表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
晴天のプレリュード〜幼馴染を勇者に奪われたので、追いかけて学園と傭兵ギルドに入ったら何故かハーレムを作ってしまいました〜   作者: 妖刃ー不知火
第三章・家族の縁・しのびよるもの編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

55/225

 アオイはさらに不機嫌そうにレクスを見つめる。

 だがやはりその顔は小動物のような可愛らしさがあった。


 するとアオイが、何かに気が付いたようにレクスを見つめる。


「…そういえば、私のスキルは教えたのに。…レクスのは知らない。…不公平。」


「アオイ、俺のスキルが知りたいのか?」


 レクスの問いかけに、アオイは勢いよく首を縦に振った。

 レクスは目を伏せ、ふぅと溜め息をつく。


「……何もねぇよ。正確にはあるらしいけどな。」


「…?どういうこと?…レクスは亜人種?」


「ちゃんと人間だっての。…鑑定水晶に全く何も映らねぇんだ。名前すらもな。」


「…嘘。…そんな人いるんだ。…不思議。」


 アオイは目を丸くしてレクスを見つめる。

 レクスに向ける眼差しは、すごく興味津々と言わんばかりだ。


「…スキルがなくて、大丈夫だったの?」


「いろいろあったけどな。でも、生活するのに困っちゃいねぇよ。」


「…そう、なんだ。…スキル無しで、あれだけ強いんだ。」


 アオイはいつしか、レクスに向ける眼差しが、真剣なものに変わっていた。

 釘付けになったように、レクスの顔をじぃっと見つめている。


「アオイ?」


「…何でもない。」


 レクスがアオイの視線に気付くと、アオイはすっと目を逸らし俯く。


 その表情は何処か頬に朱が差している。

 アオイの胸がドキリと高く鳴っていた。


「そういや、さっきアオイは”瞬動”がスキルって言ってたけど、ありゃ何だ?」


 ふと思い出したようにレクスがアオイに尋ねる。

 するとアオイはふぅと溜め息をつき、話し始めた。

 その表情は何処かどんよりと陰を落としている。


「…”瞬動”はうちのスキル。…少しの距離なら、うちと触ったものを一瞬のうちに移動が出来る。」


「便利なスキルじゃねぇか。少なくとも俺よりはよ。」


 アオイはフルフルと首を横に振った。


「…うちのスキルは再使用に三分かかる。…それに距離も十間しか動けない。…うちの妹と比べると、ないに等しい。」


「ま、俺にとっちゃありゃ嬉しいってぐらいだけどよ……。アオイは妹がいんのか?」


「…うちの妹は天才。…スキルも「忍術士」。…うちは、才能がなかった。」


 アオイの表情は明らかに沈みきっている。

 そんなアオイを見てレクスは目を伏せ、ふぅと溜め息を溢した。


「俺もな、妹がいるんだ。血は繋がって無いけどな。……妹の方はとんでもないスキルがあったけど、俺はこの通り何も出てこねぇ。スキルによる才能はねぇ……ここまでならアオイと一緒かもしれねぇけどよ。」


「…うちが、レクスと一緒?」


「ああ。同じかもしれねぇな。でも、もう俺は悲観しちゃいねぇよ。……今のあいつとは、進む道も違うからな。」


 レクスは空を仰ぎ見る。

 空は若干の曇り空だが、陽の光は煌々と王都を照らしていた。


「俺は偶然傭兵ギルドに入ったけど、そこには化物みたいな強さの先輩がわんさかいる。俺の師匠もめちゃくちゃに強くて、模擬戦で勝てたことなんて一度もねぇ。」


「…驚き。…レクスが勝てない人なんているんだ。」


 アオイは目を丸くして、レクスを見つめた。


「師匠どころか、師匠の奥さんたちにも勝てたことがねぇよ。でも、傭兵ギルドの皆は俺を認めてくれた。それはスキルによるもんじゃねぇ。…俺自身を見てくれたんだって思った。そん時にゃ、もう劣等感なんか微塵も無ぇよ。」


「…そう、なんだ。」


「だから、比べたって仕方がねぇよ。そこにスキルなんて関係ねぇんだから。妹は妹だし、俺は俺だ。アオイだってそうじゃねぇか。」


「…うちも?」


「今出来ることをアオイはやってるじゃねぇか。それはアオイにしか出来ねぇことなんだろ?それはアオイのすげぇとこだと、俺は思うぞ。」


 レクスは少し口元を上げ、アオイに柔らかく微笑んだ。

 するとアオイは頬を少し染め、俯く。

 そんなアオイの顔を、レクスは覗きこもうとした。


「アオイ?」


「…レクスは、何を目指してるの?…最強?」


「最強……ねぇ。あんましピンと来ねぇな。最強になったところで、守れるもんがあるなら、それに越したことはねぇけどよ。」


 レクスはふぅと息を吐く。


「俺が目指すものは、俺の大切な人と、眼の前で泣いてる誰かを助けられるようになることだ。…ま、結局は傭兵が性に合ってんだよ。」


「…偽善者?」


「かもな。でも、それでいいんじゃねぇか?目指すもんなんてそんなもんだろ。……俺は、それだけで精一杯だからよ。」


 レクスは腕を上に伸ばすと、歩きながら伸びをする。


 頭に浮かんでいたのは、レクスの守りたい人たちだ。


 レクスの視線は、まっすぐ前を向いていた。


 そんなレクスを、アオイはただ、熱を帯びたような眼で見つめる。


 レクスの姿が、アオイにはただただ眩しく映った。


 レクスは自分の求める道を、自分の思う通りに進めている気がしたのだ。


 傭兵ギルドまで帰ると、アオイは興味津々な眼で傭兵ギルドの建屋を見つめる。


「…これが、傭兵ギルド?…普通。」


 傭兵ギルドの建屋は、冒険者ギルドとは異なり華美な装飾はほとんど無い。


 アオイは冒険者ギルドの建屋を思い浮かべたのだが、傭兵ギルドは全く異っていたからだ。


 アオイの感想に、レクスは苦笑する。


 レクスが傭兵ギルドのドアを開けると、何時も通りにチェリンとカルティアだけがそこに居た。


 カルティアはレクスに気付くと、ぱぁっと笑顔を浮かべてレクスに歩み寄る。


「お帰りなさい。レクスさん。……あら?アオイさん?」


 カルティアはレクスの後ろに立っていたアオイに気付くと、目を丸くする。


「ただいま、カティ。途中で会ってな。」


 レクスがギルドに立ち入ると、アオイも着いてギルド内に入る。


 アオイは変わらず興味津々な様子で、ギルドの内部を見回した。


 そして、カルティアを見つけて目を丸くする。


「…こんにちは、カルティア。…カルティアも傭兵?」


 アオイの言葉にカルティアはゆっくりと首を横に振る


「いいえ。わたくしは傭兵ではありませんわ。レクスさんを待っていましたの。」


「…レクスを待ってた?…カルティアはレクスの恋人……なの?」


「いいえ。《《まだ》》、恋人ではありませんわ。わたくしの護衛をレクスさんが担当してくださっていますの。」


「…むぅ。」


 ”まだ”という言葉を強調したカルティアに、アオイは何処となく不機嫌に眉を寄せる。

 アオイの表情にカルティアは僅かに口元を上げて微笑んだ。


「アオイさんとは、もう少しお話したいですわね。」


「…カルティア。…なんか狡い。」


 アオイは少しだけ頬を膨らませる。

 カルティアは優しく微笑んだままだ。

 そんな二人を差し置いて、レクスはチェリンの元へ向かう。

 帰って来たレクスに、チェリンは意味深に微笑んだ。


「あら?奥さまを差し置いて堂々と浮気かしら?」


「チェリンさん、誂わないでくれって。……婆さんはいるか?」


 バツの悪そうな表情から一転して真剣な表情をするレクスに、チェリンもただ事ではないと表情を変える。


「おばあちゃんならギルドマスターの部屋よ。……緊急?」


「かもしれねぇ。……婆さんなら何とか出来るんじゃねぇかと思ってよ。」


「わかったわ。いってらっしゃい。」


 チェリンの言葉に、レクスはコクリと頷いた。



お読みいただき、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ