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晴天のプレリュード〜幼馴染を勇者に奪われたので、追って学園と傭兵ギルドに入り何故かハーレムを作ってしまいました〜   作者: 妖刃ー不知火
間章 かえるもの編

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あゆんだもの

 シルフィがキュエンとパーティを組んだ後。


 二人は様々な依頼を熟し、徐々に知名度を上げていった。


 シルフィは剣と魔法を多様し、中距離から近距離で魔獣を確実に仕留めていく戦闘手法を得意とする。


 その一方で、キュエンは至近距離上等のインファイタースタイルだった。


 相手の懐に飛び込み、刃の付いた輪っかを手にして、魔獣の腹を殴るように切り裂く。


 そうして露出した魔核に拳を振り抜いて砕くという、かなり荒っぽい戦法。


 その戦法を目の当たりにしたシルフィは、キュエンがパーティを組めなかった理由は決してスキルだけではないと感づいていた。


 キュエンが魔物に近づきすぎるのだ。


 インファイターの特性上、それは必然ではあるのだが、連携が取りにくいことが顕著に現れていた。


 加えてキュエンの性格もあっただろう。


 猪突猛進に魔獣に向かって飛びかかるキュエンは、作戦などをあまり考えて行動していないのだ。


 しかし、その実力はシルフィも目を見張る程に卓越したものに見えていた。


 そんなキュエンをシルフィは経験と技量でフォローし、サポートに回る。


 互いの背中を守り合う型に自然と変わっていった戦闘手法によって、シルフィとキュエンは数多くの討伐依頼を完遂し、その実力は当時の冒険者では語り草になっていた。


 あるときは魔獣の討伐。


 またあるときは未踏の遺跡の調査。


 またあるときには商隊の護衛。


 そんな依頼をこなしていると、いつの間にか二人はAランクのパーティにまで登りつめていた。


 いつしかSランクに到達する時も近いと噂される二人。


 パーティを組んで、既に四年が経っていた。


 ◆

 その日、陽が暮れかかった草原の中をキュエンは口元をほころばせ、満足そうな顔を浮かべて歩いていた。


 キュエンの後ろにつくのは、真顔で黙ったまま歩くシルフィ。


 二人を包むように風が吹き抜け、その空は昼と夜の境目を示すが如くグラデーションに染まっていた。


 るんるんと足を弾ませながら歩くキュエンの手元には大きな魔核が入った袋が握られていり。


 そんなキュエンは歩きながらもくるりとシルフィの方へと向き直り、眦を下げて嬉しげに微笑んだ。


「今日もありがとね、シルフィ!無事に擬飛竜も討伐できたし、こんなに大きな魔核も出てきた。万々歳だったよね!」


 機嫌の良いキュエンに、シルフィはやれやれと言わんばかりにはぁと深いため息を吐いた。


「……無事だったのはいいが、お前も間合いを考えろ。キュエン、今回はかなり危なかったぞ。」


「えぇー!?そんなことないよー!」


 呆れたような顔を浮かべるシルフィに、キュエンは頬を膨らませながらぶーたれる。


 実際、シルフィの目から見ても危ないシーンは数多くあったのだから。


「キュエン、お前が近づくのはいいが、無策で突っ込むんじゃない。あのままだったら、蹴爪の餌食も良いところだぞ。」


「そ、その節はごめんね。」


 キュエンは少しシルフィから目を逸らし、バツの悪そうな表情を浮かべる。


「……全く、お前と組んでしばらく経つというのに、その猪突猛進さは治らんのか。いつか、痛い目を見るぞ。」


「し、シルフィー!……見捨てないよね?シルフィに見捨てられたら、ぼく、行き場所がなくなっちゃうよ?」


 ずいっと涙目でシルフィに近寄るキュエン。


 こういうところに弱いと、シルフィは苦笑を浮かべる。


「……見捨てるものか。見捨てていたらとっくの昔に戦場に放り出している。お前の生きる意味もまだ見届けてはいないのだからな。」


「シルフィー!びっくりさせないでよ!」


「人の話を最後まで聞けと言っているだろう。本当に……。お前は変わらんな。」


 ほっとした表情を浮かべるキュエンをよそに、シルフィは青い草原をかき分けながら王都への道を急ぐ。


 がさがさと鳴る草の擦れる音だけが響く中、ふとシルフィはコントラストの入った夕陽を眺めた。


「……早いものだな。お前と組んで早四年か。」


「えっ?」


 ぼそりと呟いた言葉に、キュエンが振り返る。


 ふわりと舞ったウルフカットの髪もその瞳も、四年前と全く変わらない。


 それどころか身長も体躯も変わらないキュエンに、シルフィはくすりと口元を上げた。


「四年も経つが、お前は変わらんなと思っただけだ。」


「えー!?ひどいよシルフィ!ぼくだって成長してるんですー!」


「具体的には何処だ?私から見て、そんなに変わらんが。」


「そ、それはその……身長とか、胸、とか……。」


「ほぼ変わらんだろう。」


 目を逸らして視線を彷徨わせるキュエン。


 シルフィが知る限りでは、キュエンが鎧の新調をする際にサイズが変わったなども聞いていない。


 出会った時から変わらないほどに直滑降だ。


「ほ、本当だもん!胸は大きくなったし!」


「嘘をつくな。変わらんだろう。」


 明らかな誤魔化しに、シルフィはやれやれと視線を落とした。


 そんなシルフィたちを照らす夕陽は、いつも通りの色で二人を染め上げる。


「お前といると、退屈しないな。時間を忘れてしまうような感覚に陥る。」


「え?そうなのシルフィ?そ、それって……ぼくとずっと一緒にいたいってこと!?……そ、それは……考えさせてほしいな……。」


「莫迦者が。どうしてそうなる。お前の無鉄砲さに手がかかるだけだ。……まあ、飽きはしないのは確かだがな。ずっと続くことだけは勘弁してくれ。」


 ジトッと呆れ返るように言葉を返すシルフィに、キュエンはどこか照れたように笑う。


 すると、何かを思い出したようにキュエンがぱっと目を開けた。


「そういえば……ぼくの名前を聞いた人がおかしなことを言ってたんだよね。」


「……?誰だそれは?」


「ほら、この前護衛した大和の人。凄く綺麗な妊婦さんと厳つい男の人の夫婦がいたでしょ?」


「ああ、そういえばいたな。確か……ヒメノミヤとか言ったか。」


 シルフィはぽんと手を叩き、その人物を思い出した。


 シルフィとキュエンが護衛したその人物は、「大和」という国の執政を行う重要人物であり、シルフィとキュエンが国境付近まで護衛を担当したのだ。


 その二人はシルフィの目から見ても特徴的な艶めく黒髪の人物だったということもあるだろう。


 筋骨隆々の美丈夫と流れるような黒髪の美しい妊婦。


 依頼の終始、その二人はシルフィたちを見下すこともなかったので、シルフィは良い印象を持っていた。


 シルフィは首を傾げながら、腕を組んだ。


「何を言われたんだ?」


「ぼくの名前が「大和の縁起が良い言葉に似てる」って。普通の名前なのにね。」


 あははとキュエンが微笑みを浮かべる。


「キュエン」という名前は一般的ではないのだが、特に由来はないとキュエン自身が語る程には特別な名前でもない。


「気にする程でもないだろう。……ちなみに、どういった言葉と似ていると言われたんだ?」


「「きゅーえん」と「くおん」、だって。ずっと長く続くことを意味するんだってさ。そんな大層な意味はぼくの名前にはないんだけど。」


 困ったようにため息を吐きながら、キュエンはくるりと振り返ると王都への道をすたすたと歩いていく。


 一方のシルフィも薄い笑みを浮かべながらさわさわと涼しい風の吹く中で、キュエンについていくように歩を進めた。


「「きゅーえん」に「くおん」か……。不思議な響きだ。覚えておくとしよう。……キュエンの調子に乗ったような態度が、ずっと続かないようにな。」


「もー、すぐシルフィはそんなこと言うー!」


 可笑しそうに呟くシルフィに、キュエンは口をへの字にして騒ぐ。


 そんな他愛のない話を続けていると、徐々に人通りが増え、グランドキングダム王都の白亜に聳え立つ門が二人の目の中に映る。


 二人はいつものように茶化し合いながら、門を潜ると、冒険者ギルドへと足を進めた。


 ここまでは二人にとっていつも通りの光景。


 いつも通りに一日が終わる。


 その、筈だった。


 ◆

 ざわざわと人通りの多い中央の街道。


 夕暮れ時と言う事もあり、人がごった返す中を抜けた二人は、特に何も気にせず冒険者ギルドへと歩みを進める。


「さてと、今日もいつものところでご飯食べよっか、シルフィ。」


「そうだな。昨日の店のように調子に乗って食べるんじゃないぞ。」


「もーまたそんなこと言うー!……仕方ないじゃん。ぼくみたいな年齢の乙女は食べ盛りなんだよ。」


「……行き遅れも良いところではないか?」


「い、いったなー!このやろー!それをいえばシルフィもじゃん!百十六年も生きてるくせに!」


「エルフの生は長いからな。私などまだひよっこの部類だ。夫など、当分取るつもりもない。」


 ムキになったように頬を膨らませるキュエンを、可笑しそうに眦を下げておちょくるシルフィ。


 とりとめもない会話を進めながら、二人は冒険者ギルドに近づいていく。


 中央の街道から外れると、すぐに冒険者ギルドが見えてくるのだ。


 二人はそのまま冒険者ギルドへと踏み入れると、いつもと違う冒険者の人だかりに目を見開いた。


「な、なにこれ……?」


 キュエンが呟くのも当然だろう。


 二人の前には、あまたの冒険者がひしめき合うようにクエストボードの前を陣取っていたのだから。


「一体、何が起こっている……?」


 不思議に思いつつ、シルフィは人だかりをかき分けながらカウンターへと向かう。


 立っているのは既に顔馴染みとなった、あのひよっこだった受付嬢だ。


 既にそんな青さは抜け、シルフィたちが信頼を寄せる受付嬢へと成長していた。


 そんな受付嬢は、シルフィたちが近づいていくとちょいちょいと手招きをする。


「おい、これは一体何の騒ぎだ?」


「シルフィさんとキュエンさん!大事件です。」


 シルフィが声をかけると、受付嬢は興奮したように鼻息を荒らげながら口を開く。


 いつもと違う慌てた様子の受付嬢に、二人は首を傾げた。


「ダンジョンが現れたんです!」


 ダンジョン。


 その言葉に、シルフィとキュエンもゴクリと息を呑み込んだ。


お読みいただき、ありがとうございます。

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