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晴天のプレリュード〜幼馴染を勇者に奪われたので、追いかけて学園と傭兵ギルドに入ったら何故かハーレムを作ってしまいました〜   作者: 妖刃ー不知火
間章 かえるもの編

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もう一つの依頼


「……ああ、そのつもりだ。リナたちはどうすんだよ。」


「……名前で呼ばないでよ、クズ。あたしはアンタとは違って依頼で忙しいの。可愛い女の子連れ歩いて遊んでるアンタとは違ってね。……こんなやつのどこが良いんだか。」


 リナが放ったため息混じりの一言に、カルティアたち四人が殺気立つ。


 それをわかっているのかいないのか、リナは表情を崩していない。


 そんなリナに対し、レクスはその赤い瞳をまっすぐ見つめながら、ゆっくり口を開いた。


「……リナ。言いたいことはそれだけかよ。…確かに俺はアルス村に帰るけどな、依頼があって帰る分だ。早く行かねぇと依頼人を待たせちまう。……どいてくれねぇか?」


 諭すようなレクスの言葉を聞いたリナは眼を伏せながら「はぁぁ」と大きくため息を吐きながら訝しげにレクスを見つめ返した。


「……どうかしらね。……アンタのそういうとこ、ほんっと嫌いよ。あたしだって、アンタと話したくもないわよ。……アンタが帰るんなら、丁度良いと思っただけ。」


 そう言うと、リナは懐から封筒をレクスの前に差し出す。


「リナ、これは何だよ?」


 封筒を指さすレクスに、リナは呆れたように眼を細くした。


「見てわかんないの?……手紙よ。言ったでしょ。あたしたちは依頼で忙しいの。……あたしたちは、リュウジの役に立たなきゃいけないんだから。」


「リナ……。」


 一瞬だけ見えた、臍を噛んだような何処か追い詰められた表情。


 それが見えた瞬間、レクスはリナを何処か哀れむような視線を落とした。


 リナはそれに気がついていないようで、そのまま言葉を続ける。


「だから、あたしたちはアルス村には帰れない。だから、手紙を書いたの。……アンタが帰るなら丁度いいって思ったのよ。これ、パパとママに渡しといて。カレンとクオンの分もあるから。」


 そう言ったリナの手に握られた便箋をレクスはゆっくりと受け取ると、そのままポケットに仕舞い込む。


「……そういうことかよ。……わかった。しっかりと俺が責任持って渡しとく。」


「アンタに頼むなんて、本っ当に不本意だけどね。……中、見るんじゃないわよ。」


「見ねぇよ。ちゃんとおばさんたちに渡しとくっての。」


「……そ。……それじゃ、あたしは行くから。……アンタはそこの女の子たちに刺されないことね。」


 リナはレクスに一瞬軽蔑するような視線を送ると、くるりと踵を返し、足早に遠ざかっていく。


「おい、リナ!……気、つけろよ。」


 レクスがかけた声に止まることなく、リナの背中は遠ざかっていく。


 ただ、レクスから見えるその背中はやはり何処か焦り、追い詰められているように見えて。


(…リナ。お前は……独りぼっちじゃねぇだろうが……。)


 寂しいと語っているように、肩を落としているようにその目には映った。


 いつか見た幼いリナの背中と重なるその姿を、レクスは何処か幻視していたのだ。


 そんなレクスに横からアオイの声がかかった。


 いつの間にか、アオイはレクスの隣まで来ていたようだ。


「…レクス。…大丈夫?」


「……気にしちゃいねぇよ。あんな罵倒、もう慣れたしな。」


 力なく笑みを浮かべるレクスに、アオイはじとっとした眼でリナの行った方向に視線を飛ばしていた。


「でも、あそこまで言うことはないです。嫌いなら最低限話すだけでいいはずです。……感じ悪いです。」


 ぼそりと呟きながら眉を潜めるレイン。

 その横で、マリエナはおかしそうに首を傾げていた。


「あれが、リナちゃん……?うーん、あんなことを言う子には見えないんだけど、見かけによらないのかな……?」


 マリエナは生徒会長として生徒全員の顔と名前を把握している。


 しかし、そのイメージが今のリナとは何処か異なっているように感じてしまったようだった。


 頭の上のビッくんも「ビィ……?」としっくりきていない様子だ。


 そんな中、カルティアがレクスの隣にゆっくりと歩み寄り、耳打ちするように口を寄せた。


「……レクスさん。リナさんは……。」


「……ああ、わかってる。……でも、あいつら……。」


「どこかおかしいところでもありましたの?」


「……いや。気のせいかも知んねぇけどよ。……無理してそうに見えてな。」


「……わたくしは今のリナさんに触れていないのでなにも言えませんわね。でも……。」


「カティも、何か感じたのか?」


「ええ。……少し、以前のわたくしに似ている気がしましたわね。気のせいかもしれませんけれど。」


 そう口を挟んで、カルティアもリナの向かった先に眼をやる。


 それは、どこか憂いを含んでいるようにも見えたことだろう。


 その背中が向かう先には、大きな入道雲が浮かんでいた。


 リナが見えなくなると、レクスはくるりと頭を回して四人を見渡す。


 様々な表情を浮かべている皆を眺めつつ、にぃっと口元を上げて微笑んだ。


「悪ぃな、心配させちまってよ……。依頼人も待ってるし、さっさと行かねぇとな。」


 その表情に四人も仕方なさそうに頬を和らげると、こくんとゆっくり頷いた。


 レクスは顔を向き直すと、校門から一歩を踏み出す。


 続けてカルティア、アオイ、マリエナ、レインも順に足早に校門を跨ぐ。


 歩きながらレクスは自身の懐に触れ、ふぅと息を吐く。


(……リナ、カレン、クオンも。……無理、してなきゃ良いけどよ。)


 服越しに触れた手紙のごわついた感覚。


 レクスはリナたちを頭の片隅に留めながら、一行と共に広場へと歩みを進める。


 ひとまずレクスは依頼人に彼女たちのことをどう説明しようかと考えを切り替えた。

お読みいただき、ありがとうございます。

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