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晴天のプレリュード〜幼馴染を勇者に奪われたので、追いかけて学園と傭兵ギルドに入ったら何故かハーレムを作ってしまいました〜   作者: 妖刃ー不知火
間章 かえるもの編

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誘う甘言

 何時もであればそこにはいない筈のリュウジが立っていることに、三人は目を見開く。


 普段であればリュウジが依頼終わりの三人を出迎える事などないからだ。


 慌てたように紅い瞳を揺らしながら、リナはリュウジに声をかけた。


「リュ……リュウジ!?どうしたのよ?」


「あれ?リナ、嬉しくないの?……折角僕が出迎えたのに酷いじゃないか。」


「ち……違うの。……汗、かいちゃってるから……。」


 リナは頬を染めてリュウジから視線を逸らす。


 リナたちは年頃の女の子であり、そういったことを気にするのは性といえた。


 しかしリュウジははははっと笑い飛ばし、リナたちに歩み寄る。


「僕は全然気にしないけどね。むしろ汗をかいた美少女なんて大歓迎さ。」


「も、もう!リュウジったら!」


 リュウジの発言に、リナは顔を紅くして恥ずかしがる。


 一方のリュウジはにこやかに笑いつつも、リナの身体を舐め回すように見回していた。


 その鼻腔は、僅かながら興奮したように拡がっている。


 そんなリュウジに、カレンが一歩踏み出したように近寄った。


「リュウジ様?珍しいので驚いてしまいました。どうしたんですか?」


「そうなのです。この時間にリュウジ様がいることは珍しいのです。」


 首を傾げるカレンにクオンもコクコクと頷く。


 そんなカレンの言葉にリュウジはこほんと咳払いをすると、口元を得意げに大きく上げた。


「それはね……リナたちにも協力して欲しいのさ。……”ダンジョン”の攻略にね。」


「ダン……ジョン……?」


「な、なんなのですか?それは……?」


 得意げに語るリュウジの言葉に、リナとクオンは首を傾げる。


 しかしカレンだけはリュウジの言葉になるほどと肯いていた。


 カレンは”ダンジョン”というものを、本を通じて読んだことがあるからだ。


「リュウジ様、では、この人の多さはダンジョンによるものでしょうか……?」


「うん。カレンは賢いね。……そうだよ。うーん、やっぱり興奮するよね、ダンジョンって憧れだったし。」


「リュウジ様の憧れ……ですか?」


「そうなんだよ!ダンジョンを踏破するのは、異世界転生の常識だからね!この世界にもあるってことは、やっぱり僕が主人公の世界ってとこかなぁ。」


 カレンはリュウジの言う「異世界転生」や「主人公の世界」という意味が分からず、難しい顔をする。


 時折リュウジはカレンたちにも馴染みない言葉を使うことが多々あるのだ。


 その表情に気がついたのか、リュウジはあははと苦笑いを浮かべる。


「ごめんね。分かりにくかったかな。」


「いいえ、リュウジ様が博識で私の理解が及んでいないだけです。……やはり、リュウジ様は博識ですね。」


 にこやかに笑いながらリュウジを上げるカレンの発言に、リュウジの機嫌は良くなっていた。


 でれでれと鼻の下を伸ばしながらカレンの身体も舐め回すように見回す。


 一瞬にたついた笑みを浮かべたが、すぐさまその顔は元に戻った。


 もちろん、リナやカレンには気が付かれていないというか、目に入らないだけなのだが。


「そんなことはないよ。僕にとっては常識の範囲だからね。当然のことだよ。……話を戻すと、”勇者にはダンジョンが切っても切り離せない”ってことさ。もちろん、僕の力だけでソロ攻略なんて絶対無理だからね。……皆の力を借りたいんだ。お願い、できるよね?」


 リュウジは三人を順番に見つめていく。


 その仕草にリュウジの信頼を感じ取った三人は、こくりと揃えて首を縦に振った。


「リュウジがあたしたちの力を求めてるんでしょ。やらない訳無いわよ。あたしたちだって、強くなったんだから。」


「そうです。私たちも依頼を受けて実力を付けたんですから。リュウジ様のお役に立てるように、万全です。……惚れ直しても、いいんですよ?」


「リュウジ様が褒めてくれると思って、頑張ったのです。わたしの弓で、リュウジ様を守るのです。」


 にこやかに笑いつつも自信の溢れた答えに、リュウジはうんうんと得意げに肯く。


「リナたちが協力してくれるなら、百人力だよ。……もちろん、リナたちだけに頼る訳にはいかない。ミルラや「黄金百合」の皆、他に協力してくれる冒険者やクラスメイトの女の子たちにも声をかけてみるつもりさ。多ければ多い程、攻略はやりやすくなるからね。僕を中心にパーティの垣根を超えた革新的な一団として、ダンジョンを攻略してみせるつもりだ。」


 胸を張り、腕を腰に当てて鼻高々に宣言するリュウジ。


 その表情はとてもきりりとしているように見えて、三人はドキリと胸を高鳴らせた。


「まあ、僕がいるんだ。ダンジョンなんて簡単だよ。僕がいる限り、ダンジョンでリナたちを傷つけられるなんてへまはしない。なんたって、僕こそが神聖剣に選ばれた勇者なんだからね。」


 得意げな発言は調子に乗っているようにも聞こえた筈なのだが、リナたちは勇者に恋する乙女のようにキラキラとした視線を向けている。


 頼もしい、と。


 そう感じてしまったのだから。


 はっはっはと高笑いを上げるリュウジを惚けたように見つめるクオンに、リナがちょんと肘で小突く。


「リナ……お姉ちゃん……?」


 リナは口元を上げてにこりとした微笑みをクオンに向けると、リュウジの方へ顔を向けた。


「ねぇ、リュウジ。」


「んん?なんだいリナ?何か気になるのか?」


「お願いがあるんだけど……いい?」


 リナの上目遣いで頼み込む表情に、リュウジはいい気になったように鼻腔を拡げ、口元を上げた。


「うんうん。なんでも聞いてあげるよ。リナの頼みだからね。」


「あたしというか……クオンがお願いがあるって。」


「ふーん?まあ、クオンでも良いけどね。僕に、何をしてほしいんだい?」


 リナの言葉を聞いた途端に、リュウジはクオンの翡翠のように輝く目を覗き込むように屈む。


 いきなりの仕草に、クオンは「ひゃい!?」と奇声を上げて、ボン、と頬を真っ赤に染め上げた。


 リナがちらりとクオンに目配せをする。


 どうやらクオンが伝える方が良いとリナは判断したようだった。


 ドキドキと高鳴る心音にに背中を押されるかのように、クオンはおそるおそる口を開く。


「りゅ……リュウジ、様。もし……ダンジョンでわたしが活躍出来たら……その時は……キス、してほしい……のです……。」


 クオンが真っ赤になりながらもしどろもどろに伝えた言葉に、リュウジは。


「えぇ……。する必要ある?」


 露骨に嫌そうだと言わんばかりに、顔を顰めた。


「リュ……リュウジ……様?」


「……キスなんてさ、無駄だよね。口内の細菌を交換するようなもんだし。キスするってさ……何より、重いんだよね。男は皆、求められたからしぶしぶやってるだけだよ。結局、したくなんてないのさ。僕は皆を平等に愛したいんだ。クオンもわかってくれるよね?」


「は……はい。なのです……。」


「ほんと、キスなんてどうでもいいからさ。クオンのその身体を、僕は味わってみたいんだけど?そのお誘いなら、僕は歓迎するんだけどなぁ。」


 しょんぼりとした表情のクオンにリュウジはにたにたとした笑みを浮かべて耳元で囁きかける。


 それに対して、クオンは。


 何故か何処かで、心の中に引っかかりを覚えていた。


 それは、本当に僅かなささくれ。


 ”ご奉仕”の時も隅っこに引っかかっているそれは、クオンが最後の一歩を踏み出せない原因でもあった。


 何故かはわからない。


 だがクオンは、そのささくれをどうしても無視することなど出来なかった。


 リュウジの表情に、ごく小さな恐怖を覚えたこともあり、クオンはふるふると小さく首を振った。


「そ……それは……まだ、だめ、なのです……。」


「……ちぇー。まだ駄目かぁ。……はぁ、わかったよ。」


 クオンの今にも泣き出しそうな声を聞き、リュウジは残念そうにため息をつきながらクオンから顔を離した。


 クオンは少しながらもショックを受けたせいか、スカートの裾をぎゅうと握り締めていた。


 その様子を気にしていないように、リュウジはやれやれとクオンを見つめる。


「……とにかく、キスをするのは僕が嫌いなんだ。重くなっちゃうのは嫌だからね。もっと皆ライトに行こうよ。これは、皆を平等に愛するためだ。わかってほしいな、クオンもさ。」


「わかった……のです。」


「わかってくれればいいんだ。うんうん、僕はクオンみたいな物わかりの良い子が好きだな。」


 一人で納得したリュウジは、満足そうに肯く。


「……でも、そうだな……もし、クオンが頑張ってくれたらその時は……クオンに「正妻」のポジションをあげても良いけどね。」


「ふ、ふぇっ!?」


 突然の言葉に、クオンはその輝く翡翠の眼を大きく見開く。


 正妻。


 それはリュウジの隣に表立つ、メインパートナー。


 ハーレムの顔とも言える存在だ。


 それを条件付きではあるがクオンに渡すという発言は、実質求婚しているのに等しい。


 驚くのも無理は無かった。


 そしてそれは、クオンだけではない。


「ちょっと、リュウジ!?それってどういうことよ!?」


「リュウジ様?私にも説明して欲しいのですが……。」


 じりじりとリュウジに寄るのは、じとっとした目つきのリナとカレンだ。


 そんな二人を、まあまあとリュウジは手で制する。


「もちろんリナやカレンにもチャンスはあるからね。ダンジョンの攻略で最も役に立った人を僕の正妻にしてあげようと思ってるんだ。チャンスは平等じゃないといけないからね。」


「リュウジ。それは本当よね?なら、しっかり見てなさい。あたしの雄姿をね!」


「リュウジ様?私も魔術を存分に鍛えたんですよ。……目を、離さないでくださいね?」


「もちろんさ。リナやカレン、クオンの頑張りを、僕は正当に評価したいからね。……期待してるよ、皆をね。」


 やる気を滾らせたリナとカレンに、リュウジはでれでれとにやついた表情を浮かべながら、いい気になっているようだった。


 一方のクオンはというと、「正妻」という言葉に顔を真っ赤に染めて、ぷしゅうと頭から湯気を出している。


(リュウジ様の正妻……リュウジ様の正妻……リュウジ様の正妻……ふわぁ……)


 既にクオンの中では、リュウジと一緒ににこやかな顔で歩く自身の姿を想像し、悶えていたのだ。


 だが。


『キスするってさ……何より、重いんだよね。男は皆、求められたからしぶしぶやってるだけだよ。結局、したくなんてないのさ。』


 先ほどのリュウジの言葉が、クオンの脳裏で渦を巻く。


 浮かれたような心を現実に戻すようなその言葉は、クオンの心にこびりつくように影を落とした。


 何故か切ないような、それでいて何処かほっと安堵するようなその気持ちにクオンは寂しそうに俯く。


 どうしたら良いのか行き場のわからない暗澹な気持ちを押し留めるように。


 ひらひらとした服の裾を握り締めるだけだった。



お読みいただき、ありがとうございます。

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