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晴天のプレリュード〜幼馴染を勇者に奪われたので、追いかけて学園と傭兵ギルドに入ったら何故かハーレムを作ってしまいました〜   作者: 妖刃ー不知火
第三章・家族の縁・しのびよるもの編

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傭兵の責務

27

 レクスはヴィオナの待つ、ギルドマスターの部屋の前に立っていた。


 レクスの傍にはアオイと、当然のようにカルティアが立っている。


 レクスは無骨な木製のドアをコンコンとノックした。


「婆さん、レクスだ。」


「レクスかい。……入んな。」


 ヴィオナの声にレクスがドアを開くと、アンティーク調な机の上で、報告書らしきものを読んでいるヴィオナの姿があった。


 煙管も吸っていたのか、手には煙管を持ち、部屋の中には僅かに煙の匂いが立ち込めている。


 レクスたちが机に向かうと、煙の匂いがぐっと強くなった。

 カルティアはその臭いに僅かに顔を顰める。


 ヴィオナはレクスの姿を見ると、顔を上げ、机の上で手を組んだ。

 その顔は真剣で、貫くような視線はレクスたち全員を見抜いているかのようだ。


 アオイはヴィオナを見た瞬間、全身にぞわりと鳥肌を立たせる。

 目の前にいる老婆の殺気に、アオイは僅かに気圧されてしまっていた。


「レクスとカルティア王女かい。ん…?ほぅ。面白いお客さんがいるさね。」


 ヴィオナはアオイを見ると、ニヤリと口角を上げた。


 ヴィオナの表情に、アオイはブルリと震える。

 するとレクスが一歩前に出て、ヴィオナを見据えた。


「……婆さん。少し相談がある。」


「カルティア王女との結婚かい?大丈夫だよ。傭兵は王女とも結婚が出来るさね。安心しな。」


「ばっ……違ぇよ!」


 その言葉にレクスの頬に朱が差し、慌ててレクスは否定する。


 カルティアは「否定されなくても宜しいですのに……」と少し残念そうに呟いていた。

 アオイはヴィオナの言葉を聞いて、「…むぅ。」と不満そうに口元を下げる。


 そんな三人を見て、ヴィオナは口角を上げ、しししと笑っていた。


「わかってるさね。……何か、変な情報でも掴んだのかい?」


 ヴィオナはレクスの目をじぃっと見つめた。

 その視線は先程のような鋭いものに戻っている。

 レクスはコホンと咳払いをすると、ヴィオナをもう一度見据えた。


「ああ。聞いてくれ。俺は……。」


 レクスは一昨日のアオイの一件と、先程までレクスが見たことをヴィオナに話す。


 アオイが見た男たちのこと。


 レクスとアオイが追いかけた男たちのこと。


 その男たちが孤児院に入って行ったこと。


 そのすべてをヴィオナは無言で、しかしレクスたちから視線を外す事なく聞いていた。


 アオイが「シノビ」ということは流石にレクスは伏せたが。


「……ということなんだ。婆さん、なんとかならねぇか?」


「なるほどねぇ。レクスも傭兵らしくなってきたもんさね。」


 ヴィオナは目を瞑り、うんうんと頷く。

「傭兵らしく」という言葉に、レクスは首を傾げた。


「傭兵ってのは、依頼と己だけで動くもんさね。レクスもわかってるだろう?」


「……?あ、ああ。この前も言われたしよ。」


「犯人の捕縛は憲兵の仕事さね。だけど、憲兵は事件の調査が出来ない。どうすると思う?」


「…だれかに頼むの?」


 アオイの発言に、満足そうにヴィオナは頷いた。


「アオイとか言ったね。正解さね。”依頼”っていう形を取るのさ。」


 その言葉に、レクスとカルティアはハッとしたように目を見開いた。


「憲兵隊は調査をうちに”依頼”するのさ。するとうちの傭兵が調べ上げて、情報を憲兵に渡すさね。もちろんうちで縛り上げて取っ捕まえる事も出来る。…手柄は無いけどね。」


「すると婆さん、傭兵ギルドと憲兵隊って……。」


「ああ。深くに繋がっているさね。憲兵の仕事をうちで長く取り持った歴史もある。冒険者ギルドで取り持った事もあるけど、長くは持たなかったさね。冒険者ギルドに依頼すると、不正の温床だったらしいからねぇ。」


 ヴィオナの言葉に、レクスは開いた口が塞がらなかった。

 するとカルティアがヴィオナを見つめる。


「……初めて知りましたわ。王家には周知されていませんの?」


「いいや、国王も知ってるはずさね。公然の秘密ってやつかねぇ。まぁ、知ってても何をしてるかまでは知らないはずさね。」


「……そうなのですね。わたくしもまだまだ知らないことが多いですわね。」


 カルティアが目を伏せ、ふぅと溜め息をつく。


「…依頼があればってことは……暗殺とかするの?…ここ。」


「ハハッ。流石に暗殺は請け負って無いさね。」


 ヴィオナは口を大きく開けて笑い飛ばすが、次の瞬間にはニヤリと口角を上げて、真剣な眼差しでレクスを見据えた。


「だが、傭兵はそれが出来ることを覚えときな。このギルドは唯一、殺人行為が王家から許可されたギルドさね。」


「なっ……!?」


 その瞬間、雷に撃たれたかのように、三人は目を大きく見開いて絶句した。


 そんな三人に構わず、ヴィオナは続ける。


「何代も前からずっと続いている事さね。元は「傭兵」だから当たり前だがね。だからこそ、うちのギルドは人を選ぶのさ。アタシ直々にねぇ。」


「なるほど。だから「ライセンス」ですのね…。」


 神妙な顔をしたカルティアの言葉に、ヴィオナはゆっくりと頷いた。


「そうさ。うちのギルドはその意味を知っている者だけが入れるさね。人を処する意味と人を処す覚悟、そして命の重みを知っている者。だからこそ、憲兵の仕事も依頼されるのさ。それがうちのライセンスの重みさね。」


「命を背負うってことかよ……。」


「そうさね。おっと、話が逸れたね。…実は憲兵隊から依頼が届いているのさ。丁度いいさね、レクス。」


 ヴィオナがレクスを見据える。

 口角は上がっているがその眼には迫力があった。


「この依頼、お前さんがやりな。」


 ヴィオナは紙を取り出すと、机の上を滑らせ、レクスの方に投げた。


 レクスはヴィオナから渡された紙を受け取ると、内容に目を通す。


「王都の中で誘拐?10件もあるじゃねぇか!?」


 レクスは目を見開き、声を上げた。

 その言葉にカルティアもアオイもレクスに寄る。

 二人とも依頼書を読んでいくと、みるみる顔が険しくなっていった。


「……許されることではありませんわね。平民の誘拐など、最低の行いですわ。」


「…こんなにあった。…ひどい。」


 カルティアもアオイも依頼に目を通した瞬間に鋭く依頼書を睨みつけた。

 するとヴィオナがふぅと溜め息をついてカルティアとアオイを順番に見る。


「良けりゃあんたたちもレクスを助けてやんな。レクス一人じゃ、多分手に負えないからねぇ。」


 ヴィオナの言葉に、カルティアとアオイがコクリと頷いた。

 するとレクスがヴィオナを怪訝な顔で見つめる。


「カティとアオイを協力させて良いのか婆さん?」


「大丈夫さね。もし他にも協力者がいるのなら、ソイツに頼んでもいいさね。あくまでレクスの協力者という立ち位置だから依頼料は出ないけどね。……お前さんが見極めた人物ならね。」


 ヴィオナは顎を手に乗せ、レクスを見つめた。

 レクスは目を伏せ、ふぅと溜め息をつくと、目を開けてヴィオナを見据えた。


「……わかった。俺が受ける。」


 レクスはコクリと頷くと、カルティアとアオイを順に見た。


「申し訳ねぇけど、カティもアオイも力を貸してくれ。俺一人じゃ、どうしようもねぇ。」


 レクスは二人に頭を下げる。


「王家として、わたくし個人として、レクスさんに協力いたしますわ。…あと、わたくしはレクスさんの頼みであれば、断るわけには参りませんもの。」


 カルティアは目を細め、ふふっと微笑んだ。


「…レクスはうちのことを心配してくれる、いい人。…うちも誘拐犯は許せないから。…やる。」


 アオイは静かに、しかし強い口調でコクリと頷いた。


「ありがとうな。二人とも。」


 レクスは顔を上げ、二人を見据える。

 二人ともに決意を固めたように、力強く頷いた。


「とりあえず依頼のことはお前さんたちに頼んださね。いい結果を期待してるよ。」


「ああ、婆さん。俺たちが引き受けたこの依頼、必ず完遂するぞ。」


 レクスの答えにヴィオナは口角を上げて笑う。

 レクスもにぃと歯を出して微笑んだ。

 するとヴィオナがボソリと一人で呟く。


「……全く、いい二人目を連れて来るねぇ。」


「ん?婆さん、なんか言ったか?」


「大したことじゃないさね。さ、行きな。時間は有限だよ!」


 ヴィオナの声に押されるように、レクスたちはギルドマスターの部屋から出ていく。

 レクスたち全員が出ていった後、ヴィオナは一人、クククと笑っていた。


「全く、どこまでお前さんたちは似るんだろうね、クロウ。」


 今この部屋に居ない弟子の名を、一人ポツリとヴィオナは呟いた。

お読みいただき、ありがとうございます。

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