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晴天のプレリュード〜幼馴染を勇者に奪われたので、追いかけて学園と傭兵ギルドに入ったら何故かハーレムを作ってしまいました〜   作者: 妖刃ー不知火
間章 かえるもの編

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幼き眼


 カイナたちと一通りの話を終えたレクスとコーラル、マインの三人は村長の家の玄関に立っていた。


 そんなレクスたちの前にはカイナたちが見送りをするように立っている。


 レクスはいつもと変わらない笑みを浮かべながら、口を開いた。


「急に邪魔して悪かったな。カイナ村長。従兄弟まで連れて来てよ。」


「そんなことはないさ。僕たちもカレンの実情を知ることが出来て嬉しかったよ。……レクスくんにも許して貰えてよかった。」


「まだそんなこと言ってんのかよ……。許す許さねぇの前に俺自身は村長に何かされた記憶もねぇ。謝られても困るだけだっての。」


 謝辞を口に出すカイナに、レクスは戸惑いを隠せなかった。


「……そうか。そう言ってくれると助かるよ。……いつまで村にいるんだい?」


「一応明々後日までいようとは思ってる。せっかくの里帰りだしよ。親父と母さん、シルフィ母さんとゆっくり過ごしてぇからな。」


 にぃと歯を出して笑うレクスに、カイナも小さく笑みを返す。


 すると、カイナの側のリィンが優しげな瞳でレクスを見つめた。


「レクスくん。勝手なお願いをしてしまうけれど、いいかしら?」


「どうしたんだよ、リィンおばさん?」


「……リナを、お願いするわね。あの時は学園を出るまで、魔獣と戦うなんて思ってもみなかったもの。あの子が死ぬようなことは私には耐えられない。……あの子の無礼は謝るわ……だから……!」


「……おばさん。」


 リィンは俯き、時おり掠めたような声がレクスに届く。


 ぽたぽたと落ちる雫が、リィンの心情をまじまじと物語っていた。


 その様子を見るレクスに、今度はカイナが口を開く。


「……それは、僕たちもだ。……押し付けがましいのは重々承知の上だってわかっている。レクスくんに対して酷いことをしたこともね。……でも、あの子は……僕たちにとって、カレンは大切な娘なんだ。僕たちが甘く見すぎていたのはわかっている。だから……。」


 カイナとルエナは共に頭を下げる。


 その声色は何処か震えるように聞こえていた。


 頭を下げた三人に、レクスは目を伏せながら大きなため息を吐いく。


「……頭をあげてくれ。それこそ今更だろうが。」


「レクス……くん……?」


 カイナたちは頭を上げる。


 そこに見えたのは、三人を見据える紅玉のような瞳。


「俺はあいつらに何回も救われてんだ。俺が手を出せねぇこともあるだろうけどよ。……それでもあいつらに幸せになってほしいって想いは……ずっと変わらねぇよ。」


「レクスくん……ありがとう……ありがとう…。」


 カイナとルエナ、リィンの三人は何度もレクスに頭を下げる。


 そんな三人を何処かレクスは物悲しい眼で見つめることしかできなかった。


 ドアを開くと高くまで登った陽の光がレクスたちに振り付ける。


 雲がまばらに広がる青い空は、レクスがいつも王都で見る空と全く同じだ。


(……あいつらも、この空を見てんのかな。)


 ドアから出てふと想いを馳せた先に、幼い頃の風景が幻影としてレクスの前を通り過ぎる。


 幼い自分が幼いリナと鬼ごっこをしている光景だ。


『まちなさいよレクス!あたしばっかりおにになるじゃない!』


『リナだっておれしかおいかけないじゃん!カレンやクオンにいけよ!』


『あんたがあたしばっかりおいかけるからでしょー!』


『リナー!はやくレクスさんをつかまえないとひがくれてしまいますよー。』


『そうなのです!リナおねえちゃんはにいさんをつかまえるのですー!』


 わいわいと楽しそうに走り回るレクスとリナの周りで、カレンとクオンが茶々を入れながらリナを応援する。


(……そんなこともあったっけな。いつも俺とリナが鬼だったっけか。)


 そんな光景が、レクスの前をよぎったのだ。


 もう戻ることのできないその光景に、何処か空虚さを感じて、胸にチクリと痛みが走る。


「……レクス君?レクス君!どうしたんだい?」


「ん?……ああ、悪ぃなコーラル。ちょっとぼうっとしてた。」


「そうかい?それならいいんだけど……。」


 コーラルの声に気が付いたレクスはコーラルに振り返り何でもないと笑う。


 そうしてとことこと診療所に帰るように歩きはじめた。


「……よかったのかい?レクス君。」


「……何がだよ、コーラル。」


 並び立ったコーラルの声に、レクスは顔をコーラルへと向ける。


 コーラルはレクスを案じるような視線を送っていた。


「……アルス村の君の幼馴染って……勇者の御付きの三人のことだろう?」


 レクスは静かに首を縦に振った。


「あの三人は勇者様がついてる。レクス君が守る必要も無いと思うんだけど……それでもかい?」


 疑わしいように、されどレクスに気を遣ったように囁くコーラル。


 王都の中ではリナたち三人は大々的に喧伝されており、勇者を守る戦女神と囃されるほどだ。


 コーラルの疑問はもっともだが、レクスの想いに変わりはない。


「ああ。付き合いも長ぇからな。それに……。」


 レクスが思い返すのは、行きしなのリナたちが浮かべていた、何処か苦しむような、辛さの滲んだ必死な表情。


 それを見たレクスは勇者であるリュウジがあの三人をどう見ているのか、甚だ疑問だった。


(……リュウジの奴は、リナたちを見てんのか?あんな苦しい表情、普通はほっとけねぇだろ……。)


 リナたちが浮かべたその表情は、レクスが今まで見てきた中でも見たことのない、初めて目にするもの。


 胸にどうも引っかかり、抜けなくなっていた。


「レクス君?」


「……何でもねぇ。」


 首を傾げるコーラルに、レクスは静かに呟く。


 頭を振るい、ふぅと一息置くとくるりと身体ごと振り返る。


 切り替えるように、レクスは笑みを浮かべた。


「……さて、コーラルとマインに村の紹介をしなきゃ……。」


「レクス兄ちゃん!」


 レクスの声を阻むかのように響く声。


 レクスが声の方向に目を向ける。


 そこにはカークがレクスをめがけ走ってきていた。


 カークはレクスの足元まで駆けてくると、膝に手をかけてはぁはぁと息を切らす。


 レクスはすぐにしゃがみ込むと、カークと視線を合わせるようにカークの顔を覗き込んだ。


「カーク?一体どうしたんだ?」


「姉ちゃん……帰って来ないの?」


 縋るように尋ねるカーク。


 レクスは俯き、唇を噛み締めた。


 学園で掴んだカレンの変わりようの正体。


 だがそれをカークに話しても仕方がないのだ。


 どのみちカレンは、今夏は村へと帰って来ないだろうから。


 レクスは顔を上げると、苦々しい表情で口を開く。


「……ああ。カレンは今年は帰って来れねぇらしい。」


「……そうなんだ……。ねえちゃん、おれになにかいってた?」


「悪ぃな……。俺もカレンと仲直り出来てねぇんだ。どうしてカレンがカークに怒ったのかも聞けてねぇ。……ごめんな。カーク。」


「そんな……。」


 俯き、肩を震わせ始めるカーク。


 その頭に、レクスはそっと手を当てた。


「……でも、覚えててくれ。俺はカークとの約束は絶対に守る。それだけは違わねぇからよ。」


「レクス……にいちゃん。」


 顔を上げたカークの眦は、真っ赤に染まっていた。


 対してレクスはカークを安心させようと、目を細めて口角を上げ、にこやかに微笑む。


 レクス自身、悔しいのだ。


 あの時の三人が浮かべた辛い表情に、手が伸ばせなくて。


 だが、それよりも。


 目の前の少年を泣かせたくなかった。


「カーク。俺が絶対にカレンに話を聞いてくる。だからもう少しだけ、待っててくれねぇか?」


「……うん。レクスにいちゃん。」


「ごめんな。俺が不甲斐なくてよ。……カークは強いからな。待ってられるだろ?」


 こくんと勢いよく頷くカークの頭を、レクスはわしわしと髪の毛を掻くように撫でる。


 レクスはカークから手を離し、すっくと立ち上がった。


 そして、カークに目を向ける。


「……なぁ、カーク。少し手伝ってほしいことがあるんだけどよ……。いいか?」


 レクスがにぃっと歯を出して、笑いながらかけた言葉。


 カークはこてんと首を傾げた。


「良いけど……なにするの?」


「ああ……ちょっと村の案内をするからよ。あの子についてやってほしいんだ。」


 そう言ってレクスはコーラルとマインに振り向く。


 カークもレクスにつられるように視線を移すと、そこには人形を抱えた少女がキラキラとした目でカークを見つめていた。


「えぇ……にいちゃん……。」


 露骨に顔を引き攣らせるカーク。


 どうやらカークにとって、マインは少し苦手な部類らしい。


「そんな顔すんな。……意外といい奴かもしれねぇぞ?それに後で王都の話を話すからよ。頼ませてくれねぇか?」


「……にいちゃんがそこまでいうなら……。」


 しぶしぶと頷くカークに、レクスは苦笑いを浮かべる。


 レクスが村をコーラルに案内する分には良いのだが、マインが退屈しないようにするには同年代のカークがいたほうが良いと思ったからだ。


「……約束だよ。にいちゃん。」


「ああ。約束だ。」


 カークのじとりとした目に応じるように、レクスはくすりと笑みを溢した。





お読みいただき、ありがとうございます。

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