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晴天のプレリュード〜幼馴染を勇者に奪われたので、追いかけて学園と傭兵ギルドに入ったら何故かハーレムを作ってしまいました〜   作者: 妖刃ー不知火
第伍章 迷宮の弓命・まもりぬくもの編

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黒い嵐

 レクスはおもむろに、「黒嵐」のグリップを掴む。


 冷たい金属の麺に触れた瞬間、レクスに身体からごく僅かに力が吸い取られるような感覚があった。


 同時に銃身に刻まれた銀色のラインが、僅かに輝きを放つ。


 それは以前レクスが使っていた魔導拳銃の感覚と全く同じもの。


 マリエナの吸精にも似たそれに、レクスは間違いなく自身の愛銃「黒疾風」の感覚を感じ取った。


 ゆっくりと、裏返すようにその拳銃を持ち上げる。


 ずっしりとした重みと金属のヒヤリとした冷たさをその手に感じながら、レクスは「黒嵐」の銃身をまじまじと見つめた。


 その型は「X」字をしており、「く」の字に近かった「黒疾風」と比べても一回り大きい。


 以前よりもグリップが長く、持ち手を安定させているためか引き金も長く設計されていた。


 銃身も長くなり、その銃口が先端から僅かに覗いている。


 一見しただけでは以前よりも取り回しにくい印象を受けた、という認識がレクスの本音だった。


「……おやっさん、いい銃だと思うけどよ。でかくねぇか?やっぱり。」


 訝しむような視線をグラッパに向けるレクス。


 しかしグラッパはその視線に対し、口元を上げた不敵な笑みで応えた。


「まあ、そう思うのはわかっちょる。一回り大きくなっとるから、重量も増えちょるしな。……だが坊主、この黒嵐は、坊主にとっての最適解を目指して作り上げたもんだ。多少の重量増加も坊主が使うには丁度いいはずだぜ?」


「どういうことだよ?形が変わって、重くなっただけにしか見えねぇけどよ……?」


「坊主がそう言うのも想定してあるぜ。そもそも、この形が重要なんだ。この銃には俺独自の技術が落とし込んであるのよ。……坊主、ちょいと貸してみな。」


「あ、ああ……?」


 レクスが魔導拳銃を差し出すと、グラッパはそのグローブに包まれた手でむんずと魔導拳銃を掴み取る。


 そうして、子供が新しく買った玩具を見せびらかすような、無邪気な笑みを浮かべた。


 魔導拳銃のグリップ後部で丁度親指がかかる部分を、人差し指で指し示す。


「先ず改良したのは此処だ。銃の連射処理の機構。前の拳銃は、ダイヤルが縦に有ったろ?」


「ああ。外したのか?」


 以前のレクスが使っていた魔導拳銃には、単射の他に三点連射と微小弾をばら撒く二十点連射のダイヤルが親指のかかる場所に縦に設置されていたのだ。


 その連射機構によって、レクスが窮地を脱した場面は数多く存在している。


 しかし今回、レクスにはそれが見当たらなかった。

 レクスの問いに、グラッパは首を横に振る。


「いいや。しっかりと残ってるぜ。ダイヤルを横向きに設置してある。そのほうが指が動かし易いからな。」


「へぇ……これがそうか。」


 グラッパの指先が示すその場所に、横向きの小さな歯車が取り付けられているのがレクスには確認できた。


 いい気になったように、グラッパが続ける。


「あとはこの「X」字状の形だ。こいつはいろいろな意味を内包してるんだぜ。……刃受けも兼ねてるから硬えのはもちろんのことだが……この形状の意味は他にあるぜ。理由はこの、グリップのケツだ。」


 そう口にして、グラッパはグリップの裏側をレクスに見せる。


 レクスとエミリーがよく見ると、その部分にはがっちりと何かを固定するようなアタッチメントのようなものがくっついていた。


 何をするのかわからないアタッチメントに、レクスは不思議に思いながら首を傾げる。


「こいつがこの形の理由だぜ。この部分に「デイブレイク」のケツが接続できるようにしてある。こいつにデイブレイクを繋げば、坊主は片手が空く筈だ。片手が空くってことは、緊急時に坊主の取れる選択肢がかなり増える。二つ一緒に扱えてた坊主なら、こうしたほうが良いかと思ったまでのこった。「X」字なら上の出っ張りも持ち手になるだろ?銃を持ちながら、剣も振るえる坊主にはぴったりだぜ。」


 がははと豪快な笑い声を上げながら破顔するグラッパ。


 レクスはその機構を唖然と見つめながら、感嘆のため息を漏らす。


「おやっさん……そんなことまで考えてくれたのかよ……。なんか、悪ぃな……。」


 ばつが悪そうに目尻を下げるレクスに、バンバンとグラッパが背中を叩く。


 ドワーフだからか、その衝撃はレクスには少し痛かった。


「気にすんな。坊主がエミリーを助けてくれたってんなら、俺が坊主に返せることをするまでだぜ。それに……よ。」


 グラッパは「黒嵐」を何処か物憂げな表情で眺めると、カウンターの上に優しく戻した。


「こいつが、”まだまだやれる”って俺に言ってきたような気がしてな。武器の声を聞くのが、職人の仕事だ。俺はその使命に従ったまでだぜ。」


「おやっさん……。」


 得意げに鼻を擦るグラッパを見た後、レクスはカウンターの上にずっしりと置かれた新たな姿の相棒を眺める。


 この魔導拳銃がなければ、レクスはあのダンジョンの中から生還できたかも危うかったのだ。


 それ以来、レクスが愛用してきた期間は未だに短いが、この拳銃によって救われた場面を思い出しながら、銃のグリップを手に取る。


 銃の重さを感じながら、レクスはグリップをぎゅっと握りしめた。


(……また、宜しくな。……相棒。)


 レクスが軽く表面を撫でさすると、黒い鋼がランプの光を反射し、レクスに応えるようにきらりと光った。


 そんなレクスの表情を満足げな笑みを浮かべてグラッパは見つめる。


「この銃は坊主と出会って幸せだろうぜ。魔導拳銃って代物は基本的にゃ使われねえ代物だ。武具は使われてこそなんぼだってのによ。」


「そうなのか?おやっさん。」


「基本的にゃダンジョンで発見される魔導拳銃だが、多くは貴族のお飾りや高値で手が付けられない骨董品みたいなもんになってる。そんなもんは、武具として「価値がねえ」って言われてるもんだからよ。それらに比べりゃこいつは幸せもんだ。しっかりと使ってくれる持ち主に出会ってんだからよ。」


「……そうかよ。……ますます手放せねぇな、こいつは。」


 グラッパに笑みを返しながら、レクスは魔導拳銃を右手で持ち上げてグリップを握り、引き金に指を通す。


 以前に比べてやはり少し重いが、気にならないくらいの変化に留まっている。


 壁に向かい、片手で銃を構えた。


 銃口の先を見据えるように、視線を飛ばす。


 その感覚も、殆ど以前と変わらない。


 帰ってきたぞ。と言わんばかりにその銃はレクスの手に馴染んでいた。


 ふぅと、息を吐いて銃口を下げる。


「おいおい、こんなとこでぶっ放さんでくれよ。」


「誰も撃たねぇよ。……本当、いい仕事をありがとよ、おやっさん。」


 冗談めかして呟くグラッパに、レクスも軽く口元を上げて返す。


 そんなレクスの姿を見るエミリーは「かっこいいのだ……!」と目をキラキラと輝かせて口に漏らしていた。


 すると、グラッパがぽん、と何かを思い出したように手を叩く。


「そうだ、その他にも思いつきの考えをその「黒嵐」にはくっつけてみたぜ。そいつもまた機会があったら使ってみてくれよ。」


「おやっさんの思いつき……なにをしたんだ?また魔導回路でも付けたのかよ?」


 きょとんとするレクスにグラッパは口元に笑みを浮かべると、顎に手を当てて喋りだす。


「まあ……似たようなもんだ。……正確には、使ってからのお楽しみってな。」


 にしししと笑みを浮かべるグラッパに、レクスとエミリーは顔を合わせ、不思議そうに首を傾げた。

お読みいただき、ありがとうございます。

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