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晴天のプレリュード〜幼馴染を勇者に奪われたので、追いかけて学園と傭兵ギルドに入ったら何故かハーレムを作ってしまいました〜   作者: 妖刃ー不知火
第二章・王都・学園・よめとるもの編

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第20−1話

 倉庫に突入したレクスは、闇の巨人と倒れている人物の間に入り、闇の巨人を牽制するように睨む。


 目の前の巨人を前に、レクスは僅かに手が震える。


 しかし戦えと言わんばかりに心臓がざわめき、息を呑む音が身体に響く。


 鬱陶しい位に濡れた外套はレクスをその場に留める重りのようだ。


 倒れている人物は学園の制服を着ているのがちらりと見えたことから、レクスは学園の生徒だと推測していた。


(こんなとこになんで学園の奴がいるのかはわからねぇがよ…それよりあのバケモンだ。何だアイツ、傷が一瞬で治りやがった!?)


 レクスは光弾を打ち込んだ時、何事もなかったかのように巨人の傷が修復されるのを、驚きつつ目の当たりにしたのだ。


(粘獣みたいなもんか…?それにしても…マズイな。早く決着つけねぇと、後ろの奴が死んじまう…!)


 レクスの後ろに倒れている人物はぴくりとも動いていなかった。


 このままでは生きていたとしても死ぬのは時間の問題だ。


 のしのしと近づく闇の巨人に、レクスは”ドンドンドン”と魔導拳銃で素早く光弾を3発放つ。


 闇の巨人の腕に光弾は命中するも、少し巨人は身体をそらすだけで、弾痕は見る影もなくあっという間に修復される。


「…ちっ、効かねぇかよ」


 巨人に対し、レクスは向かっていくように駆けた。

 口元を下げ、ただ無言でレクスは魔導拳銃を構える。


 レクスに対し、大きな拳を振り上げる巨人。


 拳を振り上げる動作を見た瞬間、レクスは屈んで巨人の股下に盗塁するように滑り込みながら魔導拳銃のトリガーを引き、発砲する。


 光弾は股下と大木のような脚に命中し、巨人はのけぞった。


 しかし傷は全く同じように修復されていく。


 レクスはすぐさま反転し起き上がると、右手の剣の狙いを定めた。


「なら、こうってか!」


 レクスは巨人の脚に向かって剣を振るう。


 剣は巨人の脚を意外にもバターのように斬っていくが、レクスは驚きながらその切れ目を見ていた。


 斬ったそばから驚く速さで傷が治っていくのだ。


(効いてねぇ!?嘘だろ!?)


 レクスは剣を振り抜くと、横っ跳びしながらすぐさま闇の巨人の脚に向け発砲する。


 3発の光弾は全て巨人の脚に当たるが、どれも結果は全て同じだった。


 顔を顰め「ちっ」と舌打ちしながらも、レクスは倒れている人物のところへ急いで駆け戻る。


 その時初めて、レクスは誰が倒れているのかを知り、目を見開いた。


「…おい!なんでだよ!」


 そのプラチナブロンドと、虚ろではあるがアイスブルーの瞳を見紛うはずが無い。


 銃口を巨人に向けつつ、レクスは肌に触れる。

 まだ人の温もりがある。


 一縷の望みをかけて、片手でカルティアを揺さぶった。


「おい!カティ!しっかりしろ!…おい!」


「あ…。」


 レクスが声をかけると、僅かに反応が帰って来る。


 カルティアが生きていることにレクスは少し安堵するが、長くは保たないことは誰の目にも明らかだ。


 カルティアの声を聞くとすぐさまレクスは闇の巨人へと向き直る。


 闇の巨人はやはりのしのしとレクスを見つめ、向かってくるだけだ。


 レクスは拳銃についたダイヤルをいつもとは反対に回し、怒りを込めてトリガーを引く。


 魔導拳銃から小さな光弾が幾多も連続で射出された。


 その数は20。


 全ての弾が闇の巨人に満遍なく穴を開けていく。

 だがどれも結果は変わらない。


 傷はすぐに再生されるだけだった。


 レクスはさらに怒りを込め、闇の巨人を睨みつける。


「…悪ぃが、すぐに片付けっぞ。カティを傷つけた分、テメェから依頼料分捕ってやるよ。」


 レクスの口からは普段聞かれない、どすの利いた低い声が響く。


 鋭い目で巨人を見据え、再びレクスは巨人に駆けた。


 すでにレクスに負ける気など無い。

 覚悟なら決まった。


 負ければレクスは死に、カルティアの命も潰えるのだ。


 生きるか死ぬかの分水嶺デッドライン

 今まさにレクスはその場に立っている。


 向かって来るレクスに馬鹿の一つ覚えのように巨人は腕を振り上げた。


 レクスはその振り上げた腕に拳銃を向け、トリガーを引く。


 20発の光弾が次々と巨人の腕を穿つが、結果に変化は見られない。


 そして巨人の腕が勢いよくレクスに迫り来る。


 地面をえぐり取る剛腕がレクスに直撃したかのように見えた。


「ぐっ…。」


 レクスは苦悶の声を上げ、後ろにゴロゴロと転がるも、勢いを殺すとすぐに立ち上がる。


 転がっている際に頬を切ったのか血が滲み、口の端からも血が出ているが、カルティアと比べるとかなり軽傷だ。


 殴られる瞬間のバックステップと受け身。


 レクスはそれだけで、驚くほどにダメージを軽減させていたのだ。


 立ち上がったレクスはぷっと血痰を飛ばすと三度、闇の巨人に突っ込んでいく。


 またもレクスが向かって来たのを見るや否や、闇の巨人は両手を祈るように握り、凄まじい勢いで振り上げた。


 そんな様子に怯む事なく、レクスは魔導拳銃のトリガーを走りながら引く。


 20の光弾がバラけながら闇の巨人の肩や頭部に襲いかかった。


 しかし闇の巨人は恐れることなく、レクスに剛腕のハンマーを振り下ろす。


 そのハンマーはレクスに当たることはなかった。

 人ひとりなどいとも容易く潰してしまえるハンマーの下で、レクスは僅かに身体を横に移動させるだけの動きで躱す。


 牛頭鬼の時と同じ要領で、レクスは見切っていた。

 弾け飛ぶ小石がレクスの顔に降りかかる。


 頬が傷つくも、レクスは一向に構うことなく銃を向けて巨人を見据えていた。


 再びトリガーを引き、発砲。


 20発の弾は全て同じように回復すると思われたが、そのうち一発が当たった箇所だけ、異なる様相を見せたことを、レクスは見逃さなかった。


 闇の巨人が手で顔を隠しながら、大きくのけぞったのだ。


 その一発が当たった箇所は小さく光る巨人の目の間。


 そこに当たった光弾の弾痕のみが修復されていなかった。


「…へぇ、そこが弱ぇのか。大きな図体してんのによ。…カティの受けた痛みはこんなもんじゃねぇだろうが。」


 レクスは口元を上げおどけたように言うが、声はやはりドスが効き、目は全く笑っていない。


 その言葉に怒ったように、闇の巨人はレクスに向け拳をドンドンと畳み掛けるように殴る。


 レクスは銃のダイヤルを瞬時に元に戻し、後ろへ連続で3回、バク転をして闇の巨人の攻撃を回避する。

 そんなレクスを、虚ろな目でカルティアはずっと見ていた。



(なんで…ですの?なんで…わたくしの為に、そこまでするんですの…?)


 カルティアは解らなかった。


 確かにレクスは強く、傭兵ギルドに入るのを認められているほどだ。


 しかし、それだけ。


 幾ら強くともレクスがカルティアを守ろうとする道理は無い。


 少なくともカルティアを見捨てれば、レクスは危ない目にも合わず、日常に戻れるだろう。


 傷つくこともなく、平穏に過ごすことが出来た筈だ。


 王家に媚を売る目的だとしても、こんな危険な橋を渡る必要はない。


 カルティアはそう思っていた。


 だが、レクスは今もカルティアの命を繋ごうと戦っている。

 闇の拳撃と銃声が交響曲のように響きわたる倉庫内で、レクスはひたすらに無言を貫き、懸命に立ち向かっている。


 その理由が、カルティアには解らなかった。

 虚ろなカルティアの目から、また涙が溢れ落ちる。


(ああ、結局…そうなのですね。…わたくしが…レクスさんを理解出来ていないのですわ…。あの…方は…)


 レクスは変わらず、闇の巨人の隙を伺っていた。


 直線的な殴打を最小の動きで躱し、顔に向けて発砲する。


 しかしレクスを見た闇の巨人も顔を巨大な手で覆い、光弾を通さない。


 レクスは顔を顰めつつ、銃を下ろす。


 その機を待っていたといわんばかりに、闇の巨人は手を広げ、レクスを横薙ぎに手で払った。


「がぁっ…!」


 巨人の掌をもろに受け、レクスは壁に向かい飛ばされる。


 叩き飛ばされたレクスの身体は”ドン”という音と共にレンガの壁に叩きつけられ、その場に崩れ落ちた。


 パラパラとした粉塵が舞い、砂煙がレクスを覆い隠す。


(そんな…レクスさん…いやぁ…)


 カルティアの見る前で崩れ落ちたレクスに、カルティアは眼の前が真っ暗になっていた。


 カルティアはすでに、自身の命などどうでもよかった。


 ただ、レクスが自分の為に傷ついていく姿が見たくなかったのだ。


 そしてその時、カルティアは何故レクスがここまでするのかが理解できた。


(ああ…こういうこと…でしたのね…人の思いが読めるのに、こんな…簡単なことに…気付けないなんて。)


『傷つく姿を見たくない。死んで欲しくない。』


 ただ、それだけなのだと。


 あの優しい真っ直ぐな瞳は、それだけしか見えていないのだ。


 それに気が付いた時、虚ろなカルティアの目に僅かだが光が戻った。


 朦朧とする意識の中、自らもレクスの力になりたいと願う。


 弛緩した身体を動かそうとするが全く動かない。


(うごいて…うごいてぇ!レクスさんを…しなせたくないっ!)


 カルティアは心の中で幼子のように叫ぶ。


 しかしボロボロになって脱力したカルティアの身体は動く筈がない。


 闇の巨人はレクスからカルティアの方に視線を戻す。


 カルティアの中にはもう、恐れていた心はなかった。


(おねがいぃ…おねがいぃ…わたくしの…だいじなひとなの…だいすきな…ひと…)


 カルティアに向け、のしのしと再び死が歩み寄る。


 それでもカルティアはレクスを助けたいと願っていた。


 闇の巨人は無情にもカルティアに拳を振り上げる。


 そして次の瞬間。


 カルティアが待ち望んだ声が響く。


「おい、そっちじゃねぇだろ。」


 ドスの効いた言葉に気が付いた闇の巨人は、弾き飛ばしたレクスの方にゆっくり身体を向ける。


 その姿は不死者ゾンビか、はたまた修羅か。


 そこに立っていたのは、服が砂だらけで血まみれになりながらも、鬼の形相で立つレクスだった。


 レクスは払い飛ばされた時もしっかりとダメージを抑えるように素早く後ろに跳び、衝撃を抑えていたのだ。


 レクスは拳銃を下げ、睨みを効かせながら巨人へ向けて疾風の如く走り出す。


 脚に力を込め、ただ疾く。


 そんなレクスを待ち構えるように、巨人は手を広げ、大きく振りかぶった。


 しかしレクスは止まらない。


 闇の巨人は振りかぶった手を薙ぐ。


 レクスはその手の動きに合わせ跳躍すると、ゆっくりと流れる時間の中で銃の照準を合わせた。


 巨人の薙いだ腕が、跳躍したレクスの下を勢いよく潜り抜ける。


 レクスは気にせずただ一点を撃ち抜くのみだ。


 狙うは、眉間の一点。


 全てはこの瞬間のためだけに。


「…この距離なら外さねぇ。」


 ボソッと呟き、レクスはトリガーを引いた。


 3発の光弾がシャインバレットより速く、拳銃から射出される。


 光弾の軌道は違いなく、吸い込まれるように闇の巨人の頭部に炸裂した。


 その衝撃からか、振り抜いた腕をそのままに巨人は後ろへ倒れ込む。


 ”ドスン”という地響きと共に、もわりと砂煙が舞う。


「…依頼料はテメェの命だ。確かに貰ったぞ。」


 巨人の身体はブクブクと発泡したかと思うと、溶けるように瓦解した。


 大きな身体にしては非常に呆気ない終わりだった。


 レクスは着地するとすぐさま身を翻し、剣をしまいながらカルティアの元へ向かう。


 カルティアの傍に腰を下ろすと、虚ろな目を見つめ、その身体を揺さぶる。


「カティ!しっかりしろ!カティ!」


「あ…。あ…。」


 カルティアの口からは僅かに声が漏れ出るだけだ。


 ただその目からは涙が流れている。


 生きている証拠だ。


「遅くなってごめん。痛かったよな?…ぜってぇ助けるからよ。死ぬんじゃねぇぞ。」


 レクスは落ちていた髪飾りを拾うと、カルティアを抱え上げる。


 カルティアの状態は凄惨なものだ。


 口から血と吐瀉物が垂れ、制服はドロドロに汚れている。


 腕はだらりと力なく垂れ、饐えた臭いも漂う。


 目も虚ろだが、その瞳は僅かにレクスを捉えているようにも思えた。


 その姿は糸の切れた人形のようで、一瞬見ただけでは誰もカルティアとは気が付かないだろう。


 レクスはちらと巨人が斃れた場所を一瞥する。


 そこには魔獣の核すら残っていない。


 既知の魔獣とは明らかに異なるナニカだと示していた。


 レクスは視線をカルティアに戻す。


「耐えてくれよ…!もう少しだからな!」


 そのままレクスはカルティアを抱え、倉庫の外へ走り出す。


 倉庫の外は、すでにあれだけ降っていた雨が上がっていた。


(…レクス…さん…。)


 レクスに抱えられて安堵したのか、カルティアはふっと意識を手放した。


 レクスはただひたすらに走る。


 カルティアの命を繋ぎ留める為に。

お読みいただき、ありがとうございます。

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