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晴天のプレリュード〜幼馴染を勇者に奪われたので、追いかけて学園と傭兵ギルドに入ったら何故かハーレムを作ってしまいました〜   作者: 妖刃ー不知火
第三章・家族の縁・しのびよるもの編

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剣銘「デイブレイク」

 午後、カルティアを王宮の仕事の為に送り届けると、レクスはエミリーの鍛冶屋へ向かった。


 レクスが預けた剣が出来たとエミリーに聞いていたのだ。


 鍛冶屋のドアを開くと、やはり少し高い室温と湿気がレクスの身体に纏わりつく。


 店内には人の姿は無かった。


「おーい!グラッパさーん!」


 レクスが大声でグラッパを呼ぶ。


 すると暑い熱気の漂う、店の奥からグラッパがのそのそと歩いて来た。


 何時も通り、大量に汗をかいたせいか、シャツが上半身に貼り付いている。


 その表情は満足げで、布に包んだ塊を大切そうに抱えていた。


「おっ、坊主か!仕上がってるぜ。お前さんの剣がよ。」


 歯を出して笑うグラッパは布ごとレクスにそれを差し出した。


 レクスがその布を解くと、中から銀色に輝く長剣が現れる。


 しかし、剣の細部がところどころ以前とは異なっていた。


 剣の長さは変わりない。

 しかし剣に彫られた二重線が明らかに異質だった。


 訝しむレクスに、グラッパがニヤリと自慢げに口元を上げる。


「ソイツは打ち直す時に魔導回路を刻んどいた逸品だ。魔術師の杖や指輪みたいに魔術の媒体としても使える優れもんよ!久々に良い仕事したぜぇ!」


「……グラッパさん。俺、魔術使えねぇんだけど……。」


 申し訳なさそうなレクスの言葉にグラッパは一瞬固まった顔をした後、その赤い目をくわっと見開いた。


「…そ、そうなのか?す、すまねぇ。俺も喜ぶかと思ってつけちまった。ま、剣としての切れ味は俺が保証してやるよ。魔術回路はおまけだおまけ。」


 グラッパはガハハと笑い、レクスをバンバンと叩く。


 叩く力の強いグラッパに愛想笑いを浮かべつつ、レクスは剣を自身の背負う鞘に納めた。


「その剣の名前は「デイブレイク」。どうも古い言葉で夜明けって意味らしいから肖って俺がつけた!大切に使ってくれよ!」


「ああ。それで…代金は幾らだ?」


「代金…?ああ、考えてねぇんだった!」


 グラッパはハッとしたように眼を見開くと頭を抱える。


 剣を鍛え直すことに熱中していたグラッパは、値段を考えずに剣を打っていたのだ。


「とりあえず1万Gでどうだ?」


 思ったよりも安い金額にレクスは若干驚く。

 レクスの予想では10万G以上の代金と踏んでいたのだ。


 さらに魔術回路付きとなるとさらに値が跳んで上がると見ていた。


 事実として、カルティアの付けている指輪は、レクスの眼が飛び出る程の金額だからだ。


「安すぎだろ。いいのかよ?」


「娘の友達からそんなたっけぇ金取れるかってんだ。あー、出世払いだ、出世払い。ま、また剣が斬れないって思ったらうちに来な。何度でも研ぎなおしてやる。」


 グラッパは屈託のない笑顔で親指を立てた。

 その様子にレクスもにっと笑う。


「そうか。悪ぃな。……また困ったらここに来る。ありがとな、グラッパさん。」


「ガハハ、どうもそう呼ばれるのはこそばゆいぜ。テキトーにおやっさんとでも呼んでくれ!」


 そんなグラッパにレクスは笑顔で代金を支払うと、店を後にした。


 満足そうなグラッパは出ていくレクスに手を振っている。


 鍛え治した剣にレクスは満足げに笑い、足取り軽く歩き出した。


 もちろん向かう先は傭兵ギルドだ。



 同じ頃、傭兵ギルド内、ギルドマスターの部屋でヴィオナはとある男性と会っていた。

 

 窓から差し込む優しげな光は、厳つい表情をした二人と部屋の中を照らす。


 静かな部屋の中で、細くぼやりと、白い煙が立っている。


 煙草の煙だ。


 ヴィオナは手に細長い煙管キセルを持ち、口から慣れたように煙を吐きだすと、ポンポンと机に乗った皿に灰を落とした。


「で、なんだい?アタシに話ってのは?」


「その前に謝っておかなきゃならん。…憲兵隊でオメェのとこの新人を間違えて連行しそうになった。申し訳ねぇ。」


 ヴィオナは目の前の焦げ茶髪の男性に鋭い目を向ける。


 男性は憲兵隊の隊長、マルクスだった。


「…うちの新人っていうと、レクスさね。アイツがなんかしたかい?」


「窃盗犯を捕まえたとこをうちの若いのが勘違いして捕まえようとしたんだ。何故かカルティア王女から抗議文が届くしよ。…ありゃオメェの差し金か?」


 マルクスの様子に、ヴィオナは可笑しそうに口元を上げた。


「レクスはカルティア王女様のお気に入りだよ。ククク……間違うなんざ災難だったねぇ。」


「笑い事じゃねぇっての。王宮から使いが来たときゃ何事かと思ったぞ。首が飛ぶかと思ったぜ。」


 マルクスははぁと深い溜め息をつく。


 ヴィオナは相変わらず可笑しそうにニヤけていた。

 するとマルクスは打って変わってヴィオナに真剣な眼を向け、ふぅと溜め息をつく。


「ま、そのことも無関係じゃねぇんだがよ。」


「どういうことだい?」


 ヴィオナもマルクスの変わりように、真剣な眼を返した。


「近ごろ、冒険者被れの犯罪が増えてる。オメェのとこの新人を間違えて捕まえそうになったときの犯人もそういう男だった。」


「冒険者がねぇ……。近ごろパーティの解散が多いってのはうちも風の噂で聞いてるさね。」


「解散した冒険者パーティの一人が、稼げなくて犯罪に手を染めるってことが妙に増えてきた。…冒険者ギルドも、パーティ解散後の冒険者の動向は自己責任だとさ。おかしいったらありゃしねぇ。」


「下手すれば冒険者ギルドの地位や体裁に影響しそうなもんさね……。解散の主な原因はわかっているのかい?」


 するとマルクスは馬鹿馬鹿しそうに右手の小指を立てた。

 その仕草にヴィオナも呆れて溜め息をつく。


「女だ。どうもパーティ内で痴話喧嘩が起こって解散したってのが多いらしい。これぐらいなら何処にでもある話だがよ。問題はその多さだ。」


「あまりに多いのは異常さね。……わかった。うちでも少し調べてみるさね。何か掴めたら連絡するよ。」


「すまねぇな。憲兵隊はあまり大きくは動けねぇしよ。……憲兵隊は連行や収監は出来ても、現行犯が原則だ。疑いじゃ、よっぽどの物証が無い限り動けねぇ。」


 マルクスは力なく肩を落とす。


 憲兵隊は王都の治安維持を行う機関ではあったが、大きな捜査の行使権は持たされていないのだ。


 ヴィオナはふぅと溜め息をつきながらマルクスを見据える。


「それと、もう一つあるんだ。最近、平民の若い女性が誘拐される事案が10件以上あった。女性たちは今も行方不明で犯人もわからねぇ。……傭兵ギルドの力を借りたい。」


「マルクス。詳しく聞かせな。」


 ヴィオナはマルクスを貫くかのような視線を飛ばす。

 その視線にマルクスは気圧された。


「傭兵ギルドとして、しっかり対処させて貰うよ。」


 グランドキングダムでは、憲兵隊は人数が少なく、大きな捜査の行使権はないし、そんな人手もない。


 では事件の捜査などはどうやって行うのか。


 その答えは明白。


 依頼料さえ貰えば各々の方法やりかたで仕事をこなす。


 それが傭兵ギルドなのだから。

短いですがお読みいただき、ありがとうございます。

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