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晴天のプレリュード〜幼馴染を勇者に奪われたので、追いかけて学園と傭兵ギルドに入ったら何故かハーレムを作ってしまいました〜   作者: 妖刃ー不知火
第二章・王都・学園・よめとるもの編

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第9−2話

「あ゛ぁ!?」


 レクスの神経を逆なでするような声をレクスが間違える訳がない。

 声の主はリュウジだ。


(見つかったか…面倒くせぇな。)


 レクスは少し苛立ちながらリュウジの方に首だけ振り向く。

 するとリュウジは可笑しそうにクスクスと笑っていた。

 リナやカレン、クオンはレクスを睨みつけるように見ている。


「無能なくせにどうしてこんなところに居るのかなぁ?」


「…別に。冒険者で登録しに来ただけだ。それ以外何があるんだよ。」


 レクスは文句を我慢しつつ、無理やり落ち着かせた声で話す。

 レクスは正直、さっさとこの場を離れたかった。


「あんた私たちを追ってきたの?サイッテー。はっきり言って気持ち悪いわよ。どっか行って。」


「村での居場所が無くてのこのこやってきたんですか?役立たず。だからといって私たちにつきまとうのは人としてどうかと思いますよ?屑野郎。」


「お前まだ死んでなかったですか。とっととくたばりやがれです。お父さんやお母さんに迷惑かけないでくださいです。兄気取りの勘違い蛆虫が。」


「ぐぅ…。」


 レクスは顔を顰めるが、あの時のように泣き叫びはしなかった。

 幼馴染二人と義妹の暴言はレクスの心を悪い方に揺さぶるが、レクスは耐えていた。

 なぜなら。


(あの洞窟みたいな通路で彷徨い続けた時よりマシだ。…それになんだかんだ言って助けられてる事に変わりはねぇ。)


 あの迷宮での体験が、レクスを精神的に強くしていた部分もあるだろう。

 そしてあの3人の想い出があった。

 レクスはそれに救われたと自覚していたのだ。

 だからこそ、レクスは3人に暴言を言われてももう泣くことはない。


「君みたいな勘違いストーカーはさ。女の子には嫌われちゃうよ?無能君は無能らしく最下層で生きて行けばいいんだよ。わかるかい?」


「…わかってるよ。俺は冒険者登録出来なかったし、ここから出ていく。それでいいだろ。」


 レクスはリュウジたちに背を向け、ギルドの出入り口へと向かう。


「プハハハ!冒険者登録も出来ないような無能だったのかい君は!傑作だなぁ!」


 そんなリュウジの声を無視して、レクスはゆっくりと歩き始めた。


「でも、ストーカーはダメだよね!そういう人が犯罪者になるんだ!ここは勇者としてしっかりけじめをつけなきゃ…ね!」


 レクスはその一瞬で、背中からリュウジの殺意を感じ取った。咄嗟にその場で振り向き、右手片腕で防御の姿勢を取る。


「シャインエンハンス!シャインボルテージ!」


 リュウジの言った言葉にレクスは驚く。


(光属性の魔法!?無防備の俺に使うとか正気か!?)


 レクスの思った通り、リュウジが使ったものは光属性の魔法だった。

 光属性魔法は主に使用者の肉体に作用する魔法だ。

 肉体を強化する魔法が多く、リュウジの使った魔法は使用者の肉体を強化するものだった。

 魔法を唱えたリュウジの身体が光に包まれる。

 その拳が、レクスの眼前に迫っていた。

 レクスは一瞬で自身のポケットから取り出した左手も加え、防御する。

 ”ドガン”と言う音と共に、レクスは冒険者ギルドの外へ扉ごと投げ出された。


「ま、これで懲りたでしょ。もう彼女たちに近づかないでくれよ。ハハハッ。」


 リュウジはそう言って、身体を返す。

 リュウジはレクスが吹き飛んで行ったところには目もくれなかった。


「リュウジ!かっこいいじゃない!あたしたちのためにあそこまでやってくれるなんて!」

「さすがリュウジ様です。私たちの身を案じてくださったのですね。…惚れ直しました。」

「リュウジはすごいのです。わたしたちの英雄なのです。」

「そ…そうかな。当たり前のことをしただけだよ。アハハハハハハ。」


 リナとカレン、クオンがリュウジを褒め称える。

 彼女たちの言動にリュウジは鼻の下を伸ばし、デレデレしていた。

 その時、階段から男性が慌てて降りてくる。


「なんだなんだ!?この騒ぎは!?」


 この男性は冒険者ギルドのギルドマスターだった。

 ギルドマスターは入り口の壊れた扉と壁を見て、眼を丸くしていた。


「…何があった?」


 ギルドマスターはリュウジたちを見る。

 その顔は困惑していたが、怒りも滲んでいた。


「しっかり説明してもらうぞ?勇者殿。」


「あ…あはは…。」


 リュウジはその顔に気圧され、力無く笑っていた。


 レクスが吹き飛んだのは冒険者ギルドの真正面の建物だった。

 飛んでいった先の建物の壁際に、冒険者ギルドのドアの破片が散らばっている。

 幸いにも空き家か留守だったようで、レクスが飛んできた衝撃では、誰も家から出てくることは無かった。

 リュウジに殴り飛ばされたレクスは、立ち上がると何事も無かったかのようにコキコキと首を鳴らす。


「あの野郎、本気で殴り飛ばしやがった。普通あんなんすりゃ死ぬぞ。」


 レクスは左手に持ったものをポンポンと遊ばせる。

 その左手には「ミノスの魔導時計」があった。

 レクスは殴られる一瞬前、リュウジの拳にこの魔導時計を構えたのだ。

 そうして殴り飛ばされたレクスは扉ごと吹っ飛んだと同時に、受け身を取ってそのまま自身へのダメージをほぼ無くすことに成功していた。

 かなりの力で殴られたはずだが、魔導時計には一切傷がついておらず、中の時計も狂っていない。


「さすが「絶対に壊れず狂わない」時計だ。…クルジャの爺さんから聞いてなきゃ危なかったな。本当に俺、あいつになんかしたか?」


 レクスはいくら考えてもリュウジに対する行為で恨まれることはした記憶が無い。


「まぁ、生身の人間に魔法使って殴りかかるとか危険人物間違いねぇな。それに、やっぱりリナもカレンもクオンもおかしかった。…絶対になんかあるだろ、あれ。こりゃ、俺が嫌いな理由すら聞き出せないだろうな。しっかし、どーすっかね…。」


 一人言を呟きながら、辺りを見回す。

 辺りにはたまたま通りがかった老婆の姿があるだけだった。

 レクスはふぅと溜め息をつく。

 そのまますたすたと冒険者ギルドを離れるように歩き出そうとした。

 すると、先の老婆がレクスの元に駆け寄ってきた。


「お前さん、大丈夫かい!?」


 レクスの元にやってきた老婆は薄桃色の少しウェーブがかった髪をした老婆だった。

 立ち姿はしっかりしており、腰も曲がっていない。

 太ってはおらず、杖もついていない。

 ただ老婆の顔の皺が年齢を重ねた凄みを醸し出していた。


「ああ。心配かけて悪いな婆さん。俺は大丈夫だ。」


「そうかい。なら良いけどねぇ。…その魔導拳銃と魔導時計はどうしたもんだい?」


 老婆は興味深そうにレクスを見つめていた。

 髪と同じ色の瞳がまるでレクスの全てを見通すかのようだった。


「ああ。この二つは魔獣倒したら拾った。…てかこの魔道具「拳銃」って言うのか?」


「そうかい、そうかい。なるほどねぇ。面白いじゃないか。」


 老婆はレクスの疑問に答えること無く、レクスに対して鋭く見定めるような視線を飛ばしている。

 腕を組み、じぃっとレクスを見据えているのだ。


「婆さん?」


「お前さんはどうして冒険者ギルドから吹っ飛んできたんだい?」


「どうしてって…俺にもわからねぇよ。勇者に光の魔術を使われて、殴られたらこのざまだ。…じゃあ婆さん。俺は大丈夫だからもう行くぞ。」


 鋭く見つめる老婆の視線に、気味の悪さを感じたレクスはその場を離れようと老婆に背を向けて歩き始めた。


「待ちな!」


 老婆の鋭い声に、レクスは立ち止まった。

 半分気圧されたと言ってもいい。

 レクスはすぐに歩みを止め、老婆に振り向く。

 その顔は驚きで目を大きく見開いていた。

 レクスの身体にビリビリとした感覚が広がる。


(な…何者だこの婆さん!?戦闘中のシルフィ母さんより圧を感じる!?)


 そんなレクスを見て、老婆はニヤリと口元を上げて笑っていた。

 それでも相変わらず老婆は鋭い視線をレクスに向ける。


「お前さん、行く当てはあるのかい?」


「い…いや、無ぇけど…。」


 戸惑うレクスに、老婆はゆっくりと近寄る。

 近づくごとに、レクスは老婆からの凄みが増していく感覚を覚えた。


「冒険者の登録はしたのかい?」


「いや…出来なかった…。」


「ほう。そうかいそうかい…。」


 レクスの言葉に老婆の眼つきが変わる。

 鋭い眼なのは変わらないが、レクスを獲物として見定めたような眼だ。

 ただ、レクスには一切殺意などは感じられなかった。

 そんな老婆にレクスは鳥肌がたち、竦み上がっていた。


「…光魔術で殴られて怪我なし。魔導拳銃にミノスの魔導時計。今のアタシを見てこの程度。…あとは精神性か。いいじゃないか。」


「ば…婆さん?」


 ブツブツと呟く老婆はレクスにずいっと寄る。

 その表情はやはりニヤニヤと笑っており、なにか新しいおもちゃを見つけたような、そんな雰囲気があった。


「気に入ったよ。…お前さん。うちに来な。」


「はぁ!?ど、どういう事だよ!?」


 鋭い眼光と共に発せられた老婆の言葉に訳がわからずレクスは戸惑う。


「ごちゃごちゃ言ってる時間はないさね。行くよ!着いて来な!」


 そう言った老婆はレクスを追い越し、すたすたと歩き出す。

 その歩き振りは老人のものとは到底思えない。


「お、おい、婆さん。…くっそ、何なんだよいきなり。」


 そう言いつつもレクスはその老婆に付き従って歩き出す。

 レクス自身、他に行く当てはどこにもないのだ。

 老婆は人混みを気にせずずんずんと歩いていく。

 レクスも老婆に付き従いながら歩いていくが、何処か違和感があった。

 まるでその老婆を避けているかのように通行人が道を開けているような雰囲気をレクスは感じていたのだ。

 老婆はすいすいと道を曲がっていく。

 いつの間にか人混みはなくなり、閑静な一角に老婆とレクスは入り込んでいた。

 中央通りから抜け出した先の、さらに曲がった一角。

 3階建ての木造家屋の前で、老婆は立ち止まる。

 冒険者ギルドと比べるとだいぶ質素に感じられる建物だった。

 ふとレクスはその家屋に書いてある文字を追う。

 そこにはレクスの知らない文字が書かれていた。


(なんて読むんだこれ…?)


 その文字は”Mercenary”と黒い文字で刻まれていた。


「ここさね。入るよ。」


 老婆はガチャリと扉を開け、建物に足を踏み入れる。

 レクスも老婆に着いて足を踏み入れた。


 それがレクスの運命を加速させることなど、誰も知らない。


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