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晴天のプレリュード〜幼馴染を勇者に奪われたので、追って学園と傭兵ギルドに入り何故かハーレムを作ってしまいました〜   作者: 妖刃ー不知火
間章 かえるもの編

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くみしもの


 しどろもどろな受付嬢の案内と規約を聞いた後、シルフィはキュエンと共に、ギルド内に備え付けられた茶けたテーブル席に腰掛ける。


 シルフィの手元には、受け取ったばかりのステータスカードが握られていた。


 そんなシルフィと対面する形で座るキュエンは、先程の受付嬢にちらと目をやると、苦笑いを浮かべる。


「あの子も悪い子じゃないんだよー。最近カウンターに立ち始めたひよっこだからさ。優しくしたげてよ。」


 朗らかな人のいい笑みを浮かべたキュエンに、シルフィは毒気を抜かれてしまっていた。


 シルフィはキュエンにため息をつきつつ、首を横に振る。


 「じゃあなに?」と不思議そうにきょとんとするキュエンに、シルフィはテーブルに頬杖をつきながら言葉を続ける。


「私が気にしているのはそんなことではない。……まあ、不慣れであったことは確かだがな。ところで……。」


 シルフィは正面のキュエンをじっと見据えるように目を向けた。


 キュエンは何もわかっていなさそうな顔で、シルフィを見つめ返す。


 何処か掴みどころのない雰囲気に、シルフィは僅かな戸惑いを覚えていた。


 これほどに警戒心もなく、無垢な冒険者など見たこともなかったからだ。


「お前はなぜ、私に声をかけた?」


 訝しむような目線に、キュエンはアハハと軽く笑う。


「まー、何となく受付嬢ちゃんが困ってる様子だったしさー。一応、声だけはかけておこうかなって思って。そしたらね、ピンときたんだよ。」


「……何が来たんだ?」


「ぼくがあなたと組めば、冒険者の頂点に立てる、ってね!」


 ぐっとサムズアップを決めるキュエン。


 唐突な行動びシルフィは呆れ返り、冷ややかな目を向けるのみだ。


 首を振りながら嘆息しつつ、キュエンに向けて口を開く。


「……くだらんな。冒険者の頂点など興味もない。」


「えー!?かっこいいじゃん!冒険者の頂点って!」


 驚くような声と共に、キュエンは立ち上がる。


 ガタンというテーブルの鳴る音が響いた。


 その可愛らしい顔は、シルフィに対して驚いた表情で固まっている。


 まるで「当然でしょ?」と言わんばかりだ。


 周りの冒険者もなんだなんだとシルフィたちの座るテーブルに目線を向けた。


 そんな子供っぽい仕草をするキュエンを見据え、シルフィは呟く。


「別に私と組む必要も無いだろう。頂点を目指したいなら、私よりも強い者が居るはずだ。そいつに当たれ。……私は、しなければならないことがあるからな。」


 冷たく言い放つシルフィ。


 シルフィの言葉に顔を俯かせ、キュエンは椅子に腰を落とす。


「……。みんな、ぼくと組んでくれないんだもん。」


「……どういうことだ?」


 その変わりようをシルフィは不思議に思った。


「ぼくの「スキル」のせいだよ。……みんな、ぼくのスキルを聞くと嫌がった顔をしてさ。誰も組んでくれないんだ。」


「スキル」。


 それは人間という種族にのみ与えられる、よくわからない力ということを、シルフィは思い出した。


 エルフであるシルフィには無縁なものだが、人間はそのスキルの良し悪しで職業が決まることもあるという事実は、今までシルフィが旅をしていた中でひしひしと感じ取っていた事実だからだ。


「その「スキル」とやらが何かは知らんが、他を当たれ。私は……。」


「……「誘引」」


「……人の話を聞け。」


 すげなく断ろうとしたシルフィの目に映ったのは、しょぼくれたように肩を落とすキュエン。


 仕方なくシルフィはキュエンに顔を向けた。


「ぼくのスキル「誘引」は人や亜人以外のものを引き寄せちゃうんだ。小動物や虫、あげくの果てには魔獣まで。……ぼくがいると、襲われる確率が増えてパーティに迷惑がかかっちゃうからってさ。」


「……それでもお前は単独で活動出来ているから、ここにいるんだろう?組む必要性が見えないが。」


「まあ、スキルはある程度抑えられるからね。……でも、完全には制御できない。ふらりと寄ってきた擬飛竜に襲われたこともあるしね。……でも、だからこそ確かめたいんだ。それは、ぼく一人じゃできなさそうだから。」


「確かめたい?……何をだ?」


「……ぼくの、生きる理由を。」


 キュエンが顔を上げ、シルフィの瞳に訴えかけるように見つめる。


 その瞳は、固い意志が籠もっているように思えて。


 シルフィは古い木のテーブルに再び肘を置き、掌に額を乗せた。


「ぼくが、なんでこのスキルを持って生まれたのかはわからない。でも、冒険者の頂点に立てば、何かわかるような気がするんだ。……それこそ、ぼくの生きた証になる。そう、思って。」


 声を震わせながらキュエンは胸の前で拳を握る。


「……全く、莫迦らしい。」


 ぼそりと響くシルフィの声。


 その声にショックを受けたように、キュエンはゴクリと息を呑んだ。


「そう、か。……ご、ごめんね。声をかけて。じゃあ、ぼくはこれで……。」


「……人の話は最後まで聞け。……生きる意味など、エルフである私ですらわからんのだ。短い生涯の人間になど、なおさらわかる筈も無かろう。」


 ぎぃと椅子を引き、そそくさと離れようとしたキュエン。


 それを呼び止めるように、シルフィの声が響く。


「え!?」


 キュエンは驚いたように振り返り、シルフィを見つめた。


 シルフィははぁとため息を漏らし、椅子から立ち上がる。


「……気が変わった。お前がその生きる意味とやらを知ろうとするなら、それがわかるまでは私が手伝ってやろう。」


「え!?……い、いいの?ぼくは……。」


 慌てたように目を押し広げるキュエン。


「……くどいぞ。お前が私を誘ったのだろう。」


 シルフィは、じっとキュエンの目をのぞき込む。

 気になったのだ。


 自分と同じように惑っているキュエンが、どんな答えを見つけるのか。


 エルフよりも寿命が少ない人間は、どういう道を歩むのか。


 見届けたいと、思ってしまったのだ。


「……名を名乗っていなかったな。私はシルフィ。シルフィ・ゾージアだ。よろしく頼むぞ、キュエン。」


 シルフィは自身の右手をキュエンに差し出す。


 キュエンは信じられないとばかりに目を丸くするも、おそるおそるその手を握った。


 エルフであるシルフィと変わらない、柔らかい掌。


「や……やったー!ついに……ぼくにも念願のパーティができたんだ……。」


「……声が大きいぞ、莫迦者め。」


 はしゃいだように破顔するキュエンに、シルフィは苦笑を浮かべる。


 そんな女性二人の冒険者を、周囲の冒険者は不思議そうに眺めていた。


 ◆


 この時の選択が、合っていたのか、それとも間違っていたのか。


 それは今のシルフィにもわからない。



お読みいただき、ありがとうございます。

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