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晴天のプレリュード〜幼馴染を勇者に奪われたので、追いかけて学園と傭兵ギルドに入ったら何故かハーレムを作ってしまいました〜   作者: 妖刃ー不知火
第三章・家族の縁・しのびよるもの編

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相談

 

 明くる日、レクスは行く当てもなく町中を一人でぶらついていた。


 その日はカルティアを送り届ける事もなく、傭兵ギルドも剣が無いので休んでいる。


 レクスにとっては久しぶりの一人時間だった。

 そんなレクスは王都を回っているとある場所に出る。


 以前にカルティアと出掛けた、あの広場だった。

 広場はその日も大賑わいで、色とりどりの露店が多く立ち並び、子供を連れ歩く親の姿も大勢見かけることが出来た。


(懐かしいなぁ…村の広場で露店が出てた時、リナたちと歩いたっけか。親父たちも連れてよ。)


 手を繋ぎ、子供を連れた親を見て、レクスは郷愁に誘われていた。


 アルス村の広場と王都の広場。


 場所も時間も違うが、手を繋ぎ歩く子供たちや見守る親はレクスの思い描くものと合致していた。


(リナはやんちゃに走り回って、カレンはおどおどしてたっけな。クオンは俺の後ろにずっと隠れてたっけか。…それが今や嫌われ者ってか。本当、何が起こるかわかんねぇな。)


 ふぅと苦々しく溜め息をつきながら、レクスは何か物珍しさが光るものはないかと露店を回る。


 その中でレクスが脚を止めたのは、材木を専門に扱う店だ。


 レクスが木彫りで扱ったことのない材木が一様に並んでいる。


 材木を欲しがる人はあまりいないのか、レクス以外に立ち止まる人はほぼいない。


「サクラの木ねぇ。学校にあんのは見たことあんだけどなぁ。どんな木なんだ?」


 レクスが材木を手にとって見ていた、その時だった。


「ま、待って!僕の財布!返して!」


「うっせぇ!」


 真っ赤な色をした髪の少年が、声を上げていた。


 年齢はレクスと同い年くらいで眼鏡を掛けている。


 どうやら赤毛の少年が窃盗に遭っているとレクスは察した。


 少年から財布を取ったと思われるグレーの髪の中年男性は、ちょうどレクスの方へ走ってきている。


(…物取りかよ。子供もいるこんな場所でよ。)


 レクスは材木を戻すと、走ってくるグレーの髪の男性にゆっくりと近づいていく。


「オラっどけっ!」


 グレーの髪の男性は買い物をする人々を押しのけながら走る。


 レクスはその男性に近づくと、ひょいと右足を前に出した。


「うおっ!?」


 グレーの髪の中年男性は、レクスの脚に躓くと、そのままズデンと転び、大げさにひっくり返った。


「痛ってぇ…。」


 グレーの男性が腰を押さえながら辛そうに立ち上がるが、その男性の前にレクスが立っていた。


「おいあんた、白昼堂々物取りかよ。」


「うるせぇ!どきやがれ!」


 グレーの髪の男性が、腕を振り上げレクスに殴りかかる。


 しかしレクスにとって、男性の拳はあくびが出るほどの速さだった。


(クロウ師匠の方が断然速ぇよ。)


 レクスは男性の拳をさっと躱すと男性の腕を掴んで背中に捻り上げた。


「いでででででで!」


「あんた、いい加減にしろよ。」


 レクスがふぅと溜め息をつくと、黒い軍服を着た男性たちがザッザッと足音を立て、レクスとその男の元に集まる。


 黒い軍服を着た男たちは王都の治安を守る組織。


 憲兵隊だ。


 憲兵隊の男たちはぐるりとレクスとグレーの髪の男を取り囲んだ。


「憲兵隊だ、通報があってここに来た。貴様を逮捕する!」


 そう言って憲兵の男が掴んだのは……レクスの腕だった。


 いきなり掴まれた腕に、レクスは泡を食ってしまう。


「お、俺じゃねえって!」


「言い訳は詰め所で聞こう!」


「あー!待って待って憲兵さん!その人じゃないって!」


 レクスが憲兵に手を引かれようとしたその時、財布を取られていた真っ赤な髪で眼鏡を掛けた少年が憲兵とレクスの間に割り込んだ。


 少年はレクスに腕を取られている男性を指さした。


「違うって!財布取ったのはこっちの人!」


「は…そうなのですか?私めはてっきり…。」


 呆気に取られる憲兵に、レクスははぁと大きな溜め息を漏らしていた。



「本当に、申し訳ない!私めは大きな勘違いをしておりました!」


「いや、まあ…間違いってわかってくれたなら良いけどよ…。」


 レクスは憲兵隊の詰め所で、腕を掴んだ憲兵に土下座されていた。


 無垢材で建てられた憲兵隊の詰め所は意外と狭く、学園の教室程度の広さしか無かった。


 その中でもレクスと眼鏡を掛けた少年は、詰め所の奥の仕切られた狭い場所に立っているのだ。


 憲兵は置かれている木の机の側で頭を着いている。


「僕も財布が取り戻せたから何の問題もないよ。」


「…かたじけなき御言葉、ありがとうございます。」


 レクスに土下座していた憲兵は、すっと姿勢を正して立ち上がった。


「…とりあえず、俺たちはもう帰ってもいいのか?」


「…身分証明などがあればお出し願えますか?一応調書に使うものでして。」


 肩身を狭そうにしている憲兵に言われたレクスは常に携帯している傭兵ライセンスを憲兵に見せる。


 傭兵ライセンスをみるやいなや、憲兵の顔色がみるみる真っ青に変わっていった。


「よ…傭兵ギルドの方でしたか…。へ、兵長ぉー!」


 レクスの傭兵ライセンスを見た憲兵は素っ頓狂な大声を上げる。


 すると、厳つい顔つきで、焦げ茶の短い髪をした男性がつかつかと歩いてきた。

 左眼には十文字の傷が残っている。


「なんだハンス。いきなり大声で呼び出して。」


「へ…兵長、あ、あの少年が…」


 憲兵の男性がレクスの傭兵ライセンスを指さす。


 すると兵長と呼ばれた焦げ茶の髪の男性は、傭兵ライセンスをまじまじと見た。


「ん?ああ、オメェが噂の傭兵ギルドの新入りか。ヴィオナから話は聞いてるよ。…ハンス、オメェまた間違えそうになったな?」


「申し訳ございません!」


「オメェ正義感が強すぎるんだっての。状況で判断しすぎだ。」


 兵長と呼ばれた男は憲兵を諫めつつ、レクスたちに顔を向けた。


 彫りの深い顔つきは、責任感を持って仕事にあたる憲兵の顔だ。


「…わりぃな、うちの若いもんがよ。オレはマルクスってもんだ。憲兵隊の隊長をやってる。傭兵ギルドともたびたび関わらせてもらってる。覚えときな。また会うかもしれねぇからよ。」


 そう言ってマルクスはレクスと少年に頭を下げた。


 その後、レクスと少年は財布を返してもらうと憲兵隊の詰め所から出ていく。


 陽は少し傾きつつある時間帯は、広場から離れた街道を通る人たちもまばらだ。


 レクスとコーラルは学園寮へ帰る為に、少しづつオレンジ色に変わりつつある空の下を歩き始めた。


「災難だったな。あんた。」


「ぼ…僕より君の方だよ!間違って憲兵に拘束されかけてたんだから…。」


「ま、俺も濡れ衣は晴れたし、あんたは財布が戻った。これで良いじゃねぇか。」


 レクスはにっと歯を出して笑う。


 並んで歩く同い年くらいの少年は、決まりが悪そうにレクスから眼を逸らす。


 そんな少年の赤色の髪や瞳、雰囲気が何処となく父親のレッドに重なるように、レクスには映った。


「そういやあんた…名前は?」


「あっ、名前も言ってなかったよね。…ごめん。」


 少年は申し訳なさそうにレクスに向き直る。


「僕はコーラル。コーラル・ヴェルサーレって言うんだ。王立学園の1年Bクラスに通ってる。…今日は、本当に助かったよ。」


「俺はレクス。アルス村のレクスだ。そうか、俺は1年A組にいるから、コーラルは別のクラスにいたのか。道理で顔を見た覚えがねぇ訳だ。」


 コーラルの自己紹介で、レクスはようやくコーラルを学園で見たことの無い理由を悟った。


 そもそもレクスは別のクラスに誰がいるのかさえ知らないのだ。


 実習に出ているならば他のクラスの学生を知っているかもしれないが、レクスは実習に出たことはない。


 傭兵ギルドでの活動が代用の単位となるからだ。

 一方のコーラルはレクスの自己紹介に、レクスを見て眼を丸くしていた。


「レクスも学園生だったの!?ごめん、傭兵って言ってたからてっきり学校に通っていないのかと…。」


「…だろうな。傭兵で王立学園に行ってるやつはいないって話を聞いたことがあるからよ。」


「それにAクラスなんて!勇者様やその仲間の伝説のスキル持ち、王女様もいるハイレベルなクラスじゃないか!僕は戦闘や魔法はからっきしだったし…。」


「…言われてみりゃそうだな。あまり気にして無かったけどよ。」


 レクスは入学時に言われたアリーの言葉を思い出す。


 確かに担任のアリーは「試験成績が良かったもの」と言っていたのだ。


「勇者様も強くて優しいって聞くし、王女様は近寄りがたい冷淡な人らしいね。実際どうなの?」


「勇者は俺からはなんとも言えねぇな……。でもカ……王女様はとてもいい人だと思うぞ。」


 レクスの中でリュウジの印象はコーラルの話とは大きくかけ離れていた。


 傍若無人な振る舞いしか、レクスは見たことがない。


 カルティアがそう言われるのはスキルの件も有るのだろう。


 実際は非常に魅力的な少女だとレクスは思っているし、好意を抜きにしても大切な存在に変わりはないのだから。


 レクスはコーラルと会話しながら歩いていると、いつの間にか学園の男子寮の前に着いていた。


 寮の前で、コーラルはレクスに向き直る。


「レクス君、今日は本当にごめん。」


「コーラルが気にすることじゃねぇよ。財布が戻って良かったじゃねぇか。」


「君がそう言うならいいけど…。」


「ま、これも何かの縁だ。また困ったことがありゃ相談くらいにゃ乗るぞ。」


 にこやかに笑うレクスを見て、コーラルは何か思いついたように鞄の中を探る。

 そしてコーラルは1枚のハンカチを取り出した。


「…ここまでしてもらったレクス君に頼むのも悪いと思うんだけど…。」


「ん?何かあんのか?」


 悩むような素振りを見せたコーラルだが、意を決したようにレクスにハンカチを見せた。


 青白のストライプが入った、とてもシンプルなハンカチだが、右端に大きな蝶の刺繍が入っている。


「人を…探して欲しいんだ。このハンカチの持ち主を。」


 レクスは直感した。

 コーラルの相談は時間がかかりそうなものだと。

お読みいただき、ありがとうございます。

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