第18−2話
レクスは理解が追いつかず、目を点にしてカルティアを見つめる。
「異世界って…何だ?この世界の他にも世界があるのか?」
レクスの言葉に、カルティアは真面目な顔でコクリと頷いた
「わたくしも詳しくは知りませんわ。あくまでそういう魔導具だと聞いています。200年に一度、起動できると。でも、リュウジは「ニホン」という国から来たと言いましたわ。そんな国はこの世界にはありませんもの。」
「何でそんなとこからアイツを呼んだんだ?」
「異世界の者が様々な知恵を授けてくれるという逸話がありますの。事実、この国で普及している幾つかの魔導具の開発や、上下水道の整備、衣料品、果ては文字などは異世界の人物が関わっていますのよ。」
「…魔導具ってすげぇな。何でも有りかよ。異世界の人ってのもすげぇけどよ。」
「他にも王家に伝わる魔導具には「死んだ人の記憶を代償にその人物を一度だけ生きかえらせる秘宝」や、「餌を必要としない鉄の馬」などがありますわ。神聖剣もその一つですわ。…話がそれましたわね。」
カルティアはコホンと咳払いをし、上品にカップを手に取ると、再び紅茶を少し飲む。
レクスも合わせて紅茶を少し飲んだ。
レクスの口の中に果実の風味と淡い酸味、僅かな苦味が広がる。
「異世界から呼び寄せたリュウジのスキルが「勇者」だったことから、リュウジは王家の客人になりましたわ。最初にリュウジに触れた時、わたくしは彼の欲望に塗れた心を読み取ったのです。彼は女性の事や自身の力についてのことしか考えていませんでした。わたくしのことも厭らしいことしか考えていませんでしたわ。」
「そりゃ…カルティアも嫌だったろ。」
「…はい。でも、本当に恐ろしくなったのはそこからでしたわ。リュウジが各村への挨拶を終えた後、リュウジが急に王宮の皆に握手を求めるようになってきたのです。わたくしが握手に応じた際…リュウジの心が一切読めなくなっていたんですの。」
「リュウジの心が読めなくなった…そんなことがあるのか?」
「ええ。そのようなことは初めてだったのです。そして、それから急に、王宮の皆がリュウジのことを好意的に言い始めるようになりましたの。兄や姉も皆がリュウジと積極的に関わるようにわたくしに言い始めて…その時、わたくしは本当にリュウジが怖くなりましたわ。」
カルティアは自分の左腕を抑え込むように、右手で腕を握る。
「それからずっと、リュウジはわたくしに言いよってきたのですわ。周囲からもリュウジと仲良くしたほうが良いと言われ…リュウジの周りの女の子たちからもしつこく言われましたわ。」
レクスは入学式の日、カレンがリュウジと共にカルティアと話していた光景を思い出していた。
「王様には言ったのか?」
「もちろん伝えましたわ。でも、父も「リュウジは良い男」の一点張りでしたの。そんな父を見て…日常がリュウジに染まっていく感覚がして…わたくしは…本当に怖かったのです。わたくしだけが正常なのか、わたくしだけが異常なのか、わからなくなって、ずっとこわかったのですわ。」
カルティアの肩が僅かに震えているのがレクスにはわかった。
「そんな毎日が続き、学園に入学してからも、リュウジはわたくしに付き纏いましたの。わたくしは誰も信じることが出来ず、苛ついていく一方でした。…本当に壊れていくような気がしていたのですわ。でもその時、わたくしは貴方に出会いましたの。」
カルティアは俯いていた顔を上げ、レクスを見る。
カルティアの目尻には、恐怖に堪えていたのか少し涙が見え隠れしていたが、その表情は微笑んでいた。
「初めこそレクスさんも精神に干渉してくるスキルを持っていると思っていましたわ。…でも、貴方は今までの誰とも違ったのです。王女だと知っても態度を変えなかった貴方だから、貴方と貴方の周りの人を信頼しようと思ったのですわ。実際、アランさんも、カリーナさんも、エミリーさんも非常に良い方でしたわ。」
「…言ったろ。いい奴らだって。彼奴等はカルティアを怖がらせるなんてことは多分しねぇよ。」
「ええ。とてもいいお友達ですわ。でも、レクスさんに出会ってからですのよ?わたくしが失っていたものを思い出させてくれたことも、勇気をくれたのも全部レクスさんと出会ったことがきっかけですわ。」
カルティアはレクスに優しく微笑んでいた。
レクスは気恥ずかしさもあり、紅茶のカップを持つと残っていた紅茶をあおる。
紅茶はすでに冷めてしまっていた。
すると、カルティアも何処か恥ずかしそうに頬を染めていた。
「わ、わたくし、こんな話をするつもりではありませんでしたのに…おかしいですわね。…ごめんなさい、レクスさん。貴方を気にせず一人で語ってしまって…。」
「…いいや、俺もカルティアの想いが聞けて嬉しいよ。ありがとうな。俺を信用してくれてよ。」
レクスは首を横に振ると、にこやかに微笑みながらカルティアを見る。
「…わたくしも、何かレクスさんにあげれればいいのですけれど…。」
「いらねぇよ。何か貰う為にやった訳じゃねえしな。何か代金や報酬を貰う時は俺が傭兵の任務を受けた時だけだっての。」
レクスは傭兵ギルドに入った際に言われたヴィオナの言葉を覚えていた。
「傭兵は依頼の金銭と己の心でしか動かない」
これはすなわち、依頼でしか報酬は受け取らないという傭兵ギルドの信条が込められている。
その意味を、レクスははっきり理解していた。
「ま、強いて言うなら…」
「強いて言うなら…なんですの?」
「カルティアが楽しければそれでいい。俺が助けたってんなら、幸せでありゃいいのさ。カルティアがな。」
レクスはそう言って腕を頭の後ろで組み、微笑む。
そんなレクスに対し、カルティアは言っても無駄かと溜め息をついた。
「無欲ですのね。レクスさんは。」
「別に無欲じゃねえよ。手段にこだわってるってだけだ。…すみません、紅茶のおかわりを2つ頼む!」
溜め息をつくカルティアに、レクスはにひひといたずらっぽく笑いつつ、紅茶のおかわりを頼む。
店の奥から「はいただいまー!」という店員の声が聴こえてきた。
「…さっきのカルティアの話で思ったんだが、もしかしてリュウジは精神に干渉するスキルを持ってんのか?カルティアが読めないってことはそういう事だろ?」
訝しむように口に出すレクスに、カルティアは静かに頷いた。
「…ほぼ、間違いないと思いますわ。そうでないと、父や母、姉や兄の変わりようにわたくしが納得出来ませんもの。」
「スキル2つ持ってる奴なんて居んのか?」
「わたくしは知りませんわ。鑑定水晶でも一つしかスキルは出ませんもの。」
「まあ、前例が無いんじゃわかりようもねぇか。確実に黒っぽいけどな。…だからといってどうするって話だけどよ。」
「そう…ですわね。精神に干渉するようなスキルはおそらくかけた本人しかわかりませんもの。」
「…そうかよ。」
ふぅとレクスが息を吐くと、ちょうどウエイトレスの女性が紅茶のおかわりを持ってきたところだった。
「紅茶のおかわりお持ちしました!空いたカップはお下げしますね!」
ウエイトレスの女性はカップを置き、空いたカップを下げると店内に帰って行く。
「…そうだ。カルティア、この後時間があるか?」
「ええ。時間はありますわよ?」
「なら、この後着いて来て欲しいところがあるんだ。」
紅茶とビスケットを食べ終えた二人は王都の中心部で学園の隣にある時計塔に来ていた。
時計塔は白く、まるで王都を見下ろすかのようにそびえ立っている。
「ここ…ですの?」
「ああ、ちょっと待ってろ…あった。」
レクスは時計塔の整備のための入口を見つけ、ドアを開ける。
鍵はかかっているのだが、経年劣化のせいなのか壊れているところをレクスが見つけたのだった。
「カルティア、こっちだ。」
「え、ええ。わかりましたわ。」
何をするのか戸惑っているカルティアにレクスは手招きをして整備の為の入口に招き入れる。
時計塔の中に入ると時計につながる機械と上へ上がる簡易的な階段があり、中は少しほこりっぽかった。
レクスはカルティアの手を引き、時計塔の階段を登り始める。
「れ…レクスさん!?」
「もうちょっとなんだ。少し時間が無くてな…。」
レクスはテンポよく階段を駆け上がる。
カルティアもレクスに続いてトントンと階段を登っていく。
そして、階段を登った先は時計盤の真裏だった。
中は薄暗く、時計盤の隙間から光が差し込んでいる。
「よし、間に合ったな。」
「はぁ…はぁ…いきなり駆け上がらないでくださいませ。」
「悪ぃな。見せたいもんがあってよ。」
レクスはカルティアににししといたずらっぽい笑みを浮かべながら、手招きをする。
カルティアもふぅと溜め息をつきつつ、レクスに従い、レクスの傍に寄った。
「悪ぃな。これが見せたかったもんだ。」
レクスは時計盤の裏を開き、窓のように解放する。
するとそこには、日没前の夕焼けで赤く燃え上がるような空と、夜になりかけた藍色の空のコントラストが広がっていた。
「…まあ。綺麗ですわ…。」
カルティアはその美しい光景にゴクリと息を呑んだ。
レクスは間に合ったと安堵し、ふんと鼻から息をもらす。
「これが…見せたかったもの…。」
「ああ。綺麗だろ?。」
「…ええ。すごく綺麗ですわ…。」
レクスはカルティアに微笑み、カルティアはその綺麗な光景に見入っていた。
そんなカルティアにレクスはポツリと声をかける。
「なぁ、カルティア。入学式の時に、俺はカルティアがとぼとぼと寂しそうに歩いてるところを見かけたんだ。…今は、寂しいか?」
レクスの問いかけにカルティアはゆっくりと首を横に振る。
「…いいえ!今は、全然寂しくありませんわ!」
カルティアは満面の笑みをレクスに向ける。
レクスも満足げに微笑んでいた。
「じゃ 、それが報酬だ。…俺はカルティアの笑った顔や嬉しそうな顔が見たかった。カルティアに寂しそうな顔は似合わねぇよ。」
レクスの言葉にカルティアの胸がドキンと高鳴る。
カルティアは頬が熱くなり、レクスの顔を直視できなくなってしまう。
頬の赤さは夕焼けのせいか、レクスは気が付いていない。
(ああ、そういうことでしたのね。もう、わたくしは…。)
レクスはカルティアの様子に気付かず、ただぼんやりとカルティアの傍で夕焼けのコントラストを眺めていた。
カルティアは横目でちらりとレクスを見るが、胸が高鳴り、直視できない。
「レクス…さん」
「ん?何だ、カルティア。」
「「カティ」と呼んでいただけませんか?わたくしの両親はわたくしをそう呼びますの。」
「ああ。わかった。…カティ。」
「…ええ。ありがとうございますわ。レクスさん。」
カルティアとレクスは日が沈むまで、ただ無言で夕焼けの空を眺めていた。
カルティアは自室に帰ると、ベッドの上にゆっくりと腰掛けた。
その顔は赤く、レクスと一緒にいた時の胸の高鳴りが未だに残っている。
カルティアは自身の胸の中央に右手を当てた。
「わたくしの胸…触られても、全く嫌ではありませんでしたわね…。」
レクスに胸を揉まれた時を思い出し、カルティアは独りごちる。
あの時、カルティアは驚きはしたものの、嫌な気はしていなかったのだ。
カルティアはふぅと息を吐くと、左手で自身の髪飾りを外し、しげしげと見る。
レクスに買ってもらった、精巧にスノードロップの彫金が施された髪飾りだ。
カルティアの家、つまり王宮の中にはこの髪飾りの価値を超える品がごまんとある。
しかし、今のカルティアにはその髪飾りが一番価値のあるように思えた。
カルティアは掌の上の髪飾りを見つめ、優しく握る。
「わたくしはいつから…いえ、最初からですわね。…わたくしのことながら、こんなに軽い女なんて思いもよりませんでしたわ。」
カルティアは見慣れた天井を仰ぎ見て、ふぅと息を漏らす。
その頬は赤い。
「わたくしは…レクスさんのことが…殿方として…好き…なのですわね。」
呟いた言葉はすとんとカルティアの心にはまり込んだ。
そのままカルティアは今日のレクスの表情を思うと、胸がじわりと暖かくなるのを感じた。
しかし、カルティアはふぅと息を吐くと、その表情を沈ませる。
「でも…この想いは封印しなければいけませんわ。わたくしはこの国の第三王女…なのですから。」
レクスへの好意を自覚したカルティアだが、グランドキングダムの第三王女という事実が、カルティアに重くのしかかっていた。
「わたくしは…この国のために、身を捧げねばなりません。例え、その相手がリュウジだとしても。他の国の見知らぬ誰かでも。」
カルティアは自分が外交の手段として政略結婚を求められることが分かっていたのだ。
例えそれが魔王を討伐した褒美ということなら、リュウジと結婚させられるだろうということもカルティアは予想していた。
そんなカルティアがレクスに愛称を呼ばせたのは、囁かな抵抗であり、自身の気持ちへの精一杯の妥協だった。
カルティアの脳裏に、リュウジの下卑た顔が浮かぶ。
カルティアは恐怖で歯を噛み締め、自身の身体を抱き締めた。
「わたくしは…もう寂しくなんてないのですから…大丈夫…ですわ…。」
その呟きはカルティアの精一杯の強がりだった。
カルティアのスカートにぽたりぽたりと雫が落ち、その雫が落ちたスカートの色が変わる。
カルティアの髪飾りを握る手が少し強くなる。
「レクス…さん…。」
カルティアの苦々しい呟きは、誰の耳にも届いていない。
一方、レクスも帰ってからベッドに仰向けになって寝転がっていた。
同室のアランはまだ帰って来ていない。
レクスだけの部屋で、ぼーっと木の天井を見ながら、カルティアの話を思い出していたのだ。
「リュウジが精神に干渉できる…ねぇ。」
レクスは寝転んだまま、ふぅと溜め息をつく。
カルティアの話を聞いた時、脳裏に浮かんだのはリナたちだった。
「精神の干渉を受けておかしくなっちまったってか?そんなことがあんのか?」
レクスにとって、リナたちの変化は急過ぎたのだ。
前日まで普通に会話していた相手が急に変化するという怖さは、レクスはすでに味わっていた。
「そういや、リュウジは握手って言ってたな。もしかしてあれか?」
カルティアの話では、リュウジはしきりに握手を求めているとレクスは聞いていた。
レクスが思い返してみると、アルス村に来たときや入学式の直後もリュウジは握手をしようと女子に語りかけていた記憶がよみがえる。
「カティも…怖かったろうな。自分以外がおかしくなるなんてのはよ。」
自身が変化に取り残される恐怖はレクスには想像ができなかった。
レクスの両親と義母はレクスを取り残すことはなかったのだから。
「…てか、親父たちは気づいてんのか…?いや、気づいてても対処のしようがねぇよなぁ。」
レクスが両親と義母の顔を思い浮かべていると、ガチャリとドアが開き、アランが帰って来た。
「おや、レクス君!帰っていたのかい!君より遅くなってしまったねぇ!」
「おかえり、アラン。お疲れ。」
アランはレクスに気が付いて挨拶をした後、いそいそと自身の使っている机に向かい、鞄の中身を取り出していた。
そんなアランを見て、レクスはふと入学式の日を思い出す。
(そういや、カリーナもリュウジと握手してなかったか?…でもカリーナはリュウジに好意的じゃねえよなぁ…なんでだ?)
「なぁアラン、ちょっと良いか?」
「んん?何だいレクス君。」
レクスの声に、アランはレクスのほうへ顔を向ける。
レクスは寝転んだまま、言葉を口に出した。
「…カリーナになんかおかしなところはなかったか?」
「どうして君が気にするんだい?別に今日、カリーナにおかしなところはなかったよ。今日も見たい演劇があるって言ってたから一緒に見に行ったしね!…何で僕がカリーナと一緒だってわかったんだい?」
「…一緒だったのかよ。そうか。カリーナは何もねぇのか…。」
アランはそのままレクスから机の方に顔を戻すと、鞄から紙を取り出していた。
取り出していたのは、演劇のパンフレットだ。
(カリーナは無事…ねぇ。エミリーもだろ?とするとリナたちや他の女子と何が違うんだ…?)
レクスはカリーナとエミリーを思い浮かべ、口をへの字にしながら他の女子との違いを考える。
(スキル…は持ってねぇよな。ヴァンパイアとドワーフだ。種族…か?ならクオンがかかるのはおかしい。…いや、ハーフだから良いのか?何だ…もっと単純なことか…?…そういやエミリーはいつもグローブ着けてんな。それか?ならカリーナはかかってるはずだけどよ…?何があるんだ…スキルの条件ってよ?)
その時、レクスはふっとアランから聞いた言葉を思い出した。
「そうか!血の盟約か!?」
言葉と共にレクスはバッとベッドから上体を起こす。
その様子にアランはびくりと肩を震わせ、目を見開いて驚き、レクスの方に顔を向ける。
「び…びっくりするじゃないかレクス君…。血の盟約がどうしたんだい?」
「わ…わりぃアラン。ちょっと考え事してた。…アラン、ちょっと聞いて欲しいことがあるんだが。」
「ん…わかったよ。どうも重要な話らしいね。」
「ああ。言っても憶測にすぎねぇことだけどよ。」
レクスはアランにリュウジのスキルのことについて話す。
リュウジが握手で精神の干渉をしているのではないかという疑念を持っているということをカルティアのことは少し伏せつつレクスはアランに話していく。
アランはレクスの話を静かに聞いていた。
「…ってのが俺の考えだ。だからってどうしようも無いけどな。気がついたのはカテ…カルティアのお陰だ。」
「…いいや、レクス君は凄いね。なるほど、握手で精神に干渉するからエミリー嬢はグローブで守られ、カリーナは僕との血の盟約で守られたと…。そしてカルティア様はスキルで効かなかった。…みんな女子ばかりだね。」
レクスの意見に、アランは真剣な顔で興味深そうに頷いた。
「アイツの性格的に男はすすんで干渉しねぇだろうよ。」
「まあ、そうだったらもっと上手くやるだろうね。…もし僕がそんなものを持っていたとするとの話だけど。でもそうなら、王様や王妃様もリュウジの精神干渉を受けているってことかな?」
「…ああ。おそらくはその可能性が高ぇ。多分、何言ってもリュウジの味方するだろうな。」
レクスはカルティアのことは少し伏せた為、確証を持っていないように繕った。
そんなレクスに、アランはふぅと溜め息をつく。
「…なるほどねぇ。勇者君はそんなことをして、一体どうしようと言うんだろうね。」
「さあな。王様にでもなりたいんじゃねぇの?」
「ハハハ…勇者君が王様か。そうなったらこの国の貴族を纏められそうも無いけどね。例え精神に干渉できても、その数はかなり多いよ。」
「王様なんて俺にゃ想像もつかねぇけどな。俺は村で農家やってるか傭兵の仕事やってる方が気が楽だ。」
「木彫り職人でも良いんじゃないかい?」
「……ちげぇねぇな。」
レクスとアランはハハハと笑い合う。
「どのみち、勇者君とは握手をしない方が良さそうだね。カリーナやエミリー嬢にも言っておくとしよう。…もしも勇者君がカリーナに手を出すようなら、僕は我慢が出来そうにない。」
アランの言葉の最後には、明確な殺意が籠っていた。
レクスは再びゴロンと仰向けに寝転がる。
レクスの頭の中には、リナたちの顔があった。
(もし……精神の干渉が無くても、リュウジがあいつらを傷つけるってんなら…。例えあいつらが望んだ事だとしても…。)
レクスは仰ぎ見た天井を睨みつける。
「……俺も容赦、出来ねぇ。」
レクスの呟きは、アランには聴こえていなかった。しかしその言葉は、レクスの中でずっと反響していた。
「ふふっ、わかりましたわ。何処へ連れて行ってくれるんですの?」
「ああ。お気に入りの場所だ。」
レクスはニコリと笑いながらカルティアを見る。
カルティアはきょとんとしながらレクスを見つめていた。




