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第13−2話

「あー!そこに居るのは無能くんじゃないか!どーしてこんなところに居るのかなぁ!」


 わざとらしく大きな声をあげるリュウジに、クラス内の視線が一斉にレクスに向く。

 レクスは苦虫を噛み潰したような顔になり、リュウジから少し目線を逸らした。

 リュウジはつかつかとレクスの方へ歩み寄ると、レクスの席の前に立つ。


「君は冒険者にもなれない無能君じゃないかぁ。そんな君がよく入学出来たね。裏口入学でもしたのかなぁ?よくそんなお金があったもんだと思っちゃうよね。それとも、誰か脅したとか?でも君には無理か。アハハハッ」


 ニヤつくリュウジはレクスに顔を近づけ、言葉をまくし立てる。

 リュウジの言葉に周囲も反応し、レクスはその視線が痛かった。

 アランは驚きつつ、カリーナはおどおどしながらレクスを見ていた。


「良いだろ別に。俺が何処に居ようと勝手だろうが。」


 レクスは少々苛立ちつつも、リュウジから顔を背け呟く。

 するとリナたちもリュウジの傍へ近寄り、レクスを睨みつける。


「あんた不正に入学したの?ほんっと最低なヤツね!」

「リナの言う通りです。どれだけ恥知らずなんですかクズ。」

「何でいるですか。お前が付き纏ってくると鬱陶しいですよゴミ野郎。」


 流れるような3人の罵倒に苦しそうに顔を顰めるレクスだが、はぁと大きく溜め息をつくと、ブレザーのポケットからカードを取り出し、机の上にパンと音を立てて置いた。


「別に不正になんざ入ってねぇよ。やり方すら知らねぇし。…ほら、これで良いだろ。」


 レクスが机の上に置いたものは、自身の傭兵ライセンスだ。

 それを見たリュウジは不思議そうな顔を浮かべる。


「何だいこれは?…プハハハ!傭兵ライセンスだって?そんな訳の分からないもので入ったのかい君は?」


 その言葉で、レクスは僅かにリュウジを睨む。

 リュウジはそんなレクスを相変わらずニヤついて見ていた。

 リュウジの傭兵ライセンスと言う言葉に、クラスの数人が驚いた顔をする。

 それはアランとカリーナも同様だった。

 カルティアすらも驚いた表情をレクスに向けた程だ。レクスやリュウジは気づいていなかったが。

 その他の生徒はリュウジと同じようにクスクスとレクスを笑っているようだった。

 そんな顔を知らず、リュウジは自身のブレザーからカードを取り出す。

 冒険者のステータスカードだ。


「僕たちは由緒正しき冒険者のステータスカードで入ってるんだ。傭兵ギルドなんて無名のギルドは知らないね。どんな物語でも冒険者が鉄板なのにさ。」


 リュウジはステータスカードの右端を自慢げに指し示す。

 その指の先には、”C”という文字が書かれていた。


「僕たちは冒険者ギルドの依頼を受けて歴代最速でCランクに上がったんだ。君のような無能くんと違ってね。まあ、不正がなかったってことは認めてあげるよ。せいぜい頑張って僕たちに追いついてくれよ。ま、無理だろうけどね。アハハッ!…行こっか、皆。」


 そう言うと、リュウジは自分の席にゆっくりと帰って行く。

 リナたちもリュウジに頷くと、リュウジに連れられて席に着いた。

 レクスはリュウジたちが去ると、ほっと一息をつく。


(あー、毎日ああ言われるとつれぇな。いつか飽きんだろ。…我慢出来っかなぁ。)


 レクスは憂鬱な表情を浮かべ、頬杖をついていた。

 周囲も何かひそひそと話しているが、レクスにとってはどうでもよかった。


「あー、レクス君。君はもしかしなくても、傭兵…なのかい?」


「もしかしなくてって何だよ。れっきとした傭兵だよ。」


 おそるおそる聞くアランに、レクスはジトっとした眼で答えた。

 するとアランはレクスをじぃっと見て、満足そうに頷いた。


「なるほど、そういうことか。やはり僕の見る目は間違っていなかったんだね。レクス君、やはり君は僕の友人にふさわしい!」


「何だよアラン…気色悪いな。」


 自身の中で何かに納得したアランに、レクスは悪態をつく。

 しかし、その口元は笑っていた。

 アランの言葉が、単純に嬉しかったのだ。

 するとカリーナもアランにつられたようにレクスを睨む。


「確かにな!我らの盟友であらばそれなりの人物であるべきだ!クハハハ!喜べレクス!貴様は我らの眼鏡に適ったのだ!光栄に思うが良い!…傭兵っていっても、こわい人じゃないもんね。」


「何だよカリーナも。…素が出てんぞ。」


「す、素など出とらんわ!元から素だもん!」


 レクスが少し嬉しげに笑いながら答えると、カリーナは頬を赤くして言い返す。

 すると、また扉が開いた。


「間に合ったのだぁー!ふぅ、遅れるかと思ったのだ。」


 入って来たのは赤茶けた肌をした、クオンよりもずっと背の低い少女だ。

 ボサボサだが後ろで一つに纏めた赤い髪と燃えるような朱色の眼は少女の元気さを物語っているようだ。

 少し着崩した制服からは胸の谷間が見えており、胸の膨らみも身長からすれば大きい。

 手にはグローブをはめている。

 総合的に、元気そうな美少女だった。


(ありゃ…ドワーフの女の子か。そういや試験会場に居たな。)


 ドワーフとは人間に近しい種族である亜人の一種だ。

 赤茶けた肌に大人でも幼児のような身長が特徴の種族で、器用さに長け、暑さへの耐性を持っている。

 その特性で工業や鉱業の現場で活躍している種族だった。

 レクスはその少女が自分と同じ試験会場で試験を受けているのを覚えていた。


「…可憐過ぎる…」


 レクスは隣から聞こえた言葉に、アランの方を向く。

 アランはポーッと熱を帯びた視線でドワーフの少女を見つめていた。

 カリーナはそんなアランに気がついたのか、口を曲げて不機嫌そうな顔をしている。


「…だが、胸が大きいのが惜しいな。カリーナ程であれば完璧だった…。カリーナも背が高く無ければ…へぶぅっ!?」


 アランが全てを言い終わる前に、カリーナのチョップがアランの脳天を直撃した。

 頭を押さえるアランに対し、カリーナは少し涙目だ。


「…アランのばか。ふんっ。」


 カリーナは頬を膨らませ、つかつかと自分の席に戻る。

 アランは痛みに悶えていた。


(アラン…そういう趣味かよ。)


 アランの意外な一面を知ってしまったレクスは苦笑する。

 その時ガラリと教室の戸が開き、紙束を抱えて緑髪の長髪をした人物が教室に入って来た。

 何処か生徒たちを見下すような眼をしたエルフの男性、アリーだ。


「静かにしろ。席に着け。…私がこのクラスの担任と、魔法の授業を務める、アリー・ゾージアだ。貴様らを1年間担当してやる。有難く思え。」


 まるで生徒を見下すような口調と視線、高圧的な態度に何人かの生徒が竦み上がる。

 その中の一人にカリーナもいた。

 アリーは教室内をぐるりと見渡し、再び口を開く。


「…このクラスは、家柄や出自を問わず、試験成績がよかった者が集まったクラスだ。だからこそ私は貴様らに一切分け隔てなく接する。例えそれが勇者や王族だとしてもな。」


 アリーはコホンと咳払いをすると、手に持っていた紙束をコンコンと机で叩いて整えた。


「それではこれから学生寮の入寮規則を配布する。貴様らはこれから寮で生活をすることになる。よく目を通しておけ。」


 そう言ったアリーは手に持った紙を配り始めた。

 前の席から回って来た紙にレクスは目を通す。

 そこには寮の規則や寮の種類、寮の設備について細かく記載されていた。


(男子寮、女子寮は基本的に相部屋になんのか…勇者だけの寮なんてあんのかよ。)


 レクスは寮の記載をよく読むと、勇者だけは寮では無く別の場所で寝泊まりすると書かれていた。

 その他にも多くの記載事項があり、レクスが全部読み込むのには時間がかかりそうな量だ。


「紙は全員に行き渡ったな。寮へはこの後自己紹介が終わってから各自で分かれて貰う。次に時間割だが…」


 アリーは学園の時間割について話を始めた。

 要約すると、週5日で午前が座学、午後は「実技」もしくは「活動」となるという事だった。

 午後の「活動」というのは、冒険者としての活動や生徒会活動などが含まれ、それらの実績が授業単位になるという事だ。それが出来ない者、もしくはしない者が実技を受けるという事らしい。

 つまりレクスからすれば、レクスが傭兵として活動すればそれが単位となるという事だ。


(傭兵活動も授業になるってことか…。金もねぇし、どのみち傭兵の仕事取ってこなきゃいけねぇってことだよなぁ。婆さんも学生の時間で出来る依頼も有るって言ってたし、後で婆さんかクロウ師匠にでも相談してみっかね。)


 アリーの話を聞きつつ、レクスはそんな事を考えていた。


「以上で授業についての話を終える。分からなかった者は後で聞きに来い。その耳に嫌と言うほど叩き込んでやる。…それでは自己紹介に移るぞ。各自、名前と意気込みでも語れ。私は一切興味も無いがな。名前ぐらいは覚えておこう。それでは右端の奴から言っていけ。」


 アリーが右前端の生徒を指で指す。

 そのワインレッドの髪色をした男子学生は立ち上がると、その場で全員の方を向き、口を開いた。


「おれ、ライケン・グリッツォっていいます!しっかり勉強を頑張りたいと思います!」


 その男子学生…ライケンは話が終わると一礼をしてそのまま座る。


(ああ。あんな感じで良いのか。このまま行くと俺が最後かよ。)


 ライケンの自己紹介を聞き終えると、レクスはその後ろの学生に眼を移す。

 その後もそんな形で自己紹介が進んでいった。


「僕はリュウジ・キガサキだ。知っているだろうけど、僕が勇者さ。皆の平和の為に頑張るよ。よろしく!」


 リュウジが自己紹介をすると、女子生徒から熱い声援が湧き起こる。


「あ、あたし、リナっていいます。その…よろしくお願いひましゅ!」


 リナは自己紹介を噛んでいた。


「私はカレンといいます。王都の外から来ましたので不慣れなことも多いですが、仲良くしてくださると嬉しいです。」


 カレンの自己紹介は丁寧で、その微笑みはクラスの男子生徒を魅了したようだった。


「クオンなのです。勇者のリュウジと一緒に頑張るのです。よろしくお願いしますなのです。」


 クオンが小さくぺこりとお辞儀をすると、女子生徒が「かわいい!」と歓声を上げていた。


「ノアだよ。リュージのついでみたいなものだけど、私も頑張るから期待しててね?」


 ノアは蠱惑的な表情でウィンクをして、アピールをしていた。

 すると、ドワーフの少女の番になる。

 ドワーフの少女は立ち上がるとにぱっと笑いながら口を開いた。


「エミリーなのだ!立派な鍛冶屋を目指して頑張るのだ!」


「エミリー嬢……まさに砂漠に咲く1輪の花のようだ……。」


 エミリーの自己紹介に熱い視線を飛ばすアランの小さな呟きは、レクスにしっかりと聞こえていた。


(ほんとに大丈夫な奴かアランってよ…?)


 エミリーの次はあのカルティアという少女だった。

 カルティアはスッと音もなく立ち上がり、凛とした佇まいで話しだす。


「カルティア・フォン・グランド。家の務めでこちらに参りました。最低限のお付き合いで結構ですわ。」


 そのままカルティアは着席する。

 カルティアの冷たい印象はクラス内に伝播していた。


(綺麗な人だけど、どっかトゲトゲしいよなぁ…。まぁどっかの貴族さんだからだろ。)


 レクスはカルティアを見て、無意識に溜め息をついていた。

 順番が回り、カリーナの番になる


「カリーナ・ヴラドだ。皆の者、このクラスで我と一緒なことを光栄に思うが良い。退屈はさせぬぞ。クックック。」


 悪そうな笑みを浮かべるカリーナは明らかに悪目立ちしてしまっていた。


「アラン・クライスタッドだ!僕は高貴なる貴族を目指して日々奮闘している!仲良くしてくれ給えよ!」


 アランも明らかに悪目立ちして、ドン引きされていた。

 そしてレクスの前の人物が終わり、最後にレクスの番となった。


「……レクスだ。よろしく。」


 レクスは挨拶を端的に済ませ、すぐに座る。

 周囲はレクスのあまりの素っ気なさに感じの悪さを覚えていたのは言うまでもない。

 先ほどのリュウジとのやりとりがあればなおさらだ。

 しかもレクスは立った瞬間にリナたちの嫌悪した目線を感じ取ったのだ。

 針の筵に近い状態に、レクスは居心地が良い訳が無かった。

 レクスが座った後、アリーが前に出る。


「これで全員済んだな。それでは本日は解散だ。明日からは授業もある。しっかり休んでおくように。」


 そう言うとアリーは教室から足早に出ていく。

 アリーが出ていくと、学生が徐々に立ち上がり、教室から出ていったり、会話に興じ始める。

 するとリュウジは立ち上がると教室の女子に片っ端から声をかけ始める。

 どうやら自身のアピールをしつつ、友好の証として握手を求めているようだった。

 そんなリュウジを横目に、レクスは荷物をまとめて立ち上がろうとすると、アランがレクスに声をかけた。


「レクス君!この後予定はあるのかい?」


「ん…?いや、無ぇけど。」


「ならこの後一緒に食事でもどうだい?この学園の学園食堂は絶品らしいからね。レクス君が嫌なら構わないが…?」


「嫌な訳はねぇよ。じゃ、一緒に行くか、アラン。」


 レクスは優しげに微笑みながら、アランに答える。

 アランはうんうんと何処か得意げに頷いていた。


「そうだ。カリーナも誘うけど構わないかい?」


「わかった。別に構わねぇぞ。」


 そうしてアランはカリーナを誘おうと、カリーナを探す。

 カリーナはリュウジと握手をして、丁度手を離したところだった。

 アランとレクスはカリーナの元へ歩み寄る。


「カリーナ!これからレクス君と一緒に食事を取ろうと思うんだがどうだい?」


 アランはカリーナに話しかけると、カリーナは一瞬アランを睨んだのち、今度は少し戸惑ったような表情を浮かべる。


「カリーナ?」


「あ、ご……ごめんねアラン。あても一緒に行くよ。……何で一瞬でもあんなこと思っちゃったんだろ…?」


 戸惑っているカリーナの様子は、何かおかしいようにレクスには思えた。


「大丈夫か?カリーナ。具合とか悪いんじゃねぇか?」


「フッフッフ。レクス、貴様に心配されるほど我はやわではない。共に我が盟友の契りを深めるのもやぶさかでは無いのでな。……きっと、気の所為だよね。」


 心配するレクスに対し、カリーナは胸を張って答える。


「それでは行こうか!共に友情を結んだ記念として!」


「ハハハッ。何だよそれ。」


 相変わらずテンションの高いアランに、レクスは笑いながらついて行き、カリーナもそれに続いて教室を出る。

 そんな一行を、というよりレクスを見つめている人物がいることにレクスたちは気が付かなかった。


「あれが……傭兵……。」


 カルティアの呟きは、そのまま教室の話し声に埋もれていった。

ご拝読いただきありがとうございます。

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