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晴天のプレリュード〜幼馴染を勇者に奪われたので、追いかけて学園と傭兵ギルドに入ったら何故かハーレムを作ってしまいました〜   作者: 妖刃ー不知火
第三章・家族の縁・しのびよるもの編

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見張り番


 乙女の盟約が交わされた翌日。

 学園は休講日だった。


 僅かに曇りがかった空の下、その日も不気味に佇む孤児院の傍に、四人の影。

 四人は近場の建物の陰からじぃっと孤児院の敷地内を伺う。


 休日だというのに人通りも少なく、四人を不審に思う通行人もいなかった。


「今のところ、不審な方は居ませんわね。」


「…誘拐犯も居ない。…とても静か。」


「……だな。というか本当に孤児院なのかここは?人っ子一人たりとも見えねぇけどよ。」


「ううん、僕も不思議に思ってしまうね!孤児院と言えばもっと子供たちの姿があっても良さそうだけどね!それに手入れする子も居ないのはおかしいねぇ!」


 孤児院を見張る4人はレクスとカルティア、アオイ、そして何故か、レクスに着いてきたアランだ。


 レクスは何時も通りの服装だ。フードつきのボロボロなローブに制服を着用している。


 カルティアは何時もの外行きの服装だったが、他の二人は少しおかしな服装だった。


 アオイは浴衣という大和の服装だった。茶色い布地に白い花文様があしらわれた一枚布を羽織って、橙色の帯を巻き付けている。


ここは大和ではないので、美少女なことも相まり、人目を惹いていた。


 アランに至っては何処の劇場や貴族に会いに行くんだと言わんばかりの燕尾服だ。明らかに調査をするための服装ではない。


 四人は固まって、朝から孤児院の様子を伺っていたのだ。


「孤児院の経営をされているのは、確認が取れていますわ。それにしても…なぜアランさんが居ますの?」


「…うちも思った。なんで?」


「酷くないかい!?僕は傭兵の仕事が気になっただけさ!レクス君が声をかけてくれたからねぇ!」


「…人手は多い方が良いかと思ってよ。まあ、カリーナとエミリーの二人で出掛けたから暇そうだったってのはあるけどな。」


 レクスは同室のアランが暇そうにしていたところに声をかけたところ、目を輝かせて着いてきたのだった。

 その際、「貴族として当然のことをするまでさ」と意気込んで居たのだ。


「…そう。…かわいそう。」


「酷くないかい!?」


「燕尾服もどうかと思うけどよ…?」


「これは僕の正装さ!勝負服と言っても過言ではないよね!」


「アランさんは一体何と勝負されますの…?」


 他の意見をアランは気にしないとばかりにそのままじぃっと孤児院を見ていた。


 レクスがアオイをちらりと見やると、アオイはコテンと可愛らしく首を傾げている。


 「アオイのそれは……何だ?よくルナさんが着てるけどよ、そんな服。」


 「…浴衣。…大和だと普通。…本当は下は付けないけど、今日は恥ずかしいから着けてる。」


「お、おう。……そうしてくれ。」


 恥ずかしそうに顔を赤らめるアオイから、レクスはばつが悪そうに顔をそらした。


 その頬は少し紅い。


 一瞬つけていないことを想像しそうになり、ブンブンと首を振って邪念を払う。


 その様子を見ていたカルティアは、「わたくしも着てみるのがいいかもしれませんわね?」と呟いていた。


 こちら側が不審者だと勘違いされそうな四人ではあるが、幸いにも通行人は居ない。


 するとアランはレクスをジトっとした目で訝しむように見やる。


 レクスも気付いて、訝しむようにアランを見返した。


「何だよアラン?」


「君たち…近くないかい?」


 アランの眼の前にはレクスたちがいるのだが、その距離が問題だった。


 カルティアはレクスの右側にピタッと身体を寄せて孤児院の観察をしている。


 アオイは左側にピタッと身体を寄せ、くっついて観察している。


 三人共に互いの息を感じ取れそうなほどに近かった。


 怪訝な目をしているアランをちらりとアオイは見る。


「…そんなことはない。…場所を取らないから効率的。」


「そうですわよ?広がっていると目立ってしまいますもの。」


「そうかなぁ?……僕がおかしいのかなぁ?」


 アランは首を傾げつつ、孤児院の観察に戻る。


 一方、レクスは2人の美少女に挟まれ、心臓が早鐘を打っていた。


 二人の大きな胸を、むにゅりと身体や腕に柔らかく押し付けられる感触は、レクスの拍動を加速させる。


 心なしか頬も赤く、少し落ち着かないように心がそわそわとしていた。


(確かにアオイもカティも近い……。なんで近いんだよ二人共……?柔らけぇし、いい匂いもするし……。)


 二人の盟約によって身体を押し付けられていることをレクスは知る由もない。


 しかし二人の柔らかい身体はレクスをたじたじにさせていたことは間違いがなかった。


 少し紅い顔で孤児院の観察を続けるレクスだが、ふと違和感に気がつく。


(あぁ…?なんだあれ?)


 孤児院の扉が僅かに開きかけていた。

 どうやら誰かが出てくるようだ。


「……誰か出てくる。見つからないように気をつけろよ。」


 レクスの言葉に、全員がコクリと頷いた。


 四人全員が息を潜め、出てくる人物を待つ。


 静寂な空間が、レクスたちを支配するかのごとく、全員が黙って入り口を見つめていた。


 すると孤児院の両開きの扉がガチャリと開け放たれる。

 出てきたのはかなり太り、短い黒髪の貴族風な男だ。


 上質そうなスーツを羽織り、ズボンに腹がどっしりと乗っかっている。


 傍らには少女が連れられていた。


 その少女の容姿に何処かレクスはひっかかりを覚える。


(ワインレッドのセミロングに、ワインレッドの瞳…コーラルが言ってた子ってアイツか…?)


 貴族風の男が連れている女の子の容姿が、コーラルを助けたという女の子の容姿の情報に合致していたのだ。


 葡萄酒に浸したかのようなワインレッドのセミロングヘアに同色の瞳。


 背丈はレクスには少し分かりづらいものの、カルティアくらいはありそうだった。


 服は灰色のワンピースを着ており、カルティアやアオイには劣るものの、出るところはしっかり出ているモデル体型だ。


 十分に美少女と言えるだろう。


 そんな少女は暗く俯いた様子で、男と並んで歩いていた。


(…孤児院だったら、確かに誰もわからねぇ訳だ。学園に行ってる訳もねぇしな。)


 貴族風の男は開け放たれた出入り口に振り向いて、ペコペコとお辞儀を繰り返している。


 その入り口には、牧師のような格好をした、クリーム色の髪を短髪にしている男が立っていた。


 レクスは眉を寄せながら、その男を注視する。


「アンブラル卿ですわね。何故あのようなところにいるのでしょう…?」


 カルティアの呟いた声がレクスに届く。

 あの男は間違いなく貴族の一員であるらしい。


 貴族の男はそのまま女の子の手を強引に掴むと、門に向けて歩き出す。


 女の子と歩幅を合わせることもなくずんずんと進み、門から外に出た。


 貴族の男の表情は何処か満足そうに歯を出してニヤニヤと傍の女の子を眺めていた。

 その瞬間に、レクスはアオイにちらりと目配せをする。


「アオイ、あの女の子と貴族を尾けられるか?」


「…わかった。…行ったあとは傭兵ギルドに戻る?」


「頼む。アオイしか出来ねぇ。」


「…わかった。…行ってくる。」


 アオイはそのままぴょんぴょんと壁を蹴ってよじ登り、建物の屋根から少女の追跡を開始する。


 まるで猿のようなアオイの動きを、アランとカルティアは目を丸くして見ていた。


「あの服装でよく登れますわね…。」


「いやいやおかしいだろう!なんだいさっきのアオイ君は!?どう見ても普通の人ではないよね!?」


 ひどく驚愕しているアランをよそに、レクスは孤児院を再び注視する。


 すると牧師のような男が孤児院の扉を引いて、ピシャリと閉めた。


 後には先程までと同じように静寂が訪れる。


 レクスはふぅと溜め息をつくと、カルティアとアランへ向き直った。


「カティ、アラン。さっきの男は誰だ?貴族っぽかったけどよ。」


「ガラムタ・アンブラル卿ですわね。グランドキングダムの市井で、金融を預かっている貴族の一員ですわ。」


「僕も知ってるけど、あまり良い噂は聞かないね。民衆からの人気もそんなにないよ。でも、養子を取っているなんて初めて聞いたけどね。」


「そうか。…でも養子縁組ってそんな簡単にできるもんなのか?」


「身請け自体は孤児と里親の合意さえあれば問題ありませんわ。…でも、あの様子だと合意したかも怪しいですわね。」


 カルティアが眉を顰めて孤児院を訝しむ。

 アランも合点がいっていないような視線を孤児院に向けていた。


 孤児院といえ荒れ放題の土地や建物、子供がほとんど見えてこない環境、誘拐犯という冒険者風な男たちの侵入。


 これらがレクスたちの疑念を深くしていた。

 レクスはふぅと溜め息をついて立ち上がる。


「どうなされましたの?」


「行って聞くしかねぇだろ。どのみち話は聞かねぇとな。ずっと見てたってしょうがねぇよ。」


「僕も同意だね!健全な経営であれば訪問しても勘違いでしたで済むだけだしね!」


 アランも立ち上がりレクスを見て頷いた。

 カルティアも合わせて立ち上がる。


「レクスさん。わたくしも着いて行きますわ。」


「いや、もしものことがあったらいけねぇしよ…」


「わたくしの顔があれば何かしらの動きは見せるはずですわ。それに、もしものことはレクスさんが守ってくれるはずですもの。お願いしますわね?」


「ふぅ…やんちゃなお姫様じゃねぇか。全く。」


 悪戯っぽく微笑むカルティアに、レクスは溜め息をつきつつ、カルティアに少し困ったような顔をする。

 こうなったカルティアは聞かないとレクスは知っているからだ。

 アランは目を丸くして二人を見る。


「カルティア様を連れて行くとか正気かい!?もしも何かあったらどうするんだい!?」


「それが起こらないために俺がいるんだろうが。あと、ここにカティだけ置いておくのも危険だと思うぞ。」


「…わかったよ。レクス君もカルティア様も強情だね。なら、僕も微力ながら力を貸すとしよう。」


 ふぅと溜め息をつき、アランはレクスにコクリと頷いた。


 三人は不気味な孤児院を見つめつつ、孤児院の内部に入ることを決めた。

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