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晴天のプレリュード〜幼馴染を勇者に奪われたので、追いかけて学園と傭兵ギルドに入ったら何故かハーレムを作ってしまいました〜   作者: 妖刃ー不知火
第伍章 迷宮の弓命・まもりぬくもの編

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夢も想いも

 その後、グラッパはレクスに魔導拳銃の使い方で新たに搭載した機能をレクスに語った。


 グラッパの言葉にレクスは「そんなことができたのかよ……」と絶句して目を点にしたが、傍のエミリーは「勉強になるのだー!」と無邪気に声を上げていた。


 魔導拳銃の扱いを一通り話し終えたグラッパは魔導拳銃を再び持ち上げる。


「流石に持ち運びには不便だからよ、専用のホルダーも作ってやる。すぐにできるから、此処で待ってろ。」


「え?良いのかよ、おやっさん。」


「何を言うちょる。この銃を作ったのは俺だ。俺がホルダー作らなきゃ誰が作れるってんだ。当然の事だろ。」


「何から何まで……ありがとうな、おやっさん。感謝してもしたりねぇよ……。」


「良いってこった。いい仕事の礼みたいなもんだ。さ、すぐに仕上げてくるぜ。」


 そう呟くと、グラッパは黒嵐を抱えて裏の作業場へと足早に戻っていく。


 工房と併設している為に蒸し暑い熱気でサウナのような店内の中、レクスはエミリーと二人きりだ。


 ふぅとため息を吐きつつ、レクスはカウンターの傍に置いてあった丸椅子に腰を下ろす。


 そうして、ぐるりと首を動かして店内を見渡した。


 やはり所狭しと並ぶ武具や防具に囲まれるその光景は、いつ訪れてもレクスにとっては圧巻だ。


「……なぁ、エミリー。これらはおやっさんが全部作ったのか?」


 ふと気になってエミリーに顔を向けると、エミリーはいい気になったように笑いながら、ぶんぶんと勢いよく首を縦に振った。


「そうなのだ!全部おとーさんが作った武器や防具なのだ!」


「こんなにたくさん作ったのかよ……すげぇな。おやっさん。」


 レクスの見渡す周囲には剣や盾は勿論のこと、鎧や槍、棍棒やハンマー、棘付き鉄球などその種類も豊富に並んでいる。


 先日はアオイが鎖分銅を買っていたくらいだ。


 武器に対して造詣が深く、様々な種類の武器や防具に精通しているグラッパに、レクスは辺りをきょろきょろと見渡しながら感心していた。


 すると、エミリーがぽつりと呟く。


「今はまだひよっこのエミリーなのだ。でも……エミリーも、おとーさんみたいな立派な武器職人になるのだ。」


「……エミリーも武器職人になりてぇんだな。おやっさんも泣いて喜ぶんじゃねぇのか?」


「そうなのだ!……でも……。」


 溌剌と声を上げていたエミリーの顔が暗く沈む。


 はぁとため息を吐いて、普段のエミリーらしくないようにレクスは感じてしまった。


 その様子が気になったレクスは、エミリーの方へ頭を向ける。


「……どうしたんだよ。エミリー。そんな暗ぇ顔して。」


「……何でもないのだ。エミリーのことは、レクスには関係ないのだ。これは、エミリーの問題なのだ。だから……。」


「関係ねぇわけねぇだろ。……俺とエミリーは友達だろうが。友達が困ってる顔してたら、気になってしょうがねぇよ。」


「……レクス。……そう、なのだ?」


 きょとんと見つめるエミリーに、レクスはゆっくりと頭を下げる。


 レクスにとってはエミリーも大切な友人なのだから。


 口元を少し上げて元気づけるように微笑みながら、レクスは言葉を続けた。


「……力になれるかはわからねぇけどよ。話せばすっきりすることかも知んねぇぞ。……エミリーが良ければの話だけどよ。」


「……レクス。……うん、わかったのだ。少し、話を聞いて欲しいのだ。」


 そう言って、エミリーは緊張した面持ちでふぅと深呼吸をする。


 そして、ぽつりぽつりとエミリーの口から出る言葉に、レクスは耳を傾けた。


「エミリーは……おとーさんの仕事を継げないかも知れないのだ。」


「……そりゃまた……どうしてだよ?」


「エミリーは、アランが大好きなのだ。アランと一緒にいると、胸がぽかぽかして、すごく気持ちが良いのだ。だから、カリーナと一緒に「アランと一緒にいたい」って、告白したのだ。」


 エミリーの告白に、レクスはアランの慌てふためいたような顔と言葉を思い出す。


 あの時のアランは、二人に告白されたとレクスに相談してきており、その相談が夜まで続いた事はレクスの記憶に新しい。


 また、レクスがマリエナとデートした際も、エミリー落ち込んだ表情などは浮かべていなかったはずだった。


 アランも「二人を大切にしなきゃいけない!」と悩んでいた記憶もあり、レクスにはアランがエミリーに、到底酷いことをするようには思えなかった。


 レクスは相槌を打つように頷く。


「……そういや、劇場に行ったときに一緒にデートしてたっけか。アランも、カリーナも。……なんかまずいことでもあったのかよ?」


 レクスの疑問に、エミリーはふるふると首を横に振るう。


「そんなことはないのだ……。アランも、カリーナも、とてもエミリーを気づかってくれるのだ。……でも……。」


「……でも?」


「アランも、カリーナも、お貴族様なのだ。エミリーは鍛冶屋の娘なのだ……。アランやカリーナと一緒にいるには、鍛冶屋を辞めて貴族様の夫人にならないといけないのだ。……でも、エミリーはおとーさんの鍛冶屋を継ぎたいのだ。だけど……エミリーはアランもカリーナも大好きだし、一緒にいたいのだ。……レクス、エミリーは……どうすれば良いのだ?」


 エミリーは不安そうに眦と口元を下げて、縋るようにレクスを見つめる。


 何時もとは異なる弱々しいエミリーの表情に、レクスはため息を一つ溢しながら、天井を仰いだ。


(……そうだよな。エミリーの夢も、最もだよなぁ……。)


 レクスもアランにとってのエミリーやカリーナのように、レクスにとってかけがえのない婚約者がいる。


 しかも四人だ。


 自身の身分や職業よりも「レクスと一緒にいたい」と言ってくれた彼女たちに、レクスは頭が上がらない想いでいっぱいだった。


 普通は「王女の身分などどうでもいい」とまで言うカルティアのような人物こそ、稀有というべきであろうことは、レクスも重々承知しているのだから。


 エミリーのように思い悩む場合もあるだろう、と。


 レクスは改めて思い直す。


「……おやっさんや、アランには相談したのか?」


 レクスの問いかけに、エミリーは小さく首を横に振るう。


「まだ……なのだ。言うのが……怖いのだ。」


「……そうかよ。……でも、だ。結局言ってみるしかねぇんじゃねぇのか?おやっさんにも、アランにもよ。」


 椅子に座って呟かれたレクスの言葉に、エミリーは「え……?」と、レクスの顔を見る。


 レクスは優しく口元に笑みを浮かべながら、エミリーと視線を交わした。


「俺もさ……言わなきゃいけねぇ、伝わらねぇって事が多くあってよ。迷った事だってある。……でも、結局は「言っときゃ良かった」って事が多くあるのも事実だからよ。エミリーも、言わずにモヤモヤしてたってアランと仲が悪くなっても困るだろ?……伝えるのが、一番じゃねぇか?」


 レクスはふぅとため息を溢しながら、天井を仰いだ。


 レクス自身、痛感している部分が大きいのだ。


 カルティアたちに自身の気持ちを嘘偽りなく伝える事ができた事。


 一方でリナたちには自身の思いを伝えられていないこと。


 そういった経験が合わさり、レクスも伝える事の大事さを身に沁みて感じ取っていたのだ。


 レクスの言葉に、エミリーは不安そうな視線をレクスに向けた。


「……言っていい……のだ?おとーさんにも……アランにも……。」


「大丈夫だ。みんなエミリーが言ってくれることを否定しねぇだろうよ。……アランだって、エミリーを大切に思ってくれてるんだろ?少なくとも、アランがエミリーの事を想ってねぇ訳がねぇよ。エミリーが納得出来る道を、探してくれんじゃねぇかな。」


 そう言って、レクスはエミリーに優しく眦を下げて、歯を出した。


 レクスのそんな笑顔を見て、エミリーは目を丸くする。


「悪ぃな。うまく言葉にゃ出来ねぇけどよ。」


 苦笑するレクスに、エミリーは首を横に振った。


「……ううん。レクスの言いたいことは、良く分かったのだ。エミリーも……勇気を出してみるのだ。」


「ああ、それがいいと思うぞ。頑張れ、エミリー。」


 頬を緩めて柔らかく見つめるレクスに、エミリーはこくんと勢いよく肯いた。


「……レクスに話して良かったのだ。ありがとうなのだ。」


「大したことはしてねぇよ。友達なら当然のことだろうが。困ってるなら力になりてぇってのは、当たり前のことだろ?」


「うん!すごくすっきりしたのだ!」


 にぱっと何時ものように元気よく笑うエミリー。


 その顔に、レクスも安堵したようににぃっと笑う。


 エミリーもレクスにとっては、かけがえのない友人の一人であり、失いたくないものの一つなのだから。


(……やっぱりエミリーは、こうでなくちゃよ。)


 エミリーはやはり、元気な笑顔が似合うと思いながら、レクスは顔を逸らして腕を頭の後ろで組む。


 深く座りなおして深呼吸をすると、後ろの工房から鉄を打つようなカンカンと高い音が静けさの満ちた空間に響き渡った。


 すると、「あっ!」と何かを思い出したようなエミリーの声が店内に響く。


 どうしたのかと思いながらもレクスはエミリーに顔を向けた。


「そういえば……レクスは今王都で話題のあの場所に行くつもりなのだ?」


「王都で話題の場所?……いや、知らねぇけど……?」


 エミリーの質問にレクスは一切心当たりがなく、頭に疑問符を浮かべながら首を傾げる。


 そんなレクスを、エミリーは少し驚いたように目を点にしていた。


「レクス、知らないのだ?王都は今、ダンジョンの話題で持ちきりなのだ。」


 エミリーが呟いた「ダンジョン」という言葉。


 それがアルス村で聞いたシルフィの言葉とレクスの脳内でリンクする。


 ごくり、と息を呑んだ。


「……ああ、初めて聞いた。一体何があったってんだ?」


 レクスの言葉に、エミリーはこくんと頷き話し始めた。


お読みいただき、ありがとうございます。

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