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晴天のプレリュード〜幼馴染を勇者に奪われたので、追いかけて学園と傭兵ギルドに入ったら何故かハーレムを作ってしまいました〜   作者: 妖刃ー不知火
間章 かえるもの編

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あいえんきえん

 リュウジとリナたちが話し込んでいる最中。


 カヤガヤと冒険者たちの興奮した声や話し込む声が響き渡る冒険者ギルドのクエストボードの横、受付カウンターでその人物は静かに立っていた。


 カウンターの奥からリナたちを見つめる白銀の双眸は悲しみを孕んだように揺らめいている。


 その女性には、リナたちの話している声は周囲の声や音にかき消されてほぼ聞こえていない。


 だが、勇者であるリュウジがダンジョンに興味津々であるというのは、勇者の行動である程度噂されていたことを、女性は聞いていたのだ。


 そんな女性は、リナたちの馴染みのある受付嬢だった。


『ダンジョン』という言葉を聞いた瞬間に、彼女はなんともいえない喪失感を抱え、うら悲しく目を伏せてしまっていたのだから。


(わたしの……せいで。あの人たちは……!!)


 彼女は唇を固く噛み締める。


 その時の光景は今でも鮮明に思い出せる程だ。


『シルフィさんとキュエンさん!大事件です。ダンジョンが現れたんです!』


 まだひよっこだった自分と親しかった冒険者の二人組、「風の旅団」。


 何時も明るく溌剌としたキュエンと、少し怖いがとても優しいシルフィの二人組のパーティ。


 そんな彼女にとって、二人と会って話すのは、とても楽しい時間だった。


 二人と関わることで、たどたどしかった彼女も自ずと仕事に慣れた。


 そんな二人に彼女が心を開いて行ったというのは、至極当然とも言えるだろう。


 そのパーティにダンジョンの出現を教えたのは、他でもない彼女だったのだ。


 意気揚々と教えたのはよかったが、しばらく経っても「風の旅団」が冒険者ギルドに帰ってくることはなかった。


 それでも彼女は「風の旅団」がまた元気に顔を出してくれる、と。


 まだ無垢であった彼女は信じきっていたのだ。


 しかし、その希望すぐにも打ち砕かれる。


 ダンジョンを踏破したという女性が現れ、「風の旅団」のキュエンのステータスカードを見せられたのだ。


 本人ではないステータスカードを女性が持っている。


 その事実は、ひよっこの受付嬢でも意味がわかっていた。


 おそるおそる『何故持っているか』と尋ねたとき、女性は無言で首を横に振った。


 その時の女性の言葉は、彼女にとって忘れられない。


『……損傷は他と比べてマシだったよ。顔も、とても安らかだったさね。もう一人は……わからなかったけど……ね。』


 女性の言葉に、彼女は泣き崩れた。


 その女性からキュエンについて尋ねられたものの、彼女自身、大きなショックを受けたせいか何を話したのかは特に覚えていない。


 だが後に、「鉄の蛇」というSランクパーティが捕まり、処刑されたというニュースを聞いたときに、彼女は全てを理解したのだ。


 それ以来、彼女は罪悪感をずっと背負ってきた。


 もしもあの時、自身が何も言わなければ。


 もしもあの時、ダンジョンを勧めなければ。


 もしもあの時、自身が「風の旅団」を引き止めることが出来ていれば、と。


 冒険者の話をたらればで語る事など出来ない。


 彼女もそれが冒険者の在り方と理解している部分もある。


 だが、それでも。


 その罪の意識が、彼女をずっと苛んできた事に間違いはないのだから。


 彼女は顔を上げ、わいわいと楽しげに話し込んでいるリナたちに、不安げに瞳を揺らし、縋るような視線を送る。


 彼女自身に、冒険者がダンジョンへと向かう事を止める事など出来ないのだ。


 加えて彼女から見たリナたちは、焦ったように突き進んでいるように見えて何処か危なっかしい。


 そして今、目の前でリナたちが勇者に話しかけられている構図が、あの時、ギルバートと話す「風の旅団」の姿と奇しくも何処か重なって見えていた。


(……もう、あんな事はたくさん。だから、どうか……。)


 ただただ無事に帰って来てほしい、と。


 得意げに話す勇者と頬を染めるリナたちを、受付嬢は願うようにその姿を眺めていた。


 ◆


 夏の入道雲の間から晴れ間の覗く、雨の翌日。


 街道の水たまりに映った傭兵ギルドは、朝だというのに何時もと変わらず出入りする人間も少ない。


 水たまりの水も跳ねる程のないくらいに、傭兵ギルドの前の通りも閑散とした空気が漂っていた。


 そんな人気のあまりない傭兵ギルドの三階、ギルドマスターの部屋には白い煙がふよふよと漂う。


 煙が立っている大元は、ギルドマスターの机の上の灰皿からだ。


 椅子にゆったりと腰掛け、机の上でヴィオナは数枚の報告書や依頼書、通知を眺めながら、咥えた煙管の先を紅く染めていた。


 咥えた煙管を口から外し、ふぅと白い煙を立たせる。


 ヴィオナが愛用している黒い煙管は、行き届いた手入れのおかげか艶めいた光沢を放っていた。


 ヴィオナの表情は憂いを纏いながら難しい表情で書類に目を通している。


 そんなギルドマスターの部屋に、コンコンと扉を叩く音が響き渡った。


「おばあちゃん。アタシよ。」


「チェリンかい。入んな。扉は開いてるよ。」


 扉の向こうから聞こえた声はヴィオナの孫娘であり、傭兵ギルドの受付嬢、チェリンだった。


 ヴィオナが顔を上げて声を返すと、カチャリと扉が開き桃色の線が入ったスーツを着たチェリンがさらりと桜色の髪を靡かせて中へと踏み込む。


 入った途端、すんすんと鼻を動かし白い煙に顔を僅かに顰めた。


「入るわよ。って、おばあちゃん、また煙草吸ってんの?身体に悪いわよ。」


「いいだろう、そのくらい。アタシの楽しみさね。」


「おばあちゃん、歳なんだから煙草を控えてよね。……まあ、言っても控えないでしょうけど。」


「良く分かってるねぇ。あたしゃいい孫を持ったね。」


 事実として以前からチェリンはヴィオナが煙草を吸う事にいい顔をしないのだが、ヴィオナ当人はどこ吹く風だ。


 書類を胸元に抱えながら、チェリンはヴィオナの元に歩み寄る。


「……それで、何かあったのかい?」


「……依頼、よ。さっき、役人の人が置いていったわ。こういった王宮からの依頼はおばあちゃんを通すのが筋だとは思うけど、なんか忙しいんだって。」


「王宮が……?えらく軽く見られているねぇ……。」


 チェリンの困ったような口ぶりに、ヴィオナも頬杖をついて嘆息する。


 基本的に依頼はヴィオナが精査して受けるか決める為に貴族や王家はヴィオナに直接頼みにくることが殆どではあるのだ。


 チェリンだけで受ける依頼を決める場合も有るのだが、基本的にヴィオナに回す為二度手間になってしまう。


「……王宮がそんなに忙しいとは、どんな依頼を持ってきたんだい?……嫌な予感しかしないけどねぇ。」


 チェリンがおもむろに差し出した紙を、ヴィオナは片手でひょいと受け取る。


 すぐに紙面を確認した。


 内容にざっと目を通したヴィオナは、目をひくつかせて僅かに目を潜め、はぁとため息を吐いた。


 その依頼の内容が、あまりにも危険を伴うものだとヴィオナは判断したからだ。


「……うちのギルドは子守するためにあるんじゃないけどねぇ。……うちの連中なら生き残ることだけなら容易いさね。だが、あれを守りながらなんて、何が起こるかわかったもんじゃないよ。」


「で、どうするの?おばあちゃん。」


「……仕方がない。一旦アタシが預からせて貰うよ。……もし受けるなら、担当する人間はアタシが決めさせて貰うとしようかねぇ。」


「それがいいわね。……王室も、大変ね。」


「全くだよ。……いい迷惑さね。」


 呆れたように二人揃ってため息を溢す。


 その依頼は王宮からの直接依頼であり、ギルドとしても無下に出来ないものだ。


 断ることも出来ないことは無いが、王宮の依頼を断ることは、ギルドの面子としても避けたい事態である。


 そんな王宮からの依頼は、ただでさえ人が少ない傭兵ギルドで命の危険を大きく伴う依頼だと、ヴィオナは捉えていた。


「……とりあえず、報告はそれだけ。アタシは持ち場に戻るわね。」


 くるりと踵を返し、扉へと向かうチェリンの背中に、ヴィオナはニヤニヤとした笑みを浮かべて口を開いた。


「ああ。お疲れさん。……誰も居ないからって、クロウとおっぱじめないでくれよ。声が響くからねぇ。」


「ちょ……おばあちゃん!?するわけないでしょ!?」


 ヴィオナの言葉に顔を真っ赤にし、慌てて振り返るチェリン。


 そんなチェリンを可笑しく思い、ヴィオナはクククッと笑みを溢し目を細める。


「煙草の文句の意趣返しさね。……あれだけ激しいんだ。普段は強気なお前さんの口から、あんな艶っぽくて弱々しい、媚びへつらう声が出るとはねぇ。曾孫の顔、期待させておくれよ?」


「おばあちゃん!!……もう!知らないからね!」


 顔を染めきって怒ったようなチェリンは、バタンと大きな音を立てて扉を閉め、部屋の外へと出ていく。


 クロウととても《《仲の良い》》ことをその反応で察してヴィオナは僅かに口元を緩めた。


 チェリンが出ていくと、ヴィオナはこっそりと机の引き出しを開き、あるものを取り出す。


 銀色に輝くそれは冒険者ギルドのステータスカード。


 ダンジョンで命を落とした、とある冒険者の残滓。


 それを憂うように見つめながら、ヴィオナはぽつりと呟く。


「……お前さんみたいな奴が増えないことを、願うしかないねぇ……。」


 先ほどチェリンから預かった依頼書と、机から取り出したステータスカードをしげしげと交互に眺めた。


 ヴィオナがあの時目にした骸の山も、犠牲者の一部にしか過ぎない。


 魔獣の手にかかった犠牲者も山のようにヴィオナは目にしているからだ。


 むしろ、形が残っていただけまだ幸せだったのかも知れない、と。


 そんな思いでため息を漏らしつつ、ステータスカードを机の上に紙と置く。


「……お前さんは……無事に逝けたのかい?」


 ヴィオナはぽつりと独りごちる。


 机の上を、燦々と輝く窓から射し込む、朝の陽が照らし出す。


 ステータスカードに刻まれた「キュエン」の文字は、何も答えず照らされていた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 これにて長かった間章はようやく完結となります。


 次の話からはいよいよ第伍章「迷宮の弓命・まもりぬくもの編」となります。


 いよいよ展開されるはクオンの物語。


 果てに待つのは、絶望と希望(パンドラボックス)


 頑張って書き上げますので応援よろしくお願いいたします。


 また、第五章もセルフレーティングタグをフル活用しますので、苦手な方はご注意下さい。


 ここまでお読みいただいた方。


 レクスたちの活躍が気になるという方。


 ヒロインが可愛いと思った方。


 そして、今後の物語のうねる波が気になった方。


 しっかりと書き記して行きますので、是非とも応援よろしくお願い致します。

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