同行者たち
レクスが管理人のタミンに挨拶をして、男子寮の出入り口から出る。
「気をつけて帰んなー!」
「ああ、ありがとよ!タミンさん!」
タミンの声に押されるように、レクスは腕を上に伸ばし、伸びをしながら空を仰ぎ見る。
レクスの頭上に広がるのは気持ちの良い青く澄んだ空と、白く大きな雲、そして燦々と照りつける太陽だ。
そうして視線を前に戻したレクスの前に、さささっと四人の影が映った。
照りつける陽の光でレクスの前に影を作るのは、四人の見目麗しい女子たち。
四人の女子たちは、誰も何処か遠出をするように荷物を纏めて石畳の上に置いている。
その顔ぶれを眺めると、レクスは仕方がなさそうに笑みを浮かべて彼女たちに近寄った。
「おはよう、皆。……やっぱり、みんな行くのか。」
「おはようございますわ、レクスさん。わたくしたちも、同行いたしますわね?」
にこりと上品に微笑むのは、薄めのカーディガンと青いブラウスに紺のロングスカートを履いたカルティアだ。
その錦糸のようなプラチナブロンドの前髪には、レクスがプレゼントした彫金細工の髪飾りが陽光にきらんと光っている。
「…おはよう、レクス。…今日からよろしく…ね?」
一歩踏み出してカルティアの横に立ったのは、橙色の浴衣を着用したアオイだ。
アオイは一番荷物が少なく、その手には小さな錦の巾着袋を携えて、無表情にも見える澄まし顔でレクスを見つめている。
しかしわずかに緊張しているのか、どことなくそわそわと指が動いているのが見てとれた。
「あ、おはよう、レクスくん。ごめんね、皆で押しかけちゃって……。あ、おかあさんからもよろしくだって。」
少し苦笑しつつも、うきうきと浮かれたような気分がぱたぱたと微妙に動く羽根から漏れ出ているマリエナ。
彼女は紫色のワンピースを着用し、その男好きする肢体を曝け出している。
その胸元はメロンが入っているのかと思わせるほどに、大きく張り出していた。
そんな彼女の頭の上には、曲がった角に掴まって、「おはよう」と言わんばかりに手を振る黒い球体……ビッくんがヒョイッと手を上げている。
「レクス様。あちしとの約束、しっかり守ってもらうです。」
四人の中でふんすと鼻息が少し荒いレインは、レクスとのデートで買った白いゴシックロリータを着用していた。
レクスの渡したブローチも首元にしっかりと輝きを放っている。
なぜか一番荷物が多そうなトランクを持っているのもレインだった。
レクスはこの四人に「今日実家に帰省する」と報告はしていたのだ。
レインは約束があり、アオイはふらりとついてくるだろうとレクスは思っていたのだが、カルティアとマリエナは予想外であった。
苦笑を溢しながらも、レクスは口を開く。
「……皆。予定とかは大丈夫だったのかよ。」
「わたくしは問題ありませんわ。……ちょっと爺やに口裏は合わせてもらいましたけれど。」
「…うちは元々なにもない。…レクスについてく予定だった。」
「わたしたちはこの日のために生徒会の仕事を終わらせたんだから。ね、レインちゃん。」
「マリエナかいちょーの言う通りです。生徒会の仕事はあちしたちが滞りなく終えてきたです。」
「そうか。……親父たち、びっくりしねぇといいけどな。依頼人もよ。」
レクスは眼の前にいる四人に会った両親の表情を想像し、苦笑いを浮かべた。
(確かに「お嫁さんいっぱい連れて帰れ」とは母さんに言われたけどよ……。どう説明したもんかな。)
こんなに美少女を連れて帰って説明のしようがないのも、レクスのちょっとした悩みだった。
しかも一人は第三王女様、一人はサキュバスだ。
絶対に何か聞かれることは、想像に難くない。
それは、今日の依頼人も同じだろうとレクスは思っていたのだが。
「……皆。今日は一応馬車の護衛って依頼で行くことになってるからな?まあ……あの人たちも同行人がいていいって言ってたから大丈夫だと思うけどよ。」
「…今日の依頼人って誰?」
「ああ。……俺の知り合いだよ。カティやマリエナなら見覚えがあるだろうけどな。」
「…?」
きょとんとしてわかっていないように首を傾げるアオイに、くすりと笑みを溢したレクスは自身の荷物を背負いなおす。
「……じゃ、行くか。依頼人は広場で待ってるらしいからよ。……こんな大勢で行くとは言ってねぇけど。」
レクスの言葉に四人の少女はこくんと一斉に頷く。
レクスが歩き出すと、四人は荷物を手に持って我先にと言わんばかりに、レクスに着いて歩き出した。
そうして、丁度校門から出ようとした時。
レクスの眼に舞う赤毛が映る。
校門で誰かを待っていたかのように、軽装の鎧を着込んだ赤い少女のサイドテールがふわりと風に靡いていた。
「……リナ?」
レクスの声に反応したのか、少女はふぅと面倒くさいようにため息をついた。
依頼に向かおうとしていたレクスたち一瞥すると、赤い髪の少女がつかつかと早足でレクスに向かい歩み寄る。
少女は「ちっ」と舌打ちを挟みつつ、その表情は嫌悪感を剥き出しにして、レクスを睨みつけるようだった。
ただならぬ雰囲気のリナに、レクス以外の四人もじぃっと注視しながら、警戒心を向ける。
特にアオイに至っては無表情で浴衣の裾に手を差し込み、僅かに脚を下げている。
臨戦態勢と言ってもいいだろう。
そんな中で、レクスもリナの前に歩を進めた。
レクスを睨むようなリナは気怠げに口を開く。
「ねぇ……アンタ。……アルス村に帰るんでしょ?」
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