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晴天のプレリュード〜幼馴染を勇者に奪われたので、追いかけて学園と傭兵ギルドに入ったら何故かハーレムを作ってしまいました〜   作者: 妖刃ー不知火
間章 かえるもの編

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とどかなかったもの


 それは、ただ苔生した灰色の巨大な岩に、大きな穴があいただけの洞窟に見えた。


 草原の中に突如現れたその大岩を囲むように、王都の兵がずらりと並んでいる。


 一見すると、ただの岩を守る警備兵という異様な光景にも見えるだろう。


 しかし、そここそがダンジョンという魔境への入り口なのだ。


 ずらりと並んだ警備兵は、出現した魔獣がダンジョンから飛び出し、人や街を襲う危険を抑えるため。


 ふらりと人が入りこまないようにするためだ。


 警備兵たちは、ダンジョンの入り口の一点を見つめ、目を離さない。


 そんなダンジョンを囲う警備兵に、ガヤガヤと喋る声を響かせながら大勢の人々がぞろぞろと近づく。


 人々は鎧を着込んだり、剣を腰に下げた集団だ。


 そのうちの一人が警備兵に何かのカードを見せる。


 カードを確認した警備兵がさっと退けると、その集団は足並みをそろえて洞窟へ脚を踏み入れる。


 その集団は、冒険者のパーティ。


 一攫千金や自身の箔をつけるために、ダンジョンへと脚を踏み入れる冒険者は少なくない。


 ダンジョンに入ること自体が誉と言わんばかりの風潮すらある冒険者たちの中で、その岩山を遠目から手近な石に腰掛けてじっと眺めるシルフィとキュエンの姿があった。


 二人は岩山に入って行く冒険者の集団を、まじまじと見つめている。


 涼やかな風が吹き抜ける草原で、二人の髪がさらさらと靡いていた。


「あれが……ダンジョン。」


 隣で、ゴクリと唾を呑み込んだ音がシルフィに届く。


「……何だ?怖いなら、やめておいた方がいい。碌な結果にはならんぞ。」


 ちらと横を見やりながら呟くシルフィ。


 キュエンはゆっくりと首を振る。


「ううん、違うよシルフィ。怖いんじゃない。ぼくたちの力がどれほどのものなのか……はっきりわかるんだって思ってさ。」


 キュエンははっきりとした通る声で、シルフィに語りかける。


 いつも調子に乗っているような黄色い瞳は、迷いなくダンジョンの入り口に真っ直ぐ注がれていた。


 揺るがぬ決意と受け取ったシルフィは、口元を僅かに上げてふっと息を吐く。


「ならばいいさ。私もダンジョンには入ったことがない。これが初めての経験だ。……行こうか。」


 シルフィの言葉に、キュエンはコクンと頷く。


「そうだね。いつもどおりいくよ、シルフィ。」


「ああ。また無事にここへ帰って来るとしようか。」


 キュエンが踏み出した一歩に合わせ、シルフィも岩山の洞穴へ向けて脚を踏み出す。


 向かう先には、大穴の内に見える、先の見えない暗闇。


 意気揚々と進む二人は、この時知る由もなかった。


 二人の後を着けるように、数人の纏ったグループが追っていたということを。


 もう、この場所には戻ってこれないということを。

 ◆


 巨大な岩山の前にたたずむ警備兵に、シルフィとキュエンは揃って脚を進める。


 警備兵は近づく二人をじっと睨むように見据え、手を前に出して制止した。


 焦茶の髪色をした、なかなか厳つい顔つきの警備兵は、シルフィたちをぎろりと鋭い眼光で睨みつける。


「おい、お前たち。ここは立ち入り禁止だ。用があるならステータスカードかライセンスを見せな。」


 洞穴を囲んでいた警備兵が鋭く突き放すように声をかける。


 シルフィとキュエンは無言でステータスカードを取り出すと、そのまま警備兵たちの前に提示した。


 手に持ったステータスカードをじっと見て確認すると、警備兵はまたかと言わんばかりにため息を吐く。


 ダンジョンが発生してからずっとひっきりなしに冒険者が訪れているのだ。


 冒険者の多さを、そのため息が物語っていた。


「……ステータスカードは確認した。入んな。」


 警備兵が制止した手を下げると、顎で入り口を指し示す。


 ステータスカードを仕舞ったシルフィとキュエンは互いにわかったように頷き合うと、ダンジョンの入り口へと足早に歩を進めた。


 そして、暗闇に脚を踏み入れる直前。


「……気ぃ付けな。そのダンジョンってのは途中で出られるらしいからよ。なんかありゃすぐに出な。……命が惜しけりゃよ。……誰もオメェらを咎めやしねぇから。」


 厳しい顔つきの警備兵の放ったぼそりとした呟きが、シルフィの耳に届く。


 ちらりと後ろに視線を飛ばすと、くたびれたような警備兵の後ろ姿が一瞬だけ目に映った。


 それは、明らかに憂いの籠もった声であったのは、間違いなかっただろう。


「……行くよ、シルフィ。」


「ああ。行くぞ、キュエン。」


 キュエンの声に促されるように、シルフィは前を向く。


 目の前の暗闇からはどこか生暖かい風が吹き、二人の頬を掠めた。


 キュエンとシルフィは離れないように手を繋ぐ。


 何も聞こえず、何も見えない漆黒の暗闇に。


 二人は満を持して、潜り込んだ。


 ◆

「何だ……ここは……!?」


「これが……ダンジョン!?」


 暗闇に脚を踏み入れた二人はまばゆい光に包まれたかと思えば、目の前に広がるのは多くの木々。


 シルフィとキュエンは衝撃の光景に目を見開くばかりだった。


 岩山に入ったと思えば、中にあるのは広大な森林。


 常軌を逸した空間に、二人はただただ開いた口がふさがらなかった。


 辺りをきょろきょろと見渡すが、周囲には来た道すらも見当たらない。


 瞬間、がさりと木々の揺れ動く音がシルフィの耳に入る。


 まるで、見知らぬ森の中にいきなり放り出された二人だがすぐさま何時もどおりに背中合わせの体勢をとった。


「シルフィ!」


「ああ、わかっている!」


 キュエンもシルフィも、自身の得物を構える。


 ここは既にダンジョンの中。


 いつ何が起こってもおかしくない、危険と隣り合わせの場所なのだ。


 剣を構え、シルフィは茂みを注視する。


 キュエンも辺りをゆっくり見渡し、いつでも迎撃出来るように剣を握る拳を構えていた。


 ”ぎゃじゃぁ!”


 丁度シルフィの前から突進するが如く出現した小鬼に、シルフィは焦ることなく剣を突きこむ。


 ぶずりとシルフィの剣が小鬼の首を断つと同時。


「やぁっ!」


 キュエンも自身の前に飛びかかる小鬼に拳を振り抜き、魔核を叩き潰していた。


 同時に地に伏せる小鬼たちに、シルフィはぽたりと汗を垂らす。


「……なるほど、これが洗礼ということか?」


「かもしれない。……シルフィ、まだ来るよ!」


「ああ!猪口才な!」


 キュエンの声に、シルフィは中段に剣を構え直す。


 ”ぎゃじゃぁっ!”


 醜悪な叫びとともに飛び出してきたのは複数の小鬼。


 シルフィは素早く剣を振り抜き、キュエンは小鬼に殴りかかる。


 ダンジョンの試練は、始まったばかりだ。




お読みいただき、ありがとうございます。

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