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晴天のプレリュード〜幼馴染を勇者に奪われたので、追いかけて学園と傭兵ギルドに入ったら何故かハーレムを作ってしまいました〜   作者: 妖刃ー不知火
間章 かえるもの編

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勇むもの、憂うもの

 陽の暮れゆく紅い空の元、白亜の門を潜り抜ける三人の少女たちの姿があった。


 そのうち二人は軽装の鎧を着用し、残る一人は紺色のゆったりとしたローブを羽織っている。


 疲れ切った様子で額にはたらりと垂れた汗が見えていた。


 リナ、カレン、クオンの三人だ。


 三人とも可憐な美少女であるのだが、その表情は浮かないようにも周囲からは見えていた。


 さらには何処か疲れきった様子も、その顔には如実に表れている。


 三人は連日のように、難度の高い討伐依頼を請け負っていたのだ。


 その日も三人は王都から離れ、魔獣の討伐を行い、帰ってきたところであった。


 カレンが持つゆらゆらと揺れている巾着袋には、「赤鬼」の魔核が3つ、ころころと入っている。


 王都の中心部へと続く人の多い石畳の街道を、三人はとぼとぼと並んで歩く。


 目的の場所は、冒険者ギルドだ。


 街道を歩く住人や商人たちは、三人を羨望や欲望、憧れなどの表情をもって見つめている。


 勇者が連れてきた美少女たちということで、三人とも王都ではそこそこ顔が知れているのだ。


 ちらちらと向けられる視線を浴びながら、紅い髪を揺らすリナはふぅとため息を溢す。


 隣を歩くカレンが、不思議そうに目を向けた。


「どうしたんですか、リナ。大きなため息を溢して。」


「……まあ、ね。リュウジの力に、あたしたちはなれてるのかなって。そう思うのよ。魔獣との戦い方にはだいぶ慣れたけれど、まだリュウジに追いつける気がしないわ。」


 ぽつりと呟かれた言葉に、クオンもリナに視線を向ける。


「……大丈夫、なのです。リュウジ様もわたしたちの頑張っている姿を褒めてくれるのです。学園の皆も、リュウジ様の為に頑張っていることは理解しているのです。」


「そうだといいんだけど……。不安よね。あたしたちの実力が全くわからないもの。」


 不安を口に出すリナに、カレンも「そうですね」と肯く。


「確かにそれはリナの言うとおりですね。実力を見るためといってこれ以上ランクの高い依頼となると、私たちのランクを大きく超えるものばかりになってしまいます。リュウジ様に迷惑をかける訳にはいきませんからね。」


 カレンが目を伏せつつ、ふぅと悔しげにため息を溢した。


 リナたちのパーティは現在Bランクに位置している。


 これはリナたちが上げたランクであることには間違いがないのだが、リナたちだけでパーティを組んでいるわけではない。


 リュウジやノアなどもパーティメンバーとして扱われる為、その力を合算させたものになるのだ。


 自分たちが押し上げたパーティの冒険者ランクではあるのだが、リナたちはいまいち強さの基準を見つけられないでいたのも悩みの一つであった。


 そんなカレンの顔を目の当たりにしてか、ぴょこぴょことツーサイドアップを揺らし、クオンが口を開く。


「カレンお姉ちゃんも、リナお姉ちゃんも。心配することはないのです!リュウジ様は強くなったわたしたちの強さに驚いてくれる筈なのです!……そうしたら、「ご褒美」だってくれるかもしれないのです!」


 姉のように慕う二人に、にぱっとクオンは笑いかける。


 クオンの明るい溌剌とした笑顔が、リナとカレンにとっても清涼剤となっているのは、間違いのない事実だった。


 ふふっと思わず微笑みを溢す二人。


「そうですね。リュウジ様も私たちを見て、惚れ直されるかもしれませんね。……ところで、ご褒美とは?クオンさんは、リュウジ様の何が欲しいのですか?」


「そ……それは……その……。」


 くすくすと微笑みながらいたずらっぽくカレンはクオンに問いかける。


 その質問に、クオンは顔を真っ赤に染め、俯いてしまった。


「カーレーンー?クオンが恥ずかしがってるじゃないの。止めたげなさい。」


 リナがカレンを諌めるように、ため息混じりに口を開く。


 リナも強くは止めない。


 このいたずらっぽい仕草は、カレンの性格だとわかっているから。


「ふふふ。わかっています。ごめんなさい、クオンさ……。」


「……のです。」


「え?なんて言ったの、クオン?」


 カレンが口を開くと同時に、顔を真っ赤にしてクオンが何かを呟く。


「……リュ、リュウジ様に……口づけ、してほしいのです。」


 搾りだすようなクオンの言葉に、リナとカレンは難しそうに眉を下げた。


「それは……ちょっとねぇ。」


「難しい……かもしれませんね。」


 二人がそう口にするのには理由があった。


 無論、嫉妬や羨望などからリナたちはこう言った訳ではない。


 リュウジは、キスを嫌がっているのだ。


 三人がリュウジに”ご奉仕”するときでさえ、リュウジはキスを頑なに拒む。


 それは三人だけではない。


 リュウジと関係を持った、全員に対して徹底されているのだ。


 キスを「無駄な事」であり「不潔だ」と切り捨てるリュウジに仕方がないと思いつつも、三人は願望を口に出来ないのだから。


「……わかっているのです。でも、憧れるのです。好きな人からの口づけなんて、夢のようなのです。」


 少し諦観したようなクオンは、ふぅとため息を溢す。


 その気持ちはリナとカレンも分かっていたようで、残念そうに口元を下げた。


 沈んだ顔のままで、三人はとぼとぼとその疲れ切った足取りでギルドへと向かっていく。


 しかしその空気に耐えられなかったのか。


 リナが仕方なさそうにため息を吐くと、クオンに目を向けて苦笑した。


「……わかった。クオンがそういうなら、リュウジに言ってみれば良いわ。流石のリュウジもクオンからのお願いなら、喜んで聞くでしょ。」


 急なリナの発言に、クオンは顔を上げてリナを見た。


「リナ……お姉ちゃん?……いいのですか?」


「……クオンが頑張ってくれてるのはあたしたちがきちんと知っているもの。いつも助けられてばっかりだしね。」


「リナ……お姉ちゃん……。」


 クオンの顔が嬉しそうにぱぁっとほころぶ。


 その顔を見て、にこやかにリナも歯を出した。


 そんなリナを、カレンは肘で小突く。


 ちらりとリナが目を向けると、カレンはじとっとした目を浮かべていた。


「……いいんですか、リナ?……クオンさんに先を越されても。」


「いいのよ。いつもあたしたちがクオンに助けて貰ってるのは事実だもん。キスくらい、先に譲ってあげたっていいでしょ?」


 リナはぱちこんといい笑顔でカレンにウィンクする。


 そんなリナを、カレンも苦笑しながらため息を溢していた。


 その時、リナの腰がぎゅっと抱きしめられる。


 抱きしめたのはもちろんクオンだ。


 戸惑いながらもリナはクオンに目を向ける。


 目に映ったのは、太陽のように明るい満面の笑みを浮かべたクオンだった。


「ちょ……!?クオン!?びっくりさせないでよ!?」


「あらあら、クオンさんたら。リナも好かれていますね。」


 慌てたリナをからかうように、カレンはくすりと口元を上げた。


 しかしそれでも、クオンはリナに抱きついて離れない。


「リナお姉ちゃん……大好きなのです!」


 満面の笑みから放たれたその言葉にリナも毒気を抜かれ、柔らかく苦笑を浮かべた。


 リナ自身も、そんなクオンを憎めないのだから。


「ありがと、クオン。あたしもよ。」


 リナがそう呟くと、クオンはさらにぎゅうっと抱きしめる力を強くする。


 リナはそんなクオンの濡羽色のさらさらとした髪の毛を優しく撫でた。


 するとリナの傍からカレンがひょっこりと顔を覗かせ、クオンを見つめる。


「クオンさん。私は大好きではないのですね。……悲しくなってしまいます。」


「そ、そんなことはないのです!わたしは、カレンお姉ちゃんだって大好きなのです!」


 クオンはぶんぶんと勢いよく頭を振り、慌てて否定すると、カレンは再びくすくすといたずらっぽい笑みを浮かべた。


「冗談ですよ。クオンさん。そんなことはないと、私も分かっていますから。私も、クオンさんは大好きですよ。」


「カレンお姉ちゃん……意地悪なのです。」


 そんなカレンに、クオンは拗ねたようにジト目でぷくりと頬を膨らませる。


 クオンのあどけない仕草に、二人は思わず頬を緩めた。


 それからも三人は他愛もない会話で笑い合いながら歩く。


 何処か辛いものを背負い歩く少女たちが、ほんの僅かな安寧を見いだしながら。


 その姿は姉妹のように仲睦まじく見えたことだろう。


 三人は揃って冒険者ギルドへと到着する。


 しかしその光景に、何処か違和感を覚えた三人の少女たちは不思議そうに首を傾げた。


「ねぇ……いつもより人、多いわよね?」


「そう、ですね。何か、あったのでしょうか?」


「この時間帯にしては多いのです。一体何があったのです?」


 いつもリナたちが冒険者ギルドに返ってくるこの時間帯は、基本的に依頼もほぼなく換金する冒険者が殆どであった。


 そういった冒険者は基本時間がかかる討伐依頼をしていることが多く、帰る時間が遅くなっているのは常。


 しかし、この日の冒険者ギルドはそれと比べても圧倒的に人が多かった。


 リナたちが見たこともない冒険者たちがギルドに出入りしていることを不審に思いつつ、リナたち三人の少女は冒険者ギルドの扉を潜る。


 入った瞬間に感じたのは、立ちのぼる冒険者の熱気と汗の臭気。


 それほどまでに多く、ごった返した人の山だ。


「何……これ……?」


 あまりの光景に、リナたちは目を見開き絶句する。


 そんなリナたちに、一人の男性が近寄っていた。


 その男性は、リナたちを見つけると慣れた雰囲気で声をかける。


「やぁ、皆。遅かったじゃないか。」


 三人は声のした方向に顔を向けると、そこに立っていたのは非常に顔立ちの整った、同年代の男性。


 白いシャツを着て、綿のズボンに下げているのは白く輝く、神話に伝わる神聖剣。


 にこやかな笑みを浮かべ、軽く手を上げていた。


「リュウジ!?」


 グランドキングダムで「勇者」のスキルを持つ、異世界人。


 リュウジ・キガサキがそこに立っていた。

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