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第12−1話

 12

 一方の西側グラウンドで行われている戦闘部門の試験会場。

 こちらでもリュウジたちが注目されていた。

 此方の試験は非常に単純で、学園の教師との模擬戦が試験項目となっている。

 そんな戦闘試験の会場にリュウジとリナはいた。

 リュウジたちを一目でも見ようと、受験生たちは遠巻きに二人を眺めている。

 中には凛としたリナを見て溜め息を溢す生徒もいるほどだ。

 リュウジもリナもチェストプレートを装着している。

 リュウジは金の刺繍が入った白いコートを羽織り、全身を白いスーツのような衣装で統一していた。

 いかにも「正義の勇者」を体現していた。

 一方のリナは赤いマントを羽織り、赤いインナースーツに胴鎧とスカート鎧を着用している。一見すると、何処かの国の姫騎士のような佇まいだ。

 そんな二人が並び立つ姿は様になっており、受験生の注目を集めていた。


「リナ殿!試験を始める!前へ。」


 試験官の言葉に、リナは所定の場所へ向かい歩き出す


「頑張ってね。リナ。」


「ええ。もちろんよ。見てなさいリュウジ。」


 リナはリュウジに振り向き、ニコっと笑う。

 その笑みは凄く魅力的であった。

 周囲の受験生も、顔を赤くする者までいるほどだ。

 そんなリナを独占出来ていることにリュウジは非常に満足し、優越感に浸っていた。


(やっぱり凄く可愛いよねぇリナは。あんな子が今や僕だけのものなんだ。周りのモブ共には絶対に手が届かない美少女がね。……1年間ヤれないのが残念だけど)


 リナはリュウジから視線を戻し、試験官に向き直る。

 リナの相手の試験官は30代でくすんだ金髪の男性教官だ。

 さらに胸には魔道具つきの鎧を着ていた。

 これは致命傷になった時に反応して赤く染まるというチェストプレートだ。

 もちろんこれは受験生も着ていた。

 このチェストプレートが赤くなるか、3分間経過すれば試合の終了となり、その成績で合否判定が出るのだ。

 リナは所定の場所に立つと、背中に背負っていた木剣を抜く。

 木剣はリナがガルダンとの修練で使っていたものと同じく、自身の身長ほどもある幅広の大剣だ。

 剣を抜いた瞬間、周りの受験生がざわつく。

 受験生たちはリナがあんなに細い腕で大きな大剣を扱えるなど、微塵も思っていなかったからだ。

 リナが剣を抜いた事に応じて、試験官も剣を構える。

 試験官の木剣は60cmほどだ。

 両者とも相手の様子を伺い、ピリリとした緊張感が流れていた。


「両者そろったな。それでは……始め!」


 二人の剣が対峙した事を確認したもう一人の女性試験官が対戦開始の合図を出す。

 その合図の瞬間、先に動いたのは男性試験官の方だった。

 男性試験官はリナに向かい、踏み込んで横薙ぎに剣を振るう。

 ”カン”と乾いた音が響き、試験官の剣はリナの大剣に防がれた。

 リナは自身の大剣の峯を盾代わりにして斬撃を受け止めていたのだ。


「鋭いわね。でも……。」


 リナは受け止めた木剣をそのまま上に弾き、大剣を勢いよく振るう。

 男性試験官は剣を弾かれ体勢を崩すも、何とかその大剣の一撃を紙一重で躱した。

 試験官の頬に、つうと汗が垂れる。

 一方のリナは余裕そうに剣を振り抜いていた。


「あたしはこんな試験で止まれないの。リュウジの傍で戦うんだから。」


 リナは一撃を躱された事に厭わず、さらに踏み込んで軽々しく剣を横薙ぎに振るう。

 その一撃をまた何とか躱す試験官だが、そのリナの気迫に試験官はたじろいでいた。


「う、うおおお!」


 何とか反撃をしようと大剣を振り抜いたリナの一瞬の隙に剣を差し込もうとする試験官だがその行動が悪手となった。

 試験官が踏み込む瞬間をリナは待っていたのだ。


「……待ってたわよ!」


 リナはその瞬間に合わせ、大剣を振るう。

 奇しくもそれは、レクスが牛頭鬼相手に取った方法と同じだった。

 試験官の剣が当たる前に、リナの大剣が試験官の胴に横薙ぎで叩き込まれる。

 リナの剣にしっかりとした手応えがあった。

 試験官の「ぐえっ」という声と共に試験官は少し吹き飛んで倒れ込む。

 ゴホゴホと衝撃で咳込む試験官のチェストプレートは赤く染まっていた。

 その光景に、受験生たちは息を呑む。


「そこまで!勝者、リナ殿!」


 女性試験官の声が響き、リナは大剣を背負い直す。

 その間に男性試験官はよろよろと何とか立ち上がった。

 そんな様子の試験官にリナは頭を下げる。


「ご、ごめんなさい。加減が効かなくって……。」


 男性試験官は苦しそうではあったが、それでも顔は笑っていた。


「いや、良いんだ。見事…だったよ。ゴホッ…試験結果は相当良いものになる。期待していい。戻っていいぞ」


 男性試験官が苦しそうにそう言うのを聞いて、リナはペコペコと頭を下げながらリュウジの元へ戻る。


「…やり過ぎちゃったかも。」


 リュウジの隣で、リナは溜め息と共に肩を落とした。

 少し気にしているようなリナに、リュウジはニコニコ微笑みかける。


「リナ、かっこよかったよ。さすが僕のリナだ。鼻が高いよ」


「僕のリナ」という言葉に、リナは顔を真っ赤にしてリュウジをバシバシと叩く。


「も…もう!リュウジったら!」


 リナに軽く叩かれていても、リュウジはそれを受け入れつつハハハと笑っている。

 そんなリュウジは、周りの受験生から来るやっかみの視線をビシビシと感じていた。


(モブ共の視線が痛いね。でも残念でしたー!リナはもう僕のものだもんね!君たちがいくら僻んでも痛くも痒くもないもんね。)


 リュウジは心の中でほくそ笑む。

 その間に、男性の試験官はもう一人いる女性の試験官と話あっていた。

 しばらく男性の試験官と女性の試験官は話あっていたが、男性の試験官が女性の試験官に頭を下げ、男性の試験官は女性の試験官と場所を入れ替えた。

 どうやらリナとの模擬戦で負ったダメージが残っており、模擬戦をする試験官を代わって貰ったようだ。

 試験官が交代すると、男性の試験官が声を張り上げる。


「リュウジ殿の試験を始める。前へ!」


 男性の試験官の言葉で、リュウジは所定の位置に向かう。


「頑張って、リュウジ。」


 その言葉に反応してか、リュウジはリナに振り返る。


「リナの応援があれば百人力さ。僕が負けるはず無いけどね。」


 ニカっと笑うリュウジに、リナは頬を赤く染める。

 そんなリナの反応を見て満足気ににやけると、リュウジは女性の試験官の方を向いた。

 女性の試験官は20代後半の黄色い髪ショートヘアをした、何処か小動物のような雰囲気の可愛らしい女性だ。

 手には刃渡り60センチ程の木剣を持っていた。

 その髪色と同じ色の瞳は、真っ直ぐリュウジを注視している。

 そんな試験官を見たリュウジは「へぇ……」と口角をあげてニヤつく。


「勇者リュウジ殿。よろしくお願いします。」


「うん。よろしくね。後さ……。」


 リュウジは人差し指を一本立て、試験官に見せる。


「なんですか?勇者リュウジ殿」


「君を倒す時間。一分でケリをつけてあげるよ。」


 ニヤついたリュウジに対し、試験官の表情が少し険しくなる。


「勇者リュウジ殿。さすがにその発言はいだだけません。」


「でもほんとにそうだったら面白いよね。だから、早くやろうよ。」


 試験官の態度にびくともせず、まだヘラヘラと笑うリュウジ。

 その態度に苛ついたのか、女性の試験官はゆっくりと剣を構える。

 リュウジもそれに対して自身の木剣を未だ少しニヤついたまま構えた。

 二人が構えたのを確認した男性の試験官は声をあげる。


「それでは両者…試合開始!」


 声に合わせ、飛びかかったのはリュウジの方だった。


「いくよ。僕の番だ!」


 リュウジは踏み込み、逆袈裟斬りに試験官を狙う。

 試験官は「くぅっ」と声が漏れつつ、その斬撃に合わせ、剣を止める。


「まだまだいくよ。ずっと守ってられるといいね。」


「ぐっ……言わせておけば……」


 リュウジの剣が試験官の剣を弾き、そのまま剣の連撃が始まった。

 剣の連撃をカンカンという木剣がぶつかり合う音とともに、試験官は何とか防ぐ。

 だがひたすら重い剣戟に、試験官は口元を曲げてたじろいでいた。


「どうしたのかなぁ?このままだと終わっちゃうよ?」


「ふざけるな!そんなことは…無い!」


 苦しんだ表情の試験官がリュウジに踏み込む。

 一方、リュウジはほくそ笑む余裕すらあった。


(気持ちい〜!これだよこれ。わかりやすい無双!この人ガルダンより弱そうだし。…もう少しで一分かな?)


 リュウジはガルダンと試験官を比べるが、それは試験官にとって酷な話だ。

 ガルダンは王国軍の現役エリート。対してこちらは戦闘に慣れているとはいえ学園の教職員。力の差は歴然だった。

 そこに「勇者」スキルの効果で剣の練度上昇が乗る。

 リュウジにとっては赤子の手を捻るようなものだ。


「そこ!」


 試験官の剣が何とかリュウジの剣を弾く。

 そのまま剣を胴に向けて斬りかかろうとする試験官だが、その試験官の剣をリュウジは欠伸混じりに剣で受け止める。


「この程度か。もういいや。そろそろ一分でしょ?」


 そう呟き、試験官の剣を弾き飛ばすと、そのまま一気に試験官の胴に剣を思い切り当てた。

 試験官が衝撃で倒れ込み、魔導具付きの鎧が紅く染まる。

 試合終了の合図だ。

 リュウジはニンマリと満足気な顔で試験官に歩み寄り

 倒れている女性の試験官に手を差し伸べる。


「ごめんね。やり過ぎちゃったよ。立てる?」


「くぅ……勇者リュウジ……。」


 リュウジのニヤついた顔を忌々しく見つめながらも、女性の試験官はリュウジの手を取る。

 女性の試験官の手が触れた瞬間、リュウジの眼が妖しく小さな光を放ち、瞬時に消える。

 するとみるみるうちに女性の試験官の目がとろんと蕩け、頬がだんだんと紅潮してゆく。


「あ…ありがとうございます…リュウジ…様ぁ…」


 先ほどの忌々しい目線は消え失せ、試験官は熱の籠もった視線を向ける。

 リュウジはニヤニヤと笑いが止らなかった。


(さっきまで凄く恨めしい眼つきだったのに一瞬でこうなっちゃうんだから、やっぱりノアから貰ったスキルって凄いよね。彼女はそうだなぁ……僕の都合のいいペットにでもなってもらお。犬っぽいしね。フヒヒ)


 女性の試験官を立ち上がらせると、リュウジは試験官の耳元で「また会おうね。」と囁く。

 立ち上がった女性はリュウジの言葉に、「……はいぃ。」とリュウジを眼をうるわせて見つめていた。

 周囲からはリュウジの行動が倒してしまった女性の試験官への配慮にしか見えず、そもそも試験官を倒したリュウジに沸き立っていた。

 リュウジは女性の試験官に背を向けると、リナの元へ歩いて戻っていく。

 リナはリュウジを尊敬するような眼で見つめていた。


「凄いじゃないリュウジ。勇者リュウジの面目躍如ってとこかしら?」


「たまたまだよ。まあ、これくらいは出来ないとね。」


 リュウジとリナはお互いにハイタッチをして笑う。

 そうしてリュウジが今までいた場所の方を振り向くと、男性の試験官が女性の試験官に駆け寄りひそひそと話をしていた。

 男性の試験官も女性の試験官も共に驚いた表情を見せている。

 その会話が、何となくリュウジのもとにも聞こえてきた。


「……ドの……スを所持……て……い……。」


「な……ど。よ……ラ……スか。……その者は…試…無しだ。……件…合格とする。」


 ところどころ聞き取れなかったが、その会話を繋ぎ合わせ、何となく意味を察する。


(無条件の試験無しで不合格なんて、無能なやつは何処にでも居るもんだね。かわいそ。ま、僕みたいなチート持ちなんて居てもらっちゃ困るんだけど。)


 哀れな受験生を心の中でリュウジが見下していると、周囲からガヤガヤと沸き立つ声がする。

 リュウジはその声に辺りを見回すと、その声の理由を見つけ、ニヤリとした。

 リュウジの目線の先にはカレンとクオンがいた。

 二人はリュウジを見つけると、そそくさとリュウジの元へ駆け寄ってきた。


「お疲れ様です。リュウジ様、リナ。」


「リュウジもリナお姉ちゃんもお疲れ様なのです。」


「カレンもクオンもお疲れ。あたしとリュウジは上手くいったわ。」


「あはは。僕はたまたまだけどね。カレンとクオンはどうだった?」


「私たちは上手くいきました。クオンさんもですよ。」


「はいなのです。ちゃんと出来て一安心なのです。」


 カレンもクオンもリュウジに満面の笑みで報告する。

 そんな2人に微笑むリュウジだが、内心は周囲への優越感でいっぱいだった。


「あ、リュージ見っけ!」


 集まっているリュウジたちの元に、無邪気な声が響き、とたたと小さな影が駆け寄る。

 黒いローブを着たノアだ。

 ノアはそのままリュウジに向かいぴょんとダイブする。


「うわっと!?ノア!?」


「えっへへ〜。ワタシも上手くいったよ!」


 リュウジはノアを受け止める。

 ノアの髪がふわりと舞い、リュウジを包む。


「ノアちゃん。ずるいです。」


 リュウジに抱きつくノアに対し、クオンが涙目で抗議する。


「早い者勝ちだもんねー。クオンもすればいいじゃん。」


「そ、それは……その。恥ずかしいのです……。」


 軽く言ってのけるノアに、クオンは顔を赤くして俯く。

 そんなクオンにもリュウジは興奮していた。


(美少女の赤面良いよねぇ。恥ずかしくてモジモジしちゃってるよ。…ヤりてぇ〜!)


 そんなリュウジを知ってか知らずかノアはリュウジにぐりぐりと楽しそうに頭を押し付けていた。


「そういえばノアさんはいつ試験を受けたんですか?ごめんなさい、気づきませんでした。」


「ワタシはカレンやクオンのちょっと後だったからねー。まあワタシは闇属性の魔法だから2人みたいに的壊してないから歓声もなかったし。…ねぇリュージ、お腹空いたからなんか食べに行こ。」


 カレンの疑問にノアは何でもなさそうに答える。

 カレンは放っておいたノアに少し申し訳無いと思うもそのままにした。


「そうだね。ノアの言う通りご飯にしようか。みんなもお腹減ったよね?」


「そうね。ノアの言う通りよ。」


「私もです。何処に行きましょうか?」


「私もお腹がぺこぺこなのです。早く行くのです。」


「あはは。みんなもそうなんだ。じゃあ、近くの店に食べに行こうか。」


 リュウジは笑いながら歩き出し、リナたちもそれに続いた。

 歩き始めたリュウジに、またノアが近寄る。


「ねぇリュージ。耳貸して?」


「どうしたのかな?ノア?」


 ノアは少し屈んだリュージの耳元で囁く。


「……私がこの下つけて無いって言ったらどうする?」


「ノ、ノア!?」


 驚きのあまりリュウジは立ち止まり、ノアの全身を見る。

 風にはためくローブの裾を、リュウジは食い入るように見つめた。

 そんなリュウジに対し、ノアは蠱惑的な笑みを浮かべながらリュウジを見つめていた。


「どうしたですかリュウジ。早く行くのです。」


「リュウジ?置いてくわよ?」


 いつの間にかリナたちに追い抜かれていたリュウジはリナたちに慌てて駆け寄る。

 そんなリュウジを、ノアは妖しく見つめていた。


「……そう。リュージはこれで良いんだよ。フフフ。」


「ノア?何か言ったかい?」


「ううん?何も言ってないよ?」


 リュウジがノアに振り向くが、ノアは何時も通りのニコニコした表情を浮かべながらリュウジを見つめている。

 リュウジは気のせいかと思いつつ前を向いて近くの食堂に向かう。

 晴れた空の太陽が、少しだけ曇りがかっていた。

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