


 速度が乗っていた分、強い衝撃が男に走り、そのまま後ろにひっくり返る。


 冒険者風の男は、今までの戦闘経験も虚しく、その身体を雑草に抱きとめられた。


「あぁ…あ…。」


 茶髪の男は鼻血を出しながら、ピクピクと痙攣し、目を回していた。


 その手からポロリと剣がこぼれ落ちる。


 レクスは目を伏せ、ふぅと溜め息をついた。


「スキルと魔法に頼りすぎだっての。……こんなんでよくアオイから逃げられたもんだ。」


 ジトっとした目を男に向け、レクスはボソリと呟いた。


 後ろに控えていたアランがレクスに駆け寄る。


「レクス君!大丈夫……そうだね。」


 男二人の惨状を目にしたアランは口元をピクピクと引き攣らせ、どん引いていた。


 剣を持った冒険者たち二人に無手で、手際よく勝ちうるレクスの傭兵としての腕は、アランの想像の斜め上をいっていた。

 ふぅと溜め息混じりに、アランはレクスに声をかける。


「剣も抜かずに良くやるよ。君は。」


「剣なんてこの程度の相手に使えるかっての。よっぽどじゃねぇと使わねぇよ。最悪殺しちまうだろ。魔導拳銃なんてもってのほかだ。」


 ふぅと溜め息をついて鞄からロープを取り出すレクスに、アランは目を丸くしていた。


 剣を持った冒険者を「この程度」と言ってしまえるのはレクスが傭兵としての修練を続けた結果だ。


 それほどに、クロウやクロウの妻たち、ガダリスなどの他の傭兵が化け物じみている証明でもある。


 そんなレクスを見て、カルティアはクスクスと満足げに微笑んでいた。


「レクスさんらしいですわね。確かにヴィオナ様の言う通りですわ。」


「剣を抜かずにやれる方が凄いと思うけどね僕は…。」


 やれやれとした顔のアランを他所に、レクスはロープを取り出すと、アランにポンと投げ渡す。

 アランはそれを受け取ると、コクリと頷いた。


「すまねぇアラン。縛り上げといてくれるか?」


「任せ給えよ。僕はこのくらいはやるさ。…さっきは何も出来なかったからね。」


 アランは苦笑すると、男たちを縛り上げ始めた。

 同時にレクスは孤児院の建屋に向けて歩き出す。


 レクスの後ろにはカルティアが付き従い、レクスはそのまま孤児院に足を踏み入れた。


お読みいただき、ありがとうございます。

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