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晴天のプレリュード〜幼馴染を勇者に奪われたので、追いかけて学園と傭兵ギルドに入ったら何故かハーレムを作ってしまいました〜   作者: 妖刃ー不知火
第三章・家族の縁・しのびよるもの編

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冒険者の不意・変わったこと

お読みいただきありがとうございます。

第三章、スタートします。

 5の月に入った頭の爽やかな陽差しの下。


 グランドキングダム王都の外で二人の男が爽やかな陽差しに似合わぬ、泥に塗れた戦いを繰り広げていた。


 男たちの周りには4体の立った犬のような異様な姿の人外がいまかいまかと男たちを取り囲んでいる。


 木の盾を持ったガタイのいい禿頭の男は、ぽたりぽたりと汗を顔から流していた。


「くっそぉ…ハンナとネリーがいりゃ、こんな事にはならなかったのによぉ。」


 男は人外の魔獣…「犬人」を右手の剣を構えて警戒しながら一人呟く。


「しょーがないっすよアニキぃ!突然パーティを抜けたいって言ったのはハンナとネリーなんすからぁ!」


 禿頭の男と背中合わせの、身長の高いヒョロリとした金髪の男がちらりと後ろに眼を向けながら叫んだ。


 ヒョロリとした男は両手で身長より僅かに長い長槍を斜めに構えている。


 この二人は王都の冒険者パーティだ。


 禿頭の男が「ゴリズ」、ヒョロリとした金髪の男は「ニック」といった。


 王都の冒険者の中でも、Bランクに属している中堅どころのパーティであった。


 二人はすでに衣服や防具のところどころに引っ掻いたような傷が出来ている。


 僅かに切り裂かれた傷口からは、僅かに赤い血が滲み出ていた。


 じりじりと押されていく冒険者たちだが、先に動き出したのは犬人だった。


「バァウ!」


「ちぃっ!この野郎!」


 犬人のうち、一匹がガリズに飛び掛かる。


 飛び掛かった犬人をゴリズは盾で受け止めた。


 受け止めた犬人を払い除けようと盾を振るうゴリズ。


 しかしその反対から別の犬人が飛び掛かる。


「バァウ!」


「がぁっ…こんの…。」


 犬人がゴリズの肩に牙を剥いた。


 防具の上から噛み砕こうとする犬人に、ゴリズは呻く。


「あ、アニキぃ!」


 ゴリズの声にニックは一瞬振り向くが、それを残った犬人は見過ごさなかった。


 キラリと光る魔獣の瞳は、ニックを見据え飛び掛かる。


「バァウ!」

「バァウ!」


 ニックがはっと気が付いた時には手遅れだった。

 槍の間合いを超えて、犬人二匹がニックに襲い来る。


「ひぃっ…!」


 ニックの前に死が近づいていた。

 その恐怖から逃れようとニックは眼を閉じる。


(オラァ…もう駄目だ。かあちゃん、とおちゃん…)


 ニックの頭に両親の顔がよぎる。


「ニックゥ!」


 ニックの状態に気付いたゴリズの声が響く。

 二人共に、万事休すであった。


 その瞬間、魔法より速い3つの光弾が奔った。

 ニックに向かっていた犬人を光弾が撃ち抜き、二匹共纏めて吹き飛ばす。


「…へ?」


 来るはずだった死が来ず、ニックは目を開け、情けない声を発した。


 そんなニックに向かう影が一つ。


 黒いボロボロのフードがついた外套を纏った人物が、疾風のように駆けてくる。


 紅の瞳が犬人を見据え、走りながらも黒い魔導拳銃を構えていた。


 その人影は跳躍すると、ゴリズに噛み付いている犬人をめがけ、逆手に持っていた剣を突き出す。


 鈍く輝く剣は勢いのままに、犬人を深々と突き刺した。


 魔核が貫かれ、犬人は絶命し魔核を残して消滅する。


 消滅を確認することなく、そのまま魔導拳銃を構えたその人物は、盾に噛み付く犬人にためらうことなく頭部めがけて引き金を引いた。


 光弾が3発放たれ、犬人は衝撃で吹き飛ぶ。


 吹き飛んだ犬人はそのままぐったりと倒れ、魔核を残して消滅した。


 拳銃を放った勢いでくるりとバック転をして、その人物はシュタッと腰を降ろして着地する。


 着地の反動か、その人物のフードがはらりと下がった。


 橙色の少々ボサッとしたショートヘアに燃えさかるような紅い瞳。


 レクスだ。


「おい!大丈夫かオッサン!?」


 レクスは拳銃を降ろすとゴリズとニックに歩み寄る。

 二人はレクスを素っ頓狂な顔で見ていた。


「あ、ああ。お前は…?」


「レクス。傭兵ギルドのもんだ。」


「お、おまえが傭兵?オラよりちっちゃいのに?」


「小さいは余計だろうが。…とりあえず大丈夫そうだな。」


 ふぅと安堵の溜め息をつくと、レクスは拳銃をホルスターに仕舞い込む。


 するとゴリズが右の肩を押さえながら、レクスを訝しむように視線を向けた。


「おいあんた…傭兵ギルドのレクスって言ったな。俺たち冒険者の依頼に、何で傭兵が関わってんだ?」


「ああ、別に関わっちゃいねぇよ?依頼の帰り道であんたらがいただけだ。あんたらは?」


「お、オラたちの依頼はこの犬人討伐だったんすよ。なあアニキ?」


「馬鹿!ペラペラしゃべくってんじゃねぇよ!」


 ゴリズがニックをスパンと叩く。


 ニックは「痛っつぅ〜」と頭を押さえるが、ガリズも傷口に響いたのか顔を顰める。


 それを見たレクスは持っていたカバンから透明な液体の小瓶を取り出した。


「オッサン、傷口見せてくれ。」


「お、おい!」


 レクスはゴリズに近づくと右肩を押さえている手を退けた。


 犬人に咬まれた傷口は少し出血しており、僅かに赤くなっている。


 レクスは透明な液体の小瓶を開けると中身の液体をバシャっと傷口にかけた。


 傷口に染みたのか、ゴリズはうめき声を上げる。


 ツーンとした独特の突き刺すような匂いが辺りに広がった。


 高度数の酒だ。


 さらにレクスは鞄から薬草を取り出すと傷口に刷り込み始めた。あまりの痛みにガリズの顔が歪む。


「あぁぁぁぁ!」


「我慢してくれ。怪我にゃこれが一番だっての。」


 ゴリズが叫ぶ中、レクスは気にせず薬草をすり込んでいく。


「ふぅ、とりあえずこれで応急処置は終わりだ。あとは王都で治してもらうといいと思うぞ。」


 レクスは薬草を傷口にすり込み終わると、安堵の溜め息をついた。


 ゴリズは相当情けない姿を晒してしまったと思ったのか暗く俯いている。


「いやぁ、ありがとうっす!オラたちを助けてくれて!」


「通りかかっただけだっての。…でもなんであんなに危険な状態になってんだ?怪我の対応も出来てなかったしよ。」


 すると俯いていたゴリズがレクスに向かって顔を上げた。

 その顔はまだ少しどんよりとしている。


「…傭兵のあんたは知らんだろうがな。最近王都の冒険者パーティの女性たちがどんどん引き抜かれていってるのさ。俺等も元々あと2人いたんだがよ。どっちもパーティを抜けたいって言われちまってな。」


「そうっす。弓術士と回復魔術師がいたんすけどね。それでもこのくらいはって思って依頼を受けたんすけど、このざまっす。」


 ニックはふぅと溜め息をつき、肩を落とす。

 ゴリズとニックの話を聞いたレクスは、頭の中に一人の知り合いの姿が思い浮かぶ。

 知り合いと言っても、レクスにはあまり関わりたくない人物ではあった。


「なんで女性ばっかなんだよ。…もしかして勇者か?」


「お、ご明察っすね。そうっす。勇者の仲間に入りたいってんで、いろんな冒険者パーティから女性メンバーが抜けていってるって話らしいっす。ま、うちもなんすけどね。」


「冒険者ギルドの有力なパーティも女性が抜けて、次々と解散したって話だ。Aランクパーティの「虎の尾」や「烈火」、果てはSランクの「幻影」すら解散したってな。Aランクの「黄金百合」なんか全員が勇者のパーティに変わったなんて噂もある。何がどうなってんだか、さっぱりわからねぇ。」


「アニキの言う通りっす。割と女性の方に回復術師や魔術師が多いっすからねぇ。他のパーティも大打撃っすよ。勇者のことはオラにもわかんねっす。」


 揃って肩を落とす二人の冒険者に、レクスは内心、首を傾げていた。


(あのリュウジが女性の冒険者を集めてる?…ぜってぇ精神に干渉しまくってるよなぁ。何が狙い…って言ってもどうせ身体目当てだろうな。…本気で王様とか狙ってんのか?)


 レクスを無能扱いしてくる勇者、リュウジはクラスメイトであり、大の女好きであることをレクスは重々承知していた。おそらく精神に干渉する何かを持っていることも。


 するとニックが何かに気が付いたようにレクスに向け顔を上げた。


「そういやレクスさんは傭兵なんすよね?どんな依頼でこんなとこ来たっすか?」


「俺か?俺は…小鬼の巣の討伐だよ。幸いそんなでかくもなかったしな。早く帰ろうとしたらあんたらがいたんだよ。」


「なるほどっすね。傭兵ギルドの依頼も冒険者ギルドと同じようなもんっすか。どのくらいいたんすか?」


「ざっと25匹だな。」


 レクスの言った数字にニックは目を見開き驚愕していた。


 ガリズも驚きで頭をあげると、口をあんぐりと開けレクスを見ている。


 小鬼は群れれば群れるほど冒険者ギルドでは討伐ランクの上がる魔物だ。


 25匹もいれば、Aランクパーティがギリギリ余裕で対応出来るレベルである。


 個人のみで討伐が出来るなど、それこそ勇者レベルでないとあり得ないとガリズもニックも思っていた。


「…レクスさん一人じゃないっすよね?さすがに…。」


「いや、俺だけだぞ?さすがに30匹超えてくるとちょっときついけどよ。」


 なんともないようなレクスの発言に、ニックは口を大きく広げ驚愕していた。


「…傭兵ギルドって、バケモンかよ。」


 ゴリズはボソリと呟くも、風の音に流された。


 その後、レクスはゴリズとニックに早く治療をするように言うと、たたっと疾風のように王都の方へ駆け抜けて行った。


 残されたゴリズとニックは犬人の魔核を回収すると、レクスの駆け抜けて行った方角と同じ方へ歩き出す。


「しっかし、アニキ。レクスさん凄かったっすね。」


 にへらと呑気にするニックに、ゴリズは溜め息をつきつつ肩を落とした。


「ありゃ規格外だろ。にしても…えらく若かったな。」


「アニキ気づかなかったっすか?レクスさん王立学園の制服着てたっすよ?」


「はぁ!?」


 ゴリズはレクスの年齢を知ると、顎を外したように大口を開ける。


 幾ら若いと言ってもひと回りも下の少年だとは思ってもみなかったのだ。


 しかも王立学園生ということは、必然的に勇者とも年が近いことになる。


「いやー今年の学園生は凄いっすねアニキ。」


「…最近の若い奴はバケモンばっかかよ。」


 呑気なニックと共に、ゴリズは自信を無くしたように肩を竦めて、冒険者ギルドへ帰っていくのだった。

 ちょうど同じ頃、レクスも大通りを抜け、冒険者ギルドに帰って来たところだった。


 相変わらず人通りの少ない場所にある傭兵ギルドの扉を開ける。

 そこには受付嬢のチェリンと、流れるようなロングヘアのプラチナブロンドをした見目麗しい少女が談笑していた。


 白いカーディガンを着て、茶色のロングスカートを履いた少女だ。


 少女の髪には、レクスが渡したスノードロップの髪飾りが輝く。


 アイスブルーの瞳がレクスを見るや否や、チェリンに断りを入れ、少女は立ち上がり、レクスの方へ向かって来た。


「おかえりなさいませ、レクスさん。予想より早かったですわね。」


 レクスを迎えた少女…カルティアは優しく微笑みながらレクスの前に立つ。


「ただいま、カティ。思ったより巣が小規模で助かったよ。」


 レクスはカルティアに笑いかけると、鞄から小鬼の魔核が入った袋を取り出し、受付カウンターの方へ向かう。


 すでにレクスは依頼終わりにギルド内でカルティアが待っている事に慣れてきていた。


 毎回カルティアが出迎えてくれる事に、レクスは嬉しさも感じていたのだ。


 そんな表情に気が付いたのか、チェリンはレクスを見ていたずらっぽく笑う。


「あら?今日も奥様が出迎えてくれるのが嬉しいのかしら?」


「誂わないでくれよ、チェリンさん。まだ恋人ですらねぇのに…。」


「まだ、ね。師匠に弟子は似るのかしらねぇ?」


 クスクスと笑うチェリンに溜め息をつきながらも、レクスは小鬼の魔核が入った袋をカウンターの上に置いた。


 麻袋は結構な重さのようで、カウンターの上に置くとじゃらりと重そうに袋がへたる。


 チェリンは袋を受け取ると、封を開け、魔核の数を数え始めた。


「23,24,25…25体ね。意外と少なかったわね。」


 冒険者ギルドの二人が聞けば卒倒しそうなことを、なんの気なしにチェリンは呟いた。


 傭兵ギルドに来る依頼はこういったものが多く、当然全員が猛者であるため、全員の感覚が麻痺しているのは言うまでもない事実だった。


 チェリンは魔核の数を確認すると、麻袋を回収し、代わりに依頼料が納められた袋をレクスに手渡す。


「しめて7.5万Gね。お疲れ様。…今日もちゃんと、お姫様を送ってあげなさいね。」


「ああ、わかってるっての。依頼料は確かに貰った。じゃあな。クロウ師匠によろしく伝えてくれ。」


 袋を受け取ったレクスが立ち上がると、チェリンはひらひらと小さく手を振った。


 レクスが会釈して歩き出すと、すぐさま隣にカルティアが立つ。


 カルティアが謎の魔獣に襲われて以来、指名依頼として、レクスはカルティアを女子寮まで送り届けるようになっているのだ。


「それではレクスさん、帰りますわよ。」


「仰せのままに、カティ。」


 レクスは少しおどけたように、カルティアに笑いかける。


 カルティアはレクスの手を握ると、嬉しそうに目を細めた。


 二人で手を繋いだまま、傭兵ギルドの扉を出ると、「ぐぅぅ」とレクスの腹が鳴った。どうやら意外と小鬼の討伐によってレクスはお腹が減っていたらしい。


 その様子がおかしかったのか、カルティアはクスリと目を細めて微笑んだ。


 レクスは少し恥ずかしげに、カルティアからそっぽを向く。


「レクスさん。ハニベアによってから帰りませんこと?」


「…ああ、そうすっか。悪ぃな、カティ。」


「いいえ、わたくしも行きたかったのですわ。さ、参りましょう。」


 カルティアに手を引かれ、レクスはすぐそばの飲食店、ハニベアの前に立った。


 可愛い熊の描かれた看板が風に揺れており、店内の客もあまり居ないようだった。


 カルティアが扉を開けると”カラン”とベルの音が鳴り、出てきたのは看板娘のシャミィ…ではなかった。


「あら、いらっしゃい。レクス殿とカティア殿でしたか。こちらの席が空いていますよ。」


 その人物にレクスとカルティアは目を丸くする。

 シャミィの代わりにレクスとカルティアに応対したのは、傭兵ギルドの医務室にいるはずのイリアであった。


 何時もと異なり黒色のメイド服を着て、ブリムも着用している。

 割と本格的な装いだ。


 白銀の髪と服とのコントラストが絶妙に似合っている。


 ちなみにカティアというのは、カルティアがハニベアや周辺の店に来たときに使う偽名だ。


「い…イリアさん?シャミィさんはどうしたんだ?」


「ああ、シャミィさんでしたら、ガダリス殿とデートです。なので本日は此方がホールに入っています。さ、お席へどうぞ。」


ご拝読、ありがとうございました。

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