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晴天のプレリュード〜幼馴染を勇者に奪われたので、追いかけて学園と傭兵ギルドに入ったら何故かハーレムを作ってしまいました〜   作者: 妖刃ー不知火
間章 かえるもの編

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理由と決意と

 レクスはカークとマインの二人と手を繋いで、森の中から歩いて抜け出す。


 レクスの手を掴む二人の小さな手は、レクスの手を離すまいと固く握られていた。


 二人ともその眦は泣き腫らしたせいか赤く染まっている。


 気恥ずかしいのか、二人とも無言だ。


 未だに小さくやわらかな手の感触は、レクスにとって何処か懐かしい感触を呼び起こしていた。


(……むかし、あいつらともこうして帰ったっけか。)


 それは、レクスが幼馴染たちと一緒に手を繋いで帰った記憶。


 幾度となく手を繋いだ、当たり前の光景がふとレクスの頭を掠める。


 今も丁度夕暮れ時であり、照りつける陽と漆黒の闇のコントラストが映える時間帯。


 あれほど近かった手が、遠くに離れてしまったような感覚を、ひゅるりと吹き抜ける涼やかな風が煽るようにレクスの頬を撫でた。


(……あいつら、今頃何してんだ……。無茶とかしてねぇといいけどよ……。)


 レクスがアルス村に出立した時に見た、苦しげな三人の顔は、未だにレクスの脳裏に引っかかっていた。


 そんなことを考えながら二人の手を引き歩いていると、ぽつりとカークが口を開く。


「……ねぇ、レクスにいちゃん。」


「どうしたんだ?カーク。」


 カークはつぶらな青い瞳でレクスを見上げる。


「どうして……レクスにいちゃんはつよいんだ?」


 カークの疑問に、レクスは少し首を傾げる。


 レクス自身、自分をそこまで強いとは思っていないからだ。


「どうして……か。俺も分かんねぇよ。そもそも俺自身、強くなってる実感は正直無ぇ。……でも、だ。」


 レクスはカークに目元を下げて笑いかける。


「でも?」


「……俺の守りてぇもんの為に、必死で喰らいついてるだけだ。そこだけは曲げちゃいけねぇ、って思ってるからよ。」


「……にいちゃん。」


 カークはレクスの目をじっと見上げていた。


 レクスも自分自身の強さの秘訣を上手く言葉に出来ない。


 だが、その言葉の意図はしっかりとカークにも伝わっていたようで、カークは前を向きこくんと決意したように肯いた。


「おれ……にいちゃんみたいになれるか?」


 カークが尋ねるように呟いた言葉に、レクスは思い悩む。


 カークを突き放し、強くなれないと言い放ってしまえば、諦めさせるのは簡単だろう。


 魔獣に関わらず、村で平和に過ごしていたほうが幸せなのかもしれないと。


 命を賭しての戦いはいつ命を落としてもおかしくはないし、レクス自身も今生きていることは不思議なくらいの経験をしているからだ。


 だが、レクスは。


 そのカークの思いを否定することなど出来ない。


「……そうだな。カークも強くなれるとは思うぞ。」


「本当!?」


 喜色を含んだ表情で顔を上げるカーク。


 レクスは僅かに首を振って頷くが、じっとカークの瞳を見据えた。


「……でも、だ。強くなってもただ強くなるだけじゃだめだ。村長やおばさん、カレンや村の人たちでもいい。……カークが守りたいもののために強くならなゃいけねぇよ。」


「なんで?」


「強いってのは、ただ強いんじゃだめなんだ。守るものがあって初めて強くなれる……って王都の俺の師匠が言ってた。「守るものがないなら、最強になったところで意味がねぇ」ってよ。それに、護った時に応えてくれる人がいりゃ、助けてくれる。だからカークが強くなりてぇって思うなら、守りたいもんを見つけりゃいいんじゃねぇかな。」


 にこりと笑みを向けるレクスに、カークはわかりきっていない様子で、きょとんとした顔を浮かべていた。


 しかし、カークは何か思うところがあったのかこくんと頷く。


(ま、俺も上手く言葉にゃできねぇけどよ……。)


 ふぅとため息を漏らしながら、レクスは前を向く。


 ほぼほぼ沈みかけた夕陽の燃えるような空が、三人の影を村の方向へと長く延びる影を映していた。


 ◆


 村に帰ると、そこには村長であるカイナとその妻のルエナ、ブラックたちがレクスとカーク、マインを出迎える。


 カークを見るや否や、カイナとルエナはカークに飛びつくと、その身を抱きしめた。


 カイナに抱きしめられたカークは緊張が解けたのか、わあわあと大きな声を上げて泣く。


「カーク!駄目じゃないか!森の奥なんかに行ったら……!」


「ごめん……!ごめんよとうちゃん……かあちゃん!」


「心配したのですからね……カーク……!」


 カイナとルエナの手の中で、カークはさめざめと大粒の涙を流しながらルエナの身体に抱きついていた。


 もう一方のマインも相当怖かったようで、祖母であるシアンに抱きついて、とめどなく溢れる目の雫を拭っている。


「お祖母様ぁ…………。」


「怖かったのね。マイン。……よく無事で戻りました。」


 瞳を潤わせるマインをあやすシアンを見ながら、ブラックはやれやれと言わんばかりにため息をつく。


 一先ず無事に二人を連れ帰ったことに安堵するレクスにコーラルが声をかける。


「ごめんね。レクス君。迷惑をかけてしまったみたいで。」


「そんなことはねぇよ。二人が無事だったから良かった。何かあってからじゃ遅ぇからな。」


「それでもだよ。後でマインには、僕がしっかり叱っておくよ。」


 ばつが悪そうに眉を下げるコーラルにレクスは首を横に振るう。


 レクスはコーラルを気遣うように、口元を上げてにっと笑みを浮かべた。


 そんなレクスの耳に、たたたっと地面を蹴る音が聞こえる。


 音に振り向くと、そこにはカルティアたちとシルフィがレクスの傍に駆けて来ていた。


「レクスさん。無事、見つけられたようですわね。」


「ああ。悪いな。皆にも手伝って貰ってよ。ありがとうな。」


 レクスの言葉に、カルティアたちは揃って首を横に振る。


「何かあれば大事ですもの。当然のことをしただけですわ。」


「…子供は宝物。…レクスに協力するのは至極当然。」


「わたしが空から見ても見つけられなかったから、どうしようかと思っちゃったよ。でも、見つかって良かったね。」


「あちしもです。見つかってほっとしたです。」


 カルティアたち4人はほっとしたように安堵の笑みを浮かべるが、シルフィだけは訝しげに何かを考えるように、顎に手を当てていた。


「シルフィ母さん?どうしたんだ?」


「……レクス。魔獣と戦ったのか?」


「あ、ああ。わかるのかよ?。」


「そうだ。魔獣の血の匂いがお前に付いているからな。」


「えっ、本当かよ!?」


 レクスは慌てて自身の身体を嗅ぐ。


 しかし魔獣の血は直ぐに揮発するためか、レクスには匂いは全く感じられなかった。


 そんなレクスを見て、シルフィは首を振る。


「お前には分からんよ。エルフの特性みたいなものだからな。……戦ったのは、割と大型の魔獣といったところか。」


 シルフィの言葉に、レクスは首を縦に振った。


「ああ。「赤鬼」だった。二体いたけどどっちも片付けてきたよ。」


「「赤鬼」……だと?」


 レクスの言葉に、シルフィは眉を潜める。


 納得のいっていない表情で考えるシルフィは、ただ事ではない雰囲気を醸し出していた。


 そんなシルフィの表情を、レクスは不思議そうに見つめる。


「どうしたんだよ、シルフィ母さん。なんか変なのか?」


「……変ではないのだ。「赤鬼」自体は普通に出現する魔獣ではあるからな。……むしろ、お前が二体纏めて片付けた方が驚くぐらいではあるが。」


 シルフィはじとりとした目でレクスを見据える。


 練度が相当高くなければ赤鬼二体の討伐を同時に熟すことは、冒険者でもシルフィのレベルにならないといないくらいだからだ。


 しかし、シルフィが覚えたのは、別の疑問だった。


「じゃあ何もおかしなことはなさそうだけどよ……?」


「……「赤鬼」は、普通に出現することはあれど稀だ。同時に二体出現することはほぼほぼ無いと言っていいだろう。」


 シルフィの発言に、今度はレクスが目を丸くして驚く番だった。


「え……!?でも二体とも間違いなく「赤鬼」だったぞ……?」


「それは疑っていない。……可能性としてあり得るのは……周辺に”ダンジョン”が出現している場合だ。ダンジョンが出現しているならば、そこから湧き出た魔獣が這い出てくるからな。」


「”ダンジョン”……?そんなことあんのかよ……?」


「あくまで可能性の一つにしか過ぎん。ただあれは滅多に現れん筈だ。……杞憂であればよいのだがな。」


 目を伏せてふぅとため息を吐くシルフィ。


 シルフィの憂いを、レクスはその雰囲気からひしひしと感じ取っていた。


 一先ずレクスはシルフィから視線をカルティアたちに戻す。


 レクスはカルティアたちに伝えないといけないことがあるからだ。


 カルティアたちは、シルフィの話を聞いた後だからか、不安げな表情でレクスを見つめていた。


 レクスはコホンと咳払いをすると、改めてカルティアたちを真っ直ぐ見据える。


 カルティアたちの視線が注がれる中で、レクスは気恥ずかしそうに口を開いた。


「……皆に聞いて欲しい事があんだ。……夕食の後で、広場に来てくれねぇか?」


 レクスの口から出た言葉。


 ただならぬ雰囲気にカルティアたちは、こくんと真剣な表情で肯いた。


お読みいただき、ありがとうございます。

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