第11−2話
昼になり、陽が満遍なく照らす熱気の元で、学園のグラウンドには実技試験の為に多くの受験生が集まっていた。
王立学園の実技試験は戦闘部門と魔術部門に分割されて行われる。
その中に、一際注目を集めている集団がいた。
稀代の勇者、リュウジとその御付き、リナたちだ。
勇者や伝説のスキル所持者の実技試験とあって、リュウジたちは学園の教師や他の受験生の視線を集めていたのだ。しかも全員美形とくれば注目の的になるのは必然だ。
東西で頒たれたうちの、東側グラウンドでは魔術部門の実技試験が行われていた。
魔術部門の実技試験は、自由に魔術を使用して的に当て、その様子を試験官が確認し点数をつけるというものになっている。その際に、魔術を使用することが前提ならば武器や魔導具を使っても構わない。
受験生は躍起になって魔術を唱えるが、的に当たらなかったり、魔術のコントロールが出来ていない受験生も多い。
そんな受験生の中に、カレンとクオンが立っていた。
他の受験生は彼女らを遠くから見つめている。
彼女たちは羨望の的だったのだ。
カレンは魔術師が着る長めで紺色のローブを着用しており、先の曲がった背丈程の木杖を持っている。
一方のクオンは緑のインナーに金属製の鎧を胸部と腕部だけ身につけており、下半身は膝丈程のスカートを着用していた。
二人共、試験のやる気は十分とばかりに気を引き締めていた。
「カレン殿。どうぞ。」
まず試験に臨むのはカレンだった。
試験官の呼び声に、周りにいた生徒が色めき立つ。
試験官の方に一礼すると、カレンは真剣な眼差しで所定の位置に立つ。
貴族と変わらない立ち居振る舞いに、貴族の男子は魅了されていた。
カレンの立った場所から、15メートル前には菱形で中央に赤い円が描かれた木製の的がぽつんと立っていた。
カレンは無言のまま眼を閉じて集中し、ふぅと深呼吸をする。
深呼吸を終えるとすぐさま眼を見開き、持っていた杖を的に向け構えた。
「フレイムバレット!サンダーバレット!アクアバレット!エアバレット!シャインバレット!ダークネスバレット!」
カレンは火、雷、水、風、光、闇の六属性全ての魔術を唱える。
基本的に魔法は「属性名+出力方法」で唱えられ、中でも「バレット」は対象に向け、低威力で速射する呪文だ。
カレンの杖から一斉に放たれた6つの魔術は、全て同時に着弾すると、的の中央を射抜き、的を破壊する。
その様子を見ていた試験官は眼を見開き、「…見事だ。」と呟いていた。
周りの受験生もざわつきながらカレンの技に感心している。
「……ふぅ。上手くいきました。」
魔術の発動が上手くいった事にカレンは安心し、胸をなでおろす。
カレンは試験官に再度一礼すると、その場を後にしクオンの元へ向かう。
クオンはキラキラとした眼でカレンを見つめていた。
「カレンお姉ちゃん!凄かったのです!」
「そんなことはありませんよ。私は出来ることをしただけです。クオンさんも大丈夫ですよ。……それに、私たちがしっかりしないとリュウジ様に迷惑をかけてしまいます。クオンさんもリュウジ様の為に頑張ってくださいね。」
「はいなのです。リュウジに認められるように頑張るのです!」
クオンはふんすと鼻息混じりに気合いを入れる。
カレンはそんなクオンを微笑みながら見ていた。
「続いてクオン殿!どうぞ。」
「はいなのです!……行ってくるです。」
「はい。クオンさん。いってらっしゃい。」
クオンは試験官に呼ばれると、意気揚々とカレンと同じように的の前に立つ。
しかしその立ち方はカレンとは異なり、的に身体の左側を向け、脚を肩幅程度に開いていた。
クオンは左手に持った弓に右手で矢を番えると、顔を的に向ける。
その顔は真剣で、的の中心をじっと見る。
「……サンダードレープ」
クオンは呟くように呪文を唱えた。
するとクオンが番えた矢にバチバチと雷が迸る。
クオンは矢を番えた弓を上に持ち上げ、左手を返しながらゆっくりと弓を引いていく。
矢が口元に来ると、クオンはそこで弓を静止させ、的を見据えた。
(……いまなのです!)
クオンは自身の感じたタイミングで右手の弦をぱっと離し、矢を放った。
弓が返り、矢は真っ直ぐ吸い込まれるように的に向かう。
そして的の中心を射抜く瞬間。
バチィッと雷が迸り、カレンと同じように的を破壊した。
的に中った瞬間、クオンは弓を下げ、ふぅと息を吐く。
「……これまたお見事。」
試験官がぼそっと呟き、他受験生が「おおっ」と感嘆の声をあげる。
何故ならこの試験用の的は、普通に矢を当てたり、魔法をぶつけても簡単には壊れない一種の魔道具だからだ。
それを二人続けて簡単に壊すのは周りがどう考えてもどう考えても異例だった。
クオンはその場から離れると、カレンの元へゆっくりと戻る。
「お疲れさまです。クオンさん。さすがの魔力操作と弓形ですよ。綺麗でした。」
「ありがとうなのです。でもカレンお姉ちゃんの方が魔力の操作は優れているのです。私もリュウジの役に立つためにもっと精進するのです。」
クオンは自身の弓をちらりと見ると、ぎゅっと握りしめた。
カレンの魔力操作に比べればクオン自身の術はまだまだのように感じて、拙いと思ってしまったのだ。
リュウジから愛されるにはもっと強くならなければならない。クオンはそんな気がしていた。
『クオン、よく頑張ったじゃねぇか。クオンは偉いぞ。俺にゃ出来ねぇからな。』
ただ突然、クオンの頭の中に大嫌いな男の言葉が蘇り、クオンはハッとする。
「クオンさん?どうしたんですか?」
「う、ううん。何でも無いのです。」
急に表情が変わったクオンをカレンが心配そうに見つめるが、心配をかけまいとクオンは首を横に振った。
(何で今あのクソ義兄の言葉が聞こえるですか。気分悪いです。とっととくたばりやがれです。)
クオンは心の中で義兄に毒づく。
クオン自身が上手くいかない部分は全て義兄の所為だとも思ってしまっていた。
(でも……なんだか……。)
ただ、何処か義兄がかけてくれる言葉が無いのが、何となく寂しかった。
そんなクオンを知らず、カレンはクオンに微笑みかける。
「では、リュウジ様のところへ参りましょう。リナも終わっているかもしれません。」
「そうするです。リュウジに褒めて貰うです。」
クオンとカレンはリュウジのいるであろう戦闘部門の会場へ行こうと歩き始める。
その時、丁度後ろで歓声が湧き上がったのが聞こえ、二人はふと魔術試験会場の方を振り向いた。
そこに立っていたのは、レクスが朝に見かけた少女だ。
その少女は右手を前に構え、光属性の魔術を放ち、的を粉々に破壊していた。
「さすが王族の方ですね。」
「私たちも負けていられないのです。」
試験を受け終わった少女は、試験官に一礼すると、誰に目をくれるでもなく試験会場の出入り口に向かって急ぐように歩いていく。
もちろんカレンやクオンの事など全く気にしていないようだった。
「相変わらずですね。リュウジ様にも心を開かれていないようですし。」
「感じ悪いのです。リュウジもよく声をかけるですねあの人に。」
カレンやクオンはその少女を王族の一人として国王から紹介された事があった。
その際リュウジももちろん会っているのだが、リュウジを袖にし、誰にも心を開いていない様子だったのだ。
その後もリュウジは何度も彼女にアピールをしているのだが全てすげなく断られている。
その様子を二人はちょくちょく目の当たりにしていた。
「……行きましょうか。クオンさん。」
「そうするです。」
少女を見送った後、再び二人は戦闘部門の試験会場に向けて歩き出した。
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