ははとわらい
レクスがカイナたちと話をして驚かれている一方。
診療所ではマオとシルフィがカルティアたちと向かいあっていた。
その雰囲気はとても和やかであり、とても楽しげに眦を下げたカルティアが口を開く。
「そんなこともあって、レクスさんにはいつも登下校で護衛を任せていますのよ。凄く頼りになる方ですわ。」
「そーなのー?王女様の依頼まで受けているのねー。」
カルティアの言葉に、マオの口元はほころぶ。
カルティアやマリエナの出自を聞いても、マオは全く驚いていない。
平常と変わらない様子でカルティアやマリエナの話を聞くマオの態度に、シルフィが僅かに焦るほどだ。
「……マオ、カルティア様は王女なのだからもう少し言葉に気をつけたらどうだ?」
「そうかしらー?カルティアちゃんは気にしなくてもいいって言っているわよー?」
マオの言葉に、カルティアは紅茶を飲む手をおくと、コクンと頷く。
「そうですわ。わたくしは今はただのレクスさんのご友人ということで来ていますもの。敬語は結構ですわ。シルフィさんも、呼び捨てで構いませんわよ?」
「そ、そうか?……それで良いと言うならば、私は何も言わないが……。」
戸惑うシルフィとは対照的に、マオは落ち着いていた。
それどころかマオはふふふと笑みを浮かべており、女子たちの話をときおり頷きながら嬉しい表情を浮かべて耳を傾けている。
一方のシルフィは少女たちの語るその話の内容には、目を点にして唖然としていた。
なぜならその話の内容は、シルフィには信じられないほどに荒唐無稽に思えてしまうほどだったからだ。
(傭兵ギルド?王女の救出?奴隷事件の解決?……果ては学園の襲撃だと?レクスの周りでいったい何が起こっているんだ?)
シルフィは少女たちの顔色をそれでも伺うが、嘘をついているような素振りは一切見受けられない。
あったことをそのまま語っているように、状況が子細に語られているからだ。
少女たちの口から聞くレクスの活躍の数々。
その内容が、あまりにも濃すぎた。
(そんなことがレクスの周囲で起こっていたとは……。やれやれ、まだ学園に行って3カ月だろう?そして……。)
再びシルフィはレクスの連れ帰った少女たちの顔を見やる。
全員が顔立ちの整った生粋の美少女であり、レクスに情を抱いているのがシルフィには明確にわかるほどであった。
そんなシルフィは椅子の背もたれに身体を預けると、ふぅと小さなため息を吐いて紅茶を啜る。
芳醇な香気が鼻を抜け、落ち着いた苦味と渋みがシルフィの喉を駆け下りた。
その隣では、マオが満足そうに顔を頷かせながら、息子の活躍を話す美少女たちに聞き入っている。
「……わたくしたちはレクスさんに助けられましたわ。だからこそ、こうやって交流も深められているのです。……レクスさんがおられなければ、わたくしたちはこの場にいませんもの。」
カルティアの言葉に、他の三人もそうだと頷く。
「…レクスはうちの恩人。…レクスがいなければ、うちはここにいない。」
「わたしもレクスくんに助けられちゃったからね。……レクスくんがいないのは、もう考えられないかなぁ。」
「そうです。あちしもレクス様がいたからこそ、ここにいられるです。あちしを掬い上げてくれたレクス様に感謝してるです。」
にこやかに話す少女たちはしみじみと口に出す。
しかし、アオイたちの言葉はどれも、その重さが際立っているように、シルフィは感じていた。
そんな中でも、マオはにこにことした顔を浮かべて時おり紅茶を啜りながら、カルティアたちの言葉に頷いていた。
「そうだったのねー。レクスはすごいわねー。」
「い、いや待てマオ。……流石にレクスの活躍がすごすぎるだろう。冒険者だった私でもそんなことがあれば命がいくつあっても足りないと思うのだが…?」
あまりのマオの能天気な言葉に、シルフィが顔を向け慌てたように口を挟む。
事実、レクスの経験したことはシルフィの想像をはるかに超えているのだ。
「あらーシルフィ?この子たちの話を疑っているのー?」
シルフィは首をゆっくりと横に振る。
「……疑ってなどはいないさ。だが、あまりの突拍子のなさに私が信じられないんだ。……マオは信じられるのか?」
「だってレクスだものー。わたしの産んだ子よー。そんなことが出来て凄いじゃないのー。」
「マオはそれでいいのか……?……だが、レクスがそれを出来てしまったというなら、私もやぶさかでは無いとは思うがな。……それにしても、レクスは苦労しているな。このままだと、レクスが魔王を倒してしまいそうなものだが。」
ははっと呆れたように笑いながらため息を吐くシルフィに、マオは優しく笑みを浮かべる。
そして、少女たちに向き直ると静かに口を開いた。
「皆がレクスのことを思っているのかはすごくよくわかったわー。こんな子たちに慕われているなんて、レクスは幸せものねー。……ところで、皆はレクスと将来をもう誓いあったのかしらー?」
その言葉に、カルティアたちは一斉に頬を染める。
一瞬の静寂の後、コホンと咳払いをしたカルティアが口を開いた。
「レクスさんは……わたくしに光を見せてくれた方ですもの。わたくしにとって、レクスさん以外の殿方はありえませんわ。」
真っ直ぐな眼でふぅと息を吐いたカルティアにアオイが続く。
「…レクスは優しかった。…うちの初めての友達。…うちを何度も助けてくれた。…うちもレクスが好き。…うちはレクスと夫婦になりたい。…よろしく、お義母さん。」
淡々といつも通りに喋るアオイ。
しかし言葉の節々からはひしひしと強い思いが感じられるようにはっきりとした言葉だ。
「マオさん。わたしもレクスくんが好きです。……ううん、わたしの大好きな人なんです。……淫魔紋でわたしはレクスくんからしか吸精できないけど、そんなことは関係なく、わたしの初恋だから。」
マリエナも芯の通った声でマオとシルフィを真っ直ぐ見ながら語る。
「あちしもです。レクス様は暗闇の中からあちしを救い出してくれた人です。それに、天国のパパとママにも挨拶してもらったです。……だから、あちしはレクス様が良いです。レクス様に尽くしたいです。」
レインも頬を染めつつ、思いを込めるように言葉を紡ぐ。
四人の美少女たちが口に出すレクスへの想いに、マオは「そうなのねー」と嬉しそうに呟きながら頬に手を当てていた。
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