なじみあるいえ
目を丸くしてレクスを見ていた親子は、レクスの声に我に返ると、ゆっくりレクスたちに歩み寄る。
近寄る二人に、レクスはにぃっと歯を出して微笑んだ。
レクスの眼前にまで寄った二人はまじまじとレクスを眺める。
「兄ちゃん?ほんとにレクス兄ちゃんなの?」
「間違いなく本物だっての。ただいま、カーク。」
戸惑うような視線を向けるカークに、レクスは嬉しさを口元から溢す。
「レクス君は学園に行ったってレッド先生から聞いていたけど……?」
「ああ。夏季休業でよ。ちょっと帰って来たんだ。村長のとこに挨拶しに行こうかと思ってたからよ、ちょうどよかった。」
「そうだったんだね。後ろの人たちは……?」
カイナはレクス越しに後ろのコーラルとマインを見やる。
カークも見慣れないコーラルとマインをきょろきょろと見比べるように見つめていた。
「ああ、二人は……。」
レクスが二人を紹介しようと、顔を振り向かせた時だった。
マインがとことことカークに近寄る。
そして、じぃっとマインはカークに目を合わせると、にこりと微笑んだ。
カークはマインの可憐な顔が近寄ったことで、頬を染めて少し仰け反る。
「な……なんだよ……お前……!?」
「わたし、マイン・ヴェルサーレといいますの。あなたのお名前は?」
「か、カークだけど……。」
「カーク……カーク様ですのね。うふふ……。」
カークの名前を聞くと、反芻するようにマインは微笑みを崩さず呟く。
どぎまぎして戸惑ったのか、カークは助けを求めるようにレクスを見上げた。
「レ、レクス兄ちゃん……。」
「カーク、我慢してくれ。俺のお客さんなんだよ。」
「え……えぇ……?」
レクスの言葉に困ったように、カークは眉を下ろして再びマインを見返すと、やはりマインはにこやかに笑っているだけだ。
「多分、気に入られちゃったんだね。」
レクスの後ろでは、コーラルが微笑みを浮かべながらカークとマインを見ていた。
すると、コホンと咳払いをしてレクスがカイナに目を向ける。
「……とりあえずここではなんだ。カイナ村長に渡したいものがあってよ。……カイナ村長の家にお邪魔してぇんだが……。」
「あ、ああ。……着いて来てくれ。」
未だに状況が飲み込めていないカイナは、苦笑しているレクスの言葉にこくんと頷いた。
◆
「さぁ、入ってくれ。」
「悪ぃな。押しかけるように来ちまってよ。」
レクスがカイナに頭を下げながら、ぎぃっと建て付けが少し悪い扉を押し開く。
カイナの家は一般的な家屋であり、レクスの診療所の間取りとは異なる。
だがレクスはこの家に何度も入ったことがあり、夕食をご馳走になって帰ったこともあるほどだ。
レンガと白壁で象られた二階建ての一軒家に入って早々目に付くのは、大きな木の一枚板のテーブル。
丸太を豪快に輪切りにした椅子がそのそばに鎮座していた。
そして、その椅子には青いロングヘアをした泣き黒子が特徴の女性と紅髪のショートヘアをした女性が仲良く談笑をしている光景がレクスの眼に映る。
女性たちは扉が開いた音に気がついたのか、二人は玄関の方を振り向き、その瞳にレクスを投影した。
「レクスくん……?」
レクスの顔を見た青いロングヘアの女性が目を見開き言葉を漏らす。
「こんちは。……リィンおばさん。ルエナおばさん。」
レクスは二人を見ると、こくんと会釈をする。
二人とも、レクスと面識がある女性だ。
ルエナは青いロングヘアをした、カレンの母親。
リィンは紅髪のショートヘアをした、リナの母親だ。
どうやら母親同士でお茶を飲みながら談笑していたらしい。
二人も、やはり何処か気まずそうな視線をレクスに向ける。
しかし、レクスは気にしていない。
その理由には心当たりがあるのだが、誰のせいでもないのから。
強いていえばリュウジのせいになるのだが、レクスには今ここにいる誰もを責める気などない。
ふぅと苦々しくため息を吐くレクスを、コーラルとマインは不思議そうに眺めるのみだった。
「上がって行ってくれ。……ルエナ、この三人に何か飲み物を出してやってくれないか?」
「……はい。わかりました、あなた。」
カイナの言葉に頷いたルエナは、そそくさと立ち上がり調理台の方へと歩いていく。
それを見送ると、カイナはレクスたちをテーブルに案内した。
「どうぞ。狭いかもしれないけど。」
「お邪魔します。」「お邪魔しますの。」
カイナの声に連れられるように、コーラルとマインはスリッパに履き替えてテーブルに向かう。
「お邪魔します。」
レクスも口に出すと、スリッパを履きテーブルのそばにあった丸太の椅子に座った。
コーラルがレクスの横に座り、マインはその隣に腰掛ける。
カイナはレクスに対面するように、カークとともにレクスの前に座った。
その直後。
「レクスくん……済まなかった。」
突如、カイナが頭を下げたのだ。
いきなりの光景に、レクスもコーラルも目を見張る。
マインは状況が飲み込めていないのか、きょとんとした顔を浮かべていた。
「か、カイナ村長?いったいどうしたんだ……?」
すると、カイナがゆっくりと頭を上げて悔いるように口を開く。
「僕の娘が……いや、僕たちは君に大変申し訳ないことをしてしまった。どうか、謝らせてほしい。……本当に済まなかった。」
そう言って、カイナは再びレクスに頭を下げた。
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