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晴天のプレリュード〜幼馴染を勇者に奪われたので、追いかけて学園と傭兵ギルドに入ったら何故かハーレムを作ってしまいました〜   作者: 妖刃ー不知火
第三章・家族の縁・しのびよるもの編

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初めてのお食事・関わりあうもの

 レクスはアオイを引き連れ、校舎の玄関を走り抜ける。

 そのまま二人は、一目散に食堂へと駆け込んだ。


 まだ多くの学園生でごった返す中、その内の一テーブルで、レクスは談笑している友人たちを見つける。


 中にはたまたま会ったのか、コーラルも一緒だ。


 レクスは注文も取らず、アオイと共にそのテーブルへ向かっていく。


「おーい。遅くなってすまねぇ。」


「ん?レクス君か!あれ?今日は一緒じゃないって……、ん?隣の子は誰だい?」


 アランがレクスとアオイを見て首を傾げる。


 レクスが隣を見ると、人の多さに慣れないのか、プルプルと震えているアオイの姿があった。


「…人、多い。」


「わ、悪ぃ。驚かせちまったか?」


「全く……女の子のエスコートがなっておりませんわよ?ちゃんと安心させてあげるのが殿方の役目ですわ。」


「カ、カティ?」


 いつの間にかレクスの傍に来ていたカルティアは手馴れたような手つきでレクスからアオイの手を取る。


 優しい手つきに、アオイは振りほどく事が出来なかった。


「……なるほど。あなたもですのね。」


「お、おい、カティ?」


 不思議そうに見ているレクスをよそに、カルティアはアオイの目を見て優しく微笑んだ。


「わたくしはカルティア・フォン・グランド。グランドキングダム第三王女ですわ。あなたのお名前をお聞かせくださいな。」


「…アオイ。…アオイ・コウガ。…王女様?」


「ええ、アオイさん。いいお名前ですわね。ご昼食はまだですの?」


「…う、うん。…まだ。」


「それでは注文を取りに参りましょう。着いてきてくださいな。アオイさん。」


「…う…うん……?」


 ぐいぐいとくるカルティアに、アオイは少したじろいだように困惑していた。


 そのままカルティアはアオイを連れ、注文カウンターの方に向かっていく。


 アオイに対して積極的なカルティアは、レクスにとって新鮮だった。


「カティ、妙に積極的だったな?」


「僕も、あんなアオイさん初めて見たよ。」


 コーラルも吃驚した様子で、2人を眺めている。

 知っている様子のコーラルに、レクスは不思議そうに顔を向けた。


「ん?コーラルはアオイを知ってるのか?」


「同じクラスだからね。話した事はないけど。いつも何を考えてるのかわからないから、あまり話しかけようとする人もいなかったんだ。」


「へぇ……そうなのか。」


 レクスも注文を取りに行っている2人を眺める。


 カルティアは微笑んでおり、アオイは何処か戸惑いを隠せない様子だった。


 そんなレクスを見て、アランは首を傾げる。


「そういえば、レクス君はどうしてここへ?今日は一緒に食べられないって言ったじゃないか?」


「ああ。ちょっと用事が早く終わってな。……道中、アオイが寂しそうだったから連れてきた。」


「そんな……犬や猫じゃないんだから。でもそこが君の良いところだよね!そんなレクスくんが連れて来た子だ!僕は貴族として、立派に接しないといけないよね!」


「あははー!でも、悪い人じゃなさそうなのだ!」


「ふぅむ、レクスの新たな盟友か!ならば我も熱烈に歓迎せねばなるまいな!……あて、上手く出来るかな……?」


「……レクス君。君の友人は、やっぱり独特過ぎないかい?」


 アクの強い面々に、コーラルがレクスにあははと苦笑いを浮かべる。


「違いねぇな。悪い奴じゃねぇけどよ。」


 レクスもつられて苦笑いを浮かべた。


 カルティアと一緒に帰ってきたアオイは戸惑いながらもレクスたちのいる席に腰掛けた。


 やはりプルプル震えているアオイは、何処か小動物のようにも見える。


 アオイの前に置かれているのはトマトのソースがふんだんにかかったパスタだ。

 おそるおそる使い慣れていないフォークを使い、パスタを口に運ぶ。


 口の中にトマトソースの酸味と旨味が広がり、麺の食感がアオイの口を戸惑わせる。


「…おい……しい。…初めて食べた。」


「そりゃ良かった。いつも"ひょうろうがん"ばっかりよりは良いと思うぞ?」


「…うん。…おいしい。」


 モキュモキュとパスタを美味しそうに食べるアオイの様子が、やはり小動物らしさを醸し出していた。


「ほら、口に着いていますわよ。そんなに焦らなくても大丈夫ですわ。」


「…ん。…ありがと。…カルティア、優しい。」


 アオイの口に着いたソースをカルティアがナプキンで丁寧に拭う。


 カルティアに懐いたのか、はたまたパスタがおいしいのか。


 アオイは口元を綻ばせていた。


「あははー。カルティア、お母さんみたいなのだー!」


「…うん。…カルティアはおかあさん。」


「うふふ。そう言われるのもこそばゆいですわね。」


 カルティアはクスリと微笑む。


 しかし目線はレクスにしっかりと注がれていた。


 レクスもその視線に気づき、僅かに頬を染める。


 するとアランが興味深そうに声を上げた。


「それにしても、アオイ君の事は知らなかったよ!まさか大和から留学生がいるなんてね!」


「ああ。俺も初めて知った。大和って国自体、最近まで知らなかったけどな。」


「大和か!我も聞いた事しか無いがな。なんでも”サムライ”という職業があったり、独特な文化を築いていると聞いておる!……あても行ってみたいな。」


「僕の親は何回か大和の人と会ったことがあるらしいけどね。凄く礼儀正しいって聞いたよ。」


「ん?コーラルは貴族だったんじゃねぇのか?」


「コーラルさんの家、「ヴェルサーレ家」は主にグランドキングダムの王都内で外交を担当しておられる家ですわ。王国の貴族といっても、いろいろな方がおられますのよ?」


「そうなのかよ……それは知らなかったな。」


 グランドキングダムは主に2種類の貴族がいる。


 王都で議会を開いたり外交を行ったりする貴族と地方を治める貴族の2種類だ。


 コーラルの家は前者で、アランやカリーナの家は後者だった。


「あはは。まあ、滅多に僕の親も会うことはないって言ってた。それにグランドキングダムにも大和のものは流通が少ないからね。」


「なるほどな。そんな大和から留学生がアオイって訳か。」


 レクスがアオイに目を向ける。

 アオイは相変わらず、モキュモキュとパスタを食べ進めていた。


 その表情はやはり何処か嬉しそうに綻んでいる。

 到底、昨日レクスを襲ってきた人物には見えない。


 カルティアも何処かアオイに対して丁寧だ。

 不思議に思いながらも、レクスは自分の注文をしに、カウンターへと向かっていった。



「…ごちそうさまでした。」


 アオイがパスタを食べ終わり、静かに手を合わせた。

 そんなアオイに向け、レクスはニカっと歯を出して笑う。


「どうだった?いつもの”ひょうろうがん”もいいかもしれないけどよ、食堂も美味いだろ?」


「…うん。…おいしかった。…あと、楽しかった。」


「皆で食べるというのは格別だからね!アオイ君も楽しそうで良かったよ!」


「クハハハ!アオイとやら!我らと同席したという事は貴様も我が同胞である事に変わりない!また我と永遠の一瞬を愉しもうぞ!」


「…ありがとう。…変な人たち。」


 アオイが感謝の言葉を述べるが、その言葉に二人はピシリと固まり、ショックを受けていた。


「変……変な人……?この貴族たる僕が……。」


「うう。やっぱりあてって変なんだ……。いいもん。どうせ変だもん……。」


「…?…何で落ち込んでるの?…変な人たち。」


 アオイはアランとカリーナの落ち込み方に首を傾げる。


「いつもこうなのだ!気にしなくていいのだ!」


「…そうなの?」


「ああ。だいたい明日には戻ってると思うぞ。」


「ええ。いつものことですわね。」


「2人とも、息がピッタリなんだね……。あはは……。」


 辛辣な口調のレクスとカルティアに、コーラルは苦笑していた。

 するとアオイがレクスに向き直る。

 その表情は何処か嬉しそうに微笑んでいた。


「…レクス。…ありがと。」


「俺は連れてきただけだぞ。アオイが寂しそうだったからな。」


「…カルティアも、ありがと。…優しかった。」


「どういたしまして。わたくしはアオイさんが気になっただけですもの。アオイさんが素直で素敵な方だと分かって、わたくしも嬉しいですわ。」


「…うん。…カルティア、いい人。」


 アオイが嬉しそうに微笑むのに合わせ、カルティアも微笑む。

 するとエミリーが身を乗り出して、目をパッチリと開け、嬉々としてアオイを見つめた。


「これからはアオイも友達なのだ!」


「…とも…だち?…これが?」


「そうなのだ!もうアオイとは友達なのだ!」


「…そう。…これが……友達。…嬉しい。」


 アオイは目元が柔らかくゆるみ、口元が綻んでいる。

 その表情は何処か嬉しそうで、魅力的な優しい表情を映しだしていた。


 ◆

 食事が終わると、アオイは「用事がある」と言ってレクスたちと別れる。

 

 勇者の監視に行ったのだろうと、レクスには容易に想像がついていた。


 去り際には嬉しそうに口元がほころんでいたために、レクスは少し安堵する。


 他の面々とも別れ、傭兵ギルドに向かうのは何時も通り、レクスとカルティアの2人だけだ。


 校門から出た2人は灰色の曇り空の下、いつもより人出が少ない街道を進む。


 レクスは横目でカルティアを見つつ、口を開いた。


「ありがとな、カティ。アオイが馴染めるように、気を使ってくれてよ。」


「いいえ。当然のことをしたまでですわ。それに…素敵な方でしたわね。アオイさん。」


「そういやカティ、あの時やけに積極的だったけど……何でだ?スキルとか大丈夫かよ?」


「大丈夫ですわ。レクスさんが連れて来られた方が、一体どんな方か気になっただけですもの。」


 その答えに、レクスはカルティアが何をしたのかを悟った。

 レクスの眼が僅かに細くなる。


「……カティ、もしかして、《《読んだ》》のか。」


「……ええ。読みましたわ。……狡い女だと、軽蔑なさいますか?」


 カルティアは少し切ない表情を浮かべ俯く。


 レクスは目を軽く閉じ、はぁと溜め息をついた。


「カティが俺の為にやったんだろ。悪い事かもしれねぇが、なんか考えがあんだろ?軽蔑なんてできねぇよ。……それより、俺はカティの方が心配だ。」


「……わたくし……ですの?」


 カルティアはハッと顔を上げてレクスを見た。

 レクスは心配そうに、目元を下げてカルティアの顔を映していた。


「カティが俺のことを好きでいてくれてるのは嬉しい。でも、俺の為にスキルを使って、カティが壊れちまったら、俺は俺が許せなくなっちまう。……頼むから、無理だけはやめてくれ。」


「……やはり、レクスさんはお優しいですわね。もちろん、アオイさんにはあとできちんと謝りますわ。レクスさんの言う通り、わたくしが壊れてしまったら、元も子もありませんわね。」


「ああ。謝ればアオイも分かってくれるさ。カティも悪いって思ってるから今言うんだろ?……なら、俺もカティを咎めるなんてしねぇよ。それに……。」


「それに……?なんですの?」


 レクスは立ち止まり、カルティアを見つめる。

 その表情は、何処か物憂げで、不安が隠しきれていなかった。


「カティが辛けりゃ、俺もそれを背負う。だから、辛けりゃ話してくれ。どこまで背負えるかはわかんねぇけどよ。」


「……はい。ありがとうございますわ。……その時はきちんと、レクスさんに頼らせていただきますわね。」


「ああ、頼む。俺はカティの辛い顔なんて見たかねぇんだ。」


「……はい。」


 レクスはカルティアの手を取ると、再び歩き出した。

 カルティアもつられて歩く。

 その頬には朱が差し、眼は潤んでいた。


(本当に……お優しい人。だから、アオイさんも……。)


 カルティアはレクスの顔をちらりと見る。


 その眼は心配するように、カルティアを見ていた。


 2人は無言のまま、それでも寄り添うように、傭兵ギルドへと向かっていった。


 ◆

 その夜、女子寮の自室でアオイは窓からじぃっと何気なく空に浮かぶ月を見ていた。


 ルームメイトはまだ帰って来ていない。

 何処に行ったのかは、アオイには何時ものことであり、分かりきっていた。


「…いつもより…楽しかった。」


 アオイの口から言葉が漏れる。


 アオイにとっては激動の1日だったのだ。


 レクスと会話できた。


 初めて王都のご飯を食べた。


 初めて…この国で友達が出来た。


 あまりにもいろいろな事が起きすぎて、今でも夢ではないかと疑うくらいだ。


 それは、リュウジを監視しているよりもずっと幸せで、アオイは自身の役目を一時的にでも忘れてしまっていた。


「…レクス、優しかった。」


 アオイはレクスの顔を思い浮かべる。


 すると、アオイの心臓がドクンと跳ねた。


 胸がぽかぽかと温かくなる。


 頬も熱くなってきている。


 今までにない感覚は、アオイにとって、何処か不思議だった。


「…やっぱり。…うち、病気なのかな?」


 何故かレクスを思うとこうなってしまう。


 アオイは、その答えを持っていなかった。


 アオイが首を傾げていると、ガチャリとドアが開く音が聞こえる。


 ルームメイトが帰ってきたのだ。


 アオイはふぅと息をつき、クルリとドアの方に振り向く。

 予想通りの人物は、シャワーを浴びた後なのか、きめ細やかな肌が少し火照った様子だ。


「…おかえりなさい。」


「ただいまなのです。アオイも帰ってたのですか?」


「…とっくの昔に。」


 クリクリとした翡翠色の瞳が、アオイをじぃっと見つめている。


 愛くるしい顔立ちだ。


 細い腕は触れば折れてしまいそうに華奢で。


 その体躯は小さく、アオイの首までの背丈しかない。


 しかしその体躯とは不釣り合いに胸は大きい。


 濡羽色の長い髪はツーサイドアップに纏められていた。


 総じて、あどけない美少女。


 その少女こそ、アオイのルームメイトだった。


「…何してたの?」


 アオイは少女に何気ない風を装って問う。

 

 聞くまでもなく、その答えは《《分かりきっていた》》。


 何故なら、少女は何時もこの時間に帰って来るときは、返す言葉がほとんど決まっているのだ。


 さらには先ほどまで、アオイはその少女を隠れて見ていたのだから。


「リュウジ様へのご奉仕なのです。…まだ最後までは勇気が出なくて出来なかったのです。でも、リュウジ様は満足してくれたのです。」


「…そう。」


 少女は満足そうに勇者との行為を語る。


 アオイは興味もなさげに、返事を返すのみだ。


 勇者との淫靡な行為の報告をすることは、すでにアオイには分かりきっていた。


 ルームメイトの少女は勇者の仲間で、伝説のスキルを持つ人物。


「…よかったね。…クオン。」


 レクスの義妹、クオンだった。


お読みいただき、ありがとうございます。

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