第12−2話
リュウジたちが実技試験を受ける少し前。
学識試験を終えたレクスは回答を提出した後、教室を出て実技試験会場に向かい、外を歩いていた。
(…すげぇ簡単な問題だったんだが…あれでよかったのか?)
レクスはぼーっと上を向きながら、先ほどまで自身が受けていた試験のことを考えていた。
レクスは王国の歴史などを問う問題が出てくると、答えられないと思っていたのだが、実際に出てきた問題は読み書きと単純な四則演算問題、そして現在の国王を答えるなどの一般常識問題だったのだ。
(母さんや親父から教わった程度で答えられるとは…。もっと難しい問題かと思ってた。貴族の試験は違うのかねぇ?)
あまりにも自身には簡単すぎた問題に、レクスは首を傾げる。
実はレクスは知らないが、貴族も全く同じ問題を出されていたのだった。
そうして首を傾げながら歩くレクスは前方から歩いてくる人物に気づかなかった。
「きゃっ…!」
「あだっ!」
レクスは誰かとぶつかり、転んでしまう。
レクス自身は幸い軽く尻もちをついた程度で、何処も打っていないようだった。
「いったた…悪ぃ!前見てなかった!大丈夫…か…?」
レクスは直ぐに立ち上がり、ぶつかった相手を見る。
その相手を見るやいなや、レクスは息を呑んだ。
透き通るようなアイスブルーの瞳に、陽の光に反射するプラチナブロンド。
ぶつかった相手は朝方、レクスが見惚れていたあの少女だった。
少女も尻もちをつき、腰の方を擦っている。
(近くで見ると、やっぱりすっげぇ綺麗な女の子だな…いけねぇいけねぇ!早く起こしてあげねぇと!)
レクスは一瞬見惚れてしまったが、ハッとすると少女に近寄り、手を差し出す。
「悪かった!…起き上がれるか?」
「全く…しっかりと前を見て歩いてくださいませ!」
少女は少し怒ったような顔でレクスを睨むも、レクスの手を取る。
「…あら?」
少女はレクスに手を取られ立ち上がる。
その時、少女は不思議そうな顔でレクスの顔を見ていた。
少女を立ち上がらせたレクスは頭を下げる。
「本当に悪かった!どっかケガしてねぇか!?」
「…嘘、こんなことってありますの?」
少女の呟きに顔をあげるレクス。
すると少女はコホンと咳払いをする。
その後キッとレクスを鋭く睨んだ。
「今は許しますが次はありませんわよ。お気をつけなさいませ。」
「あ、ああ。悪かった。」
レクスの謝罪も聞かず、少女は不機嫌そうにスタスタと歩いていく。
レクスはその少女が歩いていく様を後ろからじっと見つめていた。
(あんな喋り方すんのか…怒らせちまったな。まぁ…また会うかはわかんねぇけど。)
レクスは少女の背中が遠ざかるのを見送ると、前に向き直り、歩き始めた。
レクスが向かうのは戦闘試験の方だ。
西側グラウンドに向けて、朝貰った案内図を元にレクスはとことこと歩いていく。
試験会場に近づくにつれ、他の受験生も多くなる。
受験会場では、割と多くの人が集まっていた。
レクスが少し耳を澄ますと「あれが勇者か」という言葉や、「あの赤い子もめっちゃ綺麗だ」という言葉が聞こえてきた。
(勇者と赤い子…リュウジとリナか。そんなに凄いのかあいつらは…。)
そんなことを考えながらレクスは戦闘試験の受付に向かう。
戦闘試験の受付には中年の金髪をした男性が立っており、並んだ受験生を確認して装備品を手渡していた。
レクスも例に漏れず、受験生の列に並ぶ。
並んでいた場所からは、受験生が試験官と戦闘している光景がよく見えた。
すると一際他の受験生がざわつき始める。
レクスは何気なく試験を受けている人物を見て目を見開き、驚きの顔を隠せなかった。
(嘘だろ!?リナはあんな大剣使うのかよ!?今まであんなもん使ったこと無いだろあいつ…?)
レクスの目線の先には、リナ自身の背丈ほどの大剣を持って試験官と対峙するリナがいた。
「両者そろったな。それでは…始め!」
試験官の声が響き、両者の剣がぶつかり合う。
試験はリナが終始圧倒しており、リナのカウンターで勝負が決まったようにレクスには見えた。
(リナもあそこまで大剣使えるようになってんのかよ…すげぇな。でも…やっぱり歪だよなぁ。振り回されてんなぁあれ。)
レクスは素直にリナの戦いに感心するが、何故かレクスにはリナが剣に振られているように思えてしまったのだ。
(何だろ…力は足りてんだけど芯が無いってのかなぁ?あ~よくわかんねぇ。クロウ師匠や婆さんならわかんだろうけど。)
レクスは考えが纏まらない自身の頭を少し搔く。
リナには酷な話だが、レクスは無意識に傭兵ギルドの先輩たちとリナを比べてしまっていたのだ。
すると試験官が交代し、女性の試験官に代わった。
「勇者リュウジ殿の試験を始める。前へ!」
リュウジの試験が始まったらしく、リュウジが前に出る。
するとリュウジは人差し指を一本立て、試験官に示していた。
レクスにもその行動の意味が全く分からない。
リュウジと女性の試験官が何か言い合っているようだが、周囲のざわめきでレクスには会話が聞き取れなかった。
「それでは両者…試合開始!」
先ほどまでリナの相手をしていた試験官の声が響き、剣戟が始まる。
最初からリュウジの攻撃でリュウジが押していた。
その動きをレクスは注意深く見つめる。
(リュウジの奴、最初から飛ばしてんな。でも…遊んでやがる。)
レクスにはリュウジの僅かだが相手を誂うような素振りが見えた。
(あんな戦いしたらクロウ師匠とかに即引っ叩かれんぞ…?)
レクスの感想をよそに、リュウジのペースで試合が進んでゆく。
最後までそのままリュウジが剣を試験官に叩き込んで勝ったのだが、レクスは何処か腑に落ちないようにリュウジを見つめていた。
(確かに剣も重そうだし速え剣だけど…何だろ?なんか面白くねぇ剣筋だよな。そりゃクロウ師匠とか師匠の奥さんたちと比べちゃいけねぇとは思うけどな。)
レクスの脳裏にはクロウやクロウの嫁たちの顔が思い浮かぶ。
一昨日、クロウからその時いた傭兵たちを紹介してもらったのだが、その中でクロウの妻たちも紹介してもらっていたのだ。
クロウの妻たちは全員傭兵ギルドに登録している傭兵だ。
中でも黒髪で白い着物を着ていたアイカという女性と同じく黒髪で赤い着物を着たアヤネという女性のの剣閃が凄まじく、レクスは圧倒されたのが記憶に新しかった。
本人たちから聞くところによれば2人は姉妹だということにレクスは絶句していた。
(アイカさんもアヤネさんもめっちゃくちゃ強いしよ…クロウ師匠って何者だあの人…?)
「次の方ー?」
レクスが声にハッとすると、受付の人が手招きをしていた。
考えすぎて前を見ていなかった事にレクスは焦る。
「悪りぃ!すぐ行く!」
レクスは慌てて受付の人の元へ急いだ。
受付の中年男性の元へ行くと、中年男性はレクスをざっと見ると片手を出した。
「はーい。平民の方ね。ちゃっちゃと身分証明だして。」
何処か舐め腐った態度を取る受付にレクスは少しむっと苛つくが、腹を立てても仕方ないと抑えて傭兵ライセンスを提示した。
「はーい。ステータスカードね…え?よ…傭兵ライセンス!?…しょ…少々お待ち下さい!すぐ戻りますので!」
受付の男性はレクスの傭兵ライセンスを見るとたちまち顔色を変え、傭兵ライセンスを持って試験官2人の方へ向かう。
中年男性は男性の試験官と何か相談しているようで、話を聞いた男性の試験官はリュウジと戦っていた女性の試験官と話を始めた。
レクスはそんな対応を訝しげに見ていた。
(何だ…?傭兵ライセンスってステータスカードとかの身分証明の代わりになるって聞いたけどな?クロウ師匠もチェリンさんも間違いないって言ってたし。)
すると試験官の2人が頷いたのを確認した受付の男性が急いで戻って来る。
「はい、すみませんでした。レクス殿の傭兵ライセンスのほう、お返しいたします…。」
「お…おう。ありがと…。」
レクスに対し恐縮して傭兵ライセンスを返す受付の男性のあまりの態度の変わりっぷりに、レクスは若干戸惑っていた。
「それで…実技試験ですが、レクス殿は免除という形になります。無条件で合格です。」
「え!?…そうなのか?」
試験官から告げられた唐突な合格に、レクスは驚きを隠せない。
「傭兵ライセンスは取得する際に戦闘技術を確認するため、それに伴ったものになります。総合的な合格発表は明日の真昼以降になります。お早めに御確認下さい。」
試験官が恭しく礼をする。
試験官の態度の変わりようや急に言われた実技試験の合格にレクスは眼をパチパチと瞬かせていた。
「…取りあえず、俺は帰っていいってことか?」
「そういうことになります。お疲れ様でした。」
「あ、あぁ。」
レクスは受付の男性の返答のままに、受付を後にする。
実技試験を受けるものだと思っていたレクスは何処か拍子抜けしたような気持ちで、不完全燃焼気味だった。
「…急に暇になったな…。昼どうすっかな?」
実技試験が無くなり、急に暇になったレクスは空を仰ぎ見ながら校門に向けて歩く。
すると、レクスの頭に傭兵ギルドで教えて貰った店が思い浮かんだ。
「あそこにすっか。」
レクスは店を決めると、前を向いて校門から出るのだった。
◆
学園から出た後、レクスは傭兵ギルドの建物がある通りに来ていた。
目的の店を探し、目線をきょろきょろと移動させる。
すると一件の建物が目に入った。
「あれか…?看板はそれっぽいし。」
レクスが見つけた店は傭兵ギルド建屋から50mほど離れていた。
それは木造で2階建てのこざっぱりとした建物で、華美な装飾は何処にもないが、吊り下げられた看板が印象的な店だ。
その看板には可愛らしい熊が壺に入った蜂蜜を手に塗って舐め取っているイラストが描かれている。
店名は「ハニベア」。
店に近づいてみると、食事のいい匂いが漂ってくる。
扉の札は「開店中」となっている。
レクスはガチャリとドアを開けると、カランカランとドアに備え付けられたベルが鳴る。
中は木製のテーブルと椅子が全部で6セット並べられ、奥にはカウンター席がある。
厨房の方では忙しなく料理しているらしく、小気味よい包丁の音が響いていた。
昼を少し過ぎたからか客はまばらでレクスの座る席も十分にありそうだ。
床は岩のタイルが敷いてあり、小綺麗な雰囲気を醸し出していた。
レクスが中をみてから手前のテーブルに腰かける。
すると黄色いウエイトレス姿の女性店員がいそいそとレクスの座ったテーブルに駆け寄る。
店員は茶髪のショートヘアで琥珀のように黄色い眼をしていた。
身長はレクスより低く、20代半ばだろうか。
そばかすが少し見える優しげな顔は可愛らしい印象を与えているが、ウエイトレスの服を押し上げる胸は大人の女性らしさを感じさせる。
女性の左手の薬指には、銀色に光る指輪がはめられていた。
女性は可愛らしく笑いながら、レクスの側に立つ。
「ご注文はお決まりですかー?…あれ?あなたがレクスさんですか?」
「ん?ああ。そうだけど…?」
レクスは女性の質問に目を丸くして驚く。
レクス自身はこの女性に会ったことも無ければ、名乗った覚えも無かったからだ。
レクスが不思議な顔をしていると、店員が手を口元に当て、しまったという表情をした。
「あ…ごめんなさい。初めて見る方なのでつい…。私、シャミィって言います!傭兵ギルドの方は大体ここを利用されるので名前が分かるんですけど、見慣れない方なのでつい…。クロウさんやチェリンさん、旦那からも聞いてたので多分そうかなって思っちゃって。」
「旦那?」
「傭兵ギルドにいるガダリスさんです。」
ガダリスという言葉に、レクスは一昨日紹介してもらった傭兵のうち一人を思い出す。
ガダリスは筋骨隆々なベリーショートの赤髪男性で、背中にはハルバードを背負っていた。
クロウがレクスの事を紹介すると、眼を輝かせてガダリス自身を指差しながら。
「クロの弟子なら、クロの親友である俺の弟子でもあるって事だな!俺のことも師匠だと思って何でも聞いてくれ!ガッハッハ!」
といって快活そうに笑っていたのはレクスの記憶に残っていた。
そんなガダリスとシャミィが夫婦だということにレクスは結びつかずに一瞬固まる。
するとシャミィは服のポケットからオーダーのための木板を取り出した。
「あ、ご注文を聞いてませんでしたね。何にします?」
「ここに来るの初めてだからなぁ…おすすめで頼む。」
「おすすめですね!かしこまりましたぁ!少々お待ち下さい!」
そう言ってシャミィは元気に厨房の方へ戻っていく。
元気なシャミィの雰囲気がガダリスの雰囲気と何となく似ているとレクスは思った。
レクスが窓から外を見ると暖かい日差しが窓からテーブル上を照らしている。
大通りから少し離れているせいで人通りもそこまでない。
喧騒も無く、穏やかな時間が流れていた。
するとレクスは窓の外に見知った人物を見かける。
クロウが2人の女性と共に依頼を受けて帰ってきたようだ。
クロウの両隣にいる女性をレクスは知っていた。
どちらもクロウの妻だからだ。
一人の女性はシスター服を着たツインテールの小柄な少女、ミーナだ。クロウの周りでぴょんぴょん跳び跳ねている。
もう1人の女性は眠たげなアイスブルーの瞳をした女性で、同色のサイドテールが風にゆらゆらと揺れている。
服装は黒いひらひらとした衣装、所謂ゴシックロリータを着ていた。
女性の名前はマリンといい、ふああと欠伸をしながらクロウの隣をとことこと歩いている。
人間ではなくヴァンパイアだとクロウからレクスは聞いていた。
2人共にクロウの妻の例に漏れず、胸が大きい。
クロウの妻たちは皆、「爆乳」と言ってもいいほど胸の大きい女性だった。
レクスの周囲の女性ではリナやカレン、クオンもかなり胸が大きいのだが、クロウの妻たちは一番小さくてカレンと同等の大きさだったことをレクスは思い出した。。
(ありゃ…クロウ師匠とマリンさんにミーナじゃねぇか?…ミーナがあれで俺より年上って今でも信じらんねぇけど。)
クロウがミーナをレクスに紹介したとき、ミーナの年齢を聞いてレクスは驚いていたのだ。
その時のミーナのドヤ顔をレクスは忘れられなかった。
(なんならクオン位かと思ってたけどよ…。17才って嘘だと思ったぞ。…本当、クロウ師匠ってどっから嫁さん連れて来てんだろ…?)
レクスはクロウの妻たち10人を思い浮かべる。
全員個性的で、容姿端麗な美女たちだ。
クロウが一体どうやって美女たちと結婚できたのかはレクスにとって謎だ。
(ま、クロウ師匠かっこいいしな。…後で傭兵ギルドに顔出すか。暇だし。)
そんなことをぼーっと考えながら、レクスが窓の外を見ていると、カチャカチャと食器の揺れる音と共にシャミィがレクスのテーブルにやってきた。
レクスがシャミィの方へ眼を向けると、シャミィの持ったトレイの上には湯気を立てた料理があった。
「お待たせしました!こちらが当店のおすすめ料理になります。日替わりなので、今日は「豚肉のジンジャーソテー」になりますね!」
元気なシャミィの声と共に、テーブルに料理が置かれる。
レクスはその料理を見るとすぐにじゅるりと口の中に唾液が溢れた。
「豚肉のジンジャーソテー」は薄切りにした豚肉に玉ねぎと刻んだ生姜を合わせ、煮込みダレで炒めた料理だ。
テラテラと輝く肉と絡んだタレの輝きと、刻み生姜の香りが食欲をそそる。
レクスが一口ほど口に入れると、甘辛いタレと肉のジューシーな食感に生姜の痺れがアクセントになり、旨味が口いっぱいに広がる。
(う…美味え…。こりゃクロウ師匠や傭兵のみんなが行きつけになるわ。)
つけあわせのパンと一緒に口に放り込むと、パンにもタレの旨さが染み込む。
アルス村では食べたことのない料理に、レクスの口は止まらなかった。
すると、カランカランとドアが開く。
レクスはふと食べるのをやめてドアのほうを向いた。
入って来た女性は、誰もが目をくぎ付けにするほどの美少女。
薄紫のウェーブが入った長い髪。
身長はリナより僅かに低いくらいだが、レクスはその女性の一点に釘付けになってしまう。
(うおっ…でっか…!?リナやカレン、クオンより明らかにでっけぇ…!?)
レクスがそんな感想を漏らしてしまうほどに、女性の胸が大きく、制服のボタンが張り詰めていた。
女性はそのままレクスのテーブルの前にあったテーブルに腰かける。
レクスがよく顔を見ると、その女性は凄く可憐な女性であった。
薄紫色のウェーブがかったロングヘアにぱっちりと開いた眼。
色っぽいピンク色の瞳。
何処か幼さもある顔つきに肉厚の艶っぽい唇。
しかも服装は紺を基調とした「王立学園」の制服だった。
レクスはその制服を、学園の入口で受け取った案内を見て知っていたのだ。
(…あれ、学園の制服だよな。あの人学校の先輩かよ!?にしても…)
さらにレクスは他の部分が人と異なっている事に気がつく。
頭の上には二対の曲がった角が生え、背中にはコウモリに似た羽根が生えている。
制服のスカートからは、先端がハート型に尖った尻尾が見え隠れしていた。
(ありゃ何だ?エルフの耳…みたいなもんか?エルフと人間とドワーフとヴァンパイアと…あと何が居たっけな?)
レクスがその女性を見ている間に、シャミィがその女性に近寄る。
「マリエナさん。今日も来てくれたんですね!」
「うん。今日もスペシャルデラックススイーツお願いね!」
「かしこまりました!少々お待ち下さいね。」
注文を受け取ったシャミィはタタタっと厨房へ戻っていく。
すると女性はレクスに気がついたのか、レクスに向かってニコリと微笑んだ。
その可憐さに、レクスは顔を赤くして眼を逸らす。
(めっちゃ美人じゃねぇか!…王都の女性って綺麗どころばっかりかよ。…いけねぇいけねぇ。今はそんな事に構ってる暇はねぇんだ。)
レクスはふぅと息を吐いて気分を変えると、食事を再開する。
しかし、その食事の手はすぐに止まった
「お待たせしました!本日のスペシャルデラックススイーツになります!」
シャミィがその女性の前に置いた料理の大きさに、レクスは眼を見開く。
その料理は両手で抱える大きさのガラスの器に入っている。
幾多の紅白の層を作り、上には生クリームがこれでもかと使われ、その周りを薄切りのイチゴが城壁のように囲んでいる。
所謂「巨大なイチゴパフェ」だった。
「わぁ!美味しそー!いっただっきまーす!」
女性はレクスにも無理そうな量のパフェを何の躊躇いもなく食べ始める。
時折「んーおいしー!」と感嘆の声をあげて食べているので美味しい事に間違いはなさそうだが。
(…王都の女性ってすげぇな。)
そう思いつつ、レクスは食事を食べ進めた。
レクスの料理はあっと言う間に空になり、レクスはふぅと一息つく。
「めっちゃ美味かったな…。」
ポツリと漏れたその呟きは、レクスの本心だった。
ふと前を見ると、前に座った女性は既にパフェの2/3を平らげていた。
レクスから見たその女性は、パフェを幸せそうな笑顔を浮かべ食べ進めている。
レクスは立ち上がり、カウンターの方へ向かうと会計を済ませた。
「また来て下さいねー!」
シャミィの元気そうな声に後を押される形で、レクスはハニベアを後にした。
(本当、今日はすっげぇ綺麗な人とばっかり出会うなぁ。あんな人たちと結婚出来りゃ良いのかも知れねぇけどな。…いまの俺にゃ無理だ。)
レクスは今日出会った2人の女性を思い返すも、溜め息と共に傭兵ギルドへ向かった。
ご拝読いただき、ありがとうございます。