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晴天のプレリュード〜幼馴染を勇者に奪われたので、追いかけて学園と傭兵ギルドに入ったら何故かハーレムを作ってしまいました〜   作者: 妖刃ー不知火
間章 かえるもの編

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教えてほしい

 熱い陽射しが風で揺らめいたカーテンから漏れ出しているレッドの診療所のダイニング。


 テーブルの上の紅茶をちびちびと啜りながら、レクスはぽつりぽつりと自身が王都で経験した出来事を語っていく。


 冒険者ギルドに入れなかったこと。


 傭兵ギルドに入ったこと。


 学園に入ったこと。


 友人が出来たこと。


 ……そして、守りたいものが出来てしまったこと。


 レクスはたまに紅茶を口に含みつつ、日々を楽しげに語っていく。


 テーブルの向こうにいたマオとシルフィは時おり固唾を飲みつつ、レクスの話を頷きながら聞いていた。


 その間、女子たちとコーラルは一切口を挟まずにじぃっとレクスを見ていた。


 唯一、マインだけはその雰囲気に首を傾げてきょとんとしているようではあったが。


「……まあ、いろいろあったけどよ。俺はちゃんと学園でやっていけてるつもりだ。友達も、傭兵の師匠もいるしな。……だから、心配は要らねぇよ、母さんも、シルフィ母さんもな。」


 そう言って本当に楽しそうに笑うレクスを、マオもシルフィもただ真っ直ぐ見つめるだけだった。


 レクスの言葉にマオはふぅと力ないため息を溢すと、仕方なさそうにレクスに目を合わせる。


「……そうは言ってもねー。おかあさん、心配よー?傭兵って言うと、一般的には危険な印象だものー。いい噂も聞かないお仕事よー。やっぱり、不安だわー。」


「……母さん。」


 マオの不安を感じさせる声に、レクスはばつが悪そうに眉を落とす。


 そんな中で、シルフィもゆっくりと口を開いた。


「確かにマオの言う通りだ。レクスはただでさえ危険に首を突っ込んでいるというのに……。学園襲撃など初めて聞いたぞ。」


 シルフィも足を組みながらふぅとため息を漏らす。


 事実、レクスから聞いた話は一般的な学園生が経験するものではない。


 一歩間違えれば自身の命すらなげうっていてもおかしくない状況の数々だからだ。


 眉を落とすレクスにシルフィは「だが」と続ける。


「それは、レクスにしかできなかったことだろう。状況やタイミングが偶々あっただけと言えばそれまでかもしれないがな。……それでもやり遂げたお前は、「誇らしき戦士」とエルフならば皆言うだろう。……よくやっているよ、レクスは。」


 シルフィはニヤリと口元を上げてレクスに力強く頷く。


「シルフィ……母さん……。」


 レクスはシルフィの方に目を合わせ、驚いたように言葉を漏らした。


 内心、それはレクスにとって嬉しいものだったからだ。


 クロウが第二の師匠だとすれば、シルフィは第一の師匠。


 いつも訓練のときは厳しかったシルフィに、認められた気がしていたのだ。


 そんなシルフィの横で、マオは諦めたようにしゅんと肩を竦めた。


「……シルフィがそういうなら仕方ないわねー。……それに……。」


 マオはちらりとレクスの側の四人の少女を順に眺めると、心を躍らせたように口元をほころばせる。


 眼は糸目ではっきりとはわからないが、少女たちを見て納得したようにも見えた。


「レクスが女の子を蔑ろにすることはありえないものー。こんなに可愛い子たちを悲しませないわよねー?」


「……ああ。母さん。悲しませねぇよ。……絶対にな。」


 一通り彼女たちを眺めた後、レクスに強い視線を向けるマオ。


 そんなマオに、レクスも強い意志を示すように首を縦に振った。


 レクス自身も、カルティアたちを悲しませる気は毛頭ないのだから。


 真っ直ぐな目線を向けるレクスに、マオは口元に手を当てて微笑む。


「うふふー。そこまでレクスが言う子たちなのねー。……ねぇ、あなたたちのお名前を聞きたいわー。教えてくれるかしらー?」


 マオの視線がレクスの側に再び移る。


 その言葉には警戒心も何もないようだった。


 丁度マオの目線の先にいた、カルティアが優雅に立ち上がる。


「……わたくしは、カルティアといいますわ。いつもレクスさんには大変お世話になっていますの。これからよろしくお願いしますわね、マオさん。」


 氷青の瞳には、しっかりマオとシルフィが映っていた。


 カルティアが一礼して座り直すと、続いてアオイが音もなく立ち上がる。


「…うち、アオイ。…アオイ・コウガ。…よろしく、お義母さん。」


 アオイも澄ましたような琥珀の瞳を二人に向けぺこりと会釈する。


 レクスには明らかに”おかあさん”のニュアンスが違って感じられたのは気のせいではないだろう。


「わ……わたし、マリエナ・クライツベルンっていいます!見ての通りサキュバスです。よ……よろしく……お願いしまひゅ!」


 初めて見るレクスの母親と義母に緊張したのか、盛大に噛むマリエナ。


 その桜色の瞳は焦りもあってかあわあわと渦巻きを描いて混乱しているようだった。


 恥ずかしさから朱に染まった顔を伏せてとすんと座る。


 マオはあらあらと微笑ましい様子で見ていたが、シルフィは「サキュバスの少女」に驚いたように目を見開いていた。


「あちしはレクス様のメイドを仰せつかっているです。レインというです。お義母様方、よろしくお願いするです。」


 すすっと立ち上がり、丁寧に一礼するレイン。


 四人の自己紹介にシルフィは目を大きく見開き、マオは嬉しそうな笑みを浮かべていた。


「カルティアちゃんにアオイちゃん、マリエナちゃんにレインちゃんねー。うふふー、レクスったらレッドに似てモテるのねー。みんないい子そうでおかあさん安心だわー。」


「お、おいマオ?……ちょっといいか?流石に能天気すぎるぞ……?」


 目を見開いたシルフィはマオの耳に口を寄せる。


「んー?どうしたのシルフィー?」


「……「カルティア」とは確かこの国の王女の名前だった気がするぞ。それにあのアオイという少女、殺気が只者ではない。さらにサキュバスの少女までいる。サキュバスの魔眼は男性を言いなりにすると聞く。そもそもメイドの少女はいったい何なんだ…?レクスは本当に大丈夫なのかと思うんだが。」


 ちらちらと疑いの目を少女たちに向けながら、マオに耳打ちするシルフィ。


 そんなシルフィの声を聞いても、マオはうっすらと柔らかい笑みを崩さなかった。


 耳から離れたシルフィに向き直ると、マオはゆっくりと首を横に振る。


「……ダメよー。シルフィー。せっかくレクスのことを想ってここにいる子たちだものー。疑うのはシルフィの悪い癖よー?」


「悪いとは思っているさ。だが、性分だからな。……レクスには痛い目を見てほしくはないんだ。私みたいにな。」


 そう呟くシルフィの顔は真剣そのもの。


 シルフィ自身の記憶や体験から来るものであることは、マオも重々承知していた。


 初めて出会った時の全てを憎んでならないその目を。


 身重ながら歯を食いしばり、寄るものに剣を向けてくるその姿を。


 輝くような翡翠の瞳から落ちる雫を。


 そのときの光景を、マオは今でも鮮明に思い出せるほどだからだ。


「……シルフィー。心配する気持ちもわかるわー。でも、あの子たちは違うと思うわよー。……皆の眼がそう言っているものー。」


「わかるのか、マオ?……私にはピンと来ないのだが……?」


 疑るように眉を下げたシルフィに、マオはゆっくりと頭を縦に振った。


「そうよー。”母親のカン”ねー。意外と当たるのよー?」


「……そういうものか。……私には分からんな。しかし、マオがそこまで言うんだ。信じてもいい……か。」


 ふっと小さく根負けしたような苦笑を溢すシルフィから視線を移して、マオは女子たちを優しく眺める。


「あなたたちがいればレクスも安心ねー。レクスをちゃんと想ってくれる娘たちでよかったわー。」


 ほわほわとした表情だが、その口調ははっきりと通るようだった。


 マオは一度紅茶を口につけこくんと嚥下すると、そのまま続ける。


「これからもうちのレクスをよろしくお願いするわねー。カルティアちゃん、アオイちゃん、マリエナちゃん、レインちゃん。何か危険なことをしでかしそうなら、きちんと止めてあげてねー。」


 にこにことした表情から紡がれたマオの言葉に、カルティアたち四人は自信有りげにこくんと頷いた。


「大丈夫ですわ。レクスさんにはしっかりと約束をしてもらいましたもの。破るはずがありませんわ。」


「…レクスはうちの旦那様。…絶対に大丈夫。…お義母さんに心配は掛けさせない。」


「わ……わたしはレクスくんがいないとダメだから。わたしもレクスくんを守ってあげたいかな……って。」


「あちしも同じくです。レクス様のメイドとしてしっかり役目を果たすです。」


 四人の言葉にマオはうふふと嬉しそうに口元をほころばせた。


「よかったわねーレクスー。愛されてるじゃないのー。」


 マオはそう言ってレクスに目を向けると、すでにレクスの顔は羞恥で真っ赤に染め、そっぽを向いて頬を掻いている。


 見たことのないレクスの表情に、マオもシルフィもぷっと吹き出したようににやついていた。


「何だレクス。お前もそんな顔をするのか?」


「……うるさいっての。シルフィ母さん……。」


「ふふふっ。「男子三日会わざれば」と言うが、そんな表情は初めて見たからな。」


 シルフィは誂うように言う。しかし何処か安堵したように眦を下げ、口元を上げていた。

お読みいただき、ありがとうございます。

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